新型コロナウイルスの流行は、人々の生活だけではなく経済にも大きな影響を与えています。2020年5月29日、東京商工リサーチから新型コロナ関連の経営破綻件数は、累計192件に達したことが発表されるなど、今後も新型コロナウイルスによる影響はまだまだ広がっていくことが予想されます。

そんな今だからこそ注目したいのが、過去に起こった社会的危機のタイミングで生まれたビジネスたちです。生活様式や社会行動が大きく変化するwithコロナ時代の生き残り戦略を考える上で、過去の事例はきっと大きなヒントになるはずです。

参考:「新型コロナウイルス」関連倒産状況【5月29日17:00 現在】

Hyundai Motor Company(ヒュンダイ)

2008年のリーマン・ショックをきっかけに、アメリカでの市場を拡大し、ビジネスを成功させたのが韓国の自動車メーカー「Hyundai Motor Company(ヒュンダイ)」です。リーマン・ショック後の世界的な不況は、アメリカの新車販売にも深刻なダメージをもたらしました。リーマン・ショック翌年の全米新車販売台数は、1,043万台と大幅に落ち込み、「GM」「フォード」「トヨタ」など各社が苦境に喘いでいました。そんななか、唯一2008年から2009年にかけて、販売台数を伸ばしたのがヒュンダイです。
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出典:HyundaiUSA

ヒュンダイが販売台数を伸ばした要因となったのが、価値保証サービス「Hyundai Assurance(ヒュンダイ アシュアランス)」です。これは、新車購入から一定期間の間に失業・ケガ・死亡・自己破産といったローンを払えなくなる事態に直面した際に購入した車体を返却することで7,500ドルを上限にローン返済義務がなくなる、という保証プログラム。

簡単に言えば、ローンが払えなくなるかもしれないという先行き不透明な状況でも、ヒュンダイ アシュアランスが消費者の新車購入を促す起爆剤となったのです。不況下の消費者の不安に応じる形で価値保証という付加価値を提供し、成功を収めた事例と言えるでしょう。

同社は新型コロナウイルスの流行を受け、3ヶ月無利息でのローン返済猶予や、新型コロナウイルスで失業した人向けの最大6ヶ月までの支払い補償策を実施しています。

参考:HyundaiUSA 公式サイト
超破格ローンで販売台数増 現代自動車の“苦し紛れの奇策”
米国市場:販売がリーマンショック以前のレベルまでほぼ回復

Airbnb

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出典:Airbnb

リーマン・ショックが起きた2008年に創業した「Airbnb」も、社会行動の変化に上手くマッチし、成功を収めたビジネスモデルのひとつです。今では世界190ヵ国以上、約33,000万の都市で民泊の宿を提供しているAirbnbは、スマホから簡単に登録・宿泊予約ができる手軽さもウケて、日本でもお馴染みのサービスとなっています。

Airbnbはスタートアップ段階ではほとんどのベンチャーキャピタルから投資を断られるなど決して順風満帆とは言えませんでした。しかしながら、不況により家賃が払えないというホストたちにとっても、「部屋を貸し出して収入が得られる」という新たな価値が受け入れられ、リーマン・ショック後の消費行動も、“所有”から“シェア”“利用”へとシフトしていくなど、ビジネスに追い風が吹き、世界中で使われるサービスにまで成長しました。

不況という逆境を追い風に変え、価値観の変化やスマートフォンの普及といった時代の変化も先取りして見据えたからこその、結果と言えるのではないでしょうか。

参考:『Airbnb 僕らは"シリアル"起業家』

LINE

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出典:LINE

誰もが使っているメッセージングアプリといえば「LINE」です。月間アクティブユーザー数が8,400万人を超え、今やプロモーションの媒体としても無視できない存在となっているLINEですが、その誕生のきっかけは、2011年3月に発生した東日本大震災だったということを知る方は、少ないかもしれません。

2010年末に企画開発プロジェクトがスタートしていたLINEは、当初は写真共有アプリとしてリリースする準備が進められていました。そんな折、2011年3月に東日本大震災が発生。震災により家族の安否確認や連絡手段として電話やメールはほとんど使えなくなりました。震災下でなかなか使えない電話やメールの代替手段として使われたのが、TwitterのDM機能やカカオトークといったメッセージングアプリでした。

そこでLINEをメッセンジャーアプリとすることを決定。災害時に安否確認もできるホットラインとしても役立てられるよう「既読機能」を搭載し、2011年6月にリリースされたのです。

東日本大震災がなければ、写真共有アプリとしてスタートしていたかもしれない「LINE」。
気軽に誰とでもコミュニケーションできるアプリは、新型コロナウイルス流行下でも、「#stayhome」中のコミュニケーション手段として、多くの人が利用しています。

スマートフォンの利用拡大によって人々のライフスタイルが変化する中、生活スタイルにいち早く寄り添い、新たなビジネス展開をしていくLINEの在り方は、マーケターとしても大いに参考になるのではないでしょうか。

参考:LINE
LINE Business Guide 2020年7月-12月期
震災をきっかけに誕生したLINEならではの、災害時や緊急時等における取り組み
どのようにしてLINEは生まれたのか

消費者や社会のニーズをしっかり捉える

私たちの生活や価値観を大きく変えるきっかけとなった、リーマン・ショックと東日本大震災を契機に生まれたビジネスや、大きく成長したビジネスモデル。いずれも今ではなくてはならないインフラサービスや、誰もが知る存在にまで成長しているビジネスの成功事例です。どの事例にも共通しているのは、社会行動の変化にマッチした消費者や社会のニーズをしっかりと捉えていたという点です。

新型コロナウイルスの影響で、消費行動がどんな風に変化していくのかをしっかりと考え、先回りはできなくても、後手にならないようなプロモーションや企画をしていけるよう、ぜひ心がけてみてはいかがでしょうか。

V字回復した企業事例5選

良品計画、森永製菓など。マーケティング活動によってV字回復した企業

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企業の業績は一度落ち込むと回復しにくく、黒字化の兆しが見えずに苦戦する企業は多くあります。ただ、マーケティング活動を見直すことで大幅に業績を上げ、V字回復につなげることは可能です。 今回は、ターゲット変更や新商品サービスの開発など、マーケティング活動によって業績をV字回復させた企業の事例を5つご紹介します。