あらゆる業界が注目!カスタマーサクセスが重要性を増している理由とは?-前編
2.「モノの買い切りモデル」とは何か
「モノの買い切りモデル」とは、商品の販売規模を最大化することに力点を置くビジネスモデルのことです。ビジネスとしての勝負どころは商品を提供するまでにあり、顧客との関係は商品の提供が終着点になります。買って終わりのビジネスモデルであるため、「モノの“買い切り”モデル」というわけです。
なぜ、商品の販売規模を最大化することに力点が置かれたのでしょうか。それは商品を作れば作るだけ売れるようになったからです。そのため、新規顧客の獲得の方が既存顧客との関係維持よりも経済合理性が高い行為になりました。その結果、「顧客の成功を第一の目的とする」という考え方は、存在感を失っていったのです。
背景にある経済的合理性の変化
そもそも企業の活動は、基本的に経済合理性に基づいています。
なぜ八百屋さんや魚屋さんが、食材を売るという範疇を超えてサービスをしていたのでしょうか。もちろん、純粋にお客様を大切にしたい、喜んでもらいたいという感情的な側面もあるでしょう。
しかしそれだけでなく、経済合理性に支えられているという側面も間違いなくあるはずです。かつての商店街のお店にとっては、顔の見える範囲がお客様を獲得できる範囲でした。そのため、なるべくお得意様を増やし、何度も繰り返し利用してもらうことが、継続的に利益を上げるための最善の手法だったのです。
ところが次第に、新規顧客獲得の方が既存顧客との関係維持よりも経済合理性が高くなりました。なぜなら技術革新により物理的に商品を大量に製造し広範囲に届けることが可能になったからです。
加えて、経済成長により物質的な需要は伸び続けました。こうして、作れば作るだけ売れる時代、いわゆる大量生産-大量販売-大量消費の時代が訪れたのです。
このように顔の見える範囲を超えて商売を展開できる、しかも作れば作るだけ売れる時代においては、商品を販売する規模を最大化することが最も経済合理的な行為となります。
商品の販売規模を最大化するためには、どのようなポイントを重視すれば良いでしょうか。例えば、大衆受けする商品を企画する、認知を拡大させる、調達・生産・物流の流れを効率化するなどが考えられるでしょう。
注目すべきは、勝負するポイントが顧客に商品を届けるまでにある、ということです。つまり、商品を届けた後に既存顧客との関係維持のために時間や労力をかけることは、経済合理性の高い行為ではなくなったのです。
やがて顧客は直線的なサプライチェーンの末端に位置する存在に過ぎなくなり、ビジネスの分業化・巨大化とともに企業と顧客との距離はどんどん離れていきました。
このように「モノの買い切りモデル」では、購入時の「ワンタイムバリュー」を最大化できるポイントにビジネスとしての勝負どころがあります。そのため、商品に販売までにかかったコストを吸収できるような価格をつけたうえで、いかに多くの人に買ってもらうかが追求されました。
新規顧客獲得の方が、既存顧客との関係維持よりもはるかにビジネスにおけるインパクトが大きく、「顧客の成功を第一の目的とする」という考え方は次第に企業の視野から外れていったのです。
3.「コトの体験モデル」とは何か
それでは、近年になりカスタマーサクセスという理念が誕生し注目されるようになった背景には、どのような経済合理性が働いたのでしょうか。
着目すべきは、「モノの買い切りモデル」から「コトの体験モデル」へというビジネスの潮流の変化です。
「コトの体験モデル」とは、顧客の成功を実現することに力点を置くビジネスモデルのことです。そのため、ビジネスとしての勝負どころは商品を提供した後にあり、顧客との関係は商品の提供が始発点になります。顧客が手に入れるのは“モノ”ではなく“コト”(=成功)であるため、「コトの体験モデル」というわけです。
なぜ顧客の成功を実現することに力点が置かれるかというと、商品を作れば作るだけ売れる時代ではなくなり、新規顧客獲得よりも既存顧客との関係維持の方が経済的に合理的になったからです。その背景要因は後編で詳しく説明するとして、まずはビジネスの新たな潮流となっている「コトの体験モデル」がどのようなものか、具体例を元に紹介したいと思います。
「モノの買い切りモデル」から「コトの体験モデル」へと変化した企業の顕著な例としてあげられるのが、世界最大の総合電機メーカーであるGEです。
10年前のGEは航空機のジェットエンジンを売っていました。しかし、今日のGEは納品したジェットエンジンのエネルギー効率を売っています。納品したエンジン一つ一つの利用状況を全てモニタリングし、膨大なデータを分析することで、顧客(航空企業)の飛行機の整備やメンテナンスに要するダウンタイムを実際のフライト単位で削減する方法を提案しています。
つまり、モノ売りに留まらず、顧客の成果というコト売りを実現しようとしているのです。
そもそも顧客が望んでいるのは、いつの時代も自分自身の成果です。商品を購入する際も、成果を得るための手段としてふさわしいと判断したからこそ購入しているのです。
昨今、Uberに代表されるようなライドシェアサービスが流行しているのも、多くの方が車というモノの所有ではなく移動するというコトの体験に価値を感じていることの表れではないでしょうか。
「モノの買い切りモデル」は、手段としての商品の提供に留まっていたため、商品の購入が顧客との関係の終着点であり、購入以降の実際の成果創出は顧客に任されていました。
それに対し、「コトの体験モデル」は、手段としての商品の提供にとどまらず、目的である成果の創出にまで踏み込んで果たそうとします。そのため、商品の購入はむしろ顧客との関係の始発点になるのです。
この「コトの体験モデル」への変化がいち早く、かつ大規模に巻き起こったのがソフトウェア業界です。
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