政府による働き方改革により「副業解禁」に取り組む企業が増えつつあります。

そんな世間の流れを感じ、

「新たな収入源を見つけたい」
「自身のスキルを本業以外で活かしたい」
「独立のきっかけとして『複業』を始めたい」

のような理由で複業(副業)を考えている方もいるはずです。しかし、本業が疎かになってしまうのではないか、どういう仕事から始めるべきなのか疑問を感じることもあるでしょう。

複業研究家であり株式会社HARES代表取締役の西村創一朗 氏にferret Founding Editorの飯髙悠太が「複業」に取り組むためのヒントや、複業によって変化する「働き方」の現状と未来について伺いました。

西村創一朗 氏プロフィール

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複業研究家/人事コンサルタント。1988年神奈川県生まれ。大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアの実践者として活動を続けた後、2017年1月に独立。独立後は複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業向けにコンサルティングを行う。講演・セミナー実績多数。2017年9月〜2018年3月「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(経済産業省)委員を務めた。

「複業」と「副業」どう違う?

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飯髙:
西村さんはSNSやメディアなどで「複」の字を使った「複業」っていう言葉を使っていますよね。一般的に言われる「副業」と何が違うのでしょうか?

西村 氏:
この言葉は、「複業採用」を展開しているサイボウズ株式会社さんの定義にならって僕も使っているんです。「サブ」の副業と「パラレル」の複業という違いがあります。

具体的には3つの観点で違います。それは「位置付け」と「目的」、「内容」です。

1つ目の「位置付け」について説明すると、副業という言葉はあくまで本業に対してのサブを意味する「副」を示しています。「複業」というのは、時間的な主従はあれど自分の中での重要性という観点においては、主とかどっちが従とかが無く、どちらも大事というのがパラレルの複業の考え方ですね。

2つ目の「目的」ですね。サブの副業というのはあくまで副収入を得ること、お小遣い稼ぎが目的であるのに対して、パラレルの複業というのは他者への価値貢献および自己成長が目的です。

お金というのは貢献した、提供した価値の対価に過ぎないと考えます。あくまで結果であって目的じゃないんだよというところが大きく違います。

3つ目の「内容」という観点では、サブの副業というのはあくまで目的から逆算すると、収益を伴うのだけを副業と呼ぶのに対して、パラレルの複業はこの価値貢献と自己成長に繋がるものであれば、社外活動全てが複業と考えます。

なので究極的に言えば、子育てすら複業なんだよと。あるいはPTAとか、地域貢献活動もそうだしNPOとかプロボノ活動、これも複業にあたると。そういう違いがありますね。

飯髙:
なるほど明確に違うんですね。僕がsoar(ソア)手伝ってるみたいな感じだね。お金のやり取りは発生せず、彼らのマーケティングを手伝うって感じでやっているので。

西村 氏:
そうです。飯髙さんがやっているのは、まさに「複業」ですよ。サブの副業じゃないけれどパラレルの複業ではある。

参考:
ferret創刊編集長・飯髙悠太さんが、soarのWebマーケティングアドバイザーに就任!|soar @soar_world|note(ノート)

「週2日で正社員」というオファーが「複業社員」きっかけに

飯髙:
ところで西村さんは、株式会社HARESの代表取締役でありながら、ランサーズ株式会社の「複業社員」でもありますよね。フリーランスとしての参画ではなく「社員」を選んだっていうのはなぜですか?

