ECだけではなく小売店舗を中心に多くの販売チャネルをもつメーカー企業。伝統的なメーカー企業では長い歴史を経て多くの販売手法やマーケティング手法を蓄積しています。そんなメーカー企業でのEC&通販事業は、取り組みには様々な苦労と、それを乗り越える独特の工夫が多く凝らされています。

本連載では千趣会や大塚製薬、JIMOSなど企業規模や業種・職種を超えて幅広く、EC&通販に携わる経験を蓄積し、現在は株式会社プランクトンR取締役を務める川部篤史さんが様々なメーカー企業のEC&通販担当者にインタビューし、その独特な勝ち筋や手法を聞いていきます。

第1回目はトミカ・プラレールや、リカちゃんでおなじみの株式会社タカラトミーです。EC・通販事業を加速するに当たり、多くのオリジナル商材を開発する中で、商品のラインナップの構築や、Twitterなどを駆使することで商品開発と売り上げの相関性をどのように見つけていったのか。川部さんがインタビューで伺います。

インタビュイー・プロフィール

中村駒夫氏

タカラトミー株式会社 営業本部 国内営業推進室 WEB部 部長

タカラトミーにおいて、店舗販売ルートの職務も経験し、数年前からEC関連部門へと移籍「タカラトミーモール」運用を担うWEB部のEC施策を統括する。ナショナルクライアントの各社で通販部門に携わる人々の交流会において、第3代目会長を務める。
プライベートでは執筆業務を行い、執筆した文章は自費出版ながら書籍化、一部コアなファンも持つ。

遠藤隆浩氏

タカラトミー株式会社 営業本部 国内営業推進室 WEB部 WEB課 係長
タカラトミーへは2018年に合流。現職以前では大手アフィリエイトサービスプロバイダなど、EC分野での実務経験を多く積む。業界に知見が深く、タカラトミーモールの若手有望株。

インタビュアー川部篤史氏

株式会社プランクトンR 取締役 通販支援事業部長。
事業全体を俯瞰しつつ、豊富な知見に裏打ちされた、EC/通販事業での事業構築&製品マーケティング戦略立案・実行を得意とする。AI/オートメーションの活用や、中国越境ECにも明るい。現歴以前は、株式会社JIMOSで通販支援事業部長及びホールセール事業部長(2014~2018)、またマキアレイベル製品開発部長及び健康食品部長(2012~2014)を歴任。他、大塚製薬株式会社(通販・EC部門)、株式会社千趣会(製品企画・開発・仕入/制作企画/EC等)にて活躍。ビジネスブレークスルー大学大学院経営管理修士(MBA)。
通販・ECについて詳しく解説する1,2分のショートムービーをシリーズで配信中。まとめての視聴はhttps://solution.planktonr.co.jp/から。

ECサイトはテストマーケティング機能も

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インタビューする川部さん(左)

川部さん:
タカラトミーにはトミカやリカちゃんをはじめ、トランスフォーマーやダイアクロン、キャラクターのぬいぐるみなど、多くのオリジナル商材を開発されています。世間一般では順調に商売を拡大し続けているという印象があるのですが、中村さんが担当されている営業本部の「Web部」ではどのような事業を担当されているのでしょうか。

中村氏:
最初にWeb部ができた経緯からお話します。もともと、Web部の前身は「Web戦略事業部」という、ECの運営とECオリジナル商品の開発を手がける部門でした。その後、「次世代マーケティング室」に移り変わり、商品開発業務がなくなった代わりに、SNSやYouTube、自社のホームページの管理運営が加わり、ECだけでなく、Webマーケティング全般を統括するようになりました。現在は営業傘下となり、Webマーケティングの業務が別部門に引き継がれ、ECだけに特化した販売・マーケティングチームになりました。

川部さん:
主にECでの販売を担当されているのですね。タカラトミーさんは店頭販売が主体の中で、EC事業というのは社内で期待感を持って捉えられているのでしょうか。

中村氏:
実際社内でも自社ECを伸ばしていこうという雰囲気はまだ模索段階です。売上も全体からみると非常に小さく、今のところ個別の販売チャネルという考え方はありません。

川部さん:
しかし、御社のように魅力的なオリジナル商品が揃っていれば、ECでは様々な取り組みができそうです。そもそもタカラトミーのECはどのような役割を持たれているのでしょうか。

