PCとインターネットの普及は、私たちの生活を大きく変えました。それは私生活だけではなく、ビジネスシーンにおいても同様で、マーケティングの世界においてもそれは例外ではありません。すでに「インターネットリサーチ」抜きに現在のマーケティングを考えることはできず、費用も数十万円からと非常にリーズナブルに実施できるため、多くの企業が新たなプロジェクトの立ち上げや商材・サービスの開発の際に活用しています。

さらに、インターネットリサーチを取り巻く環境は絶え間なく変化を続けており、様々な問題が起きる一方で、従来では不可能だったデータの取得もできるようになっています。

そこで今回は、調査手法の変化やメリット・デメリットなどについて、株式会社インテージの長崎貴裕が解説します。

◆Profile
長崎 貴裕(ながさき・たかひろ)

株式会社インテージ 執行役員 開発本部長
株式会社インテージホールディングス R&Dセンター長
株式会社IXT(イクスト) 代表取締役社長 

  

市場の成熟とデータ収集方法の変化

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市場が成熟する中で、マーケティングリサーチの方法は昔と大きく変わってきています。

かつてはアンケートをとおして、生活者にまずプロダクトの悪いところ、ダメなところを指摘してもらい、そこを改良していくことが主要なニーズでした。しかし、機能や付加価値のコモディティ化・同質化が進む中で、企業(開発者等)の関心は商品の質(機能)ではなく、むしろ“生活者が次に求めているもの”を探し出すことに向かっています。

その場合の調査方法はというと、単純なアンケート方式のリサーチよりも、ネット上でコミュニティを作ってユーザー同士に議論をしてもらう、といった試みの方が最適です。

多少、話題はズレてしまいますが、当社(インテージ)では、かつてテレビCMの評価調査をよくやっていました。当時は対象となるテレビCMに対する印象として、単純に「いい」「わるい」を回答してもらっていました。

ただ、インターネットによるユーザー同士のやり取りが一般化した現在では、テレビCMから刺激を受けた後もネット上で評価や情報を交換することで、「いやいや、これちょっとイマイチなんじゃない」、「私はそう思わない」といったような、異なる印象や意見がぐるぐる回っています。そのため、一方向(テレビ)から受けた印象をアンケートで訊くだけでは、レビューとして不十分になってきています。
  

求められる“エクストリームユーザー”の声

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同様の傾向として、生活者の声を直接取る方法についても、ニーズの中心は従来のグループインタビューから“1on1”のインタビューに変わってきています。

もともと、グループインタビューは、アンケート式インターネットリサーチの普及とセットで発生しました。ネット上で生活者の声が素早く取れるようになる中で、答えた人を直接呼んで「生の声を聞きたい」というニーズが自然と広がったのです。しかし、現在は企業が知りたい生活者の情報はさらにデプス化しており、「より深く話を聞きたい」、「1人の人間を深掘りしたい」というニーズが大きくなっています。

つまりは、急変する社会環境の中で「もうグループインタビューでは新しいことは生まれない」と考える企業が増えているのです。さらに平均的なユーザーではなく、“ちょっと変わったユーザー(エクストリームユーザー)”の意見を聞くことで新しい商品企画、商品開発に活かそうとする動きも強まっています。

通常のターゲットユーザーの声よりも、これまでの層とは違う考えや感覚を持ち、変わった商品の使い方をしているような生活者の声を集め、新たな発想に結び付けようとしているのです。その背景には、何とかして新しいものを生み出したいという、企業の強い思いがあります。