2020年2月5日〜7日に幕張メッセにて、企業の売上拡大につながる製品やサービスが一堂に集まる“マーケティングの総合展”「Japan マーケティング Week【春】」が開催されました。

本講演では、長年ブランドマネジメントやマーケティング組織構築に携わってきたマーケティングのプロフェッショナルである音部氏が、持続的な成果を出すために日々のマーケティング活動における知っておきたいポイントについて語られました。

ここでは、<圧倒的に成果を出す、マーケティングの極意>の講演内容をレポートします。

登壇者

音部大輔 氏
株式会社クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役

P&Gに17年間在籍し、複数のブランドで市場創造やシェアの回復を実現したのち、US本社チームでイノベーションプロジェクトを主導。帰国後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂で、マーケティング担当副社長やCMOとして、複数ブランド群の回復やマーケティング組織構築・強化を指揮。2018年1月より現職。国内外のFMCG、輸送機器、教育、エンターテイメント、広告代理店、マーケティングサービスなどのクライアントにマーケティング組織強化やブランド構築といった”CMOシェアリング”サービスを提供。博士(経営学 神戸大学)。日本マーケティング学会 理事。著書に『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議)、『マーケティングプロフェッショナルの視点』(日経BP)がある。

<アジェンダ>
■2種類のCMO像
■「ナレッジマネジメント」が組織の礎に
■「とにかく認知」の前にまずは「設計」
■顧客満足は設計できる
■「目的」と「ターゲット消費者」を明確にする
マーケティングの全体設計
■持続的成果を生むために必要なこと

2種類のCMO像

音部氏:弊社ではCMOシェアリングサービスというものを推進しているのですが、CMO像は、「ナポレオン」と「モルトケ」の2種類あると考えています。

ナポレオンは、1社1ブランドで、将軍であり指揮官として自分自身が前線に出て戦うタイプのCMO。会社で例えると、1社で何百億〜何千億円も売上のある1ブランドを持つ、大規模なブランドマネジャーです。

一方モルトケは、ドイツ戦争でプロイセンを勝利に導いた、世界で最初の参謀本部を創設した参謀総長です。彼はナポレオンのように前線に立って直接指揮はしませんが、彼の麾下の将軍達の自主性を重んじて、それぞれが上手く戦えるような軍制改革をしました。

会社で例えるならば、20のブランドを要するブランド会社のCMOはモルトケのような動き方をするべきでしょう。ブランドマネジャーが力を上手く引き出せるような組織の仕組みなどを作ります。仮にそのCMOがブランドマネジャーの10倍の能力を持っていたとしても、20ブランドもあるので、1ブランドあたりに投入できる能力は0.5です。能力は割ったりかけたりしないと思われそうですが、少なくとも時間は20分の1。これでは、前線に出ていってもあまり役に立ちません。代わりに、20人が上手く戦えるような構造作りが重要です。「構造作り」という仕事は、家を作るようなもの。一度家が建ってしまえば大工はその家に常駐しない、に近い考え方です。これが、”CMOシェアリング”サービスを可能にしている論拠でもあります。

「ナレッジマネジメント」が組織の礎に

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音部氏:この仕事をしていると、「組織の成長」というものを考えさせられる事が多いです。おそらく「成長とは、昨日できなかった事が明日はできること。」だと思います。できるようになった理由のひとつは、「昨日は持っていなかった手段が今日は手に入ったから」。例えば、新しいイノベーション、新商品、使えるお金が増えた、人が増えた、など。

もう一つは、「昨日は知らなかったやり方を今日学んだので明日できる」。言い方を変えると、経験を知識に変えるナレッジマネジメントと言えます。先ほど例に出した20〜30個もブランドがある会社の場合に、Aのブランドで学んだ事をBのブランドで使えて、Bのブランドで学んだ事をCのブランドで使える。1年間で20ブランド分稼ぐことで、20年相当のノウハウや知識を得られます。これこそが組織の強みのひとつなんです。この考え方は、複数のブランドを抱える企業がV時回復する場合の重要な礎になると思います。

例えば、直近1年で1番お金を使い、1番労力を使ったことに関して、そこから何を得て、どんな知識経験を得たか、チームは何が出来るようになったのか、をすぐに言えるチームと、一生懸命頑張りはしたけれど何を得たのかよく分からないチーム、5年も経つと大きな差が付きます。20ブランドを抱える組織が各チーム間でこれをやった場合に、当然組織全体の底上げに繋がるのです。知識をどう収集、蓄積、流通できるかが非常に重要と言えます。

