Amazonや楽天市場などに代表されるモール型ECショップは、自社でECサイトや物流などのフルフィルメント体制を構築する必要がないため参入がしやすく、さらにはモール自体の集客力を利用できる、というメリットがあり多くの企業で利用されています。

モール型ECショップを展開している企業の多くは、大手を中心に数を絞って展開していることが多いでしょう。展開するショップ数を増やせば増やすほど売上が増える可能性もありますが、その分管理する労力とコストが増えることになるからです。

そのような中、高品質・高機能なバッグが人気の「ACE(エース)」は、たった4人で24ものECショップを出店しています。

本連載では千趣会や大塚製薬、JIMOSなど企業規模や業種・職種を超えて幅広く、EC&通販に携わる経験を蓄積し、現在は株式会社プランクトンR取締役を務める川部篤史さんが様々なメーカー企業の EC&通販担当者にインタビューし、その独特な勝ち筋や手法を聞いていきます。

今回の対談相手は、「ACE(エース)」を展開する株式会社エースの北山浩氏。多数のECショップ展開のコツや、現在取り組んでいるという実店舗とECの連携について伺いました

▼前回の記事▼
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プロフィール

北山 浩氏

営業本部第五事業部三課マネージャー。2017年より直営ECの責任者。以前は、卸・リテール・ECを担当。就任後2年で自社サイト前比216%、直営楽天市場店前比203%、直営ヤフー店前比267%伸長に貢献。 オムニ化として店舗客注直送システム構築、サイト内検索強化、サイト内ブログ設置 EC-店舗の顧客・ポイント管理一元化、レビュー機能&UGCギャラリー導入等を推進する。

川部 篤史氏

株式会社プランクトンR 取締役 通販支援事業部長 。現歴以前は、株式会社JIMOSで通販支援事業部長及びホールセール事業部長(2014~2018)、他、大塚製薬株式会社(通販・EC部門)、株式会社千趣会(製品企画・開発・仕入/制作企画/EC等)にて活躍。ビジネスブレークスルー大学大学院経営管理修士(MBA)。EC/通販事業での事業構築&製品マーケティング戦略立案・実行を得意とし、AI/オートメーションの活用や、中国越境ECにも明るい。

24のECショップ展開を可能とする「ECショップ運営の効率化」

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(左:川部篤史氏、右:北山浩氏)

川部さん:
エースさんは全部で24のECショップを展開していると聞いています。しかもそれだけの数を4人で回しているというから驚きです。新たにECショップ出店をすることは、新たに実店舗をつくるようなもので管理労力もその分増えますよね。一般的には展開するECショップ数を増やしていくというよりも、規模が大きく効率的なところに絞り込んでいく傾向にあると思いますが、どうして多数のECショップ展開をしているのでしょうか?

北山氏:
確かに出店により労力は増えるのですが、企業である以上、事業部には売上計画の達成という大命題があります。毎年の売上計画をどのようにクリアしていくべきか考えた時に、あれこれ考えるより、売り場として出る場所を増やした方が手っ取り早いと思い、可能性のあるショップに対して出店を進めていきました。

これはあくまでも実感ですが、展開するショップ数が増えた場合に労力が「×店舗数」にならないよう工夫をすることで、「×店舗数」を0.7~0.8ほどに下げられます。

例えばそれぞれのショップで商品登録をする時、CSV形式での商品情報データのアップロードが必要です。しかも、それらのデータフォーマットはショップによってバラバラです。これに一つひとつ手作業で成形してアップロードしていてはかなり時間がかかります。そこで基本となるマスターデータをまず最初に作りまして、各ショップ向けにそこから必要な情報へと、抽出・データ成形が簡単にできるようにして、効率化を図っています。

また、商品の入荷タイミングはそれぞれのショップごとに違うので、必要な分だけを抜きとって並び替えてアップロードしています。また各ECショップで商品を認識する「商品コード」についても、各々で商品コード付与の仕方がありますので、それらを想定して、一つの商品に対してそれぞれ先に作っていくようにしています。

川部さん:
通常は商品登録をする際、各ECショップごとにフォーマットが決められていますよね。そこでいきなりそれぞれのECショップに対してデータを作りだすのではなく、まずはマスターデータを作り効率化を図り、さらに各ECショップの商品番号を打つことを想定した整理の仕方を確立されたということですね。

北山氏:
最初はひとつのECショップを登録して次のECショップ、また次のECショップへと個別にやっていっていました。明らかに非効率で、時間がかかって仕方がない。どうやったら短縮できるか考えた結果、今の形になりました。

あとは受発注在庫管理ツールの「特攻店長(株式会社キャプサー)」を導入することで受発注業務を効率化しています。ベンダーサポートから非常に手厚いサポートをいただき、5~6のECショップを一元管理運営しています。

ただし、「特攻店長」を使っているのは自社倉庫出荷のみです。先方の倉庫に預けないといけないショップでは、どうしても一元管理ができません。そこは従来通りで省略化できない部分です。なので今後も展開するショップ数を増やすとしたら、自社倉庫から出荷ができて在庫管理や注文管理ができるショップにしか出店できない、というのが現状ですね。

川部さん:
他社のケースでは自社倉庫を使うショップを利用していても、その数はせいぜい3・4ショップぐらいの企業が多いですよね。そのくらいの数であっても、各ECショップに一人ずつ担当をつけて回していることが多いようです。それを考えると、エースさんの「24のECショップを4人で回している」というのは本当にすごいことだと思います。

先ほどのお話だと、バックヤードの集約化によってECショップ運営を効率化しているとのことですが、フロントのプロモーションで省略しているポイントはありますか。

北山氏:
基本的に商品登録と同じで、個別にプロモーションを行うのではなく、同じプロモーションやコンテンツを複数のECショップで同時期に展開することによって、ブランド全体としての情報を認知してもらうようにしています。

あとはSNS。今までSNSからは、自社ECサイトにしか集客しておらず、各ECショップへのプロモーションには連携できていませんでした。しかし昨年12月頃からSNSの配信に関しては、取り扱いECショップのURLを網羅するようにしています。

川部さん:
なるほど。コンテンツの同時期展開とSNSの有効活用によりプロモーションも効率化できるのですね。