企業の業績は一度落ち込むと回復しにくく、黒字化の兆しが見えずに苦戦する企業は多くあります。ただ、マーケティング活動を見直すことで大幅に業績を上げ、V字回復につなげることは可能です。

今回は、ターゲット変更や新商品サービスの開発など、マーケティング活動によって業績をV字回復させた企業の事例を5つご紹介します。

リンガーハット

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画像引用:長崎ちゃんぽん リンガーハット

長崎ちゃんぽんの専門店「リンガーハット」やとんかつの専門店「濵かつ」などのチェーン店を経営するリンガーハット。主力を担う長崎ちゃんぽん専門店「リンガーハット」は2007年、2008年と既存店の売上が落ち、打開策が見つからないまま2009年に過去最大の赤字24憶円を計上しました。

そこで消費者の健康志向に目を向け、国産野菜・小麦の使用を決意。これまでは一部野菜の契約栽培や自社工場生産などは行っていたものの、海外産の野菜が中心でした。リンガーハットグループは年間1万8,400トンもの野菜を使用しているため、材料費が約10億円も上がり大きなコストアップにはなりますが、国産野菜100%に切り替えたのです。

さらに、イベントを削減し浮いたコストを現場の育成費に充てました。人件費を削った時期にサービスが悪化して客離れにつながったため、顧客ニーズがホスピタリティにあるとして現場力の底上げに着手したのです。リンガーハットの理念をまとめた冊子「リンガーハットフィロソフィー」を自己啓発書の立ち位置で社員やパートタイマーに配布し、各人が経営者意識を持つように促しました。内容を日々の業務に落とし込むために読み合わせや朗読を定期的に行っています。

同時に女性活躍も推進し、女性の意見をベースに自分好みの食材をトッピングできる「myちゃんぽん」を導入。飽きさせない工夫でリピーター創出と単価アップを実現しました。ほかにも控えめなミドルサイズのちゃんぽんや減塩メニューを取り入れ、16年2月期の売上高は前期比3.5%増の395億円に。そこから3期連続最高益を達成し、2019年度はグループ全体で1,000店舗を目指しています。

マクドナルド

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画像引用:マクドナルド公式サイト | McDonald's Japan

マクドナルドも大きくV字回復した企業です。期限切れの鶏肉問題が発覚した2014年に純損失218億円の赤字になり、翌2015年は異物混入事件が報道されてさらに業績が急落し、売上高は前年比14.8%減、純損失347億円にまで落ち込みました。しかし、わずか2年後の2017年には最盛期以上の業績を出したのですから驚異の回復率です。

マクドナルドは、ターゲットの絞り直しを実施しました。メインターゲットをファミリー層や若者世代に設定し、日常的にスマートフォンでSNSを見ている20代に向けて、新商品の名前をインターネットで募集。消費者参加型の取り組みを実施しました。

さらに、業績低迷のきっかけとなった管理面に着目し、広告費を削減して人件費を増やしながら地域性に対応した組織改革を行うなど、顧客満足度向上につなげました。こうした取り組みの結果、過去最高の業績にたどり着いたのです。

レアル・マドリード

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画像引用:レアル・マドリードCF | 公式ウェブサイト

世界トップクラスのプロサッカーチーム「レアル・マドリード」は欧州のクラブサッカーリーグ「UEFAチャンピオンズリーグ」で歴代最多の優勝回数を誇り、人気選手が多数在籍している強豪チームにもかかわらず、2000年には約300億円相当の有利子負債を計上していたのです。

そこで見直したのはブランディングです。サッカーチームとしてグッズ販売など露骨に「売ろうとする」コミュニケーションを図ると、ファンは嫌悪感を抱き離れていってしまうもの。モノを訴求するのではなく、企業のアイデンティティやフィロソフィーをファンと共有するようにしました。アイデンティティやフィロソフィーに共感できれば、純度の高いファンが生み出せます。