「とにかく認知」の前にまずは「設計」

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音部氏:「まずは、認知。1人でも多くのお客さまに出会いたい、老若男女すべての方がお客さま、広く皆さんに知って貰いたいので、とりあえず認知を上げよう」。これは、企業でよく見聞きする考え方です。

「製品力に自信があるので、とにかく使ってもらい、商品の良さを理解してもらいましょう」という時代は過去にあったかもしれません。それは、物が比較的少なく、製品カテゴリ自体がとても新しく、まだ流通量も少ない、といった初めてのものに関してはいまでも通用するでしょう。

市場の半分ではなく5〜10%を対象とするのなら、ブランドが提供するものを明確にし、ロイヤルユーザーになる可能性のある方に出会う方が効果的で効率的です。そのためには、何を期待してもらい、自社の製品・サービスがいかに期待を超えていけるか、を設計する必要があるでしょう。

顧客満足は設計できる

音部氏:「顧客満足」は設計できると思っています。例えば、シワを減少させる効果を持つ、ある基礎化粧品があったとします。「シワが消える」という機能を期待しながら使用する場合と、普段のスキンケアのルーティンに単に取り入れた場合では、使用者の満足度合いは異なります。意識してもらった方が、機能を感じやすいことでしょう。それに、本来自分達が訴求したかった部分と異なる評価軸で評価されてしまっては残念です。せっかく「これはシワに効果がある」という製品であるならば、それを期待する使い方をしてもらった方が正しい製品の評価に繋がりやすいと言えます。

「目的」と「ターゲット消費者」を明確にする

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音部氏:マーケティングをする上で、「目的の解釈」と「ターゲット消費者の設定」の2つが曖昧なまま放置されていることが多いように感じます。とにかく認知、とにかくトライアルなど母数が多い方が安心、となりがちなのは、これらが曖昧なままだからです。

ターゲット消費者を明確にすることで、ブランドのベネフィット(提供する価値、便益)を明確にしやすくなります。また、目的が明確に解釈されることは、うまく機能する戦略の策定に不可欠です。目的がうまく解釈され、ターゲット消費者が明確になることで、ブランドの戦略とベネフィットが明確になります。ターゲットを絞ることで、結果的にコミュニケーションやマーケティングの効果効率が上がります。そして、トライアル(試用)への満足を製品だけに任せるのではなく、コミュニケーションを含めたマーケティング活動全体で提供できる、などの変化が期待できるでしょう。

目的の再解釈

音部氏:例えば、10億円の売上をあげる時に、10万人に1万円を使ってもらい10億円になるのと、100万人に千円を使ってもらい10億円になるのとでは、アプローチは随分異なります。この10万人あるいは100万人に使ってもらう時に何人に語りかけるのか、何個使ってもらうのか、消費回数は何回なのか。このように今月の売上目標を「円」から「人」に変えるような、目的の解釈の再解釈は、マーケティング上のアプローチがしやすく、解釈もしやすい目標値に転換されるため、おすすめの方法です。

ターゲット消費者の設定

音部氏:ターゲット消費者を設定をする時に、今だに「20代女性」「50代男性」のように、性別と年代で区切ることがあります。しかし「20代女性」は、実家暮らしの女子大生、独身のビジネスパーソン、20代後半既婚者で子供がいる人まで、色んな人を含んでいるんですね。

さらに具体的な例を挙げてみます。

・20代の独身で子供がいない女性
・40代の独身で子供がいない女性
・20代の主婦で子育て中の女性
・40代の主婦で子育て中の女性

「この4つのグループを、似た者同士2つに分ける」という課題があるときに、まずは「20代」と「40代」で割ることができますね。年齢重視の分け方です。

対して、「独身で子供がいない」と「主婦で子育て中」のライフスタイル重視の分け方もできます。もちろんカテゴリで言えばどちらが正解かはちゃんと考える必要はありますが、FMCGなどのカテゴリの多くは、後者の分け方が正解です。年齢よりも、ライフスタイルにもとづく価値観の方が購入や使用に大きな影響を与えるんですね。

マーケティングの全体設計

音部氏:マーケティング全体の設計をするときに、参画するプレイヤーの数も毎年増えていくなかで、「図示」が重要になってきます。

約10年前のマーケティングでは、テレビ広告を1つ作り、テレビ広告を中心に店頭があり何となく商品も売れる、という時代が長く続いていました。その状態を例えるなら、「ピアノソロ」かもしれません。ピアノを1人で弾いているので(テレビCMが活かせるので)、複雑な楽譜がなくても思うままに弾けるでしょう。

現在は、さまざまなデジタル広告があり、多様なプレイヤーと協働する必要があります。この状態を例えるなら、ピアノソロというよりは、色んなプレイヤーのいる「オーケストラ」に近いでしょう。あまり阿吽の呼吸のきかない、初めて一緒に演奏する複数のプレイヤーをうまく束ねる必要があります。

