TwitterをはじめとするSNSの活用は政治の世界にも広がっています。
企業のSNS担当者の中には、アメリカ大統領トランプ氏のツイートや橋下徹氏のツイートをチェックしている方もいるかもしれません。

一方で、地方自治体の長ながら13万人のフォロワーを集めている人物がいるのをご存知でしょうか。

最年少市長として2007年に千葉市長に就任した熊谷俊人氏は、13万人を超えるフォロワー数もさることながら、ツイートの内容や政策がネット上で話題となることも多い人物です。千葉市よりも2倍以上の人口を抱えている大阪市市長の吉村洋文氏の2万2千人や、名古屋市市長河村たかし氏の7万2千人をはるかにしのぐ数のフォローを得ています。

熊谷氏は、一体どのようにして13万人のフォロワーを獲得したのでしょうか。

今回は、千葉市長 熊谷俊人氏に政治家のSNS利用とSNSを通じたコミュニケーションの本質を伺いました。

熊谷俊人氏プロフィール

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2001年 早稲田大学 政治経済学部 経済学科 卒業/NTTコミュニケーションズ株式会社入社
2006年 NPO政策塾「一新塾」第18期生
2007年 千葉市議会議員選挙(稲毛区)に立候補、当選
2009年 千葉市長選挙に立候補、当選
2013年 千葉市長選挙に立候補、当選
2014年 ワールドメイヤー(世界市長賞)ノミネート
熊谷俊人公式Webサイトより引用

熊谷氏は31歳という当時最年少の市長として当選し、2017年5月28日に行われた任期満了に伴う市長選では過去最高得票で3回目の当選を収めています。

最年少市長としてメディアの注目を集めるだけでなく、TwitterやFacebookを通じて積極的な情報発信を行っているのも同氏の特徴でしょう。

中でも、2010年から運用を開始したTwitterアカウントでは、2017年9月現在で13万5千人のユーザーからフォローされています。
Twitter上での情報発信は時に議論を呼び、大きな注目を浴びることもあります。実際、以下の性的多様性に関する一連のツイートでは3ツイート合計で11,000以上のリツイートを集めました。

参考:
千葉市長に熊谷氏初当選 31歳全国最年少|千葉日報

SNSをやるのは「政治の見える化」を推進するため

熊谷俊人(千葉市長)__kumagai_chiba_さん___Twitter.png
https://twitter.com/kumagai_chiba

ferret:
熊谷氏はTwitterを軸としてかなり積極的にSNSを使った情報発信をされていますが、SNSを利用する目的はどこにあるんでしょうか。

熊谷俊人氏(以下 熊谷氏):
私がSNSをやってる理由は大きく分けて2つあります。
1つはまず理念。私が政治家をやっている理由として、行政や市民から集まるたくさんの情報を、できる限り多くの市民の方にわかる形で伝えていくという「見える化」を政治の世界でも実現したいという思いがあります。そのポリシーに従って損得抜きに、私自身がやりたいからやっているというのが1つです。

2つめは、多くの人たちに千葉市のことを知ってほしい、政治に関心を持ってほしい、政治って面白いって思ってほしい、行政って面白いと思ってほしいという思いです。
民主主義の社会の中でSNSほど便利なツールはないので、その時代に政治がやれているのはすごくありがたいことだと思ってます。

ferret:
民主主義との関わりというのは、市民の意見を取り入れられるためですか?

熊谷氏:
そうですね。今までは直接のコミュニケーションに限界があったので、この世界はやむをえず間接民主主義を選んできています。その中で、政治家がマスメディアに頼ることなく、一部の人に対してでも直接のコミュニケーションをリアルタイムにできるというのは民主制における進化だと思っています。

Twitterは”行政と政治の理想”を実現するための公開言論プラットフォーム

ferret:
従来でも市民との会話を通して直接のコミュニケーションを行うことはできたと思うんですが、SNSのコミュニケーションでもっとも違うと感じることはなんですか?

