ブロックチェーンと仮想通貨、国際展開の3つが今後の軸!bitFlyer 加納氏
世の中には、多数の会社が存在しており、多くのビジネスモデルプロダクトが存在しています。
しかし、ビジネスモデルとプロダクトの秀逸性だけでは、Product-market-fit(人が欲しがるものを作ること)を達成し、ビジネスをブレークスルー(現状ある障壁を壊して大きく前進すること)することはできません。
ブレークスルーを達成するには、起業家は秘伝のレシピを発見し、ビジネスに組み込んでいく必要があります。本連載では、様々な起業家が持つ秘伝レシピ(Secret Recipe)に焦点を当て解読していきます。
第9回目は、株式会社bitFlyer(以下、bitFlyer)代表取締役CEOである加納 裕三 氏に話をうかがいました。
読者の皆さんに、自分のビジネスをブレークスルーするためヒントを見付けていただければ幸喜です。今の業務で壁にぶつかっていると感じている方、もう一歩さらなる成長を遂げたいと考えている方に、ぜひともオススメです。
目次
1. 序文 起業から資金調達まで - bitFlyerのビジネスモデル -
2. 秘伝レシピ1:テクノロジーのポテンシャルからビジネスを
3. 秘伝レシピ2:大企業との提携はビックピクチャーを見せよ
4. 秘伝レシピ3:セキュリティーとユーザービリティを追求
5. 秘伝レシピ4:変わらない軸を持ちながら拡大せよ
6. まとめ
2014年頃から徐々に火が付き、昨今、一大ムーブメントとなりつつある「Fintech(フィンテック)」。
今回は、日本国内で最も利用されているビットコイン取引所である「bitFlyer」を運用するbitFlyer 代表取締役CEO 加納氏に、強豪ひしめくビットコイン取引所の領域で取引No.1となった秘訣をうかがいました。
※1:Fintech……financeとtechnologyを掛け合わせた造語。金融関連のテクノロジーを扱うビジネスの総称
参考:
今さら聞けない「Fintech(フィンテック)」とは?基本概要&国内主要サービスまとめ|ferret
加納 裕三 氏 プロフィール
株式会社bitFlyer 代表取締役CEO
1976年生まれ。2001年に東京大学大学院工学系研究科修了後、ゴールドマン・サックス証券にてエンジニアとして自社決済システムの開発を行う。その後、デリバティブ・転換社債トレーダーとして機関投資家向けマーケットメイク、自己資産運用等を行う。2014年1月に株式会社 bitFlyer を共同設立。日本ブロックチェーン協会(JBA)代表理事や経済産業省BCシステム評価軸検討委員会委員、全国銀行協会ブロックチェーン技術の活用可能性と課題に関する検討会メンバーなどを務める。
田所 雅之 プロフィール(インタビュアー)
日本とシリコンバレーで合わせて、5社の起業実績のあるシリアルアントレプレナー。スタートアップを経営しながら、シリコンバレー本社のFenox Venture Capitalのベンチャーパートナーとして、日本及び東南アジア地域の投資を担当。現在は、数社のスタートアップのアドバイザーとボードメンバーも兼任している。起業家の教育にも熱心で"startup science”というスライドの著者でもある。
田所(インタビュアー):
まず最初に、加納さんがビットコインに着目された経緯をお聞かせください。
加納氏(株式会社 bitFlyer 代表取締役):
きっかけは、私がゴールドマン・サックス証券(以下、ゴールドマン・サックス)で働いていた2010年にビットコインに出会ったことでした。会社の同僚が「ビットコイン知ってる」みたいな感じで聞いてきたんです。
田所:
2010年だと相当早い印象ですね。
加納氏:
ゴールドマン・サックスでは新しいものがすぐ流行る風土でした。アメリカでちょっと流行りだしているけど、日本でもまだ誰も使ってないものを結構早めに知ることができました。僕はFacebookもGmailもクローズドの時からユーザーでした。
Facebookでいうと、まさにハーバードの学内で始まったものですが、会社の同僚に登録ナンバー7番でザッカーバーグと友達です!みたいな人がいたんです。同じようにビットコインも同僚に「ビットコイン知ってる?」みたいな感じで話が回ってきました。
田所:
なるほど、その1つがビットコインだったわけですね。
加納氏:
僕は新しいテクノロジーがあったら「自分でやるんだったらどうだろう」と必ず考えます。
田所:
シーズのテクノロジーがあって、「自分で事業化するとしたらどうするのか」というようにでしょうか。
