この記事は株式会社ヴァリューズ様のDockpit事例記事をもとに作成しています。

花王のDX戦略推進センターでは、商品を認知する前の生活者データからLTV向上のための購買体験データまで、あらゆるデータを集約し、事業プロセス全体に活かしています。
鍵となるのは「点ではなく線で、顧客ストーリー全体を理解するデータ分析」。
どのように実践しているのかお話を伺いました。

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目次

1.DX組織では商品の「認知前から購買後まで」幅広いデータを扱う
2.Dockpitの検索語分析で見えてくる生活者の知られざる一面
3.花王が目指すDXの姿とは

近年、エシカル消費(*1)の高まりや消費のパーソナライズ化など、市場環境は目まぐるしく変化し続けています。こうした状況を受け、花王ではこれまでの「消費財メーカー」という姿から、今後はUX(ユーザーエクスペリエンス)を基軸に据えた「UX創造企業」へのシフトを目指しています。
(*1)消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと。

そのための鍵と位置づけるのはDX(デジタルトランスフォーメーション)。
約1年前の2021年1月、同社はデジタルを駆使した企業体に変革する柱として、新たにDX戦略推進センターを設置しました。デジタルを活用して商品に付加価値を与え、生活者ひとりひとりにパーソナライズされた体験価値の提供をミッションに置いています。

その中でもDX戦略推進センターのカスタマーサクセス部では、データを駆使して生活者を深く、素早く理解し、より良い体験価値づくりに活かす活動を行なっています。花王が実践するデータを使った生活者理解の方法とはどのようなものなのでしょうか。

カスタマーサクセス部 カスタマーアナリティクス室の稲葉里実氏、有地拓也氏、瀧柳七海氏にお話を伺いました。

DX組織では商品の「認知前から購買後まで」幅広いデータを扱う

稲葉氏:
「DX戦略推進センターのカスタマーアナリティクス室では、花王の事業プロセスをデータドリブンにするためのあらゆる活動を行なっています。
データの収集から分析、ダッシュボードを使った可視化まではひと通り実施します。

さらにそこで得られた気づきを基に、ブランド戦略の提案、商品開発のためのフィードバック、あるいはプロモーション施策立案も含め、マーケティングのあらゆる部分にデータのスペシャリストとして参画することが、私たちのメインの仕事です。」

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花王株式会社 コンシューマープロダクツ事業統括部門
DX戦略推進センター カスタマーサクセス部 カスタマーアナリティクス室
マネジャー 稲葉里実氏

DX戦略推進センターでのデータ分析としては具体的に次のような活動が挙げられると、カスタマーサクセス部の有地氏は語ります。

有地氏:
「例えば、最近私が特に注力して取り組んでいる業務は、自社ECにおけるデータ分析です。

コロナ禍もあり、花王では昨年から化粧品の自社ECが本格化してきています。この分野で花王とお客様との絆を深めるためのコミュニケーションの方法を、自社ECの担当者にデータ分析の視点から提案しています。」

また、カスタマーサクセス部でブランドコミュニケーションの設計に携わっている瀧柳氏はこのように語ります。

瀧柳氏:
「ブランドのマーケティングや商品開発に役立ちそうなインサイトをデータ分析から発見し、ブランド担当者にフィードバックしています。

手法としては例えば、Web行動ログを使ってブランド購入者やブランド名検索者の動向を把握したり、検索キーワード分析を使って生活者の悩みや興味関心を理解する分析を行なっています。」

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(左)花王株式会社 コンシューマープロダクツ事業統括部門
DX戦略推進センター カスタマーサクセス部 カスタマーアナリティクス室
有地拓也氏

