インタビュー前編:KPIは会場をお客様で埋め尽くすこと。新日本プロレスのSNS運用が目指すもの
私ごとで恐縮だが、1年ほど前に体調を崩して自宅療養をしていたとき、YouTubeで新日本プロレスの公式チャネルで動画を見る機会があった。7分ほどの動画であっただろうか。その短い動画を見て、私は完全にプロレスの虜になってしまった。繰り出される美しい技、レスラー一人ひとりの個性など、その魅力は語りつくせないほどだ。プロレスに完全に魅せられた私は、こう思うようになった。「なんとかプロレスと仕事を結びつけたい……。」「なんとかferret読者にプロレスの魅力を伝えたい……。」本インタビューはそんな想いから実現した企画である。
プロフィール
新日本プロレスリング株式会社 真下 義之さん
広報宣伝部 グローバル&デジタルメディアセクション課長
1971年11月13日、群馬県生まれ。現代美術アーティスト・村上隆のアシスタント(有限会社カイカイキキ)を経て、2005年から『kamipro』編集部でプロレス&格闘技雑誌の編集に携わる。2009年9月より新日本プロレスリング株式会社に入社。パンフレット制作などを経て、現在は広報宣伝部でWebサイトやSNS、スマートフォンサイトを担当するグローバル&デジタルメディアセクションに在籍中。
「おもしろそう」、そんなノリで始まったTwitter運用
ferret:現在、新日本プロレスのSNSはFacebookとTwitter、Instagramを運用されていますが、どれに注力していますか?
真下さん:メインで力を入れているのは、Twitterです。最初に始めたSNSということと、新日本プロレスのオフィシャルWebサイトでは1日に多い日で10件以上、たくさんニュースをアップするんです。そういった情報を拡散したり、レスラーのツイートを紹介するのに、新日本とTwitterはすごく親和性が高いんです。今、Instagramもかなり伸びてきているんですけど、そこは情報の拡散というよりブランディングの一環として考えています。
ferret:SNS運用をされている部署は広報部ですか?
真下さん:はい。営業部のTwitterもありますが、メインである公式アカウントの運営は広報部です。新日本の広報部は、多岐にわたる業務を行なっていますが、その中でも独立したかたちで取材班(グローバル&デジタルメディアセクションの通称)という部署があって、試合速報や日々のニュースをはじめ、いろんなコンテンツをつくっています。広報部には、メディア対応やレスラーのマネージャー的な役割をしている担当者も多いですね。
自分は取材班を統括していて、取材班ではほとんどの会場に同行している人が1名、ニュース記事の更新やインタビュー記事、コンテンツをつくっている人が3名、Webのシステム周りの作業をやってる人が1名で、僕を入れて6名。8月からは、英語版サイトのスタッフが2名合流しました。その他、外部の編集者さんやライターさんにもいろいろ手伝ってもらっていますけど、SNS以外にも公式Webサイトと有料のスマートフォンサイト、大会の特設サイトもこの人数で運用していますので、人手はもうちょっとほしいですね(苦笑)。
ferret:Twitter黎明期に始められたそうですが、プロモーションの一環で始められたのですか?