※シーズテクノロジー:プロダクトやサービスの素となる技術のこと
加納氏:
当時からビットコインは潜在市場が非常に大きくなるでだろうと予測していました。あと着目した理由の1つに、バーナンキさん(※)が2013年にビットコインを容認する発言をしたというのもありました。僕は連邦準備制度理事会(FRB)がビットコインを潰しに行くと思っていました。FRBは通貨発行権でめちゃめちゃ断っていたので、それを手放すと考えられませんでしたからね。それが認められたことで、絶対世界が変わると感じ、ちょうどその後に起業しました。
起業した時から現在にいたるまで、我々のビジョンはほぼ変わっていません。それはブロックチェーンとビットコインで世界を変えるということです。
※ベン・バーナンキ=米国のFRBの第14代議長
秘伝のレシピ1:テクノロジーのポテンシャルからビジネスを
田所:
ビットコインの根っこにはブロックチェーン技術があります。テクノロジーの部分は検証されたりしてるんでしょうか。
加納氏:
新しい技術を理解することというのは非常に重要です。ブロックチェーンも論文に目をとおしたり、原理そのものを理解しようとしました。私がビジネスを考える時は、技術の原理や理論をベースに判断するようにしていて、そこには"ビジネスの視点"と"技術の視点"という軸が2つ存在します。ポテンシャルマーケットの規模の大きさと、技術的に何かイノベーティブなものがないと、なかなか流行るまでいたりません。その上で、"ビジネスの視点"と"技術の視点"という2軸で考えた時に、法律が全部クリアできるはずです。
※ポテンシャルマーケット:まだ多くの企業が目を付けていない潜在的な市場のこと
田所:
考える始点というのが"法律"や"規制"などではないのですね。
加納氏:
おそらく法律や規制から始めると失敗してしまうはずだと考えています。"今の法律で何ができるのか"という視点でみるとすごく考え方自体が狭まってしまうので、一旦外して考えるようにして、最後に引っかかるか引っかからないかを見るようにしています。仮に引っかかるのであればどこを具体的に変えればよいのかを検討する形にあります。
田所:
取引所以外のモデルも考えたのでしょうか。
加納氏:
bitFlyerのロゴ見ていただくとわかるのですが、青い部分がブロックチェーンでオレンジの部分がビットコインをあらわしています。このロゴからもわかってもらえると思いますが、当初から両方やるつもりでした。この2つは多分ずっと変えないでしょうね。
最初、マネタイズするには仮想通貨のほうが早いと考えていて、最初そちらに注力していました。ただ、もちろん起業してからずっと、ブロックチェーンの研究はしていました。最終的に、ブロックチェーンはすごく大きいマーケットになると考えてましたし、ようやく周囲の人々も理解してくれるようになりました。
秘伝のレシピ2:大企業との提携はビックピクチャーを見せよ
田所:
bitFlyerのユーザーは、すでにFXのトレーディングなどをやっているアーリーアダプターの方が多いのでしょうか。
加納氏:
いや、そうした方以外のいわゆる初心者という方も増えてきています。その理由は(今年の)4月上旬に法が施行されたことです。これによりユーザーの質が大幅に変化し、今まで割と自己責任という印象の強かった仮想通貨(のルール)でしたが、「いやそうじゃない!」「金融と同じようには保護してほしい」という方向性が強くなりました。
田所:
bitFlyerは最近、様々な会社と提携されてます。
例えば、ビックカメラなどでビットコインが使われるようになりましたが、その影響から顧客層が広がったというのはありますでしょうか。
加納:
通貨なので最終的にはどこかで使わないと意味がないですよね。その使える先として、4月からビックカメラで導入されたというのは大きいです。
田所:
大きい企業とパートナーシップ組む際に気を付けているポイントはありますか。
加納氏:
まずは当然、大企業が我々と組むベネフィットがないといけないですよね。大企業が我々と組むことで、どういうイノベーションが起こせるのかという大きなピクチャーを見せるというのは非常に大事なことになります。産業が5年、10年後にどうなって、どういう未来が待っているのか話して、逆算して"今のうちに何をした方がいいのか"というのを議論します。大企業の場合、内部でイノベーションを起こせなかったりするので、外部から本当に一緒にやりましょうというアクションこそが大事になってきます。
田所:
