「人間は誰でもミスをするものだから」と励まされた経験のある方は多いのではないでしょうか。
どんなに真面目に気をつけながら仕事していても、入力ミスや認識違いは起こるものです。

錯覚や見間違いなどシステムの故障や不良が原因ではない人為的ミスのことをヒューマンエラーと呼び、製造業や航空業界を中心として研究されてきました。
ヒューマンエラーはWeb担当者にとっても、決して無視できるものではありません。

ホームページでの作成やメルマガの配信など一度に多くの人へと情報発信を行えるインターネットの世界は少しのミスが大きな被害につながる可能性があります。

今回は、ヒューマンエラーとは何故起こるのか、またWeb担当者が気をつけるべきポイントについて解説します。

ヒューマンエラーは、作業の仕組みや作業環境を見直すことで防げることもあります。
基本的な知識を学んで、業務のミスを根本から防ぐ仕組みが作れるようになりましょう。

ヒューマンエラーとは

ヒューマンエラーとは、システムの故障や自然災害による事故を除く、人間によって引き起こされるミスのことです。

ヒューマンエラーは業界・業務問わず発生します。
たった1回ボタンを押し間違えたり、手順を抜かしてしまったりと、ささいなミスであっても大きな被害が出てしまうことがあります。

例えば2005年に、みずほ証券が顧客から受けた株の売り注文に対して、*「61万円で1株」とするところを担当者が「1円で61万株」*と入力してしまい、400億円超の損害が出ました。
また、航空業界では操縦士や管制官、整備士によるミスが墜落事故につながったこともあり、ささいなミスであっても軽視してはいけないことがわかります。

参考:
[みずほ証券誤発注 二審も東証に107億円賠償命令 ]
(http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG24015_U3A720C1000000/)
ヒューマンエラー対策を航空業界から学ぶ:全日本空輸 宮崎志郎氏インタビュー

ヒューマンエラーの分類

では、ヒューマンエラーはどうして起こるのでしょうか?

認知心理学者であるジェームズ・リーズンが提唱したヒューマンエラーの分類を見てみましょう。

ミステイク(mistake)

実行した内容は正しかったけれど、計画の段階で誤りがあったものを指します。
この時の計画とは手順書のような文書化されたものだけでなく「こう行動しよう」と考えた思考そのものも指します。

例えば、浴槽を洗う時に塩素系の漂白剤と酸性の洗剤の2種類を使って清掃しようと考え、実際にその通りに行動してしまった場合、有害なガスが発生してしまいます。

ミステイクに対する対策の1つは、正しい計画を立てられるよう常に新しい知識を得ることです。
先ほどの例では、洗剤の性質を最初から知っていればミスは起こらなかったでしょう。

ラプス(lapse)

実行する途中で計画自体を忘れてしまったために起こるミスのことです。
作業の途中で誰かに話しかけられて手順を飛ばしてしまったり、何度も同じ手順を繰り返すことで起こります。

例えば、落語の「時そば」の事例が挙げられるでしょう。

時そばでは、蕎麦屋は客から「代金は間違えるといけないから、一緒に数えよう」と言われ、1枚・2枚・3枚…8枚と数えている途中で「今何時?」と聞かれます。
そこで「今9時です」と答え、9枚目の勘定を飛ばしてしまうのです。

これは客が意図的にミスを引き出そうとした例ではありますが、蕎麦屋にとっては手順を抜かしてしまうというヒューマンエラーと言えるでしょう。
このようなミスを防ぐには、チェックシートのような手順を1つ1つチェックしていく方法が有効です。

スリップ(slip)

スリップはアクション・スリップとも言い、意図せず計画とは異なる行動を取ってしまうことです。
例えば、アクセルとブレーキを踏み間違える事故も本人は左のペダルを踏もうと思っていたのに、左のペダルを踏んでしまったことにより起こります。

スリップはルーチンワーク化した行動で起こりやすい傾向にあります。
指差し確認や集中できる環境作りなど、1つ1つの行動を正確に行えるようにするのが防止のポイントでしょう。

農業や漁業に従事する上で歌う労作歌も、このようなミスを防ぐための仕組みと言えます。
歌いながら作業をすることで気分転換になり、単調な作業でも集中を取り戻すことができます。

Web担当者が気をつけるべきポイント

Web担当者は*「自身によるミス」「ユーザーのミス」*の2つの側面でヒューマンエラーを意識するようにしましょう。

担当者自身によるミス:情報配信のミスを防ぐ仕組みになっているか

ホームページやSNSを通して情報発信を行うWeb担当者にとって、情報発信の宛先や内容、タイミングは間違えたくないものです。

特に担当者が1人の場合、他にチェックする人員が確保できず、承認・確認作業を行わずに発信することもあるでしょう。
ミスをしづらい仕組みを作ることで改善を図りましょう。

例えば、配信手順をまとめたチェクシートを作ったり、配信時間などの重要な手順に対しては数字を読み上げたりいった工夫が挙げられます。
また、担当者が複数いる場合は口頭での伝達事項は復唱したり、互いにチェックしあう環境を作るようにしましょう。

そのような仕組みだけでなく、ミスを発見した時にすぐに訂正できる雰囲気を作ることも大切です。
*「エラーは起こるもの」*という前提に立って、余裕を持った計画を立てたり、フォローできる体制を心がけましょう。

ユーザーによるミス:ホームページでの操作ミスを防ぐUIになっているか

Web担当者としてはホームページを利用するユーザーがヒューマンエラーを犯しやすいホームページになっていないかという視点も重要です。

特にUIと呼ばれる、ユーザーが目にする表示画面やボタンはヒューマンエラーに結びつく可能性があります。
色合いやデザイン、配置によって錯誤されないように注意しましょう。

例えば、ネットショップの入力フォームでは先に進むボタンは画面の右についていることが多く、ユーザーにとって*「進みたい時は右」*と認識されている場合があります。
そのようなユーザーが誤ってしまう可能性を考え、進むボタンを左に置くのは適切ではないでしょう。

参考:
[製造業のヒューマンエラー防止のためのサイト|株式会社アイリンク]
(http://www.humanerror.jp/)
[ヒューマンエラーはなぜ起こる?どう防ぐ?ヒューマンエラー学]
(http://www015.upp.so-net.ne.jp/notgeld/humanerror.html)

まとめ

ヒューマンエラーは、スキル不足によるミスのような過失だけでなく、作業の手抜きやルールを守らないことでも起きてしまいます。
このような故意によるミスが起こった際は頭ごなしに叱るのではなく、ルールや作業手順を変えることで改善をはかるようにしましょう。

メルマガやSNSでの情報発信など、ルーチンで行う作業にはチェックシートを作成するのも有効な方法です。
チェックシートを作成する際には簡潔に、誰にとってもわかりやすい表記を心がけます。
少しでも違う業務なら、チェックシートは分けて作成するようにしましょう。

また、自社のホームページがユーザーのミスを生み出すUIになっていないかのチェックにも、ヒューマンエラーに関する知識を応用できます。見えづらい表示や押し間違いが起こるボタンなど、ユーザーのミスを誘発する内容がないかを確認してみましょう。