真下さん:僕の当時の上司が「おもしろいからやろうぜ!」っていう軽い感じで2009年くらいからやり始めたんです。Twitterの黎明期のときって、あまりオフィシャルのアカウントってなかったと思うんですよね。やっていても、“中の人”が楽しみながら情報発信しているのが多かったような……。
当時のK-1さんの初期のTwitterアカウントが、クマのキャラでツイートの語尾に「〜クマ!」って必ずついてたんですよ。それが話題になっていたので「僕たちはライオンだから“ガオ”にしよう」というノリで、ずっと語尾に「ガオ」をつけてツイートしていたんです。真面目なこともつぶやくんですけど、基本は「今日は暑いガオねえ~」みたいなフレンドリーな感じでつぶやいて、当時はフォロワーも少なかったので、小規模ながら自由な感じで盛り上がっていました。
どちらかというと仕事って感じじゃなかったですね。中の人を1号、2号、3号みたいに設定して、「今日は3号がこんなこと言ってるガオ」とか「今日は2号がどっかに旅行に行ったガオ」とかつぶやいて、実際に2号が海の写真をあげたり、1号と2号が突然ケンカしたりとか(笑)。単純に「おもしろいから」という理由でやっていました。
その時期は選手もほとんどやってなかったんですよ。当時のアカウントはオフィシャルって言っていいのかどうか……。会社の中でも完全に放置されていた感じで、社内で3人ぐらい情報発信が好きな人が、楽しみながらやっている状況でした。
そんな中で、2012年1月に親会社がユークスから今のブシロードに代わったんです。当時、オーナー社長だった木谷(高明)さんはSNSに意欲的で、最初の記者会見の時に「全プロレスラーにTwitterをやってほしい」とお願いしたんですが、そのタイミングでレスラーの方たちもTwitterを始めることになりました。
ベテランやヒール選手の中には、やらない方もいらっしゃったので全選手というわけにはいきませんでしたが、ほとんどの選手が一斉に始めましたね。
一方でオフィシャルのTwitterアカウントは「おもしろさ優先」みたいなツイートが徐々に縮小してきていた時期で、このタイミングで我々は一歩引いて、楽しい部分は選手にお任せしようということになったんです。その代わり、オフィシャルのアカウントでは選手のアカウントを全部フォローして、おもしろいツイートをピックアップしてリツイートする。結果的に「公式アカウントをフォローしていたら、新日本プロレスの世界観が楽しめますよ」という感じになっていきました。
公式Twitterをフォローすれば全部の情報が見られる
ferret:ツイートの分析をしていた時期ってあるんですか?
真下さん:量が多すぎるので、ツイートの分析についてはそれほどしていないですね。新日本プロレスはさまざまなWebサイトやSNSを展開しているんです。
・無料の公式Webサイト
・有料のスマートフォンサイト
・新日本プロレスワールド(テレビ朝日と協業での動画サイト)
・YouTube
・『闘魂ショップ』(グッズ専門のWebサイト)
・SNS(Twitter、Facebook、Instagram)
さらに、2012年のブシロード体制になって以降、会社でもTwitterに力を入れていくことになり、会社の中で放し飼いになっていたTwitterに、営業部や商品部など他の部署からも「情報を出してほしい」というリクエストが多くなってきたんです。
▲新日本プロレスの公式Twitter
最初にも言いましたが、新日本プロレスの公式Webサイトは、1日に10以上の記事が出るほどニュースが多い。それまでは各部署から届けられる情報をSNSでは、注目ニュースみたいな感じで絞って配信していたんですけど、あまりにも他部署からのリクエストが増えてきたので、「もう全部のニュースをTwitterで出してしまおう」と方向転換したんです。なので、フォロワーの反応を見たり、狙いすましたツイートを出すこともたまにありますけど、基本的にはすべての情報を並列にして、分け隔てなく発信していくシステムにしました。
選手のリツイートのくだりでも言いましたが、ありとあらゆる情報を網羅することで「公式アカウントをフォローしておけば、その日の新日本プロレスの情報はだいたいわかる」という方向に転換していったんです。
ferret:どういうツイートがフォロワーの関心を集めやすいかを分析して記事をつくっている企業が多い中、新日本プロレスは違うんですね。
真下さん:出し方の工夫はある程度はしています。ただ1つ言えることは、強いニュースってあると思うんですね。例えば「大きな大会の大きなカードが決まりました」とか、グッズでも今までにない画期的な商品が出れば反響は大きいですし。そのようなインパクトのある情報を出す場合は、わかりやすい文言や写真の工夫をしたり、短い動画をつけて出したり、比較的見てもらいやすいお昼や夕方の時間帯に出したりしますけど、最終的には強いニュースのツイートはどんな形で出しても大きな反響が来るんですよね。
他に工夫していることは、同じツイートを2回以上する場合は画像や文言を変えたり、フォロワーの動向を把握して、時間帯や言葉選びに気をつけたり。後は、選手にダメ押しのリツイートをお願いする場合もあります。
ferret:長年、SNS運用をされていて、新日本プロレスのファンの実像というものは見えてきましたか?
