近年、IT化が加速し、あらゆるものがシステム化されています。それに伴い、技術の進歩から専門的かつ複雑なサービスが増え、システムサポートを専門するコンサルティング会社すら存在しています。

あらゆるものがシステム化されることは、私たちの業務をシンプルに、スマートにしています。ただし、非常に便利な反面、使いこなすことが難しく、導入したものの活用されず放置されている、というケースも決して珍しくありません。お客様は現状をより良くするためにサービスを利用します。その際にサービスを提供する企業側として、"お客様満足度を高める"上で重要となるのが、カスタマーサポート(以下、CS)の存在です。

今回は、企業やプロジェクトが目標を達成しようとする際に、その目標達成プロセスの進捗度合いを表す指標「KPI」という観点から、当社の経験に基づいて成功例と失敗例を参考に、「CSがお客様の期待に応え、高い満足度を提供するためには何を心掛けるべきか」についてご紹介します。

参考:
KPI(けーぴーあい)|ferret
  

カスタマーサポート(CS)が重要視すべきKPIとは何か?

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CSが追うべきKPIとは何か?と問われた際、皆さんは何と回答するでしょうか。

もちろん、あなたの企業がどのような商材・サービスを取り扱っているか、または会社の方針によっても重要視すべき指標は異なってきます。

ケースごとにどのような指標があるのかをまとめましたので、参照ください。

●CSをアウトソースで運用している場合
例:通販受注業務などを担うコールセンターのKPI
・受注率
・解約阻止件数
・入電に対する応答率

●CSをインハウスで運用している場合
例:自社で開発したサービスの保守を行うCSのKPI
・サービス稼働率
・ご契約からのサービス利用継続率
・入電に対する応答率

上記の中で着目すべきは、"製品保守を行うCS"なのか、"製品提案による成約を目的としているCS"なのか、という点です。当然ながら、これらの目的によってKPIは変動します。

ここからは、BtoBで自社サービスを提供する当社が過去3年間に取り組んできた成功事例・失敗事例をもとにKPIという点を焦点にお話していきます。CSの目標設定でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
  

今まで取り組んできたKPI 〜 失敗編 〜

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サービス解約率について

自社サービスを提供している企業であれば、必ず注視している数値の1つに「解約率」があるのではないでしょうか。

もちろん自社のサービスに価値を見出して頂ければ、解約されることはありません。解約件数の分改善の余地があるため、この数字は常にウォッチする必要があります。しかし、私たちはこの重要なKPIを追い過ぎるあまり失敗した経験がありました。

●失敗要因

チーム間の連携が上手くいかない……"解約率を担っているCS"と"担っていない他チーム"とで温度感に差が開いてしまい、建設的な会話ができなくなった。

CSチームは解約率を低減させるために"解約を阻止する動きを優先的に"したいのですが、そのためにはCSだけではなく、システム面からの支援、セールス面からの支援など、お客様にかかわる全方向での改善活動が必要不可欠です。

1つのチームだけがサービス全体に関わる数字を担っていても、活動できる範囲には限りがあります。失敗したプロジェクトで、私たちはKPIを追っている期間、孤軍奮闘状態になってしまい、メンバーも「これ以上、CSだけで何ができるのか……」と頭を抱える状態になってしまいました。

その後、当社では、解約率など会社全体で高めていくべき指標に関しては、CS、セールスなど部門にかかわらず、全チームで同じ指標を持つことで各チーム双方からアクションを起こせるように変更しました。その結果、セールスの目標契約件数に対してもCSの意見を交えながら改善するなど、今ではそれぞれの数字に対して同じ立場で意見を突き合わせアクションを起こせています。
  

サービス満足度調査

当社では1ヵ月に1度、調査専門の会社にサービス満足度調査を依頼しています。
調査を行うことによって、通常のお問い合わせでは聞くことができないCSの応対に対するフィードバックやシステムの改善点を知ることができます。

当社の応対改善活動の大半がこの調査レポートから見出したものです。数字から見える課題だけではなく、お客様の声から見出した課題、それぞれを掛け合わせて改善に取り組むことによってより高い品質の改善を行うことができます。

しかし、CSの本来の目的でもある「お客様満足度向上」に問題はなかったのですが、メンバー評価に大きな影響を与えていました。

●失敗要因

対面での調査となるためサービスを利用している全ての方を対象とすることは難しく、アンケートは全体の1.5%のユーザーに限定されていました。その結果、サービス全体に対するエンゲージメントの平均値が出づらくなり、評価が偏ってしまいました。