熊谷氏:
複数人対複数人のコミュニケーションができるということですね。実際、ブログを書くことだってできるし、メールだってあるし、今までだって市民の声を聞くことはできました。
その点でいえば、Twitterは公開言論プラットフォームだと思ってます。
オープンなコミュニケーションなのか、クローズドなコミュニケーションなのかといったところに違いがあるかなと。

だから、ツイートに返信もらった時に、多くの人が思っていることだなという返信については引用リツイートを使って返答するようにしています。
例えば「千葉市の税金が高い」という意見は、実際はそんなことはないのですが、多くの人が感じていることだと思います。多分、全国の市長が言われている意見でしょう。そういう質問に対して「こういうことなんですよ」と返すと、質問してない人も「ああ、そうだったんだ」と納得する。
これが大事なことだと思っているので、みなさんが考えている疑問点を意見としてもらえると嬉しくなります。

あとは、極端な考え方の意見もありがたいですね。
「こんな極端な意見、よく相手しているね」とも度々言われるんですが。私はその人を相手にしているというより、この問題をどう考えますかという公開討論をしているつもりで行っています。極端な意見というのは、その問題に対して両極端な立場から問題を見つけることができます。だから見えるように会話するようにしています。これは行政と政治の理想でもあります。

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ferret:
“行政と政治の理想”とは?

熊谷氏:
現在多くの行政や政治で行われている「行政や政治に対して特定の要望を持っている人間が訴えて、政治や行政が何か判断してくれるのを待つ」という関係は”お上と下々の関係”です。
例えば、緑が生い茂っている公園に対して「夜道が危ないから木々を切ってくれ」という人もいれば、「豊かな森が良いんだから切るな」という両方の意見の人がいます。
この方たちは個別に陳情にきて、行政と政治がどう判断するか待つ。つまり行政や政治に生殺与奪権があります。

でも本当は、問題についてみんなで議論して対話するのが大事ですよね。
それを簡単にできるのが、TwitterのようなSNSなんです。
先ほどの例を出すと、公園の木を切ってくれという人は「木を切らないなんて頭おかしいんじゃないの」くらいのことを考えている。でも「豊かな森が良いんだから切るな」という意見があると知ると「あ、なるほど。これには理由があるのね」と納得した上で、さらに一段階上の反対意見が生まれてくるわけです。

私が大事にしていることは、みんなの意見が聞けるということです。そして、吸い上げたものを自分のものにせずに公開していくこと。
だから私はハブ(HUB)であり、アカウントは1つのツールにならなきゃいけない。
千葉市のあらゆる動きと情報が、市長という人間をハブにして流通するというのが理想の民主主義であり、理想のまちづくりだと一市民として考えています。

ferret:
そうすると、市のアカウントとは違う意味合いが出てきますよね。

熊谷氏:
はい、全く違います。市のアカウントは広報ですから。対話ではないし、民主主義ではない一方的な発信です。運営しているのは行政の職員であり、それ以上のことはできないし、やっちゃいけない、それは政治家の領域です。
いろんな意見を吸い上げて、それをハブのように拡散させていく。その拡散の中で色々な意見がぐるぐる回る。その渦に対して、時には「それはできない、なぜならこうだから」と言うのが私の仕事、政治家の仕事ですね。

Twitterから市政につながったのは数知れず〜初音ミクコラボから子ども医療費助成制度の改善まで〜

ferret:
SNSが市民の意見が集まるプラットフォームになっているとのことですが、実際にSNSから、なにか市政につながった事例などはありますか?

熊谷氏:
数えられないくらいあります。
例えば最近では、初音ミクと千葉市章のコラボがありました。
Twitterで「初音ミクと千葉市章が似ているって一部で言われてるんです」と指摘されたのがきっかけです。その時は「馬鹿だなー」と思いながらも「面白いなぁ」と思いました。

千葉市:「初音ミク」一日限定市章にアクセス殺到___毎日新聞.png
[千葉市「初音ミク」一日限定市章にアクセス殺到 |毎日新聞] (https://mainichi.jp/articles/20170902/k00/00m/040/053000c)

コラボレーション企画は、バーチャルアイドル「初音ミク」の誕生10周年に合わせ、千葉市ホームページに掲載されている千葉市章が一日限定で初音ミクの姿をモチーフにしたものに差し替わるというもの。テレビや新聞といった大手メディアからネットメディアまで幅広く取り上げられました。

