コロナ禍で「中食」市場が伸長し、オンラインフードデリバリー各社も利用者が増加傾向にあると言われています。現在、日本において利用できるオンラインフードデリバリーサービスは複数の選択肢があり、互いにシェアを奪い合っている状況にあります。この記事では日本最大級のオンラインフードデリバリーサービスである「出前館」にスポットを当て、「Uber Eats」とのシェア争いに勝つためのコミュニケーション戦略について、テレビCMをはじめとした各種プロモーション企画投入事例から読み解いていきます。

「出前館」と「Uber Eats」の概況比較

コロナ禍で中食市場が伸長する中、オンラインフードデリバリーサービス各社も好調だと言われています。

ここでは「出前館」と「Uber Eats」の概況をそれぞれ比較して見てみましょう。

[図表1]

出前館 Uber Eats
配達対応エリア 全国(※対象外の市町村もあり) 28都道府県(※対象外の市町村もあり)
掲載店舗数 20,000店舗以上 30,000店舗以上
ユーザー数 約370万人(※2020年5月末時点、アクティブユーザー数) 約320万人(※2020年6月末時点、ユニークユーザー数)

[図表1]は、「出前館」と「Uber Eats」の概況を比較したものです。

「出前館」の配達対応エリアは、全国です。それに対し、「Uber Eats」は28都道府県に限られています。

掲載店舗数は、「出前館」が2万店舗以上、「Uber Eats」が3万店舗以上。「Uber Eats」の場合は大都市圏に集中して、個人店も含め掲載店舗を伸ばしている状況です。

ユーザー数は、「出前館」が約370万人(※アクティブユーザー数)、対する「Uber Eats」は約320万人(※ユニークユーザー数)です。ユーザー数では全都道府県に展開している「出前館」の方がやや多く、一般消費者にとって身近な存在になりつつあるとも言えるでしょう。特に「出前館」は、シニア層のユーザーもある程度掴んでおり、シニア層によるスマホアプリ経由での注文も伸長している、というプレスリリースも発表しています。

参考:
【最新版】現在のUber Eats(ウーバーイーツ)のエリアは?配達可能な範囲を解説|デリバリー配達ナビ

出前・宅配・フードデリバリーアプリ10種を比較!おすすめアプリは?|デリバリー配達ナビ

Uber Eatsなどデリバリーアプリが浸透するウィズコロナの今、グルメアプリとの利用シーンの違いとは|マナミナ

コロナ禍でデリバリーに注目、出前館の加盟店数・注文数が大幅増|食品産業新聞社

Uber Eats配達パートナー座談会。1日57軒で報酬15,000円、Twitterで情報交換がキモ|暮らしにリプするCLIP

シニア層でアプリ経由の出前注文数が前年比2.5倍に|PR TIMES

「出前館」「Uber Eats」の強み・弱み

前項では「出前館」と「Uber Eats」の概況について比較をしましたが、ここからは両社の「強み」「弱み」について、より深い分析をしていきます。

[図表2]

出前館 Uber Eats
強み ①対象地域が広い(全国) ②大手外食チェーン店や、デリバリー専門店を中心に対応③飲食店スタッフが直接配達してくれる場合がある。そうでない場合も「出前館」と提携した物流事業者などの配達スタッフが対応してくれる。(=配達クオリティの担保) ①大都市圏に集中して掲載店舗数が多い②小規模個人店メニューの配達にも対応
弱み ①個人レストランのメニューには非対応 ①地方の小規模都市ではまだ利用できない②配達員は個人事業主の請負型(=配達クオリティは配達員の裁量による)

[図表2]は、「出前館」と「Uber Eats」の「強み」「弱み」を比較したものです。

まず、*「出前館」の強みは前述したようにサービス対象地域が「全国」と広いことです。*そして、大手外食チェーン店と連携しての配達や、デリバリー専門店を中心に対応。「ピザ」「丼」「中華」など、身近にある馴染みの飲食店の味をそのまま自宅で味わうことができます。

さらに注目すべきは、「配達体制」です。「出前館」では、飲食店の店舗スタッフが直接、自宅まで配達してくれる場合もあります。また、そうでない場合にも「出前館」と提携した物流業者などの配達スタッフが対応してくれます。つまり、「お店の味や盛り付けをそのまま自宅まで届ける」という配達クオリティがある程度担保されているところにも強みがあると言えます。

一方、「Uber Eats」の強みを見てみましょう。こちらは、*大都市圏に集中して掲載店舗数が多いことが強みの一つです。*小規模個人店からの配達にも対応しているため、凝ったメニューやニッチなメニューに出会える可能性もあるでしょう。

しかし、地方の小規模都市ではまだサービス提供自体がありません。

そして、「Uber Eats」の配達員は、飲食店で直接雇われたスタッフや、「Uber Eats」に雇われているスタッフではなく、あくまで業務を請け負った個人事業主です。その報酬は配達件数に応じた歩合制だと言われており、配達クオリティに関しては請け負った配達員の自己裁量となります。そのため、「受け取ったら料理がぐちゃぐちゃだった」「パッケージの中で隅に偏っていた」「冷めていた」などの声もSNS上などで散見され、配達クオリティが担保されていないところが弱点の一つであるとも言えます。

「出前館」のアンバサダー戦略

それでは、「出前館」は前述したような自社の強みをどのようにPR・コミュニケーション戦略につなげているのでしょうか?