西村 氏:
実は、2017年6月からタレント社員という形でジョインしていました。きっかけ自体は(今年の5月に退任してしまったのですが)「フリーランス協会」で立ち上げの記者会見の司会進行を引き受けたことです。

その2週間後ぐらいに理事になってほしいと依頼を受けました。そうしたら、理事の1人にランサーズ広報の潮田沙弥さんっていう女性の方がいて、彼女と話しているうちにランサーズの目指す脱クラウドソーシングという考え方に共感したのが大きな理由ですね。

「顔の見えないクラウドから、顔が見えるタレントへ」みたいなオープンタレントプラットフォーム構想を掲げており、複業も含めたフリーランサーの生活を支援するフリーランスの生活圏・経済圏を作っていくんだっていう話をしてて面白いなと思ったんです。

潮田さんと話した翌週ぐらいに社長の秋好陽介さんと30分ほど会議室で話す機会があり、「どういう形でやるのがいいですかね」みたいな話をしたところ、向こうとしてはぜひ正社員としてジョインしてほしいみたいな感じでオファーいただきました。

会社を経営していたので正社員としてはお断りしようとしたところ、「週何日だったら大丈夫?」と言っていただいたんです。

こういうケースって、業務委託契約が多いのですが、業務委託ってどこまで行っても業務委託だから、会社の情報とかっていうのを全て見れるわけではないんですよね。決して「同じ船」には乗れないから、週2日でもいいから社員としてやろうと言ってくれて、複業正社員になりました。

フリーランス(業務委託)契約の限界

飯髙:
業務委託である以上いつまでも業務委託という話がありましたが、結構フリーランスの人ですごい優秀なスキルを持っているのに、業務委託という契約上、深く入れないという方もいますよね。

西村 氏:
そうですね。フリーランサーはそうですよね。

飯髙:
ランサーズの複業社員のような取り組みをしている会社は、IT業界でこそ広まり始めていますが、まだまだ少ないですよね。

現状だと、フリーランスの方と契約していても、どうしても自社で不足したリソースを補う「機能」のような位置付けになってしまうことがあります。

だからこそ、事業に踏み込めずにいるフリーランスも多いんじゃないかなと。

西村 氏:
そうです。だから一般的にフリーランスは(組織で)機能しなくなった瞬間に「さよなら」なんで……。

フリーランスと企業の双方にメリットがある2つの解決策

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飯髙:
企業としてもフリーランスとの取り組みをする上で難しいことがありますよね。契約した条件の中で業務を依頼しなければならないという制約がある。

仮に領域を超過した場合の対応をどうするかと考えなければならないですからね。フリーランスの方のディレクションってすごい難しいなと思っていて。この課題はどうやったら解決できるんだろうか……。

西村 氏:
そうですね。どこからどこまで踏み込んでいいのかな、みたいになりますから。解決策としては、2つあるかなと思っています。

1つ目は企業側がフリーランスを保証するということ。最近、パートタイム正社員というのが話題になっていますよね。時給制で給料払っていく正社員というのをもっと促進させようというものです。

そういう形で、僕みたいな(複業社員のような)働き方が増えれば、最初は業務委託として契約していても、この人ともっと深く仕事したいなと思った時に、「うちで社員として働けない?」ってオファーができるわけです。

でもフルタイムっていうカードしかなければ、「いや、ちょっと自分の仕事は引き続きやりたいんで」となってしまいます。業務委託で週2回と、社員で週2回では割く時間変わりません。それならば社員で良いっていう選択肢が増えますよね。

2つ目が、フリーランスの活用の仕方をナレッジ化しシンクタンク的なものを作ることです。それにより、日本のフリーランスマネジメントのレベルを高めていくんです。

例えば、なぜかフリーランスには残業代っていう概念がないんです。稼働30時間を5時間超えたときに、どう扱うのか。

弁護士などは、顧問契約を結んでいる1時間単位の料金(チャージ料金)で取ってくるわけですよ。でもそれって当たり前のことだと思っていて、それをフリーランスの業界にも導入する。

そのためには重要なのはフリーランスを適切に管理するフリーランスマネジメントシステムです。

海外だとUpwork(アップワーク)というフリーランスのマネジメントプラットフォームを提供する企業があり、マッチングやフリーランサーをマネジメントできるサービスがあります。

そこでフリーランサーがどれぐらい稼働してるっていうのがちゃんと管理できるようになっていて、超えたら超えた分チャージしてもらえるような仕組みがあるんですよね。テクノロジーの問題で解決するという観点があると思います。

マウンティングする企業は優秀なフリーランスに逃げられる

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飯髙:
たしかに、契約に基づいて適切に支払いが行われる環境は大切ですね。企業側としてフリーランスの優秀な人材に対して取り組めることで、何か方法はありますか?