真下さん:SNSってオープンで、かつ無料でできるものですから、新日本プロレスのファン以外の方からの反応もたくさん来ます。言い方は悪いですけど、新日本プロレスがそれほど好きじゃない方からも反応があるんで、ハッキリした実像は掴みきれていないですね。
逆に言うと、*Twitterのフォロワーがこんな反応をするだろうなっていうのは、ずっと運用してきてある程度、肌感覚で掴めています。「この文言だけでは、説明不足だな」とか「この情報は、箇条書きでまとめた方が伝わるな」とか。「このまま、この情報を出したら確実に炎上するな」とか(苦笑)。そのために見出しや画像を工夫したり、「こういう注意書きを入れとかないとマズいな」とか、そういう部分は感覚としてあります。*そこは自分が編集者をしてきた経験も大きいのかもしれません。
ferret:今までの真下さんの経験を通じて、企業の方がSNS運用をする上でどういうスキルが必要になると思いますか?
真下さん:情報を発信する場合、新日本プロレスにはいろんな部署からニュースが来るので、社内のコミュニケーション能力が凄く大切だと思っています。*例えばある部署からザックリした情報しか来なくて、何がポイントなのかわからなかったとします。「これちょっと意味がよくわからないけど、そのまま出しちゃった」というのが一番ダメで、「この情報の意図がわからないから、担当者に直接聞いてきます」と発信する側の主旨をシッカリ汲み取って、よりわかりやすく簡潔に落とし込む力が必要ですね。*目新しいニュースを出す場合は、担当者にきちんと最終確認をしてもらったりするなど。あと、編集者的なセンスというか、そもそも情報を発信することが好きか、というのも重要かもしれません。
KPIは会場をお客様で埋め尽くすこと
ferret:SNS運用におけるKPIは何を設定されていますか?
真下さん:*僕らの一番わかりやすい目標は会場をお客様でいっぱいにすることなんです。*これは長らく集客で苦戦していた時期を体験してきたことも大きいですが、会場がいっぱいになればグッズも売れるし、試合も自然と盛り上がる。その会場の熱がいま世界中で配信されている新日本プロレスワールド(有料動画サービス)にも確実に伝わっていく。今後は、会社としてライセンスビジネスにも積極的に力を入れていこうとしていますが、大事な根本はそこだと考えています。
なので、SNS運用のKPIは、他の企業さんとは考え方が違うのかなと思います。他の企業の方はサービスやコト、モノを多くの人に認知してもらうことだったりするのかもしれないですが、新日本プロレスではいかに大会や選手を盛り上げるかが大きなウェイトを占めています。それによってフォロワー数も増えるし、選手の注目度も高まりますので。
だから、試合前にチケットの売れ行きがよくない会場があれば、営業部から依頼をもらう前に、僕らのチームでSNSを活用して情報を積極的に出していきます。チケットを売ることに関しては、やりすぎたとしても会社の誰からも文句を言われませんし、会社にとって一番良いことだと思っているので。
ferret:集客のためにSNS上で施策をされていると思うのですが、具体的にどのようなことをやられているんですか?
真下さん:大会の開催が決まったあとに、まず大会とチケットの種類の情報が最初に公式Webサイトに出ます。そのあと、参戦選手や大会の対戦カード(誰と誰が対戦するのか)が発表される。そのタイミングで、試合の見どころを説明した記事を発信する。さらに、インタビュー記事や煽り動画などを公式WebサイトやYouTubeなどに出して、試合の意味やポイントを拡散していきます。大きい大会だと、動画広告をSNSに出稿することもあります。選手自身も、試合に向けた決意や発言をツイートする場合が多いので、それをさらにオフィシャルのTwitterでリツイートして多角的に盛り上げていきます。
また、大会が迫ってくると、前売り券の販売終了のお知らせや、当日券の情報、当日のイベント情報、サイン会情報などを出して、大会当日まで情報が途切れないようにします。
ferret:思うようにチケットが売れないときもあると思います。そんな場合はどういう工夫をされるんですか?
