UI変更の理由とは

InstagramのUIの中でも特に重要な「いいね!ボタン」。変更前までは、ユーザー間で評価の高い投稿を可視化でき、また、そこからインフルエンサーの発掘にも役立っていたと考えられます。また、自分から積極的に投稿はしないけれど「いいね!」をすることでSNSへの参加を楽しんでいた人も多いことでしょう。それだけ重要な「いいね!ボタン」に関して、抜本的なUI変更を実施したのはなぜでしょうか。

「いいね!」疲れ

まずは、「社会的な影響」だと推測されています。日本国内でのInstagramのMAU(月間アクティブユーザー数)は2019年時点で3,300万人。前年までと比較して急伸し、LINE、Twitterに次いで日本で3番目にMAUが多いSNSに成長しました。
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出典:2020年4月更新! 12のソーシャルメディア最新動向データまとめ

年々、多くのユーザーが日常的にInstagramを利用するようになり、2017年には「インスタ映え」という言葉が「 ユーキャン新語・流行語大賞」を受賞。おしゃれで、見栄えの良い写真を日常的にたくさん投稿して、より多くの「いいね!」、つまり、他人からの賞賛や承認が欲しい。そんなムーブメントがしばらく続きました。

ところが最近では一転して、いつしか「いいね!疲れ」という論調も出てきています。他人からの賞賛、承認をできるだけ多く得て、人気を可視化するために、クオリティの高い写真を絶えず投稿し続けなければならず、続けるほどに投稿の基準も上がっていきます。人から「いいね!」をもらいたい、もらわなければならないという気持ちは、フォロワーが多く影響力の多い人ほど中毒化し、さらに言えば強迫観念めいたプレッシャーにもなっていたのではないでしょうか。

また、「アンダーマイニング効果」という心理効果の影響も考えられます。これは、一度報酬をもらってしまうと、自発的な動機が低下し、次からは報酬なしでは行動しなくなってしまう、という考え方です。これをInstagramに当てはめて考えると、「一度、たくさんの『いいね!』をもらったら、次からは『いいね!』なしでは投稿したくないと思ってしまう。自分の中で、いつの間にかどんどん投稿ハードルが上がっていく」という心理的側面もあったのかもしれません。

そして、自分からは積極的に投稿を発信しない読み手側から見ても、キラキラに「盛った」生活を絶えず見せられ続けるというのは、ちょっと疲れてしまう、自分が投稿しようとしてもハードルが高すぎてとても手を出せない、という心情もあったことでしょう。

「インスタ映え」が2017年ユーキャン新語・流行語大賞に輝いた直後、2018年頃から「インスタ萎え」という全く逆の言葉も流行り始めます。これは、「映えない写真」「残念な写真」をあえて投稿する、という意味で、日本のお笑い芸人たちもこの「インスタ萎え」投稿に続々と参画していました。こういった対極のムーブメントの自然発生から見ても、「インスタ映え疲れ」「いいね!疲れ」「いいね!獲得競争への反発」の空気が世間に何となく広がっていたことが読み取れます。

運営側の思惑は?

先に述べたようにユーザーが「映え」「いいね!」を求めるループが続くと、「投稿ハードル」は上がっていきます。この「投稿ハードル」が上がり過ぎた結果、遂には投稿する人が減少してしまうと、Instagram全体で見てアクティブユーザーの減少が懸念されます。アクティブユーザーの減少は、メディアとしての価値低下につながり、広告収益が上がらない、という事態にも繋がるでしょう。運営側視点に立てば、「社会的側面」への考慮だけでなく、運営側の思惑もあったのではないでしょうか。

参考:インスタが「いいね!」表示をやめた理由、中毒ユーザー増加の影響か
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