西村 氏:
ありますよ。企業がフリーランスをマウンティングしないことですね。

特にトラディショナルな会社でありがちなのが、発注した瞬間に上下関係を醸し出してくる会社ってあるんですよ。「誰が金払ってると思ってるんだ」みたいな空気を醸し出してくる会社。これは全然駄目ですよね。

フリーランスの良いところって、会社員と違って断れるんですよ。この会社と2度と仕事したくないと思った瞬間に、この契約が切れたらもう次に行くわけです。

企業はフリーランスから逃げられて、逃げられて……どんどんクオリティが低いフリーランスしかアサインできなくなってきます。フリーランスもその契約関係であれば、良いパフォーマンス出せるわけないですよね。

では、フリーランスと良好な関係を保つにはどうすれば良いのか。例えば、株式会社ガイアックスの管大輔さん(@suga_neo)と一緒に仕事をしているのですが、フリーランスマネジメントがとても上手いと思っています。

彼ら(株式会社ガイアックス)はマネジメントするというより、フリーランスとエンゲージするんですよね。

フリーランサーも正社員と同じようにWill Canで考えています。このメンバーのやりたいことは何か、仕事をどういうふうに渡してあげたら成長してくれるかとか。やりがいを持って働いてくれるかということ、めちゃくちゃ考えて仕事任せるんですよね。

そうすると本来契約書に書かれている期待値って(この範囲内で依頼されたタスクを達成する)100%なのに、150%とか200%ぐらいのパフォーマンス出してくれるんですよ。一緒に仕事したいっていう方が来るようになる。優秀なフリーランサーのリファラルが起きているんですよね。

なので、マネジメントという縦の関係でなくてエンゲージするという横の関係で、きちんとその人が持っている才能であったりとか、Willを引き出して仕事をアサインできるマネジメントに長けた会社は成長するし、それができない会社は残念ながらフリーランスから見放されていきます。

飯髙:
「言ってること違う」みたいな状況になったら見放されますよね。

西村 氏:
そうですね。契約書を見れば、その会社がマウンティング企業なのかエンゲージ企業なのか、なんとなくわかるんですけど。マウンティングしないことですね。

参考:
【後編】複業は百利あって一害なし!いま複業を考える人に伝えたいこと 〜複業研究家・西村創一朗さん〜

飯髙:
ちなみにマウンティングをしている企業の特徴というか、こういう契約は注意したほうがいいってあるんですか。

西村 氏:
まず業務委託内容がふわっとして曖昧なケースですよね。

当初出していた見積もりよりも、どんどん作業が増えていくみたいなケースです。最終的に金額は変わらないと。

そういうことを平気でやっちゃう企業とかに注意したほうが良いですね。実は、フリーランスとの関わり方を知らないだけで悪気無くやってしまう企業もあるのですが。

飯髙:
たしかに会社の契約書の内容や締結の仕方によって起こり得る話ですね。これはフリーランスに限らず発生するな……。

複業によるオーバーワーク(働きすぎ)を防ぐには?

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睡眠時間を削ってはならない

飯髙:
複業に意欲的で、やりがいを感じているからこそ「頑張り過ぎちゃう人」もいると思います。しかし、その結果オーバーワークしてしまうこともありますよね。それを解消するにはどうしたら良いと思いますか?