中村氏:
当社にはタカラトミーモールという自社ECサイトがあります。このタカラトミーモールの役割としては

  • 近隣に店舗がなくて商品を購入できないお客様に対し、顧客サービスの一環として直接商品をお届けする役割
  • 購買情報から属性分析や宣伝効果の検証を実施し、商品開発やマーケティングに役立てる、調査分析機関としての役割
  • 予約情報を含む販売データを、生産や販売計画にフィードバックするテストマーケティングの役割

の3つがあります。

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川部さん:
社内でECサイトを持つというのは利点が多いですよね。僕もこれまでメーカー企業ではECサイトを「メーカーのテストマーケティングとしての機能」として、ダイレクトにお客さんの反応を把握することができる、という利点を社内外に強調してきました。それがリテール事業において大きな投資やプロモーション、拡販活動を意思決定していく際に非常に大事な情報になる。そこの価値が大きいんですよね。

とはいえ、売上が上がってくると、そのうちに売上規模や利益規模に注目して、予算計画段階で事業の存在感が増してきますので、自由な動きが取りにくくなってくる、という側面もあります。

ECではオリジナル商品を販売されていますよね。こうした商品を多く販売していく方針でしょうか。

中村氏:
そうですね。ただオリジナル商品を作る際はやはり、金型などの大型投資が必要であるか否かは判断を大きく左右します。型物を作るとなると、初期投資が大きくなるためになかなかハードルが高いので、簡単に開発はできないのが悩みです。

川部さん:
結果、ハードルが低いことからはじめることが多くなりますよね。タカラトミーさんでは金型を起こす必要がないぬいぐるみなどで、人気キャラクターや今後人気が出そうなキャラクターを販売するケースがありますよね。

遠藤氏:
おっしゃる通り、ぬいぐるみはロットも少なく始めることができるので、試験的に始める際には商品企画しやすいですね。ただ、メーカーが作る商品は、それでも商品の当たり外れは大きく、なかなか売上の予想ができないのが現状です。

ただ、最近はこうした予測にも道筋ができてきました。

SNSフォロワー数から売り上げが予測できる

川部さん:
売上が予測できるというのはすごいですね。具体的にどのような手法なのでしょうか。
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中村氏

中村氏:
タカラトミーでは主力のキャラクタービジネスがあります。過去の例で恐縮ですが、Twitterなどで反響が大きいキャラクター、例えば、「猫のぽんた」のぬいぐるみを販売しました。ぽんたはTwitterやWebコミックなどで現在も人気で、作者の鴻池剛さんのTwitterではフォロワーが100万人を超えています。(※2019年1月29日時点)

そんな「猫のぽんた」をはじめとして、SNSで人気の高い複数のキャラクターのぬいぐるみを販売してきましたが、最近は、売上予測がある程度見込めるようになりました。一つの目安をお話すると、Twitterのフォロワー数の5%は売上が見込めるのです。

遠藤氏:
Twitterというのはコアなファン層が一定数必ずいます。コアなファンは購入がある程度見込めるので、計画がとても立てやすくなりますね。キャラクター商品というものは、売上予測がかなり難しいカテゴリーです。これまでの売上予測では、傾向が近い商品やシリーズが過去にどれだけ売れたか、というデータを参照するしかありませんでした。それが、SNSを通して、具体的な数値として精度が見込めるようになったということは弊社として大きな成果として捉えています。

中村氏:
現在では、弊社の社員が「商品化したい」と考えたキャラクターがあった場合に「フォロワーは何人いるの」と聞くようにしています。そこで予測が立てられますからね。ただ、判断が難しいのは、当初はそれほどフォロワーがおらず、売上が見込めないと判断した場合も、いざ実際にキャラクター商品を作ってみると、フォロワー数が急激に伸びてくる、という場合もあります。

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以前に「タヌキとキツネ」というぬいぐるみを作りました。作者でイラストレーターのアタモトさん(@atamotonu)のフォロワーは製品化当時、20万人ほどだったのですが、現在は60万人を超えるほどに成長しています。そうすると、作者の方々もTwitterで宣伝していただけるので、売上もさらに伸ばしていくことができます。こうしたキャラクター商品は、開発担当が「商品化したい」という情熱を持って、漫画家だったり、作者だったりに交渉するのですが、そうした情熱を信じることで、フォロワーがより伸びてくるということもありますね。