真下さん:*もう一押しが必要だと思ったらフォロワーの目を引くようなツイートや記事を仕込んだり、大会当日の朝には何時にツイートを出そうかなとか、オフィシャルのLINEで当日券の情報を流したり、さまざまな試行錯誤はします。*特にビッグマッチで券売が苦戦している場合は、最後の最後まで当日券の販売状況を出したり、営業部と連動して粘るようにしています。
反対に、チケットが早く売り切れた場合は、新日本プロレスワールドでのネット生中継の誘導をメインにしていったり、他の大会の券売に誘導したり、そこは状況によって対応していきます。とにかくどの大会も盛り上げていくことを大事にしています。
SNS活用はとにかく盛り上げることを意識
遊び半分のようなかたちから始まったTwitter運用が、ブシロード体制で推奨され、レスラーたちまでもが活用するまでに至り、現在の運用方法へと発展した新日本プロレスのSNS。オフィシャルアカウントはとにかくレスラーのキャラクターを引き立てることと、大会やグッズに関する情報を発信し盛り上げ役を務めることに注力しているとのことでした。
後編では、Twitterから実現した対戦の話や新日本プロレスの目指すこれからのSNS運用目標についてスポットを当てていきます。
新日本プロレスのSNS運用の後編はこちら
インタビュー後編:さらなる飛躍を実現するために、これから注力するのは海外戦略
前半では、新日本プロレスがTwitterを始めたきっかけや、KPIについてお話を伺いました。 広報宣伝部の一番の使命は、会場をお客様で満員にし、大会を盛り上げることとのこと。数値目標を掲げてPDCAを回していくことも大切ですが、ひた向きに情報を発信しファンを楽しませる努力や試行錯誤、工夫を見ることができました。後編では、新日本プロレスがさらなる飛躍を実現すべく掲げている海外戦略や、SNSが生み出した相乗効果についてお聞きしました。
- Webサイト
- Webサイトとは、インターネットの標準的な情報提供システムであるWWW(ワールドワイドウェブ)で公開される、Webページ(インターネット上にある1ページ1ページ)の集まりのことです。
- Twitterとは140文字以内の短文でコミュニケーションを取り合うコミュニティサービスです。そもそもTwitterとは、「小鳥のさえずり」を意味する単語ですが、同時に「ぺちゃくちゃと喋る」、「口数多く早口で話す」などの意味もあります。この意味のように、Twitterは利用者が思いついたことをたくさん話すことのできるサービスです。
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- Webサイト
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- アカウント
- アカウントとは、コンピューターやある会員システムなどサービスを使うときに、その人を認識する最低必要な情報として、パスワードと対をなして使う、任意で決めるつづりです。ユーザー、ID、などとも言います。
- コンテンツ
- コンテンツ(content)とは、日本語に直訳すると「中身」のことです。インターネットでは、ホームページ内の文章や画像、動画や音声などを指します。ホームページがメディアとして重要視されている現在、その内容やクオリティは非常に重要だと言えるでしょう。 なお、かつてはCD-ROMなどのディスクメディアに記録する内容をコンテンツと呼んでいました。
- コンテンツ
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- Webサイト
- Webサイトとは、インターネットの標準的な情報提供システムであるWWW(ワールドワイドウェブ)で公開される、Webページ(インターネット上にある1ページ1ページ)の集まりのことです。
- Twitterとは140文字以内の短文でコミュニケーションを取り合うコミュニティサービスです。そもそもTwitterとは、「小鳥のさえずり」を意味する単語ですが、同時に「ぺちゃくちゃと喋る」、「口数多く早口で話す」などの意味もあります。この意味のように、Twitterは利用者が思いついたことをたくさん話すことのできるサービスです。
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- アカウント
- アカウントとは、コンピューターやある会員システムなどサービスを使うときに、その人を認識する最低必要な情報として、パスワードと対をなして使う、任意で決めるつづりです。ユーザー、ID、などとも言います。
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- アカウント
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- Webサイト
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- アカウント
- アカウントとは、コンピューターやある会員システムなどサービスを使うときに、その人を認識する最低必要な情報として、パスワードと対をなして使う、任意で決めるつづりです。ユーザー、ID、などとも言います。
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- KPI
- KPIとは、目標に対して施策がどの程度達成されているか、を定量的に表す指標のことをKPI(重要業績評価指標)といいます。
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- Webサイト
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- 広告
- 広告とは販売のための告知活動を指します。ただし、広告を掲載するための媒体、メッセージがあること、広告を出している広告主が明示されているなどの3要素を含む場合を指すことが多いようです。
- Twitterとは140文字以内の短文でコミュニケーションを取り合うコミュニティサービスです。そもそもTwitterとは、「小鳥のさえずり」を意味する単語ですが、同時に「ぺちゃくちゃと喋る」、「口数多く早口で話す」などの意味もあります。この意味のように、Twitterは利用者が思いついたことをたくさん話すことのできるサービスです。
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- アカウントとは、コンピューターやある会員システムなどサービスを使うときに、その人を認識する最低必要な情報として、パスワードと対をなして使う、任意で決めるつづりです。ユーザー、ID、などとも言います。
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