西村 氏:
まず、働き方を明確に線引きすることが大切ですね。

チームランサーっていうメディアで記事が公開されたのですが『複業家に贈る5か条』というものがあります。

この中の1つに「自己管理」があります。複業を推進することと、長時間労働の是正とか過労死・過労自殺の是正は、相反するんじゃないかという議論がよく起こりますが、明確に相反しませんと。

なぜなら、「会社員」というのは指揮命令をかけ、ほぼ強制的に長時間労働させられるのに対して、複業というのは自分の意思で誰に指示されるよりも自分の意思で「at will」でやるものです。

そのため、複業が原因となって過労死するということは無いと考えています。ただし、人間は研究活動みたいな分野で、研究者が研究に没頭しちゃって三日三晩飲まず食わずで寝ずに研究し、その結果体壊しちゃうみたいなことは起こりえます。

そこで、自己管理の最低限の線引きとして睡眠時間を削り始めたらアウトと考えるんです。睡眠時間を削らないというのを最低限のラインとして、タイムマネジメントをしましょうと話をしていますね。睡眠不足からメンタルの不調は始まりますから。

参考:
【後編】複業は百利あって一害なし!いま複業を考える人に伝えたいこと 〜複業研究家・西村創一朗さん〜

“収入だけ”のために働いても続かない

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飯髙:
睡眠は一番削ってはいけないところですね。5か条の中には、「本業専念」というのがありますね。これも、まさにそうだなって思いました。ちょっとお金欲しいからとか上手くいかないからね。

西村 氏:
そういう考え方で、相談を受けると「うまくいかないからやめておいたほうがいいよ」みたいに伝えていますね。

飯髙:
うちの会社(株式会社ベーシック)には、副業制度があり、相談を受けることがあります。「ここで複業しようと思う」と言ったときに、理由を聞くようにしているんです。

やっぱり若い子にありがちなのは、副収入を増やしたいというもの。そういうときは「だったら本業で成果出したほうが収入が伸びるのは早いよ」って教えちゃう。

実は、弊社にferret One(フェレットワン)というプロダクトのセールスを担当する、ぴろり(@pirori3182)という名前で活動している女性社員がいるんだけど、その子はferret Oneを使ってブログを書いているんです。

その意図は「自分で売りに行っているのに、そのプロダクトを自分自身が使っていないのは気持ち悪いから」ってことだと思う。そしてブログを熱心に更新していることから派生して、今では複業として他メディアに記事寄稿してるんですよ。これは素晴らしい複業だと思ってる。

西村 氏:
それはマインドがとても前向きな複業ですね!

飯髙:
それが自分の営業トークに反映されて複業が本業に活きるから、相乗効果が生まれているんですよね。

僕が soar(ソア)でWebマーケティングアドバイザーとして手伝っているのも、彼らの思想に共感しているから。自分がその環境から学ぶこともあるって思うんです。

例えば、記事がsoarで公開されたときって、みんな一斉にSlackで声を掛け合ってTwitterとかにシェアするんですよね。それも、自発的に。そういう環境ってどうやったら生まれるんだろうって学んでいます。

西村 氏:
その話を聞いてふと思い出したのですが、複業には2つの方向性があるんです。

1つはなるべく本業から遠ければ遠いほうがいいというアプローチ。これはイノベーション理論で、ヨーゼフ・シュンペーターが「イノベーションというのは既存のものと既存のものからなる新しい組み合わせである」と定義していますが、今やっている「既存の物(本業)」と、なるべく遠いもののほうがインスピレーション生まれやすいというアプローチがあります。

2つ目は、本業でやっていることを活かして横展開するというインサイドアウトのアプローチと、本業でより成果を出すために足りないピースを複業から得ていくというアウトサイドインのアプローチ

全てに共通しているのが、本業というコアがあることですね。

例えば、飯髙さんはWebマーケティングのプロですが、実は着物のコレクターだったと仮定します。これはすごく良い複業なんですよね。

つまり、遠いものを無理やり探したわけでは無く、内から湧き上がっている「偏愛」みたいなものだからです。これを突き詰めたら、たまたま本業から遠かったというのが良いんですよね。