そのような連携はスモールスタートで始める感じでしょうか。ビックカメラであれば店舗をもっているわけですが、そのうち何店舗だけ特定して施策をやられている感じなのでしょうか。
加納氏:
その点に関しては、大企業側に"将来的な到達点はココ"いう形でビックピクチャーを想定します。その中から"最初はここから始めよう"というように議論します。ただ、ベンチャーは大きなものを書いて、それを実現させようとする傾向が強いため、ベンチャーと大企業がタッグを組むプロジェクトというのは上手くいかないことが少なくありません。正直、リリース時にプレスリリースだけ派手に出して、その後何もやっていないという企業も珍しくないですからね。
田所:
大きな絵を描いて段階的にされるということですね。
加納:
段階(ステージ)を3つぐらいにわけて、限定的にやってみて良い反応が得られればスケールアウト、そして数を増やしていくという形です。その後は、オペレーションのところを整えていくやり方になります。
秘伝のレシピ3:セキュリティーとユーザービリティを追求
田所:
Fintech企業は、扱うものが通貨とか個人口座とかなので、堅牢なシステムでセキュリティーを高くしなければならなりません。一方、UXをどんどん改善するようなアジャイルメソッドを実装する必要があります。その2つは、ある意味トレードオフですが、上手く廻していくポイントはありますでしょうか。
加納氏:
セキュリティーは2種類あって、絶対強固にしたほうがいいという部分があります。絶対強固にしたほうがいいいのはビットコインを保管するシステムです。これは固ければ固いほうがよく、一方である程度ユーザービリティートのバランスを考える必要があるとことがあります。ここでいうユーザービリティーとのバランスというのは、2段階認証やパスワード設定などを指しています。
田所:
セキュリティーを2種類にわけているんですね。
加納:
ユーザービリティーに影響がでるようなセキュリティー対策は、ハッカーが技術的にまず破れなくなる基準を決めます。その上でユーザビリティを最大化させようといった感じです。セキュリティーとユーザービリティーのトレードオフのバランスはすごい悩みます。
田所:
トレードオフを解決するために、どのような開発体制にしているのでしょうか。
加納氏:
現在、弊社ではセキュリティーチームとデザインチームは別の組織として動いてます。ただ、トレードオフになるケースの場合は両者で話すようにしています。セキュリティーチームはとにかくセキュリティーが固い(万全)のほうが良いという主張をしています。そして、デザインチームにはこのセキュリティーチームと対決させて、とことん議論した上で落としどころを見付けるという形にしています。
田所:
落とし所を見付けるポイントは何でしょうか。
加納氏:
施策実装のわりにセキュリティが上がらないポイントを見付けるのが大事です。例えば、ある箇所を2段階認証を4段階認証とか5段階認証にしても、あんまりセキュリティーが上がらないので、その施策はやらないとか。ある箇所を2段階認証にすると、すごいセキュリティー上がるという定量的な分析結果が取れた場合は実装するということをやります。
秘伝のレシピ4:変わらない軸を持ちながら拡大せよ
田所:
今後の事業展開についておうかがいします。この先、1、2年の中期的な事業展開について教えてください。
加納氏:
ブロックチェーンmiyabiをリリースして、いろんなシステムでインフラになるといいなと考えてます。取引所の方は金融庁がいろんなアルトコインを指定するのでアルトコインを増やしていきたいですね。決済も増やしたいですし、次は国際展開ですよ。
田所:
国際展開!具体的な国名などあるのでしょうか。
3つの軸があるんですね。
加納:
アメリカとルクセンブルクですね。ずっと準備してるものをリリースしたいです。あと軸の話については、ブロックチェーン軸、仮想通貨軸、国際展開、この3軸がメインです。”ブロックチェーンとビットコインで世界を変える”というビジョンを土台にしつつ、3軸で展開していきたいと思います。
田所:
仮想通貨っていうのがまさに今の取引所ですね。Amazonは今でこそ何でも扱ってますが、最初は書籍を攻めて、そこのシェアをとりました。同じような戦略を考えているのですか。
加納氏:
仮想通貨は今のところ上手くいってるので、シェアを取るのは非常に大事だと思っています。結局シェアが多いところに集まります。ブロックチェーンは多分数社に集約されていくはずです。なぜなら公設取引所と違って仮想通貨は世界共通通貨で世界中からアクセスすることができて、その場合は横展開しないといつか負けてしまいます。