川部さん:
マーケティングでフォロワーを狙ったSNS施策というのはもともと、注力されていたのですか。

中村氏:
今までは注目していませんでした。Twitterを見てる人は商売っ気を嫌がるのではないかと思っていたので。実際、当初はTwitterで商品PRをしても、あまり反応がよくなかったんですね。それが、ここ数年で弊社のTwitter運用担当者もコツを掴んできたのか、当初はタカラトミーモールへの流入がほとんどなかったのですが、現在はペイドサーチに匹敵するほどまで増えてきています。

川部さん:
流入が順調に増えているというのは、目に見えて十分な成果ですね。SNSの活用では、Twitter以外での勝ち筋というのは他にもあるのでしょうか。

中村氏:
Twitter以外のメディアで効果が出ているのはYouTubeです。YouTubeを使う理由は、子どもがテレビを見なくなっているからです。

今では会社全体でYouTubeを使ったプロモーションに力を入れています。極端なことをいうと、今後はテレビとYouTubeを使い分けて、テレビでのCMは打たずにYouTubeだけでヒットさせるなど、チャンネルで使い分けることも大切になってくると思っています。

テレビCMはマスメディアであり、多くの視聴者が見込めますが、一つひとつは15秒や30秒の接触で終わってしまいます。それがYouTubeだと、30分ぐらいは平気で子どもたちは見てくれます。しかも何回も同じ物を見てくれる。特にキッズYouTuber(ユーチューバー)の作品だと、子どものユーザーが繰り返し見ることがわかっています。

難しいのは自分たちで動画の質をあげようと工夫してもなかなか上手くいかないということです。以前に社内でユーチューバーを作って育てるという企画をやろうとしたのですが、再生回数は思うように伸びていきませんでした。ユーチューバーはやはりユーチューバー自身が自分で企画して、自分で撮って、自分で編集して公開するというのが一番ユーザーにウケるんですよね。

値引きでは勝てない、安心感で勝つ

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遠藤氏

遠藤氏:
タカラトミーモールで販売しているオリジナル商品は、売上もさることながらその集客力に魅力を感じています。ECはセッション数と客単価CVR(コンバージョンレート)で売上が決まるので、今後はどうやって人を呼び込んでいくかが課題になってくると思います。広告SEOも必要ですが、オリジナル商品の集客力にはとにかく目を見張るものがあります。

川部さん:
オリジナル商品で4割も販売シェアを占めているのもすごいことですが、その裏返しとして、小売店舗などに流通し様々な店舗でも買える商品だけでも、残りの6割の売上を上げているいうのもすごいですね。Amazonや楽天など他サイトでも、消費者は安く購入できるケースが多いのに、メーカー直営のタカラトミーモールを選んで購入してくれているということですよね。

中村氏:
そうなんです。これもアンケートをとったことがあるのですが、弊社の直営ECサイトで購入してくださる理由として「メーカー通販に安心感がある」「品揃えが豊富」というのが大きな理由のようです。

やはり、価格勝負では他のモールやショップには分が悪く、値段以外の理由で買ってくれる顧客を大切にするということが重要です。ショップオリジナル商品の購入顧客が重要なのはもちろんですが、残りの商品を買ってくれる顧客に向けても、別途Webサイトを作ったり、キャンペーンを打っていくというのが大事なことではないかと思っています。

川部さん:
そうすると、成長のためにも今後重要になってくるのは、タカラトミーモールを知らない顧客をどう呼ぶかということになりますね。

遠藤氏:
そうですね。もっとタカラトミーモールの知名度を上げていきたいですね。「メーカーが直営でECをやっているんだ」という認識がないお客様はまだまだ多くいらっしゃるので、市場は今後も広がっていくと考えています。商品ラインアップも増やし、例えば、トミカでも大人向けの高価格帯のシリーズを展開して「こんなものまであったんだ」という驚きを示していきたいです。

中村氏:
あとは、商品力以外で売上をあげる方法も考えなければいけないというのは課題です。例えば最近話題に登ることが多い決済手段なども積極的に開発し、運用していきたいですね。

川部さん:
なるほど。今後のタカラトミーモールの発展が楽しみです。本日はどうもありがとうございました。

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