なので、もし複業をしたいと考えているのであれば、自身がハマっているものに取り組むのがおすすめです。

自分の「コアバリュー」を軸とした複業に取り組む意義

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飯髙:
複業を始めるきっかけとしてわかりやすいですよね。

僕は、昔から変わってない場所の複業をやりたいと思うことがあるんですよね。スーパーとか製造業とかです。まだまだ、効率化できることがいっぱいあるかもしれないなと思うことがあります。コンビニとかも効率化されているとはいえ、毎回「Tポイントカードありますか」とか、レシートの受け渡しあるじゃん。これは、すごく無駄じゃないかなと思って。

電子マネー化の流れでデータの効率的な管理とかできるんじゃないかと思ったり。もっと時間を有効に使えるようになるのではと考えるんですよ。

でも、やっぱり一番はずっとサッカーやってるから、スポーツはめちゃめちゃやりたい。

西村 氏:
飯髙さんのように、コアバリューがあれば、それを活かして遠いところをやったほうがいいんですよ。

それは「砂漠で水を売る発想」で、Webマーケティングの業界で当たり前にやられていることがNPOでは当たり前ではないとか。コンビニで当たり前でない、スーパーで当たり前ではないということに気づけることって、とても価値があるんです。

そういう意味では、複業をする上で「コアバリューを作る」ところから始めるのが良いかもしれません。「○○と言えば○○」に当てはまるようになる。

「複業のことなら西村創一朗」のようなタグが付くコアバリューを作るところから始めるのが良いですね。

飯髙:
確かにそうですね。コアバリューを持った複業によって複数の価値が結び付くことで大きな強みになりますよね。一方で、人材の流動性が非常に高くなるなど、企業側にとってデメリットになることはないでしょうか?

西村 氏:
企業側のデメリットは、あまり無いと思うんですよね。

今のこのSNS超オープン時代において、ナレッジというものの相対的な価値がどんどん希薄化しているわけです。

例えばこの間、株式会社才流(サイル)という会社がSaaSマーケティング7.0という情報を、たったの300円でnote(ノート)を使って販売し始めました。

持っているナレッジは積極的に開示して流通させたほうが、その会社のブランド価値を生み、結果的に大きなゲインが得られるというのがマーケットの流通理解になりつつあるんですよね。

それと同じで、複業人材がリクルートの優秀な営業マンだったとします。複業で他社の営業コンサルやってくれるって言ったら、専門的な知見が得られそうでお願いしたいと感じますよね。

そこで営業マンが複業で結果を残せば、リクルートというブランドに良い評価が返ってくるわけですよね。「リクルートの人にコンサル入ってもらってるけど、とても良いよ」といった評価が貰えるかもしれない。

なので、ナレッジが流出するというよりは、「世に流通する」、「流出」ではなく「流通」することで、その流通元のブランド力を高めると考えれば、マイナスどころか圧倒的にプラスだ思います。

飯髙:
お話を聞いて、まさにそうだなと感じました。ブランディングになるから、持っている情報は多く開示したほうが良いですね。そもそもなぜSlideShareって生まれたんだろうみたいに考えると、意外と昔からオープンに発信している人が居るんだよね。

Twiter見てても、自社で得たナレッジを公開するって人がとても増えたし、そこには多くの共感が生まれている。結果として事業成長だけでなく採用にもプラスですしね。

西村 氏:
エンジニアのハッカーマインドは、まさにそういうことですよね。基本的には自分の持っているナレッジとかはガンガン外に発信する。オープンソースのコミッターとして貢献していくことで、結果的に得られるものが大きい。

アダム・グラントの書籍『GIVE & TAKE』で語られる「GIVE&GIVE」の世界。GIVEから始まる考え方が他の業界にも他の職種にも、どんどん浸透しつつあるかなという感じですかね。

非IT業界にも広がる「複業」の潮流

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飯髙:
とはいえ、いま文化として浸透しているのはIT業界が殆どかもしれませんね。

