日本企業は、よく「縦割り組織」と呼ばれます。事業部がそれぞれ独立しており、横断的な交流や戦略が組みにくいということを意味しています。

企業で働いていると、全社的な課題があるにも関わらず、事業部を超えて議論する機会がなかったり、それぞれの既得権益を守り合ってなかなか抜本的な改革に踏み出せなかったりすることもあります。どうすれば全社で協力して知恵を出し合い解決に繋げられるか、悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

全社的な経営課題を解決するために、事業部や役職に関わらず、時には社外からも人材を集めて構成されるチームのことを、「クロス・ファンクショナル・チーム」といいます。縦割り組織の中で放置されてしまっていた、業務や体制の改革・刷新に効果があるといわれています。

今回は、クロス・ファンクショナル・チームの解説と、実際に成功している事例をご紹介します。

クロス・ファンクショナル・チームとは

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クロス・ファンクショナル・チーム(Cross Functional Team/CFT)とは、全社的な経営課題を解決するために、事業部や役職に関わらず、様々な経験と知識をもったメンバーで構成されるチームのことです。ときには社内だけでなく、社外から豊富な知見や専門的な知識をもった人材を招致することもあります。

期間としては、プロジェクトとして短期的に立ち上げる場合と、部署として常時構成する場合があります。事業部を横断して課題解決に努めるため、これまで各事業部の中で硬直してしまっていた経営・業務上の課題解決や組織体制の刷新に有効です。

元々は日本の強みを理論化したもの

CFTは、1980年代に高い競争力を誇っていた日本企業の強みを、アメリカが中心となって理論化した考え方です。日本企業は社内コミュニケーションを積極的に行うことで、自然と事業部間の情報共有や協力体制を実現していました。この強みが、当時の製造業で高い生産性と品質を生み出していると欧米の研究者は考えたのです。

近年は、コミュニケーション不足はむしろ日本企業でも課題となっており、CFTを逆輸入する企業が増えています。

マトリックス組織とは

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CFTに似た組織構成として、「マトリクス組織」があります。マトリクス組織とは、複数の組織構造を縦と横で掛け合わせ、多元的な指揮命令系統のもとで機能させることです。「事業部別」「職能別」「プロジェクト別」「製品別」などに分けることができます。

グローバル化による各国・各地域の市場や、多様化した顧客のニーズに応えるため、マトリクス組織によって複数の視点から目的を達成する必要性が高まっています。例えば、ある製品を外国向けに開発する場合、これまでに外国に向けて展開していたサービスに活用していた市場や顧客の調査結果やノウハウを活かすことができます。

マトリクス組織は、1960年代、アメリカの「アポロ計画」が原点となっています。NASA(アメリカ航空宇宙局)は、アポロ計画に参加した関連企業対して、製品ごとのプロジェクトマネージャーを設け、職能別組織と製品別組織をコーディネートする体制を確立したことから広まりました。

マトリクス組織は複数の指揮命令系統があるため、指示に矛盾が生じると組織が混乱するリスクもあります。そのため、マネージャー同士の連携を促したり、役割を明確にしたりする仕組みづくりが必要です。

チーム設計の5段階

心理学者のブルース・タックマンは、CFTなどのプロジェクトチームを設計する際、以下の5段階(タックマンモデル)を提唱しています。

【1】形成期
【2】混乱期
【3】統一期
【4】機能期
【5】散会期

参考:
[タックマンモデルとチームビルディング|株式会社ハートクエイク](http://heart-quake.com/article.php?p=396)

【1】形成期

メンバーが決まったばかりの段階で、メンバー同士もお互いのことを知らない時期です。リーダーはプロジェクトの目的を説明し、指示を出します。

【2】混乱期

メンバー間の交流や業務が進んでいくにつれて、意見の食い違いが起こるようになります。慣れない環境の中、面識のなかったメンバーとチームワークを発揮することは容易ではありません。

リーダーはメンバー同士が業務や役割を理解し合う後押しをします。チームでのコミュニケーションを活発化させることで、関係性を深めていきます。

【3】統一期

チームの中に統一感が生まれてくる時期です。自分の業務にも慣れ、メンバー間の理解も進むと、お互いに認め合う関係を築くようになります。ここでチームワークが生まれます。

