チームの要はセルフマネジメント力

ferret:
人事的な面で言うと管理職がないというのは、本当ですか?

倉貫氏:
本当です。いわゆる管理職がありません。なぜなくしたかと言うと、エンジニアやマーケッターのような仕事は、マニュアルがあれば何でも完璧にこなせるものではないからです。今日の取材も同じでしょう? 指示書もないし、現場で判断することが多い仕事ですよね。

現場にいない人が細かく指示命令できない仕事を、僕はクリエイティブな仕事と呼んでいます。多くの仕事が機械やAIに代わっていくこれからの時代、クリエイティブな仕事こそ需要が高まるはずです。

じゃあクリエイティブな仕事は、どうしたら成果が出せるようになるかと考えた時に、指示命令を的確にこなす人よりも、現場での判断力をつけたほうが生産性が上がると思いました。実際、毎日現場でお客さんに対峙している人の方がデスクで仕事している上司よりも詳しいことは往往にしてあります。そうなると管理職って何のために必要なの?となりますよね。それで思い切って、管理職を撤廃したら上手くいったんです。

ただ大前提として、1人ひとりが自力で成果を出せる人になるための「セルフマネジメント力」を鍛えていたことがあります。この文化がないままに管理することを撤廃したら、無法地帯です! ただただチームが崩壊していました(笑)

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ferret:
セルフマネジメント力って言葉を初めて耳にしました。

倉貫氏:
そうですよね。僕らの会社ではセルフマネジメント力を、レベル0(ゼロ)〜レベル3の4段階に分けているんですが、ゲームのように段階を踏んでいけば理解できるものなんです。まず、マニュアルで管理されていないと仕事できない状態を「レベル0」と定義しています。その場合は「レベル1」に向かって鍛えてもらうのですが、まずは仕事を作業に分解していくことを覚えてもらいます。

ferret:
仕事と作業の違いを具体的に言うと?

倉貫氏:
クライアントや企業にとって価値のあることを仕事と定義すると、*作業の定義は「タスク」*です。例えば「カレーをつくってほしい」という仕事に対して、まったくカレーを作ったことのない人は何をしていいのか分からないから、必要な物から野菜の切り方、作業時間まで教えなくちゃいけません。それではセルフマネジメントできていないので「レベル0」ですね。「カレーをつくってほしい」という依頼だけで自分で作り方を考えて作れるのが「レベル1」です。それが例えば「レベル2」に上がったら、リソースを与えられます。「3時間後までに1000円で温かい夕食をつくってほしい」からスタートして、カレーなのかシチューを作るのか?から個人で判断してもらいます。で、最終的に「レベル3」になれば、全てを判断してもらう。予算も時間も。自分で優先順位をつけられる。ここまでのレベルなら、3、4年目でなれるんです。

ferret:
なるほど。セルフマネジメント力を上げて高い生産性を出すと何か報酬がもらえるんですか?

倉貫氏:
高い生産性を出す人には、自由な時間をもらえる制度があります。例えば普通の企業であれば「記事10本書いたなら、あと5本追加で書いてください」となりますが、うちの場合は「10本書いたなら、あとは自由に好きな仕事をしていいよ」となります。

ferret:
自由に好きな仕事...ですか! 何をしたらよいか迷ってしまいそうです。

倉貫氏:
会社に言われたことをやらなくてもよい、ということなので、勉強に費やしてもよいですし新規事業に挑戦してもいいんです。実際、社員の一人は、奥さんが教員だったのでその職場改善のために教員向けの効率化ツールをつくったり。こうした自由な時間を「部活」とうちでは呼んでいるんですが、社内副業のような時間なんです。

ferret:
自由な発想で、価値を生み出す。セルフマネジメント力の強化は、どんな企業においても必要な教育のような気がしてきました...!