世界最大規模の広告賞「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(以下、カンヌライオンズ)」の今年の受賞作が先日発表されました。
また、同時期には、優れたクリエイティブや高い成果を挙げたキャンペーンを表彰する Facebook Award 2017 の受賞作品も発表されています。

そこで今回は、両アワードの受賞作の中から「動画」が中心となっている作品やキャンペーン施策を10点ピックアップしてご紹介します。

"世界的に評価されている"だけあり、いずれも非常に高いクオリティとなっています。ぜひじっくり鑑賞してみてください。

参考:
カンヌライオンズ日本公式サイト
  

カンヌライオンズ フィルム部門

カンヌライオンズには様々な部門がありますが、本記事では映像作品に特化した「フィルム部門」に注目し、最優秀賞にあたる”グランプリ”と、それに次ぐ評価である“ゴールド”の受賞作の中から、ユーザーの皆さんにもわかりやすい作品を6つご紹介します。
  

1.「We Are The Superhumans」Channel 4(グランプリ受賞)

今年、フィルム部門でグランプリに輝いたのは、英国のテレビ局Channel 4がリオ・パラリンピックに合わせて公開した本作です。様々なハンデキャップを抱えるアスリートやミュージシャンなど総勢140名が出演するミュージカル風動画で、「Yes I Can」というポジティブな歌に乗せて、それぞれのスタイルで競技や演奏、仕事や子育てに励む姿をダイナミックに映し出しています。

アスリートだけではなく、一般の障がい者も登場しており、ハンデを抱えながらも仕事や子育てに取り組む人々が皆 “Super Human” であると讃えています。
  

2.「When You Drive, Never Drink.」Heineken(ゴールド受賞)

昨年、F1のグローバルパートナーに就任した、ビールブランドのハイネケン。同社が公開した本作では、過去3度王座に輝いた元F1ドライバーのジャッキー・スチュワートをフィーチャーし、美しいBGMとともに現役時代の懐かしい映像が並びます。しかし、その中には彼が頑なにビールを断るシーンの数々が……その理由は77歳になった現在のジャッキーのセリフ「I’m still driving.(まだ車を運転しているからね)」に表れています。

ビールブランドの動画でありながら、ビールを断るシーンを並べるという画期的な企画ですが、飲酒運転を徹底的に抑止しようとする同社の姿勢が共感を呼んでいます。
  

3.「Evan」Sandy Hook Promise(ゴールド受賞)

本作を公開したのは、非営利団体Sandy Hook Promise。2012年12月に日本でも大きく報道された、サンディフック小学校乱射事件で愛する人を失った遺族が立ち上げた団体です。

一見、ひと夏の甘酸っぱいラブストーリーのような展開ですが、実はその背景で、銃乱射を計画する男子高校生の様々なサインが見逃されていた、という事実を突きつける衝撃的な作品です。サインを知っているか否かで、見える景色が大きく変わることを視聴者にリアルに体験させることで、子どもたちが静かに発信する様々なサインへの関心を呼びかけています。
  

4.「Pre-Joy」Cadbury(ゴールド受賞)

思い思いのスタイルで歌ったり踊ったりと、なんとも“ご機嫌”な動画がYouTubeで人気を博しています。そんなトレンドに目を付けたのが、チョコレートブランドのCadburyです。

何百万回、何千万回と再生されている人気動画を複数ピックアップし、その楽しい動画が誕生するきっかけとなった(と想定した)同社チョコレートを食べるシーンを制作して、その動画のプレロール広告として配信したのです。

画質や衣装なども可能な限り動画本編に似せて制作されているため、視聴者は広告と動画本編をシームレスに楽しめるという、巧い企画です。
  

5.「Halloween」Burns and Smiles(ゴールド受賞)

フランスでは毎年1万もの人が火事によって重度の火傷を負っているそうです。そんな被害者たちをサポートし、社会的な立場の向上を目指す団体Burns and Smilesが公開した本作では1人の男性に密着。事故により顔が変わって以来、家に閉じこもりがちになってしまった彼は、ずっとハロウィンの日を待っていたと語ります。“本格的な仮装”として堂々と街に繰り出せるからです。

若者と一緒に弾けるような笑顔を見せ、来年もまた会おうとカメラに向かって語る彼の姿をとおして、同団体の活動への関心を高めるとともに、被害者たちが家の外に出る勇気を後押ししています。
  

6.「Beyond Money」Santander Bank(ゴールド受賞)

スペインでは、経済危機の影響を特に受けているミレニアル世代が銀行を信用しなくなっているそうです。そこでSantander Bankは若者の関心を引くための施策としてショートフィルムを公開しました。“記憶”を売り買いできるようになった近未来を舞台に、主人公の女性が結婚式や初恋の思い出をお金に換えていき、自分の夫や子供の存在さえも忘れていたことに気付くという悲劇が描かれています。

本作は公開直後から全国的に話題となり、「お金のために記憶を売るか?」といったお金の価値を問う議論を巻き起こしました(その様子はこちらの動画 にまとめられています)。同社はわずか2週間で年間ビジネス目標の35%を達成し、若者からのネガティブな発言も減少したとのことです。

