「目的」と「ターゲット消費者」を明確にする

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音部氏: マーケティングをする上で、「目的の解釈」と「ターゲット消費者の設定」の2つが曖昧なまま放置されていることが多いように感じます。とにかく認知、とにかくトライアルなど母数が多い方が安心、となりがちなのは、これらが曖昧なままだからです。

ターゲット消費者を明確にすることで、ブランドのベネフィット(提供する価値、便益)を明確にしやすくなります。また、目的が明確に解釈されることは、うまく機能する戦略の策定に不可欠です。目的がうまく解釈され、ターゲット消費者が明確になることで、ブランドの戦略とベネフィットが明確になります。ターゲットを絞ることで、結果的にコミュニケーションやマーケティングの効果効率が上がります。そして、トライアル(試用)への満足を製品だけに任せるのではなく、コミュニケーションを含めたマーケティング活動全体で提供できる、などの変化が期待できるでしょう。

目的の再解釈

音部氏: 例えば、10億円の売上をあげる時に、10万人に1万円を使ってもらい10億円になるのと、100万人に千円を使ってもらい10億円になるのとでは、アプローチは随分異なります。この10万人あるいは100万人に使ってもらう時に何人に語りかけるのか、何個使ってもらうのか、消費回数は何回なのか。このように今月の売上目標を「円」から「人」に変えるような、目的の解釈の再解釈は、マーケティング上のアプローチがしやすく、解釈もしやすい目標値に転換されるため、おすすめの方法です。

ターゲット消費者の設定

音部氏: ターゲット消費者を設定をする時に、今だに「20代女性」「50代男性」のように、性別と年代で区切ることがあります。しかし「20代女性」は、実家暮らしの女子大生、独身のビジネスパーソン、20代後半既婚者で子供がいる人まで、色んな人を含んでいるんですね。

さらに具体的な例を挙げてみます。

・20代の独身で子供がいない女性
・40代の独身で子供がいない女性
・20代の主婦で子育て中の女性
・40代の主婦で子育て中の女性

「この4つのグループを、似た者同士2つに分ける」という課題があるときに、まずは「20代」と「40代」で割ることができますね。年齢重視の分け方です。

対して、「独身で子供がいない」と「主婦で子育て中」のライフスタイル重視の分け方もできます。もちろんカテゴリで言えばどちらが正解かはちゃんと考える必要はありますが、FMCGなどのカテゴリの多くは、後者の分け方が正解です。年齢よりも、ライフスタイルにもとづく価値観の方が購入や使用に大きな影響を与えるんですね。

マーケティングの全体設計

音部氏: マーケティング全体の設計をするときに、参画するプレイヤーの数も毎年増えていくなかで、「図示」が重要になってきます。

約10年前のマーケティングでは、テレビ広告を1つ作り、テレビ広告を中心に店頭があり何となく商品も売れる、という時代が長く続いていました。その状態を例えるなら、「ピアノソロ」かもしれません。ピアノを1人で弾いているので(テレビCMが活かせるので)、複雑な楽譜がなくても思うままに弾けるでしょう。

現在は、さまざまなデジタル広告があり、多様なプレイヤーと協働する必要があります。この状態を例えるなら、ピアノソロというよりは、色んなプレイヤーのいる「オーケストラ」に近いでしょう。あまり阿吽の呼吸のきかない、初めて一緒に演奏する複数のプレイヤーをうまく束ねる必要があります。

この“楽譜”には、「カスタマージャーニー・マップ」や「パーセプションフロー・モデル」と呼ばれるものがあります。マーケティングツールの複雑化が始まった90年代後半に生まれました。

カスタマージャーニーマップは「見取り図」

音部氏: カスタマージャーニーマップというのは、消費者とブランドの接点を示したものです。媒体計画や購入場所などの接点の管理に非常に便利ですが、ブランドマネジメントする上では、「カテゴリーごと」であることに決定的な難しさがあります。

例えば、洗濯洗剤カテゴリーにP&Gのアリエールと花王のアタックというブランドがあります。違うブランドですが、違うカスタマージャーニーを描くかというと、そうでもありません。「洗剤の購入」というカスタマージャーニーとして、同じものものができ上がってしまいます。ブランド別に描きにくいのは少し残念な点です。

良い点としては、同じ接点ポイントでの勝ち負けや、どこで取りこぼしているのかの分析には使いやすいですね。ただし、ベネフィット上で差別化するためのツールではない。設計図というよりも、現存する建物の見取り図のようなものです。

パーセプションフロー・モデルは「設計図」

音部氏: 『売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則』で著者のアル・ライズとジャック・トラウトは、「マーケティング活動の本質はパーセプションである、すなわち知覚と認識に影響を与える事が重要」だと語っています。

消費者の「知覚と認識」を中心に描くのがパーセプションフロー・モデルです。これは今ある行動を理解した上で、未来の認識や行動をデザインするもので、4P全域のマーケティング活動を描いたもの。

認識を管理するため、そのブランドがどういうベネフィットを提供するか、が可視化できます。ブランドごとに分けられるので、先ほどの例のアタックとアリエールはそれぞれ違うパーセプションフロー・モデルを描きます。建物の設計図と見取り図は、一見似ていますが、大きな違いは設計図はまだ建っておらず、見取り図はすでに建っているもの、というところ。パーセプションフロー・モデルは「これから建つ建物の設計図」なんです。

全体像があることで結果を出すサイクルを作る

音部氏: マーケティング活動における設計図(全体像)がある状態だと、先ほどのオーケストラの例で言うところの色んなプレイヤーに得意分野で活動してもらえます。

個々の活動の目的とターゲットが明示されるので、振り返りがしやすくなる。振り返りがしやすいので、修正がしやすくなる。そのため進行の途中でも知識が増えていく。冒頭に申し上げたように、組織自体は知識でできているので、このサイクルができるビジネスは当然伸びるというわけです。