リーダーは、更にメンバー間の関係強化に努めます。問題点も指摘し合えるチームになれば、早い段階で問題に気付けるなど、リスク回避にもつながります。

【4】機能期

統一期にできたチームワークの上に、それぞれのメンバーが強みを活かし合い成果を出せるチームが仕上がります。与えられた役割以外にも、メンバーは自主的に活動を行います。

リーダーはできるだけ細かい指示はせず、メンバーの活動を見守るようにします。

【5】散会期

プロジェクトが終了し、チームが解散します。

クロス・ファンクショナル・チームのメリット

事業部や役職を超えた協働できる

通常業務では関わらないメンバーも含めたチームができるため、それぞれの強みを活かしながら協働できます。工数が削減できる分、コミュニケーションに時間をかけながらプロジェクトを進められます。

社外からの新しい知見を得ることができる

前述したとおり、CFTには経験豊富な社外の人材を集めることもあります。自社にはない知見やノウハウを得ることができます。

複数の視点によって新しい解決策が生まれる

自社の課題を様々な角度から見ている社内メンバー、他社の知見を持ち合わせている外部メンバーが集まって意見を交わすことで、これまでになかった視点や解決策が生まれます。

クロス・ファンクショナル・チームのデメリット

チーム構成によっては効果が出ないこともある

チーム構成がある事業部や役職に偏ってしまうと、新しい視点が減ってしまい、効果が減少してしまうことがあります。選出する際は、経験年数・役職・年齢などできるだけ幅を効かせるようにしましょう。

モチベーションの維持が難しい

CFTは本業など、他の業務と兼務していることがほとんどです。メンバーの中での優先順位を高めておかないと、多忙になったり意見が割れて停滞したりしたときに、モチベーションが低下してしまうことがあります。

チーム内のコミュニケーションを増やし、参加に際してインセンティブ(意欲向上や目標達成のための施策)を付与するといった工夫が必要です。

リーダーの介入の過不足

リーダーの介入のバランスは、CFTの成果に大きく影響します。介入が強すぎるとメンバーは保守的な意見しか出さなくなったり、反抗して協調性を失ったりします。逆に介入が弱すぎると、メンバーの意見がまとまらず、これも協調性を失う原因になります。

他にも事業部間の利害関係の調整など、全く違う環境のメンバーをまとめていくために、リーダーには高いスキルが求められるといえるでしょう。

日産リバイバルプランでCFT結成、業績の回復を実現

CFTの成功事例として代表的な企業が、日産自動車です。日産自動車は1990年代、深刻な業績不振に陥りました。そこで、当時日産自動車のCOO(最高執行責任者)だったカルロス・ゴーンが、再建計画として「日産リバイバルプラン(NRP)」の策定を行いました。

カルロス・ゴーンは、顧客のニーズ自体がクロス・ファンクショナル(組織横断的)であり、企業の中の1つの事業部や職能で完結できることではないとし、10個のテーマに分けてそれぞれのCFTを立ち上げました。

1:「事業の発展」
2:「購買」
3:「製造・物流」
4:「研究開発」
5:「マーケティング・販売」
6:「一般管理費」
7:「財務コスト」
8:「車種削減」
9:「組織と意志決定プロセス」
10:「設備投資」

これらのCFTでは3ヵ月の活動期間中に2,000件ものアイデアが検討され、無事業績回復に成功しました。

まとめ

クロス・ファンクショナル・チームの運用では、立場が違う複数の意見をまとめたり、本業ではない付加業務へのモチベーションを維持したりと、参加する社員の力量が求められます。

しかしその分、それぞれの事業部、役職からの多様な視点からの意見を交わしていくことで、これまでにはなかった発想や戦略が生まれ、全社的な課題の解決に近づけることができます。自分の事業部にはなかった考え方を学ぶことで、取り上げている課題以外の別の問題にも応用できるかもしれません。

自社でも重要かつ全社的な課題を認識している方は、ぜひ働きかけてみてはいかがでしょうか。