商品やサービスの値段は、購買欲求を大きく左右するとともに、売上にも直結する数字であるため、企業にとって非常に重要なものです。しかし、近年ではダイナミックプライシングによってその負担は少なくなってきています。

ただ、このダイナミックプライシングという言葉は聞き慣れない方も多いのではないでしょうか。

そこで今回はダイナミックプライシングとは?から始まり、その事例まで詳しく解説していきます。

ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシングとは、消費者の需要と供給に応じて価格を変動させることです。

つまり、空き状況や利用頻度によって「柔軟に最も適した価格で提供すること」とも言えるでしょう。

たとえば、映画館のレディースデーやお盆・年末年始の飛行機やホテルの価格にもダイナミックプライシングは活用されています。私たちが飛行機やホテルを利用しようとした時に、このいわゆる繁忙期の値段が通常よりも高かったという経験はないでしょうか。これは、需要の増加に伴って、消費者がある程度納得をして利用できる価格帯まで値段を上げているからなのです。

もちろん、その反対もあります。
先ほどの映画館のレディースデーの例のように、閑散期に値段を下げて消費者に利用してもらうと言ったこともあります。他にも飲食店の早割や、眺めが良くない部屋の価格を下げて少しでも利用してもらうというのもダイナミックプライシングの考え方です。

そんなダイナミックプライシングですが、最近ではAIを用いたダイナミックプライシングの導入が行われています。
AIを用いたことで価格設定の精度が上がっており、たとえば以下のような要素から最も最適な価格を決めています。

  • 周辺イベント
  • 天候
  • 競合
  • SNSでの話題性

通常であれば、このようなビッグデータを利用するには回収や集計に時間や手間がかかってしまいます。

しかし、AIを用いることで素早く複雑な複数の条件を考慮して値段の決定ができるようになっているのです。また、これらのデータが溜まれば溜まるほど、その精度が上がっていくのもAIを利用したダイナミックプライシングの特徴です。

このダイナミックプライシングが広まった背景の一つが、企業がアクセスできるビッグデータの増加です。近年では、他社よりも多くのビッグデータ保有している企業が、より有利な価格競争を展開できる傾向にあります。

ダイナミックプライシングのメリット

そんなダイナミックプライシングを活用するメリットは、以下のようなものがあります。

  • 収益の最大化
  • 在庫を抱えなくて済む

従来では企業にとってこれらの悩みは大きなものでした。
しかし、ダイナミックプライシングを活用すれば、これらの悩みを解決できるのです。
ひとつずつ解説していきます。

収益の最大化

お伝えしたようにダイナミックプライシングは需要が高まる時期には価格をあげ、下がる時期には価格を下げる方法です。

先ほどの例のように、需要があるときはなるべく収益の上積みを行い、需要がない時は空席や空室をなるべく無くす価格調整を行います。ビッグデータを根拠にすることから、感覚ではない、最も企業にとって有利な価格設定ができるようになります。そうなれば、自然に収益の最大化にも繋がるといえるでしょう。

在庫を抱えなくて済む

このように、ダイナミックプライシングの活用によって収益の最大化が期待できます。
需要が下がる時期に適正な値下げをすれば、ある程度の利益を保ったまま商材が売れる可能性も出てきます。

つまり、企業としては閑散期に大量に在庫を抱えるリスクの防止になり得るのです。

特に、ECサイトであればリアルタイムに適切な価格の設定が行えます。これによって限定された期間だけではなく必要に応じたセールの実施も可能です。

ダイナミックプライシングのデメリット

ダイナミックプライシングは、価格競争を勝ち抜くための有効な手段です。

しかし、メリットばかりではなく、以下のようなデメリットも存在しています。

  • 突発的な出来事に対応できないことがある
  • 外部委託のコストがかかることもある

ひとつずつ解説していきます。

突発的な出来事に対応できないことがある

ダイナミックプライシングは、突発的な出来事に対応できないことがあります。

現代のAI技術は事前にわかっているものへの対応は優れていますが、需要の変動要因に対する要素の把握は不十分です。

たとえば、ダイナミックプライシングでは、近くで大きなイベントがある時はそれに考慮して料金を引き上げます。しかし、何らかの事情で急遽イベントが中止した場合はそれに対応できず、料金が引きあがったままなのです。

