読者の皆さんは、最近ラジオを聴いていますか?

ライフスタイルやオフィスの環境にもよると思いますが、現在の街角からはラジオの音が減っているように思われます。

1960年代、メディアの花形の座をテレビに奪われて以来、徐々に影の薄くなった感のあるラジオ放送。今や自動車の運転中や、町の食堂などで耳にするだけ、といった方も少なくないのではないでしょうか。また、ビルの高層化が進んだ影響で受信状況が悪くなり、ラジオから離れていったリスナーも多いと聞いています。

そのような状況にあって、ラジオ業界も様々な試行錯誤を続けています。そこから生まれた1つの改革が、インターネットによる配信サービスです。

レガシーメディアの代表のように捉えられることもあるラジオ放送ですが、時代の流れに即して着々と変化を続けているのです。今回は、そんなラジオ放送の現状を探っていきます。
  

間もなく10年。民放インターネットラジオの歴史

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「radiko」による実用配信が開始されるまで

2007年、在阪のラジオ局と電通により、「IPラジオ研究協議会」が発足されました。

前項でも触れましたが、都市部の高層化でラジオを受信する環境は悪化する傾向にあり、ラジオ放送の聴取率は低下の一途を辿っていました。高層ビルの少ない地方でも、山間部の聴取困難地域の環境は改善されぬまま現在に至っています。さらには、他メディアの台頭やライフスタイルの変化など、様々な事情によって、リスナーの減少が進んでいきました。

こちらに、NHKがまとめたデータがありますのでご紹介します。
  
参考:
データで見るラジオの聞かれ方(2016年NHK放送研究所年報より)
  
これを解消する為、従来は電波によって放送していたラジオ番組をインターネットで放送する事が検討されました。

これより国内外でも「インターネットラジオ」の放送は行われていましたが、放送法や著作権の関係で、広域放送を行える局はインターネットで放送を流すことができませんでした。そこで、制度や技術的な問題をクリアして、従来の放送と同じように聴ける配信サービスの検討が始まったのです。

2008年、大阪府内限定で試験配信が開始。翌2009年には在京ラジオ局が参画した「IPサイマルラジオ協議会」が設立されます。そして2010年春、ついに「radiko」による実用配信が開始されました。

radiko公式サイト

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http://radiko.jp/

ただし、この配信も放送法による聴取制限が掛けられていて、設定された地域外からは、たとえ隣県でもアクセスができないようになっていました。
  

各都道府県で87局のラジオ放送がネット聴取できるように!

サービス開始時、ネットユーザーを中心に利用されてきたradikoですが、翌年2011年3月に発生した東日本大震災に際して、公共の情報インフラとしての有効性を発揮しました。

被災地で通常の地上波放送(テレビ・ラジオ)の受信に支障をきたしていた市民に向けて、一時的に聴取エリア制限を解除してしたのです。受信機を失っていても、スマートフォンなどのインターネット端末があれば、従来と同じようにラジオ放送を聴けるようにしました。

これは、当時震災発生後間もない頃から問題になっていた「風評被害」を防いだり、被災地外の市民が現地の状況を知る一助とできるようにとの配慮から始まった取り組みでした。
  
参考:
radikoの復興支援プロジェクト、被災地のラジオ局を全国配信
  
その後、2014年には、課金によって聴取エリア制限を解除して聴ける[radikoプレミアム」や、過去の放送をタイムシフト方式で聴ける「radikoタイムフリー」などのサービスが追加されます。開始当時は関東・関西だけだったエリアも徐々に拡大され、各都道府県で87局のラジオ放送をインターネットで聴取できるようになっています。

また、民放局以外にも、NHKのラジオ放送(第一、第二、FM)による「らじる・らじる」や、全国コミュニティFM局によるネット配信など、同種のサービスが現在稼働中です。

この種のサービスはストリーミング配信が基本なので、ネット接続ができる環境でしか聴けないのが難点でした。しかし、現在は一部の番組をダウンロードしておいて、オフラインでも楽しめる「ラジオクラウド」と呼ばれるサービスも稼働しています。
  

インターネットラジオがラジオ復権の機運となるか

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再び、ラジオ業界全体の概況に戻りましょう。

前述の通り、ラジオの聴取率は低い水準で安定しています。今度は、近年に絞った期間で見てみましょう。
  
参考:
ラジオはどこで聴いているか…場所別・世代別のラジオ聴取動向をグラフ化してみる|ガベージニュース 2017年2月度版
  
注目すべきは、10~20代リスナーの聴取率が格段に低い点です。

理由としては、塾通いなどで在宅時間が短縮される傾向にある、さらには親世代(30代~40代)が在宅時にラジオを聴くことが少なくなり、感心が無い以前に「馴染みがない」状態である事などが挙げられます。
  
参考:
「ラジオってどうやって聴くんですか?|BLOGOS」
  
自分が好きなタレントの番組は、Youtubeなどに違法アップロードされている音声を聴いているのが当たり前で、そのソースがどこで放送されているのかは知らない・興味を持たないのが普通のようです。番組自体は聴かれているのに、本来のルート(放送やネット配信)の存在が周知されていないという、ある種の空洞化現象が起きているのです。

そのような状況を打破すべく、ラジオ各局や放送連盟も様々な取り組みをしています。潜在的リスナーの興味を引くようなコンテンツの開発ももちろんですが、それ以前に「ラジオの聴き方」を啓蒙しなければならない状況にあるため、関係者は頭を悩ませているのが現状のようです。

幸いにして「radiko」「ラジオクラウド」のような配信プラットフォームや、対応アプリは既に揃っているので、後はインフラとコンテンツの紐づけをいかに進められるかがポイントといえるでしょう。

多メディアとの連携も様々な形で模索が続いています。

例えばこちらの音楽番組は、番組内で流した楽曲を「セットリスト」として公開していますが、現在も販売されているものについては、AmazonなどのECサイトへのアフェリエイト付きリンクを張って販促としています。
  
参考:
菊地成孔の粋な夜電波|TBSラジオ
  
こちらは、放送された出演者のトークをテキストに書き起こし、コンビニエンスストアのマルチコピー機でプリントできるようにしたサービスです。コストや収益率は明らかにされていませんが、番組ノベルティの一形態としてプレミア感もあり、面白い試みだと思います。

参考:
ラジオプリント|famima PRINT
※本サービスは4/26号を持って終了しております

まとめ

いかがでしたでしょうか。情報メディアとして重要なポジションにあり、かつTVにはないフットワークの軽さを併せ持つラジオ放送ですが、様々な事情によって認知度が低くなってしまっているのは非常に残念なことです。

しかし、そのフットワークの軽さと即時性は、インターネットだけでなく、他のメディアやビジネスとの連携を活かせるポイントでもあります。

例えばTVなどは、メディアとして巨大になり過ぎて、新しい取り組みを始めるだけでも非常に大きなエネルギーを必要とするようになりました。新聞も、即時性という面からネットのニュースサイトに押されてしまい、難しい時代を迎えています。

このような時代だからこそ、フットワークの軽い、即時性のあるラジオのメリットが活かせるのではないでしょうか。

時代の流れに取り残されそうな時に、抗って生き残りの道を模索する先には、予想もできない未来が待っているのかもしれません。