iOSから見るミニマルデザインとユーザビリティの両立

しかし、iOSも同じように、極端にシンプルなアイコンやラベルを用いていながらも、WindowsのMetroスタイルほど大きな批判は受けていません。
むしろ、参考にさえされてきた節すらあります。

iOS 6までは、Appleは非常にスキューモーフィックなデザインを施していました。
*「スキューモーフィズム」(skeumorphism)*とは、実際に現実世界にある物質に模したデザインのことで、現在でもMacOSのアイコンにその名残があります。
しかし、iOS 7以降、極端にフラットでミニマルなデザインに変わったので、アップデート当時は非常に話題になりました。

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Source: cultofmac.com

iOSの中でも、特にコントロールセンターはiOSのミニマルさを見る上で参考になります。
コントロールセンターでは、アイコンだけでむしろラベルのないボタンすらありますが、それでもユーザーは「そのボタンが何を意味するのか」がアイコンを見て分かるので、ユーザビリティの低下には繋がらないと考えられます。

また、iOS 11ではコントロールセンターのデザインも変わりますが、一見するとMetroデザインにも似ているようにすら感じます。
ただし、メトロデザインでは、そもそもそれはボタンだったのか、という疑問が湧き出ますが、iOSでは「それがタップ可能なオブジェクトである」ことが理解できる点において、ユーザビリティに優れていると言えます。

さらに、iOS11からはDockに入れるアプリのラベルが消えています。
「よく使うアプリであればユーザーはアイコンを見てそれが何のアプリなのか予測することができる」という想定のもと、ラベルを消したのでしょう。
ユーザー視点で、シンプルにしながらも使い勝手を追求するのが大切なことが、この事例からよくわかります。

情報密度の問題

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Source: cultofmac.com

それでは、MetroスタイルのUIには、どういう問題がはらんでいたのでしょうか。
その問題を考える際のキーワードのひとつが、*「情報密度」(information density)*というものです。

情報密度というのは、ある特定の文字量や画面に対して含まれている、人間が識別できる情報量のことです。

ミニマルなデザインでは、余計な情報を大きく省こうとする動きがあるので、情報密度は極端に下がってしまいがちです。
とりわけ、MetroスタイルのUIでは、アイコンとキャプションラベルがあるだけで、それが結果的に「必要以上に」情報密度が低くなってしまったので、ボタンだとすら気づかない、という状況が起こってしまいました。

実際、かなり大きな10.6インチのタブレットでWindows 8を動かしている場合にも、その大きさを生かして並べるような情報量にはなっていません。

iOSのデザインとMetroスタイルのデザインの違いは一見するとごくわずかではありますが、ボタンであるか、クリックできるかを認識できるかどうかだけで、圧倒的に伝える情報量が変わってきます。

Metroスタイルは、「圧倒的に情報密度を減らして」結果的にハイパーシンプルとも呼べるデザインになりましたが、その超低情報密度なデザインが裏目に出てしまったとも言えます。