この“楽譜”には、「カスタマージャーニー・マップ」や「パーセプションフロー・モデル」と呼ばれるものがあります。マーケティングツールの複雑化が始まった90年代後半に生まれました。

カスタマージャーニーマップは「見取り図」

音部氏:カスタマージャーニーマップというのは、消費者とブランドの接点を示したものです。媒体計画や購入場所などの接点の管理に非常に便利ですが、ブランドマネジメントする上では、「カテゴリーごと」であることに決定的な難しさがあります。

例えば、洗濯洗剤カテゴリーにP&Gのアリエールと花王のアタックというブランドがあります。違うブランドですが、違うカスタマージャーニーを描くかというと、そうでもありません。「洗剤の購入」というカスタマージャーニーとして、同じものものができ上がってしまいます。ブランド別に描きにくいのは少し残念な点です。

良い点としては、同じ接点ポイントでの勝ち負けや、どこで取りこぼしているのかの分析には使いやすいですね。ただし、ベネフィット上で差別化するためのツールではない。設計図というよりも、現存する建物の見取り図のようなものです。

パーセプションフロー・モデルは「設計図」

音部氏:『売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則』で著者のアル・ライズとジャック・トラウトは、「マーケティング活動の本質はパーセプションである、すなわち知覚と認識に影響を与える事が重要」だと語っています。

消費者の「知覚と認識」を中心に描くのがパーセプションフロー・モデルです。これは今ある行動を理解した上で、未来の認識や行動をデザインするもので、4P全域のマーケティング活動を描いたもの。

認識を管理するため、そのブランドがどういうベネフィットを提供するか、が可視化できます。ブランドごとに分けられるので、先ほどの例のアタックとアリエールはそれぞれ違うパーセプションフロー・モデルを描きます。建物の設計図と見取り図は、一見似ていますが、大きな違いは設計図はまだ建っておらず、見取り図はすでに建っているもの、というところ。パーセプションフロー・モデルは「これから建つ建物の設計図」なんです。

全体像があることで結果を出すサイクルを作る

音部氏:マーケティング活動における設計図(全体像)がある状態だと、先ほどのオーケストラの例で言うところの色んなプレイヤーに得意分野で活動してもらえます。

個々の活動の目的とターゲットが明示されるので、振り返りがしやすくなる。振り返りがしやすいので、修正がしやすくなる。そのため進行の途中でも知識が増えていく。冒頭に申し上げたように、組織自体は知識でできているので、このサイクルができるビジネスは当然伸びるというわけです。

持続的成果を生むために必要なこと

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音部氏:それぞれのブランドでやるべきことはありますが、持続的に結果を出し続けるために特に重要なことは3点です。

1.経験で得た知識を次に活かす

音部氏:なぜビジネスが伸びるのか、それは我々が強くなるから。なぜ我々は強くなるのか、それは去年できなかった事が来年できるから。なぜできるのか、それはやり方が分かったから。だから、去年よりも来年は強くなれる。

この去年学んだことをちゃんと抽出して来年にちゃんと活かす、という仕組み作りがとても重要です。今年は何を学ぶ年なのか、今あるプロジェクトを透かして、ここから何が学べそうかなと勘案するだけで効率は随分上がると思います。

2.目的とターゲットを明確に

音部氏:とにかくたくさんの人に知ってもらいましょうとか、一人でも多くの人に使ってもらいましょう。これが全くだめってわけなじゃないですが、無駄なところに闇雲にアプローチするのではなく、自分たちが本当に使ってもらいたいロイヤルユーザーとコミュニケーション取れるように、目的とターゲット消費者を明確にしましょう。

3.まず全体設計図を描くこと

音部氏:パーツから全体を構築するのではなく、全体設計図を描いてから、この全体設計図にフィットするようなパーツを使うことが大事です。レーシングマシンを作ってるのに、座席は居心地のいい座り心地を優先して開発している、といったことは実際の車では起きません。でも、マーケティングプランをつくる際には、このようなちぐはぐなプログラムを見かけることがあります。個々のパーツを描く前に全体の設計を必ず描きましょう。

マーケティングは基本に立ち返ることが大事

講演の冒頭で、「マーケティングの極意は基本に立ち返ること」と語っていた音部氏。消費行動の変化により、その時代に合ったマーケティング手法に目が行きがちですが、どの時代においても持続的に結果を出すために重要なことは、「基本」を大事にすること。シンプルながらも本当に実行できている企業は少ない盲点であるのかもしれません。