ある夏の風物詩が、今年は危機的状況を迎えています。老若男女問わず親しまれる、日本の伝統和装「浴衣」です。

新型コロナウイルス感染症の影響により、今年は大規模な夏祭りのほとんどが中止・または延期を余儀なくされ、また外出自粛や3密回避から浴衣を着る機会が激減。消費者が浴衣を購入する動機付けが難しく、メーカーや販売店にとっては厳しい夏となっています。

浴衣のトレンドと売上減少の要因

Googleトレンドで「浴衣」検索>
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例年、浴衣の検索トレンドは5月半ばから上昇し、7月~8月頭にかけてピークを迎えます。しかし今年は7月半ば時点で例年5月時点のボリュームと変わらず、1年を通して低トレンドが予想されます。

この影響は既に消費にも反映されています。通常であれば、浴衣商戦は4月から始まり7~8月に最も盛り上がるのですが、今年は都内有数の花火大会「隅田川花火大会」から地域のお祭りイベントまで取りやめが相次いでおり、高島屋日本橋店では昨年比で浴衣の売上が半分以下にまで落ち込んでいます。

参考:浴衣商戦、コロナで新提案 「Zoom盆踊り大会」「オンライン飲み会」いかが - 毎日新聞

百貨店全体の6月売上高も、大手4社で前年同月比16~29%減と厳しい状況が続いており、夏イベント関連商品の売れ行きの見通しは立っていません。

これまでの浴衣トレンドに変化も

浴衣の売上が落ち込んでいる要因として、新型コロナウイルスの影響だけでなく、2000年代から続いていた「浴衣ブーム」の落ち着きも考えられます。

2000年代から続く浴衣人気

2000年代以降に起こった「浴衣ブーム」により、20~30代女性の多くが花火大会や夏祭りで浴衣を着るようになったと言われています。これにより、伝統として夏の浴衣には合わせない「重ねえり」や「帯締め」、男物や子どもの浴衣に使われる「兵児帯(へこおび)」を使うなど新しい浴衣の着こなしが提案されました。

参考:着物関連市場における新たなセグメントとその特性の分析

さらに、平成後期からみられるレトロブームの影響からか古典柄が人気を呼び、2015年にはユニクロから昭和モダンの巨匠、竹久夢二、中原淳一のデザインがモチーフになった浴衣も登場しました。

SNS界隈では、2019年末~2020年前半にかけてInstagramで「#レトロ着物(#レトロモダン着物)」のハッシュタグが話題に。レトロモダンな柄の着物をレンタルする若年層が増加しており、このトレンドは今年の夏も「#レトロ浴衣」として引き継がれる可能性はあります。

参考:
レトロ・モダン溢れる!ユニクロの2015年の浴衣は竹久夢二、中原淳一の作品がモチーフ | アート 着物・和服 - Japaaan

あの子かわいい…って振り向かれること間違いなし!ナイスクラップの「レトロ浴衣」で視線を独り占めしちゃお♡ - isuta[イスタ] - おしゃれ、かわいい、しあわせ -

浴衣ブームの成熟

レトロブームによる浴衣や着物人気により、2012年から現在まで着物の小売市場規模はわずかに微減を維持しています。しかし、ブームにより浴衣に興味のある女性は浴衣を複数枚所持している環境ができあがり、また着物や振袖に習い浴衣もレンタルする需要が高まってきたことで、購入者は今後より減少傾向になることが予想されます。

参考:
着物市場規模に関する調査 2019