熊谷氏:
その指摘があってから数年後に個人的なツイートとして発信してみたら反響が得られたので実際に企画が始動することとなりました。それから満を持してのコラボとなっています。

このコラボに関して、反発は少ないだろうと予測していましたが、予想以上に好意的な意見が多かったです。きついコメントの多いYahoo!ニュースですら、比較的好意的な意見が多かったのには驚きました。千葉市を安価にPRすることができたという意味ではよかったと思っています。

ほかにSNSと市政がつながったものだと、子ども医療費助成制度の例があります。
子ども医療費の助成対象を小学3年生まで引き上げた際に、Twitterとリアル両方で市民の皆さんから「東京23区のように自己負担額300円を0円にしてくれ」「小学3年生までの対象を小学6年生まで引き上げてくれ」という意見がありました。
でも、自己負担額300円を0円にすると年間3億以上かかってしまうとツイートすると、みんな驚きます。

さらに、自己負担額300円のまま、その3億円をもし使うとしたら小学6年生にまで引き上げられることを伝えると、多くの人が「自己負担額0円よりも、自己負担額300円のままで小学6年生まで引き上げてくれた方いい」と答えました。
また、実際に盆踊りや対話会などで話を聞いても、同じような傾向が見えてきました。

熊谷氏が実際に行ったアンケート。このツイートに対してだけでも40以上のリプライが寄せられています。

熊谷氏:
SNSでも話を投げかけてみると、しばらくして「じゃあ自己負担をあげるともっと助成対象の年齢をあげられるということですか?」とリプライがありました。
それに対して私は「自己負担額を500円にすると中3まで引き上げられます」と答える。先ほどから、一歩進んだ議論になっているのがわかるかと思います。
私は実際にこの提案を制度に反映できるのではと考えました。

そこで、幼稚園・保育所・小学校の保護者を対象に大規模なアンケートを実施したら、多くの人が自己負担額500円で助成対象を中学3年生まで引き上げる選択肢を選びました。
ここから折衷案として、小学3年生まで自己負担額300円のままにして、小学3年生以降は自己負担額500円にするという制度設計につながりました。

これは日本の民主主義の中でもっとも対話して、選択肢を示して、意識決定した1つのモデルだと思っています。私が研究している限り、こういった事例は他にはありません。

参考:
[子ども医療費助成制度|千葉市] (https://www.city.chiba.jp/kodomomirai/kodomomirai/kikaku/kodomoiryouhi.html)

フォロワーが増えない理由は「面白くないから」 政治家のSNS利用はどうあるべき?

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ferret:
政治家のSNS利用について、今後こうなったらいいという理想はありますか。

熊谷氏:

私は、自分の政治理念としてやらなければいけないからやっているわけであって、このような思いを持っていない人はSNSをやらなくていいと思います。リスクでしかないから。
メリットがあるかと言ったら、政治家としては、そこまでメリットはありません。
私は行政や市民からくる情報をつなぐハブにならなくてはいけないという思いでやってるから、必要というだけです。

ferret:
政治家の広報活動としての意味ではないということですね。

熊谷氏:
それだとこんなにフォロワー増えないですよ。
政治家のフォロワーがなぜ増えないのかというと、面白くないから、価値がないからです。
人がなぜ話を聞いてくれるのかというと、それは自分の話を聞いてくれるから、あるいは話に答えてくれるからなんです。一方的な発信でも聞いてもらえるのは、トランプさんや橋下徹さんのような芸能人的な要素も持つ人だけです。

芸能人からの情報は知りたいと思うかもしれないけども、普通の政治や行政の情報のようなエンターテイメント性がないものを知りたいとは思わない。だから、逆に政治がエンターテイメント化してしまっているのかもしれません。

それに対して私の価値はエンターテイメント的な面白さではなく、「フォローしておくと、千葉市をめぐるあらゆる情報と、それに対する反応も含めた言論渦が見える」というものです。自分が双方向のコミュニケーションをぐるぐる回しているのが興味深くて面白いからフォロワーが増えてるんだと思ってます。
私自身はフォロワーを増やそうとは意識していないし、発信の範囲を広げたいわけじゃない。

ferret:
熊谷氏のようなTwitterの使い方をされている方はとても珍しいと思うんですが、自分と似たような使い方をしているアカウントや、今注目しているアカウントはありますか?

