GDPR(EU一般データ保護規則)が欧州で2018年5月に施行されて半年余りが経過しました。
日本でも「十分性認定」を受ける見通しがたち、認定後はデータの域外移転が可能になるなど、データのグローバルな活用について可能性が大きく広がっていくことが考えられます。

今回、カスタマーデータプラットフォームを提供しているTealium Inc.のアジア太平洋地区担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーのNic Dennis氏(以下Dennis氏)と、Tealium Japan 株式会社のカントリーマネージャー安藤嘉教氏(以下安藤氏)にお話を伺いました。

バラバラにサイロ化しているデータをリアルタイムに統合し、企業がユーザーの行動を把握してビジネスに活用できるように支援するTealium(ティーリアム)。
Tealium社が考えるユーザー中心のデータガバナンスについて、Tealiumの取り組みも交えながら語っていただきました。

Nic Dennis氏プロフィール

Nic Dennis(ニック デニス)
Tealium Inc. アジア太平洋地区担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャー

2019年1月にTealium アジア太平洋地区担当バイスプレジデント兼ジェネラル・マネージャー就任。前職ではマルケトのオーストラリア及びニュージーランドのセールス担当バイスプレジデントとして、新規並びに既存の顧客企業における販売成長戦略を支援。他にもQuest Software(旧Dell Software)、Open text、Objective、CA Technologies、CSC(旧DXC)、IBMで様々なポジションを経験。

安藤嘉教氏プロフィール

安藤嘉教(あんどう よしのり)
Tealium Japan株式会社 カントリーマネージャー

2016年10月、Tealiumジャパン株式会社のカントリーマネージャーに就任。前職では日本ヒューレット・パッカードにてアプリケーションのクラウド移行、セキュリティ保護、データアナリティクス、ワープレース変革に関するソリューションの提供を中心に担当。また、同社の新規ビジネス領域の日本市場開拓における要職を務める。他にもNTT、NTTコミュニケーションズにて様々なポジションを経験。

データはバラバラになっている?Tealiumが目指す「活用しやすいデータの提供」とは?

ferret :
まずはTealiumが目指している「データの統合と活用」についてどのようなメリットがあるのか、なぜ市場にとって需要があるのかという点について教えてください。

Dennis氏 :
ferretの読者はこれからマーケターとしてのキャリアをスタートさせるような方が多いのですよね。

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▲Nic Dennis氏

そのような方々は今後「データを用いて何をするか」という判断をしなければならない場面が非常に増えてくるかと思います。

データの扱いが非常に重要になっている中で、あちこちに保存されているサイロ化された顧客(ユーザー)のデータを総合的に分析するのは、非常に費用がかかるうえに顧客を理解するのに時間がかかってしまうという現状がありました。

Tealiumは様々なツールによるソースから集められてくる膨大なデータをクレンジングし、統合して、企業内のどのチームやメンバーでも共有し利用しやすいデータにして提供します。
成形されたデータにより課題や機会を発見しやすくし、より企業と顧客がコミュニケーションを取りやすいようにしています。

サイロ化した顧客のデータを1つに統合して分析するのはこれまでは不可能であると思われていましたが、Tealiumはより早く正確にデータを成形し、企業にとって必要な形でデータを提供することが可能です。

それらのデータを活用していただき、広告の最適化などビジネスの強化に貢献することで、企業を通じてエンドユーザーの皆様にもよりよい体験を提供できると考えています。

安藤氏:
Tealiumはデータが市場でバラバラに生まれてくる状況、データのサイロ化が最も重要な課題であると考えています。

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▲安藤嘉教氏

世の中にはサイト解析やメール配信、マーケティングオートメーションなどに関するマーケティングツールが7,000種類以上あるといわれていますが、それらは部分的な課題の解決になってしまいがちです。

それぞれのツールごとに顧客データがバラバラになって保存されるため、同じ顧客でも違う人であるかのように見えてしまいます。
課題を根本的に解決するためには、これらのデータを統合することで正しく顧客の姿を捉えて、適切なコミュニケーションを取ることが重要であると考えています。