なお本作はライオンズエンターテインメントのグランプリも受賞しています。
  

(番外編)フィルム部門での日本の受賞作

GRAVITY CAT|ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパン(シルバー受賞)

https://www.youtube.com/watch?v=0lQMXyNUmDs

STICKING TOGETHER, NO MATTER WHAT|鶴弥(シルバー受賞)

https://www.youtube.com/watch?v=JuOGrjdmqTw

EIGHT: BUSINESS CARDS|Sansan(ブロンズ受賞)

https://www.youtube.com/watch?v=gpM_rnQBCr0
  

Facebook Award 2017

Facebookおよびインスタグラム上で展開されたキャンペーン施策の中から、優れたクリエイティブや高い成果を残したものを選出するFacebook Award。今年は「心を動かす広告」をテーマに、「Act」「Cry」「Lough」「Love」「Wow」の5部門が設けられました。

受賞作の中から、動画が中心となっているキャンペーンを4つご紹介します。
  

1. 「All that we share」TV2 Denmark(Love部門)

デンマークの放送局TV2によるこの実験動画で集められたのは、年代や立場、住んでいるエリアなどでグループわけされた人たち。普段の生活では交わることさえなさそうな彼らですが、進行役の男性の様々な問いかけに対し、該当する人たちが集まって新しいグループが形成されていきます。

「クラスのお調子者だった人」「死後の世界があると信じる人」
「ダンスが好きな人」「いじめられたことがある人」「熱愛中の人」……

一見、何のつながりもなさそうな他人たちが、実は様々な共通点があることが徐々に明らかになっていきます。そして、初めは表情の固かった人たちも、周囲と連帯感を感じることで徐々に顔つきが穏やかになっていきます。

「バイセクシャルな人は?」という質問で1人の男性が前に出ると、その勇気に対して拍手が起こりました。そして最後の「デンマークを愛している人は?」という質問に対しては、全員が1つのグループにおさまりました。

当初はデンマーク語版のみ公開されていましたが、世界的に反響が大きく、英語版も制作されることになった本作(英語版はYouTubeのみで公開)。実はこの英語版が公開されたのが、7ヵ国からの入国を制限する米大統領令が明らかになった日に重なり、込められたメッセージがなおさら際立つ形となりました。

●主な結果

・2億8,800万回再生
・600万シェア

  

2. 「Made in a Minute」Lowe’s(Wow部門)

役立つ情報が得られるとともに、見ていて楽しいことから最近人気のHowTo動画ですが、実際にその動画のとおりに作ろうとすると、動画だけ早送りでどんどん進んでいくため、置いてきぼりにされてしまった経験を持つ人も少なくないでしょう。

そんな課題を解決するために考案されたのが、DIY用品を扱うホームセンターLowe’sによる360度動画です。テントの組み立てを8つの工程にわけて撮影し、360度動画としてつなげたのです。このおかげで、ユーザーは自分のペースで任意の工程を視聴しながら作業を進めることができます。画期的なHowTo動画として注目を集めました。

●主な結果

・1,100万回生
・2万1,000リアクション(いいね!等)
・1万2,000シェア

  

3.「InstantDJ」Bacardi(Wow部門)

インスタグラムの“ストーリー”の機能特徴を活かしたユニークなクリエイティブを展開したのは、ラム酒ブランドのBacardiです。画面の左側をタップすると前の動画に、右側をタップすると次の動画に移動するというストーリーの仕組みを上手く使い、DJを体験できるという企画です。

インタラクティブな新体験を提供することで、新しいファンの獲得に成功しています。

●主な結果

・20万インタラクション
・フォロワー383%増加
・1,100万回のメディアインプレッション

  

4.「The Adventures of Little Brush Big Brush」Signal(Act部門)

オーラルケア用品ブランドのSignalは、子どもたちの夜の歯磨き習慣を推奨するための動画キャンペーンを展開しました。

子供たちは“夜の歯磨き=もう寝る時間”というイメージがあるために歯磨きを嫌がる、という調査結果を受け、同社は子どもが好きなアドベンチャーゲームのようなアニメーション動画を企画。主人公の親子が世界各地で出会う様々な動物と一緒に歯磨きすることで次の場所に進めるというシリーズ動画をFacebook Messenger経由で毎晩配信しました。

物事を習慣化するためには21日間続けることが必要というデータに基づき、21本制作された本シリーズ。新しいアプリをインストールする必要もなく、指定した時間に自動的にMessengerに動画が届くため、無理なく習慣を変えられる取り組みとして評価されています。
※上の動画は本施策の概要を説明するプレゼン用の動画です。実際の動画はこちらのサイト でご覧いただけます

●主な結果

・30万ユーザー登録
・8ヵ国に展開
・300万人の小学生が視聴

  

まとめ

アワードで表彰されるような作品は、相当な規模の予算と時間をかけて作り込まれているため、中小企業が簡単に真似できるものではないかもしれません。しかし、動画の企画や施策のヒントなど、学べる部分も多くあります。

日頃からクオリティの高いクリエイティブや施策に触れて、アイデアの参考にしてみてはいかがでしょうか。