熊谷氏:
ないです。特に何も参考にしてないので。よく「政治家で誰を参考にしていますか?」と聞かれるんですが、考えたこともないのでわからないです。

ferret:
タイムラインもご覧にならないんでしょうか。

熊谷氏:
全く見ないですね。ただ、千葉市政や自分に関することの情報の渦は見るようにしています。花火大会が終わった後に「幕張 花火」で検索してみたり、自分のツイートをリツイートしている人を追ってどんな人なのか調べたりというのはしています。
だから、言論空間のテリトリー図はわかっています。

例えば、反響が大きいからってそれがいいこととは限らないんです。リツイートが多いように見えても、閉じた空間で盛り上がっているだけでは、あまりいいこととは言えません。
ただ、ごく普通の市民の方がどういう反応をしているのかはかなり見ています。

SNSが社会のマッチングを実現するツールになる?

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ferret:
今後の市政でSNSが果たして行くだろう役割をお聞かせください。

熊谷氏:
市民の皆さんが自分の町のあらゆる情報を手に取ることができて、かつそこでコンタクトができて、情報が取れてコミュニケーションが取れるという社会のマッチングを実現するツールとしてのSNSはありえるかと。

例えば、町を歩いていた時に「ここの道路ってなんでこうなんだろう」と思って、スマートフォンをかざすと道路ができた年や目的、現状の課題が表示される。さらに、議会での議論の様子や、地域の人からの意見、現在のステータスっていうのがわかるというシステムです。

その全ての情報を見た中で、自分はこう思うと投稿すると、地域の人がまた意見を出します。その中で、今度議会で行われる意見聴取の案内が表示されると、それなら自分も参加しようとなるでしょう。
もしくはネット上で対話会があるから参加してみませんか?と表示されるのもいいですね。
そういう理想の町を実現するためには、SNSはツールとして1つありえますよね。

ferret:
もしTwitterやFacebookで実現するとしたら、どういう形になると思いますか?

熊谷氏:
まだ今の機能では、できないです。SNSの進化に伴って、より情報のマッチングができるようなツールが出てくれば実現するかもしれません。
私みたいなSNSの使い方を、議員の方がさらに小さいエリアの中でやられるのが一番早い方法です。でも、基本的には自分のPRかマーケティング手段であって、こう言う形でSNSを使ってる人は、かなり少ないです。多分、言論プラットフォームと思うか、マーケティング手段と思うかで全く違うんじゃないかと。

ferret:
SNSを通じて、今後どのような政治を実現したいと思っていますか。

熊谷氏:
*理想は、市民全員と千葉市に関わる全ての人の話を聞きたい。全部もらった上で意思決定したい。全ての意思をもらいたいわけです。その上で全ての意思決定なり、コミュニケーションをしたい。この意思は多ければ多いほどいいと思っています。
ただ注意してほしいことは、
Twitterはご意見頂戴ツールではない”*ということです。
もちろん必要なものは反応しますが、基本的には目安箱ではないと思ってます。
あくまで市民の皆さんの考えを把握するためのプラットフォームです。

まとめ

「民主主義にとってSNSは最高のツール」と語る熊谷氏の考え方は、普段からマーケティング目線でSNSに接している企業の担当者にとっては珍しいものかもしれません。

ですが、熊谷氏の考え方は複数人対複数人のコミュニケーションが生まれるSNSの本質を突いたものです。
実際、熊谷氏が例として挙げた初音ミクと市章のコラボや子ども医療助成制度の助成対象の話は、人と人の意見がつながることで新しいアイディアが生まれていく、SNSのプラットフォームとしての面白さを感じるものでした。

また、市の広報とは一線を引き、行政と政治でTwitterを異なる目的として用いていたのも特徴的です。エンターテイメントとして一方的な発信に終始するのか、双方向のコミュニケーションツールとして用いるのかは、企業にとっても迫られているテーマなのかもしれません。