顧客データがバラバラになってしまっているという状況は日本市場だけでなく、グローバルに発生している問題です。

バラバラの顧客データを統合するプロジェクトは弊社のクライアントの中でも多く始まってていますが、Tealiumは次々に生まれてくるデータをリアルタイムで統合して提供できるんです。

Tealiumはベンダーニュートラルなツールなので、どんなツールでもどんなデータでも統合して活用することができます。

さらに、リアルタイムにユーザーに関する情報(ユーザープロファイル)をアップデートして提供できるため、ユーザーの行動やモチベーションが新鮮なうちに企業様が次のアクションを打つ手助けが可能です。

これは、Tealiumというサービスの、世界で唯一の強みであり価値であると考えております。

世界と日本でどう違う?データという観点でみるデジタルマーケティング市場のトレンド

ferret :
Dennis様は2019年1月にTealiumのアジア太平洋地区バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーに就任され、日本市場も管轄されています。デジタルマーケティングにおける日本の市場傾向は、欧米市場と比較して何がどのように異なっているのでしょうか?

Dennis氏 :
アジア太平洋圏の国々、特に東南アジアの国々ではモバイル(スマートフォン)の利用率が高く、メインのチャネルになっています。

日本とは違ったビジネスチャンスがあるのではないかと期待していますし、東南アジアの国々におけるモバイルファースト市場の戦略を先んじて構築し、展開できればと考えています。

安藤さんはどうお考えですか?

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▲とても丁寧にお話してくださったDennis氏。安藤氏との信頼関係が話の端々から感じられました。

安藤氏:
日本企業とヨーロッパやアメリカの企業を比べると、タグマネジメントの導入について差異があると感じています。

ヨーロッパやアメリカの企業はタグを導入する際に社内で対応するケースが多く、導入ツールが増えれば増えるほどタグが複雑化してしまいます。
複雑化したタグを管理することは、コストや時間がかかるだけでなく、サイトパフォーマンスにも影響を及ぼしてしまうということがよくあります。

そのため、欧米企業の場合にはまずTealiumのタグマネジメントソリューションによるタグの整理からお手伝いさせていただくことが多いのですが、日本企業の場合にはSIベンダーや広告代理店がパートナーとしてついていて、ツールやタグを自社で対応しているケースが少ないため、顧客データの統合やユーザー情報をリアルタイムでアップデートしていくというソリューションにご興味を持っていただく場合が多いですね。

ferret :
今後は日本においてもタグの統合といった部分で強みを打ち出していきたいという意向はあるのでしょうか。

安藤氏:
そうですね。ご提案のアプローチは日本でもヨーロッパやアメリカでも同じなのですが、特に日本においてはシングルカスタマービューでデータ管理ができるという点やリアルタイムにデータをアップデートできるという点が刺さりやすいという特徴があります。

日本企業の担当者様やデータコミュニティの方とお話していると、日本におけるデジタルトランスフォーメーションはこれからだという風潮を強く感じます。

IoTやロボティクスの界隈においても、様々なデータが生まれる中でそれをどのように活用していくか、データドリブンな組織を作っていくのはこれからだという考えをお持ちの方が多くいらっしゃいます。

日本におけるデジタルマーケティングの市場はまだまだ成長していく段階であると強く感じています。

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▲非常に分かりやすくお話してくださった安藤氏。とても熱く日本のデジタルマーケティング市場について語ってくださいました。

GDPR施行で、日本企業はどう対応する?

ferret :
ユーザーデータの収集・活用については2018年5月に欧州で施行されたGDPR(EU一般データ保護規則)が大きなトピックとなっていたかと思います。

日本も2019年1月に「十分性認定」を受ける見通しが立ちましたが、この約半年間に起こっていた問題や、あるいは十分性認定を受けたあとで取り組みが可能になる課題はあるのでしょうか?

