2010年代以降、人工知能AIの第三次ブームが到来し、さまざまなトピックスが注目を集めています。人工知能と聞くとどこか遠い存在のように思うかもしれませんが、実際は、生活やビジネスの場など、私たちのごく身近なところに潜んでいる技術です。

今回は、歴史背景と現状をふまえた、人工知能の最新事情をご紹介します。

ライフラインの役割を担い始めた人工知能

「Siriが人の命を救った」。最近は、こんなニュースが世間をにぎわせました。オーストラリアのとある家庭で、母親がiPhoneの音声起動を利用して救急へのコールを呼びかけたところ、Siriが本当に電話を掛け、呼吸停止状態だった赤ん坊の危機を救ったというものです。私たちの手元にあるスマートフォン搭載の人工知能が、意外な活躍を見せたことで話題を呼びました。

 日本国内では、人工知能搭載ドローンによる世界初の遭難者探索システム「TDRS(トリプル・ドローン・レスキュー・システム)」が登場しました。産業用ドローンを手掛けるスカイロボットが開発したもので、従来のGPS探索システムのように電波状況や電池稼働時間を気にする必要はありません。昼夜を問わず迅速な捜索が可能で、計算上では、しらみつぶしに探す方法に比して200倍早く遭難者を見つけられるようになるといいます。

 IT、自動車、医療、各種サービスと、あらゆる産業に適用されている人工知能ですが、私たちの生命を救うような重要柱となる可能性も秘めているのです。

技術発展に至る歴史的プロセス

いまでこそ多方面で活用される人工知能ですが、その歴史は古く、長きに渡り日の目を見ない冬の時代もありました。

もとは、1940年代にニュートラルネットワーク(人間の脳の神経回路を模して計算機上に表したもの)の基礎が築かれたことに端を発します。1950年代にAI (Artificial Intelligence)という言葉が生まれ、言語プログラミングの開発などが進められました。この第一次ブームの際に、現代のAI技術の要・機械学習の基礎研究はありましたが、当時のコンピュータの計算力には限界があり、その後もなかなか進展しませんでした。そして1980年代より第二次ブームが起こり、より知識表現ベースの研究が活発化します。1997年にはIBMのチェス専用コンピュータ「ディープ・ブルー」が世界王者に勝利し、大きな話題となりました。

ここまでのコンピュータは、人がルールを複雑にプログラミングする必要があり、高速の計算処理が出来るレベルに留まっていました。しかし、いちいち人間がプログラミングしなくても、データを与えておけば機械が自動的に学習する技術・機械学習が誕生し、これがのちの第三次ブームを牽引することとなります。

Watsonを筆頭とする機械学習のビジネス導入事例

機械学習に挙げられるのは、IBMのWatsonに代表されるコグニティブ(認知的な)・コンピューティング・システムや、その一種であるディープラーニング(深層学習)と呼ばれる手法です。

アメリカのクイズ番組で全米チャンピオンを破ったことでも有名なWatsonは、膨大なデータから抽出した適切な回答を即座に返す場面に適しており、ビジネスのさまざまな分野で活用されています。

3大メガバンク(みずほ銀行・三井住友銀行・三菱東京UFJ銀行)のコールセンターや問合せシステムでは、対応速度や顧客満足度を上げることをねらいにWatsonを導入しています。その仕組みは、顧客から受けた質問内容を過去例と照らして分析し、回答のヒントをオペレーターの端末に表示するというもの。さらにみずほ銀行では、日本IBMと連携したソフトバンクロボティクス提供の人型ロボット「Pepper」を支店に配置し、宝くじの照会応対を行なうなど、Watson技術を店頭サービスにも展開させています。

製薬会社の第一三共は、Watsonに研究データを集積し、製品開発の成功率を高めることに期待を寄せます。これまで1製品の開発に“10年、1000億円を費やすのが当たり前”とされてきた新薬の開発サイクルに、大きな変革をもたらすかもしれません。

料理情報を蓄積した「シェフ・ワトソン」なるアプリケーションもあり、まったく新しいレシピを提案する人工知能として、調理の世界や飲食サービス業界で注目されています。レシピサイト「クックパッド」とのコラボレーション企画なども生まれました。

機械学習がデジタルマーケティングを変えていく

商用利用で特に注目されているのが、画像認識を得意とするディープラーニングです。

2012年、Googleが猫の画像の自動識別化に成功したと発表しました。従来型AIでは人間が猫の特徴を細かくインプットする必要がありましたが、ディープラーニングでは最初に猫の概念を教えるだけで、ほかの動物などが混じった大量の画像から、猫だけを判別することが出来るのです。

これをECサイトなどの商品検索に応用すれば、ユーザーの好みにマッチしやすいよう商品画像を自動分類して掲示できます。特に洋服の好みなど、言語で表すには難しいものに効果的といえます。登録商品を自由にコーディネートして購入できる、VASILYのファッションアプリ「iQQN」などがその活用例です。

また、人工知能的アプローチは、広告配信やWebマーケティングの世界でも拡大しています。

広告においては、複数のアドネットワークに横断的に広告出稿できるツール・DSPや、リターゲティング広告が急速に普及しました。機械学習がよりユーザーに密着した宣伝を可能とし、効率良く収益やCVRアップを見込む手立てとされています。

NTTドコモ提供の「ecコンシェル」は、サイト来訪者の行動に応じた販促施策を展開する購買支援システムです。導入したサイトではCVRが26%、平均顧客単価が50%向上するといった効果測定結果が出ています。

人工知能によって施策を自動最適化するシステムは今後も増加していくと考えられ、Webマーケティングにおいても、AI技術の発展は見逃せないコンテンツです。

AI技術発展への警告

一方、飛躍的に進化した人工知能は、軍事にも利用されるようになりました。アメリカ海軍は対艦ミサイルを破壊する完全自動の防空システムを導入し、イスラエル軍は対空迎撃ミサイルシステムを所有しています。こうした各国のAI軍事利用について、警鐘を鳴らす著名な科学者やハイテク企業家たちは少なくありません。急速な開発競争や軍事利用拡大が起こり、世界情勢が不安定化すると懸念しているのです。

多くの科学技術の発達がそうであったように、人工知能もまた、利便性と並行した危険性を孕んでいるのかもしれません。

まとめ

一般企業や家庭においては、AIが大量導入されることで人間の仕事がなくなったり、あるいは、複雑な感情を持てない機械には、柔軟に対応すべき場面で単調なミスを頻発するのではないかという危惧も持たれています。

いずれも現段階では推測の域を出ませんが、人工知能をどのように導入していくかは、人間のみに出来る判断です。今後もメリットとデメリットを推し測りながら、AIの動向を追いましょう。