具体的には、レアル・マドリードのフィロソフィーである「HALA MADORID!(マドリードに栄光あれ)」という言葉を従業員が積極的に発信し、SNSを中心にすべての発信物に反映しました。特に、パソコンやスマートフォンなどでいつでもどこでも確認できるSNSは優秀なコミュニケーションツールです。チームの公式アカウントとサイト、アプリをつなぐことでリアルタイムで情報を共有できるファンコミュニティを構築しました。

コミュニティ上でわかりやすい独自のメッセージを共有して心理的距離を縮めることで、ファンとの間にある物理的な距離を埋められます。話題性と共感性を重視してサッカー情報を発信し続けた結果、レアル・マドリードのFacebook、Twitter、Instagramの合計フォロワー数は、2017年8月時点でサッカーチーム世界最多の1億8,200万人になりました。

こうした全世界にファンを増やす取り組みが功を奏し、2002年時点で黒字化しV字回復。15年もの歳月をかけた2017年には約850億円もの売上を出しました。

良品計画

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株式会社良品計画

「無印良品」を運営する良品計画は、2001年から2003年まで業績が落ち込みました。2001年には営業利益が前年同期比13.8%減になり、その後も営業利益が大幅に落ちたり、売上高も下がったりと不振続きの3年間を過ごしています。

V字回復したのは2016年。業績悪化をもたらした最大の要因は商品力の低下でした。そこで消費者が求める商品を提供するために、消費者とともに商品開発する「ものづくりコミュニティー」(現「くらしの良品研究所」)を立ち上げ、サイトに登録したユーザーが新商品案を提案し、投票数に応じて商品化を検討する仕組みを構築しました。「貼ったまま読める透明付箋紙」がその一例です。

こうして消費者参加型のコミュニケーションを取り入れ、よりリアルなニーズを反映した商品提供を実現したことでV字回復につながったのです。国内・国外ともに好調になり、2016年3~8月の売上高が前年比9.7%増、営業利益は22.9%増と一気に盛り直しました。

森永製菓

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inゼリー | inゼリー・inバープロテイン | 森永製菓株式会社

森永製菓の売上をけん引するゼリー飲料「inゼリー」。もともとゼリー飲料市場シェア4割を占める定番商品で、売上の最高値に到達した2007年以降も高い売上を誇っていましたが、2014年3月にリニューアルしたところ2014年度の売上は前年比8%減と落ち込みました。

変更したのは商品展開とパッケージデザイン。商品展開は「エネルギー」「マルチビタミン」「プロテイン」という機能性軸から、「エネルギー」(180キロカロリー)、「カロリーハーフ」(90キロカロリー)、「カロリーゼロ」(0カロリー)とカロリー軸にし、パッケージデザインは英字中心にしました。品質は変わらないものの、既存客が大幅に離脱。わずか4か月で軌道修正したものの売上は回復せず、前年比8%減に。重点的な立て直しを余儀なくされました。

翌2015年度は、機能性重視の軸に戻しつつ、多忙なビジネスパーソンをメインターゲットにし、スポーツする人や女性、風邪をひいた人など多様な消費者ニーズにも応える機能性を強調。店舗のPOP広告では「水分補給」や「ビタミン摂取」などの健康アプローチをし、マスクやサプリメントなど風邪対策の商品棚に置くなどして売り場展開を変更しました。

その結果、2016年3月期の売上は出荷ベースで前年同期比19%増とV字回復し、2017年3月期のスタートには前年同期比28%増に。それに伴って森永製菓の2017年3月期の売上高も前年同期比7%増の476億円、営業利益は前年同期比86%像の52億円と過去最高値に達したのです。

消費者のニーズを捉えることが大前提

マーケティング活動は業績を大きく向上させる力があります。業績は消費者のニーズにマッチしていれば上がり、マッチしていなければ下がるもの。業績が芳しくないなら、マーケティング活動を見直して消費者のニーズを的確にとらえ、経営や企画に生かしていきましょう。きっとV字回復のきっかけを掴めるはずです。