Dennis氏 :
個人情報の保護についてはGDPRをはじめ様々な規制がありますが、どのような国や企業であっても、個人情報はセンシティブなものであると認識し、それらの保護については責任を持って積極的に取り組むべきであると考えています。

現状は、ユーザーのデータが国をまたぐ場合はそのデータが非常に重要なものであったとしてもデータ移転先の国の基準によって保護されるという状況で、データ保護の基準が統一されていません。

しかし、今後はこのようなやり方を変えて、より高い基準によってデータを保護する必要があると考えています。

安藤氏:
昨年の5月に欧州でGDPRが施行されて以降、日本企業様からも多くのGDPR対策に関するご相談をいただきました。

Tealiumは以前からデータガバナンスに非常に力を入れていまして、オプトイン・オプトアウト(注:広告やメールマガジンなど、企業が個人情報を活用して配信する情報に対して事前にユーザーの許諾をとること)など、GDPRに対応した仕組みを既に備えています。

GDPRにおいては*「ユーザーの同意をきちんと得る」*という点がとても重要です。
ユーザーの同意を得ることは、ユーザーの望まないコミュニケーションを取らないということにも繋がります。

様々なサービスが展開される中で、企業側のコミュニケーションとユーザーの望むコミュニケーションにはズレが生じてしまいがちになっていますが、まずユーザーの同意をきちんと得ることでこのズレは回避できますし、顧客満足度の向上にも繋がります。

これは、GDPRの有無にかかわらず、ユーザーと企業のコミュニケーションにおいて重要なことであると考えているため、Tealiumの機能も特定の国や法律などにかかわらず、基本的な理念としてデータの活用方法についてユーザーの同意を得るという仕組みを取り入れています。

たとえば、20のマーケティングツールを導入しているサイトがあるとします。
この20のマーケティングツールはそれぞれの定義・それぞれのシステムによってデータを収集し、利用しようとします。

収集や活用について定義の異なるデータは、それぞれユーザーに対して同意を取る必要がありますが、Tealiumはそれら全てのデータを統合し、標準化して活用するため、ユーザーに対して同意を取らなくてはいけないデータの活用範囲や定義についてもシンプルにまとめることができます。

昨年のお客様の事例でいいますとJCB様は元々弊社のソリューションをご活用いただいておりましたが、データガバナンスに対しても力を入れていらっしゃるお客様で、Tealiumを活用してGDPR対策を実現されました。

Dennis氏 :
GDPRに準拠するにあたっては時間や工数もかかりますし、様々な準備が必要となりますが、きちんと対応することでビジネスのチャンスは拡大していくと考えております。

なぜならば、データの取り扱いについてユーザーの同意をとったうえでのコミュニケーションは、同意を取る以前のコミュニケーションと比べると、ユーザーの満足度が圧倒的に異なるからです。

ユーザーが望むかたちでデータを活用し、より適切なメッセージを送れば、顧客満足度は向上します。これは、ヨーロッパやアメリカで実施された調査でも明らかになっていることです。

ユーザーも「この企業は自分が欲している情報を適切に送ってくれる」と感じて信頼した企業からサービスを受けたいと考えますし、GDPRに準拠することで、ユーザーも企業もより幸福になれると感じています。

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▲カメラを向けると毎回素敵な笑顔をくださったDennis氏。

これからのアジア太平洋地区デジタルマーケティング市場の4つのポイント

ferret :
最後になりますが、2019年以降のアジア太平洋地区におけるデジタルマーケティング市場における今後の展望や期待、課題はどうなっていくとお考えでしょうか?