(右)花王株式会社 コンシューマープロダクツ事業統括部門
DX戦略推進センター カスタマーサクセス部 カスタマーアナリティクス室
瀧柳七海氏

同社では2004年から先駆けてデータ分析の部署を内製するなど、データを活かした取り組みにおいて先進的です。

コロナ禍を経て市場環境が大きく変化し、DXの重要性も叫ばれている現在、花王でのデータ分析の業務はどう変わってきているのでしょうか。

稲葉氏:
「組織が変わって仕事の内容も大きく変わりました。
最もインパクトがあったのは、取り扱うデータの幅がかなり広がった点です。

認知獲得前の生活者の興味関心データから、購買後の体験やLTV向上に関するデータまで、カスタマージャーニーの上流から最下流までを一気通貫して見るように変わりました。

以前のデータ分析では、目的は『自社ECの改善』あるいは『顧客理解』といったように、それぞれの課題に対して解決策を提示するような、点でのアプローチが基本でした。

しかし本来であれば、ある時点のお客様を点として理解するのではなく、言わばストーリーとして『線』で理解する必要があります。そこでカスタマーサクセスの視点から、生活者のストーリー全体をデータで把握する方向にシフトしました。」

Dockpitの検索語分析で見えてくる生活者の知られざる一面

生活者のストーリー全体をデータで捉え直す取り組みにおいて、花王が実践する分析のひとつに、ヴァリューズが提供するWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」の活用があります。

Dockpitは約250万人のパネルユーザーをもとに、あるキーワード検索者のデモグラフィック属性や流入先のコンテンツを調べたり、国内サイトのユーザー数推移や流入元などの項目を分析できるツールです。

ではなぜ、花王はDockpitを導入したのでしょうか。

有地氏:
「もともと弊社では購買や口コミなどの評価データは数多く保有しており、以前から分析を行っていました。

しかし購買前の生活者について、商品を認知したり興味を持つ前のデータは社内にあまり存在せず、カスタマージャーニーの全体像がはっきりしないという課題がありました。

また、これまではアスキング調査による定性データで生活者の認知や興味関心を把握していました。
しかしN数はどうしても限られる上、アスキング調査には準備に一定の時間が必要で、あまりスピーディーに行えません。」

有地氏:
「素早く生活者のことを知りたいとき、使える手段が少なくもどかしさがありました。

こうした課題について、生活者の状況を検索キーワード分析で素早く深堀りできるのがDockpitの強みです。」

現在は「マーケティング施策策定や商品開発における顧客理解を行う際の0次分析としてDockpitを使うことが多い」と有地氏は語ります。

そのほかにも、競合サイトのユーザー数や集客構造を把握、ポジショニングの違いを明確にし、花王内のブランドマネージャーや担当者と商品戦略をディスカッションする際にも使っているとのこと。

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Dockpitの競合分析のダッシュボードイメージ。
複数のサイトの利用状況を一目で確認でき、データはテキスト、画像、エクセルなど様々な形式でダウンロードできる。

では、具体的にはどのようにDockpitを使って顧客理解を行っているのでしょうか。

瀧柳氏:
「検索語の分析では、たとえば花王のある商品ブランドで大切にしたい価値観やメッセージを明確にするため、ブランドコンセプトの核となるワードについて生活者がどう考えているのかを分析しました。

その上で、このワードと類似した検索語や掛け合わせの検索語をリストアップして深堀りします。こうすることで、ブランドが掲げるワードに対する今の生活者の価値観が見えてきて面白いです。」

検索キーワード分析では通常、商品のカテゴリ名やブランド名を入れることが一般的です。花王ならではの切り口で検索キーワード分析を行うからこそ、生活者の知られざるインサイトに迫ることができるのでしょう。

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Dockpitの「検索キーワード分析」画面。上は「消臭」検索の出力結果(2021年3月〜2022年2月)。検索ユーザー数推移だけでなく、デモグラ属性、掛け合わせ検索ワード、流入ページなどのデータが網羅されており、検索者の意図を掴みやすい。

瀧柳氏:
「ほかの使い方としては、最近の化粧品業界でのトレンド『メンズメイク』について、検索者を分析したりもしています。

男女間での『メンズメイク』に対する捉え方の違いなど、面白い発見がありました。Dockpitでは検索後にユーザーが流入したページまで分かるので、生活者が関心を持つポイントに直接結びつけることができ、大きなヒントになります。」