ダウンタウン浜田雅功氏を「アンバサダー」として継続起用

2020年7月14日から全国で放映を開始したテレビCMでは、ダウンタウンの浜田雅功氏を起用しました。

浜田氏が「CDO(=チーフ出前オフィサー)」となって、お客様の玄関先までアツアツのラーメンを届けるシーンを映し出し、「出前館はきれいに配達するんです!」というセリフが。

「出前館」はたとえラーメンのようにスープのある品であっても商品をこぼさず、湯気がでるようなアツアツの状態で、お客様の手元まで届ける、というメッセージを伝えています。

これはまさに前述した「配達クオリティの担保」をCMメッセージに落とし込んだ形だと言えるでしょう。

さらに、浜田氏はこのテレビCMにスポットで出演しているだけでなく、「出前館のアンバサダー」という立ち位置で起用されています。

CM以外にも、浜田氏を軸にした「浜田のおごりキャンペーン」といったPR戦略を展開。これは、浜田氏が「出前推進費(おごり券)」100万円分を無くなるまで、1人3,000円分、吉本興業所属タレントに配布。おごり券をもらったタレントは、Twitterなどに「お礼報告」を投稿し、「出前館」をPRしていきます。一般ユーザーは、その「お礼報告」投稿に記載されたURLから500円分のクーポン券を先着で5,000名が獲得できるという企画です。

また、これら浜田氏の「出前館」アンバサダー活動は、ダウンタウン出演のバラエティ番組でも相方である松本人志氏らから繰り返し「イジり」のネタにされています。

結果的に浜田氏をアンバサダーに起用した「出前館」のコミュニケーション戦略は、テレビやネットで長期的、かつ繰り返し一般消費者の目に触れることになり、宣伝効果を高めて成功に繋がっていると言えます。実際のプロモーション効果として、浜田氏によるアンバサダー活動後、Twitter上では一時的に言及数が「Uber Eats」よりも上回り、「バズっている」状態が発生。注文数も昨年比で5割増になったと報じられています。

参考:
『出前館』新TVCM、浜田CDOが配達員でお届け!?|PR TIMES

ダウンタウン “出前館イジり”の宣伝効果がすごい! 同社から聞こえてきた喜びの声|Yahoo!ニュース

ダウンタウン 浜田CDO(チーフ出前オフィサー) が『出前館』でおごったる!「#浜田のおごり キャンペーン」を実施|出前館

ダウンタウン浜田「おごり」効果も 出前館の注文が昨年比5割増|日経クロストレンド

福岡では「HKT48」がエリア公式アンバサダーに就任

「出前館」のアンバサダー戦略は、浜田氏の事例だけに留まりません。

福岡では、アイドルグループ「HKT48」をエリア公式アンバサダーに起用。驚くべきことに、「HKT48」のメンバーが自ら、自宅まで注文商品を届けてきてくれるというPR活動を展開しました。

メンバーは「出前館」提携配達業者としての研修を受け、身だしなみや交通安全ルール、出発準備から商品配達までに関する研修、および、ベテラン配達員が同行する実施研修など、デリバリー研修に参加したうえで配達に臨みました。

参考:HKT48が出前館・福岡エリアの公式アンバサダーに就任!|PR TIMES

アンバサダーマーケティングという戦略

「出前館」が取っているマーケティング戦略は、いわゆる「アンバサダーマーケティング」と呼ばれるものです。

「アンバサダー」とは直訳すると「大使」という意味。スポット的なCM露出や一時の情報拡散効果だけではなく、継続的にPR活動を展開し、ユーザーの間に親しみを醸成する、といった戦略です。

「出前館」がそのアンバサダーに起用したのは、幅広い世代にとってテレビでおなじみの顔であるダウンタウン浜田氏や、HKT48のメンバーです。

消費者にとって馴染みのある人が、出前館の最大の強みである「配達クオリティの担保」という点をメッセージとして繰り返し発信してくれることで、「安心感」「親しみ感」の醸成につながっていると考えられます。

参考:SNSを活用した「ファン獲得」手法「アンバサダーマーケティング」とは?基礎知識と事例を解説|ferret

今後、幅広い世代に受け入れられるオンラインフードデリバリーサービスは「親しみ」「身近さ」「安心感」

この記事で述べてきた要点から、今後、幅広い世代に受け入れられるオンラインフードデリバリーサービスの条件としては「親しみ」「身近さ」「安心感」といったキーワードが浮かび上がってきます。

消費者の間で「今日は出前にしようかな……あ、あそこで注文しよう!」と第一想起される存在になれるかどうかが、まずは重要です。そのためには、「親しみ」「身近さ」が必須条件となり、配達クオリティに関する「安心」も同時に求められていくと考えることができます。 

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