調査内容に関しては問題ありませんでしたが、これをKPIとした場合に同じ企業に調査を行わないと前回との対比ができず、改善されたとしても次に調査を実施したお客様が別の部分で満足していなければ点数は下がってしまい、チーム目標にも影響が出てしまうという課題が見つかりました。

このような反省点も確かにありましたが、お客様の声を深堀りしていくことは非常に重要なアクションです。通常のお問い合わせでは聞けない内容も多いため、総合点数をチーム目標として据え置くこと自体はやめましたが、満足度調査自体は現在も継続しています。
  

今まで取り組んできたKPI 〜 成功編 〜

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KPIに据えた応答率から見えた成長の兆し

●応答率とは
応答率は全体入電数に対して対応できた件数で算出

当社では、CSにとっては当たり前の指標である「応答率」をチーム全体で追うため、KPIに据えおくこととしました。それまでは弊社が使用していたコール管理ツールでは正確な数字が取れなかったため、"サービスの保守・運用を行うCSとして適正な応答ができているのか" "どのような問い合わせが多いか"の分析を行うために、コール管理ツールを変更し、応答率を全員で追うような体制に変更しました。
  
当初、デイリーのお問い合わせに対して応答率は平均96%でした。ただ、この応答率がサービス利用者の増加によって徐々に下がり始め、一時は60%まで下がったこともありました。この時、初めて応答率をチームのKPIとして定め、採用、社員育成、業務見直しなどをチーム全体で行った結果、半年後には平均90%の応答率に回復させることができました。

●成功要因
その際に実施したことは"応答率の見える化"でした。ディスプレイを用意して現状の応答率を誰の目にも届くようにして見える化。現状をリアルタイムで数値化したことで改善点が多々見え、CSチーム全体の意識が大きく変化し、最終的に応答率90%という結果に結び付きました。

ちなみに皆さんは、"お客様が何故CSにお問い合わせをするのか" 考えたことはありますか。

その答えは簡単で、今すぐ解決したい課題が目の前にあるからにほかなりません。

ただ、その頼みの綱であるCS(窓口)がつながらないとなると、お客様は課題を目の前にしながら動けなくなってしまいます。仕舞いに、提供するサービスによっては業務が回らない、売上に支障が出る、顧客に迷惑をかけてしまう……など、多大な影響を及ぼしてしまうような懸念までも潜んでいます。

一見、「応答率」と聞くとその重要性に気付きにくいかもしれませんが、CSメンバー自身も、CSを自社に持っている企業も改めて認識する必要がある重要な指標ですので、改めて見直してみてください。
  

メンバーの課題解決能力が向上

当社CSではお客様の課題を解決するために、オプションサービスの提案を行うことがあります。今までは個人の裁量に委ね、必要があり次第提案をしていたのですが、サービス知識があるメンバーしか提案ができず、全体の課題解決能力に偏りがありました。

その点を改善し、お客様の課題を深堀りして、根幹を解決するための手段としてオプション機能を提案できるメンバーを増やすことができました。

●成功要因
オプション機能成約件数をチームKPIとして定め、個人目標を割り振ったことでメンバーの課題解決能力の向上につながった。

お客様の課題や希望する運用によりご提案できるオプション機能は異なるため、どのような課題・運用であればご提案ができるのかを先輩が表にまとめます。

"どのように提案したら良いのか" "どのような課題をサービス提供に紐づけたら良いのか"など、メンバーが自発的に勉強しお客様の課題の本質をヒアリングすることで課題解決能力を上げ、その結果オプション機能の成約につながる流れを作ることができました。その結果、当時の新人も個人目標を達成し、年間目標を半年間で127%上回る結果を出すことができました。

お客様が欲していないのに無理なセールスをしてしまうとサービス品質を落としてしまいますが、お客様の課題に寄り添った提案をすることで個人の能力向上にもつながり、個人・チームとしても目標達成以上により良い結果につながるKPIでした。
  

まとめ

チームの方針・目標から定めるKPIは、単純に数字を据え置くだけではなく、他チームとの目的共有やメンバーへの動機付けなど様々な影響を加味する必要があります。

どのような目標であっても外部要因に左右される受け身の指標はコントロールしづらく、また、背景が理解できなければ状況に応じた柔軟な対応はできません。会社の方針・目標があり、その中でCSとしてどうあるべきか、CSのあるべき姿を作り上げるために、なぜこの指標を追っているのかをメンバー人ひとりが考え行動することによって、より高い品質のサービスをお客様に提供することができます。

そのためには、CSが主体的に行動して結果を追求できるものを指標として掲げてください。加えて、メンバーが定量的に自身の結果を振り返りできるようKPIに対する進捗を見える化することで、日々の目標を念頭に置いたお客様視点での業務遂行ができるようになるのではないでしょうか。