近い将来このような部分は解消されていくでしょうが、現状では人間による突発的な出来事に対する情報収集は欠かせません。

外部委託のコストがかかることもある

ダイナミックプライシングを最大限に活用するためにはAIの知識と統計学が必要、正確なデータに基づいた判断を行う際に必要になります。もしこれらの知識のリソースが自社になく、ダイナミックプライシングを最大限に活用するためには外部委託をしなくてはいけません。外部委託をすると、どうしても費用や時間がかかってしまうものです

自社で対応できない場合、このあたりは必要経費となってしまうでしょう。

プライステックとは

プライステックとは、値段を決める際にITやAI・ビッグデータを利用して最適な額を決めるものです。

つまり、ダイナミックプライシングはプライステックの一つ。

他にもプライステックには種類があり、プレプライシングとポストプライシングがあります。

プレプライシングは、定価を定めず購入前に価格が決定されるものです。
代表的なものとしては、モバオクやヤフオクといったオークションサイトが該当します。
一方のポストプライシングは、日本で取り入れられてからまだ日が浅く、これから広まると考えられているものです。商品やサービスの利用後にユーザーが価格を決定し、非対面での価格の決定や評価が可能になっています。

ユニークな事例だと、法事の終了後に利用者が自らの範囲でお坊さんへの支払いを決定し、後払いをするといったものがあります。

もちろん、規定の金額はありますが、それに加えてお布施のような決済方法を可能にした、今までにはないプライステックです。

ダイナミックプライシングを活用した事例

ここからは、ダイナミックプライシングを活用した事例について3つ紹介していきます。
これらの事例を見ていくと、ダイナミックプライシングは私たちの生活にかなり溶け込んでいるものと言えそうです。

ローソン

コンビニ大手のローソンでは、実験店舗にて電子タグを活用した実証実験を行いました。これは、食品ロスの削減の取り組みの一つとしてダイナミックプライシングを試験導入した事例です。

商品に貼り付けられた電子タグが賞味期限が近い商品を特定し、LINEアカウントでその商品情報の通知を行います。そこで通知された商品を購入すると、LINEポイントの還元が行われ実質10円の値引きが行われるといった仕組みです。

参考:
<参考資料>電子タグを用いた情報共有システムの実験|ローソン公式サイト

コスモエネルギーホールディングス

コスモエネルギーホールディングスでは、2019年8月に割引サービスを提案するアプリを導入しています。

この割引サービスは、利用状況や顧客ごとに適したクーポンの配信を実施。実際のクーポン利用状況をもとに、来店頻度・給油量のデータを集めました。その結果から、来店頻度によって値引き額を調整するといった、顧客の行動に応じた値引き額を提供しています。

参考:
値引き幅、利用者ごとに コスモHD、個別提案型の給油所アプリ  :日本経済新聞

横浜F・マリノス

Jリーグのサッカーチームである横浜F・マリノスは、ホームグランドを2つ持っています。7万人を超える動員が可能な日産スタジアムと、15,000人の導入人数であるニッパツ三ツ沢競技場です。

ここでの課題は日産スタジアムでいかに動員を増やすか、満席になりやすい三ツ沢競技場ではどのように収益を増やすかでした。この課題の解決策として、ダイナミックプライシングを活用し、集客が見込める人気カードの時は料金を高く、反対にあまり人気のない試合の場合は料金を下げるといった施策を行いました。

これにより、値上げと値下げを組み合わせた観客誘導に成功しています。

参考:
価格変動制「ダイナミックプライシング」によるチケット販売開始のお知らせ | ニュース一覧 | 横浜F・マリノス 公式サイト

まとめ

このようにダイナミックプライシングの活用は生活の様々なところで行われています。
IT化が進む中、ますます発展していくプライステックと言えるでしょう。

また、ダイナミックプライシングはより良いサービスを生み出す原動力としても期待されています。これから先、どのように進化をしていくにも注目です。