田所:
つまりは、他の世界の競合企業と競う必要があるわけですね。
加納:
それというのは国内1位になってもダメだということで、他の国から参入してきたらすぐにその地位は失います。だから国際展開というのは非常に最初の頃から重要です。
現在、日本の企業が世界展開できるわけないといわれていますが、絶対に世界で戦いたいという思いを常に抱いています。
まとめ
私は、シリコンバレーのVCのパートナーをしていて、シリコンバレーのスタートアップをよく評価します。シリコンバレーのスタートアップは、Opt-outしていくという姿勢がよく見られます。Opt-outとは、法規制の枠組みができる前に、ビジネスチャンスに目を付けて展開していくことです。
日本の企業は、Opt-inといって、規制の枠組みや商流がある中で、ビジネスチャンスをうかがうプレーヤーが多く存在します。
ビットコインやブロックチェーンを取り巻く環境は、ちょうど20年前にインターネットが世に出た時の黎明期のような感じです。しかし、支配的なプレーヤーがいるわけでもなく、法律も未整備な部分が多いのも事実です。法律や商流が整理された後にOpt-inしていくのではなくて、リスクをとりつつもしっかりコントロールしながら、opt-outしていく企業がスピードを得ることができる市場シェアを得ることができます。
bitFlyerは、市場で勝っていくために、しっかりとリスク対応や、セキュリティー対応をしながらopt-outしていっているシリコンバレーのようなスタートアップの印象を受けました。日本初で、世界の市場を席巻するようなスタートアップになることを期待したいです。
企業プロフィール
株式会社bitFlyer
株式会社bitFlyerは、ビットコインのあらゆる取引を行えるビットコイン総合プラットフォームです。2014年1月9日に設立され、リクルートやGMOから出資を受けている日本最大のビットコイン事業者で、仮想通貨ビットコインを透明な価格で簡単に取引することができます。bitFlyerは皆様のビットコインに関するあらゆる取引をサポートし、ビットコインの普及に貢献します。
- ベネフィット
- ベネフィットとは、「利益」「恩恵」「便益」などの意味で、マーケティングにおいては、「顧客が商品から得られる良い効果」のことをいいます。 人は、商品やサービスを購入する際、商品そのものではなく「その商品を使用することによってもたらされるもの」を購入しています。例えば、ドリルを購入する人は、ドリル本体ではなく、そのドリルで開けられる穴を購入しているといえます。
- UX
- UXとは、ユーザーエクスペリエンス(User Experience)の略で、ユーザーが製品・サービスを通じて得られる体験を意味します。似たような言葉に、UI(ユーザーインターフェイス、User Interface)がありますが、こちらはユーザーと製品・サービスの接触面を指した言葉です。
- ユーザビリティ
- ユーザビリティとは、ホームページの使いやすさのことです。万人にとって使いやすいホームページは存在しませんが、運営者はターゲットとするユーザーに便利に使ってもらうために、優先させることや割り切ることを検討し改善する必要があります。
- シェア
- シェアとは、インターネット上で自分が見つけて気に入ったホームページやブログ、あるいは、Facebookなど自分自身が会員登録しているSNSで自分以外の友達が投稿した写真、動画、リンクなどのコンテンツを自分の友達にも共有して広めたいという目的をもって、SNSで自分自身の投稿としてコンテンツを引用し、拡散していくことをいいます。
- シェア
- シェアとは、インターネット上で自分が見つけて気に入ったホームページやブログ、あるいは、Facebookなど自分自身が会員登録しているSNSで自分以外の友達が投稿した写真、動画、リンクなどのコンテンツを自分の友達にも共有して広めたいという目的をもって、SNSで自分自身の投稿としてコンテンツを引用し、拡散していくことをいいます。
- フォーム
- フォームとは、もともと「形」「書式」「伝票」などの意味を持つ英単語です。インターネットの分野では、パソコンの操作画面におけるユーザーからの入力を受け付ける部分を指します。企業のホームページでは、入力フォームが設置されていることが多いようです。
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