また、年代別のユーザー属性の違いが見える点も重宝していると語る瀧柳氏。
ホワイトニングや研磨剤など、ハミガキ粉の機能別に検索者分析を行うと、面白いくらいはっきりと属性の違いが見えてきたと言います。

瀧柳氏:
「ハミガキ粉の機能別のユーザー属性の違いはブランド担当者が気になっていたテーマでした。ひと目で生活者の興味関心が分かる伝えやすいデータで、ブランド担当者の納得感もとても高かったです。
全社的なデータ活用促進にも一役買っています。」

Dockpitの使用感について、瀧柳氏はこうも語ります。

瀧柳氏:
「Dockpitは本当に便利で、生活者のWeb上の行動を知るために必要な情報が得られます。基本的なデータの項目は網羅されているので、生活者の認知や興味の分析をDockpitで完結できるのも素晴らしい点です。業務に欠かせないツールで、毎日使っていますね。」

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花王が目指すDXの姿とは

データ分析のスペシャリストがDX推進のミッションを担いつつ、花王の各事業におけるブランド戦略や商品開発など幅広い場所に顔を出し、相乗効果を高めていくのが花王流のデータ分析のあり方と言えるでしょう。

こうした先進的な取り組みを続ける花王が、データを通じた顧客理解を行う上での注意点は何なのか、みなさんに聞いてみました。

稲葉氏:
「すべてのデータに条件があり、何かしらのバイアスがある点を忘れないように注意していますね。
また、これはデータ分析者あるあるですが、アウトプットを分析手法から考えがちなところがあります。でもそれは必ず失敗する。

何を実現するためなのか、目的をしっかりと見極めた上で仮説を立ててデータ分析をすることが大事です。」

瀧柳氏:
「目的を持つという点は、私も意識して実践しています。
特にECデータやWeb行動ログデータは良くも悪くも膨大な量があり、目的を持たないと必要な情報を見逃します。たとえ検索者が多くなかったとしても分析すべき重要なワードは存在するので、どこに目的を置くかは本当に大事です。」

有地氏:
「私の場合は、データを数字として表面的に捉えるのではなく、データの先に人がいることを意識して見ています。
普段の生活でも消費者の行動をよく観察したり、Web上での検索を同じように真似してみたりしています。こうやって消費者の活動を追体験すると、行動の意図や因果関係に気づきやすくなるんです。」

最後に、データ活用やDXの文脈でこれから花王が目指すことは何なのか、稲葉氏に展望を聞いてみました。

稲葉氏:
「D(デジタル)とX(トランスフォーメーション)においては、後者の『変革を起こす』ということの方が圧倒的に大事です。そんな中、我々が据えている変革のミッションは3つあります。

1つ目は社内のデータ活用の民主化。
データを見たことで成功したという体験事例を増やして、花王で働くすべての人がデータを効果的に使えるような未来を目指しています。

2つ目は、データ活用の仕方の変革です。
これまではデータを過去の施策に対する評価に使うことが多かったですが、これからは『今後何をすべきか』というテーマにデータを使うべきです。

そして3つ目が一番大事ですが、顧客体験を変革することです。
生活者のリアルな行動や声から価値を発見し、顧客を中心としたデータドリブンなマーケティングをアジャイルに行いたいです。」

花王が掲げる顧客体験の変革においては、市場のフィードバックを素早く受けながら精度を上げていくアジャイル化が重要と稲葉氏は指摘します。その部分でのDockpitの意義についてこう語りました。

稲葉氏:
「消費財の分野で顧客体験を変革する…と考えると難しいですが、顧客理解を深めることで見えてくるはずと考えています。
この部分で、スピーディーに顧客理解を行えるDockpitがもたらす価値は計り知れません。

DXの手法としてデータ活用は必須ですが、国内各社はまだまだその方法に悩んでいるのではないかと思います。ですが、それは花王も一緒です。試行錯誤しながら花王なりの解を見つけていきたいですね。」

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