西村 氏:
実は、徐々に飲食とか不動産とかにも浸透し始めているんですよ。日中の飲食店などアイドルタイムが多い業種です。

それで、飲食業とWebマーケティング業の両方の事業をやっている会社があるんですよね。飲食業とマーケティング両方やっていて、昼間のお客さんが来ない時間帯は、Webマーケターとして企業のFacebookの運用とかをしながら、夜になったら本業の飲食店のスタートをするという。

社内複業みたいな感じですよね。これも新しいシェアリングエコノミーの形だなと思います。

飯髙:
飲食店とかにも広まりつつあるんですね。ところで、「副業解禁」と騒がれて結構経ちますが、どれくらい認知され取り組まれているのでしょう?

西村 氏:
2016年6月に、ロート製薬が複業解禁したというのが一つのティッピングポイントになりました。

IT業界は複業やパラレルワークに対して当たり前という風潮こそありますが、それはあくまでIT業界の話であって、製造業には関係がありませんといった暗黙の空気みたいなものがありました。

そういった領域にいたロート製薬という会社が「副業解禁」を発表し、急速に製造業に波及し、結果的に厚生労働省がモデル就業規則を改定する流れになりました。

経団連はさすがに「副業解禁すること」を強制はしないという声明は出したものの、各社の検討は進んでいて、今年の5月からJR東日本のグループ会社で副業解禁が進みました。あと、他に大きな出来事といえば、新生銀行の副業解禁ですね。従来型のトラッドな企業や業界でも解禁が進んでいます。

僕は自分の会社のミッションとして2020年までに上場企業における複業解禁率を100%にするというものです。決して不可能じゃないかなと思っています。

参考:
「副業解禁」に潜むワナ。どう乗り越える? | COMEMO

複業によって「働き方の選択肢」が増える

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飯髙:
銀行などが解禁したのは良い流れですよね。

もし、「2020年までに上場企業における複業解禁率を100%」という状態が達成されたら、どういう未来が待っていると思いますか?

西村 氏:
今って「複業ができない」ことを言い訳できちゃうんですよね。

例えば、「うちの会社複業禁止なんで」みたいなことを聞くことがあります。複業が全て解禁になったら、やるかやらないかというのは本人の自由だし、全ての人が複業やるべきだとは思いません。

ところが、「今の仕事がめちゃくちゃつまらなくて」とか、「上司がめちゃくちゃ嫌なやつで」とか、「全然つまらないんですよね」みたいなことがあったときに、やりたいことを「複業でやる」という選択肢が生まれる。

とりあえず複業で始め、芽が出たら複業をベースに転職をするとかあるいは起業独立をするという選択肢が生まれるので、不満を言うビジネスパーソンが減るだろうなと思います。

例えば、新橋の居酒屋で上司の悪口をひたすら言いまくって1日を終えるサラリーマンが減るとかね(笑)

飯髙:
確かにそうですね。やっぱり外を見て中を知ることができるのが複業の良いところでしょうね。もしかしたら「うちの会社って良いところじゃん」と再認識することもできますからね。

西村 氏:
そうなんです。複業によって初めて自分の居る環境の良さを知ることができるようになります。「隣の芝生は青く見える」という現象も無くなっていくのではないでしょうか。

まとめ:本業の糧となり自身の成長にも繋がる「複業」

「ふくぎょう」と聞くと、かつては本業の合間に取り組む「副業」という印象が強かったものの、西村 氏が語るように「複業」の推進はIT業界を起点に様々な業界で広がりを見せています。

複業という概念では、本業で身につけたスキルやそこで獲得した自身のバリュー(価値)を活かすことで、収入のような副次的なメリットだけでなく本業への貢献、自身のさらなる成長に繋げることができます。

終身雇用や年功序列といった日本の伝統的な経営スタイルが陰りを見せ始めた現代において、企業にとっても優秀な人材と新たな知見を獲得するきっかけとして「複業」に取り組むメリットは大きいと言えるでしょう。