前回の記事「ブランドの『独自性』が見つかる「定性調査」の進め方」では、消費者調査の設計時に気をつける点や調査の結果をどのように読み解くことができるかについて、定量調査・定性調査の2つの切り口で説明しました。そして同時に、上手くクロス集計を活かすことで、難しい分析手段を使わなくても、既に幅広い層の消費者に受け入れられている、または受け入れられる可能性を秘めた機能や特徴など、自社ブランドを強くするうえで重要な役割を果たす要素を見極めることができるとお伝えしました。

今回は、これらの消費者調査の結果を基に、どのようにブランドを強化するうえで必要なペルソナを作ることができるかについて説明します。

▼連載を最初から読む▼
「ブランディング」はなぜ必要?あなたは説明できますか?

ペルソナ設定における課題

sasaki1902pic_-_1.jpg

通常「ペルソナ」は、ブランドが獲得したい顧客層(ターゲット)を基に、更に細かい特徴を設定して作り上げられます。しかし、このペルソナの作り方には、一つ大きな課題があります。それは、往々にして他社のブランドが設定するペルソナと被る、または類似することです。

これは、同じカテゴリー内で競合する場合、ターゲット自体が重複することが多いため仕方のないこととも言えます。しかし、もし自社ブランドの強みや消費者から魅力と感じられている点を考慮したうえで作ったとしたら、他社ブランドには真似できないペルソナが作れるのではないでしょうか。

そもそも「ペルソナ」とは?

sasaki1902pic_-_2.jpg

自社ブランドの顧客像について話をする場合、通常「ターゲット(Target)」と「ペルソナ(Persona)」という2つの単語を耳にするのではないでしょうか。
ではそもそも、「ターゲット」と「ペルソナ」は何が違うのでしょう。

Target(ターゲット):標的、まと(的)
Persona(ペルソナ):登場人物、外的人格

この2つの単語をインターネット検索をすれば、マーケティング用語としてより具体的な説明を見つけることができると思いますが、今回は辞書に書かれている日本語訳を使って説明します。それは、マーケティングの解釈が入る前の訳を知り単語の本来の意味を理解することで、マーケティング用語としての意味をより深く理解できるようになると個人的に考えているからです。

さて、これらの日本語訳によると、ターゲット(Target)は「まと(的)」、ペルソナ(Persona)は「登場人物」と訳されています。つまり、「ターゲット(まと)」は狙うべき範囲のことであり、「ペルソナ(登場人物)」はどんな人物像であるかを明確にすることと解釈できます。

では、この「ターゲット」と「ペルソナ」は、どちらを先に設定すべきなのでしょうか。

「ターゲット」と「ペルソナ」、どちらがより重要?

sasaki1902pic_-_3.jpg

通常は、ターゲットが設定された後、そのターゲットに基づきペルソナが作成されるのが一般的なのではないでしょうか。しかし、以前「消費者から選ばれるブランドは何が違うのか」の中で紹介した『Best Global Brands 2018: Activating Brave』(米国Interbrand社発表)によると、対外的にブランドを強化するには、「消費者及び顧客のニーズ、願望を満たすだけでなく、人口統計学及び地理学的に全体を網羅した意思決定の条件に合っている(2つ目の要素「Relevance(つながり)」)」ことが重要であるとお伝えしました。この点を考慮すると、今まで新商品/新サービス開発時に最初に行われていたターゲットの設定が、ブランドを強化するうえで本当に正しいのか疑問を感じてしまいます。

もちろん、この質問に対する正解はありません。しかし、インターネットが普及し、どんな消費者にもリーチできるようになった現代において、年代や性別、エリアといった枠を決めてしまうのは、獲得できる可能性のあるマーケットの規模を自ら狭めていると言わざるをえません。

そこで私は、「消費者から選ばれるブランドは何が違うのか」にも書いた通り、3〜5つの年齢や性別、家族構成などが異なるペルソナを作るようにしています。そしてペルソナから見えた、獲得できそうな層をターゲットとして設定する方法を通常採っています。もちろん、既にクライアント側でターゲットが設定されている場合、そのターゲットに合わせた ペルソナを作成しますが、「もっと幅広い層を狙えるのにもったいない」というのが実は本音です。

消費者調査の結果に基づく「ブランドを強くするペルソナ」とは

一般的なペルソナは、家族構成や年収などを含む詳細なプロフィール、目標、課題、趣味、情報源などの項目から作成されます。しかし、残念ながら一般的なペルソナの作り方では、ブランドを強くするペルソナを作り出すことができません。それは、自社独自の強みや魅力などが反映されていないため、他社の商品やサービスでも代替が効いてしまう可能性があるからです。

ここで大きな役割を果たすのが、消費者調査の結果から導き出された「幅広い層の消費者に受け入れられている、または受け入れられる可能性を秘めた機能や特徴など、自社ブランドを強くするうえで重要な役割を果たす要素」なのです。つまり、これらの要素をしっかりと念頭に置き、どのように消費者に受け入れられるかを想像しながらペルソナを作成することで、他社の商品やサービスでは代替の効かないペルソナが生まれるのです。

私がペルソナを作る場合、一般的な項目を考えるのと同時に、以下の項目についてもできるだけ詳細に書き出します。

  • 現在抱えている悩み
  • 既存の類似商品でも解決できない理由
  • 自社ブランドの商品だったら解決できる理由
  • 自社ブランドの商品を購入するのに躊躇している理由
  • 自社ブランドの商品の購入を最終的に決定した理由/きっかけ

もちろん一般的なペルソナを作成する際も、購買時に優先する項目などは検討されますが、上記のように自社の商品やサービスに特化して設定されるのは、少ないのではないでしょうか。また、自社の商品やサービスに限定することで、ターゲットを狭め過ぎてしまうのではと懸念する方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、自社の商品やサービスを基準に考える大きなメリットは、検討から購入までのフローが想像しやすくなるだけでなく、他社と競合せずに済むコミュニケーション方法が明確になり、またより具体的な購入者イメージを社内で共有することができることです。つまり、この方法で ペルソナを作成した場合、どんなに他社と類似した ペルソナが生まれたとしても、どのようなコミュニケーションが消費者に刺さるか理解できているため、より効率的且つ効果的なマーケティング施策を打つことができるのです。

まとめ

類似した商品やサービスのペルソナは、往々にして他社と似てしまう傾向があります。その場合、一般的なペルソナの設定方法では、他社の商品やサービスでも代替が効いてしまう危険性があります。そこで、消費者調査から見えてきた「幅広い層の消費者に受け入れられている、または受け入れられる可能性を秘めた機能や特徴など、自社ブランドを強くするうえで重要な役割を果たす要素」を念頭に置き、それらの要素がどのように消費者から受け入れられるか考慮してペルソナを作成することで、他社には真似できないペルソナを作成することが可能になります。

また、ターゲット層を1つに限定せず、年齢や性別、家族構成などが異なるペルソナを3〜5つ作り、それらのペルソナから想定される獲得可能な全ての層をターゲットとして設定することで、より大きなマーケットを狙えるコミュニケーションの開発が可能になると言えます。

▼連載を最初から読む▼
「ブランディング」はなぜ必要?あなたは説明できますか?