Dennis氏 :
アジア太平洋地区に限らず、現在のデジタルマーケティング市場にはソーシャルネットワークからの情報漏えいなど問題が山積しており、企業のブランドや信頼が失われかねない事態も多発しています。

企業とユーザーが信頼関係を構築していくには、個人情報やデータの取り扱いについて1対1のコミュニケーションをきちんと取っていく必要があります。
たとえば、「誰が誰にデータを送信しているのか」「どういったかたちでデータが送られ、活用されているのか」ということをきちんと開示する透明性を担保する必要があると考えています。

また、先程の話にあがったように、あちこちに散らばってしまっているバラバラのデータをしっかりと統合し、活用できるようにしていくことも非常に重要です。

繰り返しとなりますが、これはアジア太平洋地区に特有の課題ではなく、世界的に共通している問題です。

アジア太平洋地区においては日本とオーストラリアが大きな割合を占めていて、東南アジアなどの新興国についてはこれからトレンドに追いつくという段階にあります。
今後は新興国からも様々なデータが発生してくるであろうと思いますし、データガバナンスに関する啓蒙活動が必要であると考えています。

安藤氏:
2019年以降におけるデジタルマーケティング、とりわけデータの扱いに関するトレンドは個人的には4つのポイントがあると考えています。

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▲眼鏡も素敵な安藤氏。

まず1つ目は*「ユーザーが中心である」*ということです。ユーザーファーストな考え方で、ユーザーの姿を適切にとらえ、コミュニケーションを取ってサービスを提供するということが重要になります。

どうしてもデータを見ていると、そのデータがユーザーの姿そのものであるように感じてしまいますが、違うんですね。データの先にユーザーがいる。

このデータというのはWebから取得できるものだけではなく、店舗での行動や参加したセミナーなど、オンライン・オフラインを問わない全てのユーザー行動が含まれます。
それぞれのデータに横串を刺して、ユーザーの本当の姿を捉えてユーザーを理解していく必要があると考えています。

2つ目は*「リアルタイム」*というキーワードです。いくらユーザーのことを理解しようとデータを集めてきて統合したとしても、その情報が古くては意味がありません。ユーザーの「一瞬のモチベーション」に応えて行動することがユーザーや企業にとっての幸せや価値に繋がりますので、やはりデータをリアルタイムに更新していく、アップデートした状態で提供するということが重要かと考えています。この、「リアルタイム」の指す即時性については今後もどんどん要求が高まっていくでしょう。

3つ目は今日のお話でもかなりご説明させていただいた*「データガバナンス」*の観点です。
データの機密性を担保しながら利用しやすさを高めることが、GDPR施行後はよりいっそう重要になっていくと考えられます。

そして最後の4つ目は*「新しいデータソースに対する対応」*です。
先程もお話した通り、「ユーザーのデータ」とはオンライン上での行動だけを指すものではありません。

例えばユーザーが店舗で何を買ったのか、買わなかったのか、あるいは手にとったけど戻してしまったのか、そういったデータをどうやって捉えていくのかが鍵になってきます。
商品につけたビーコンのデータをTealiumと連携したり、顔認証のデータでユーザー行動を追跡したり、家電の活用状況をリアルタイムに取得していくといったことが今後は可能になっていきます。そういった様々な行動をデータとしてとらえ、新しいデータソースからどうデータを取得して新しいサービスやより良い顧客体験を創造することが重要になってくるだろうと考えております。

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▲Tealiumはブルーとグリーンの中間色の「Teal」と化学反応を示す「ium」を組み合わせて「Tealで世界に化学反応を起こす」思いを込めているとのこと。

まとめ:求められるのはユーザーデータの統合とコミュニケーション

様々なツールやメディアが登場し、IoTやロボティクスといった新しいテクノロジーが日進月歩で成長しつつあるデジタルの市場において、バラバラになってしまったデータを適切に管理するということがサイト管理者にとっても、ユーザーにとっても、意識するべき課題となっています。

あらゆる行動が個人情報となりうるこれからの世界で、それらの個人情報をどう活用しどう守るのかということは、非常に重要なトピックです。

ユーザーと適切なコミュニケーションを取るために、データの扱いについて透明性を高め、同意をしっかり取っていくということが、今後の企業には求められていくと考えられます。