「お客様と仲良くなるのは得意だけど、受注まで至らない」
「事務や経理に業務を依頼すると、後回しにされてしまう」

営業担当なら、上記のようなことを1度は経験したことがあるかもしれません。社外でも社内でも、相手に行動を起こしてもらうためのコミュニケーションはなかなか難しいものです。

仮に、自分の言動で相手がどのように考えるかを予測できるとしたらどうでしょうか。もちろん、コミュニケーションはずっと円滑に進むようになるはずです。

こうした “ある働きかけに対し、人が無意識に反応してしまう原理を理論化したもの” に、「カチッ・サー理論(効果)」があります。

今回は、カチッ・サー理論の概念と、それに基づく7つの原理について解説します。

カチッ・サー理論を理解することで、商談や社内調整での会話を戦略的に進められるようになるはずです。人前で話す・登壇する機会が多いであろう、営業担当者やマーケティング担当者の方にオススメです。

カチッ・サー理論(効果)とは

カチッ・サー理論(効果)とは、人が外部からの働きかけによって、無意識に反応してしまう心理的な原理を論理化したものです。

例えば、誰かに何かを依頼する時、理由を添えるだけで承諾率が上がるといった現象を指します。

ちなみに、カチッ・サー理論の語源は、テープレコーダーの再生ボタンを押す「カチッ」という音と、その後流れてくる砂嵐の「サー」という音からきています。再生ボタンを押すことで自動的に砂嵐や音楽が流れるように、人にも心理的なスイッチがあることを意味しています。
  

人は理由を添えて依頼されると承諾しやすい

前述した「誰かに何かを依頼する時、理由を添えるだけで承諾率が上がる」という現象は、アメリカの心理学者のエレン・ランガーの実験によって証明されています。

エレン・ランガーは、ある図書館でコピーをとっている人に対して、先にコピーをとらせてもらえるよう複数のパターンで依頼する実験を行いました。

● 依頼パターン

A:「先にコピーをとらせてもらえませんか」
B:「急いでいるので、先にコピーをとらせてもらえませんか」
C:「コピーを取らなければいけないので、先にコピーをとらせていただけませんか」

その結果、単純に要求のみを伝えたAの場合は、承諾率が60%でした。しかし、「急いでいるので」という理由を添えたBの場合では、94%もの承諾率に至ったのです。

一方、「コピーを取らなければいけないので」という、先にコピーをとる理由として成立していないCの場合でも、承諾率は93%でした。

この結果から、内容の正当性にはあまり左右されず、理由を添えて依頼されると承諾しやすいという心理的な効果があることが証明されました。

参考:
お金に縁のある人、ない人の心理法則|内藤 誼人
  

カチッ・サー理論の原理

カチッ・サー理論には、人に与える影響の種類に応じて様々な原理があります。

今回はその原理を大きく7つにわけて解説します。

1. 返報性
2. 希少性
3. 好意
4. 権威性
5. 類似性
6. 連合性
7. 社会的証明

1. 返報性

返報性は、人から何らかの恩恵を受けると、自分も相手のために何かをしてお返ししようと考える傾向のことです。

例えば、店員から無料のサンプルや試食を貰った時、その商品を純粋に「欲しい」と思って購入する時もあれば、「貰うだけでは申し訳ない」と思って購入してしまう時もあります。保険の無料相談などもこの例に当てはまります。

返報性の原理を利用するためには、まず顧客のために何かしらの価値を提供することが必要です。

参考:
相手に尽くすことが良い影響を生む!「返報性の原理」を活用したビジネスを実践しよう|ferret

● 事例

キャンペーン
・無料サンプル・試食
・無料見積もり

営業例
・先に大きな要求を持ちかけ、断られた後に小さな要求を持ちかける

  

2. 希少性

希少性は、数量が少なかったり期間が短かったりして手に入りにくいものほど、高い価値を感じて欲しくなってしまう傾向のことです。

この手法はテレビの通販番組でよく使われています。「限定100個」「先着100名様」などとうたわれると、焦燥感をかきたてられてつい購入したくなります。

敢えて生産量や販売期間を短くして、その商品の価値を高めることも戦略の1つです。

● 事例

キャンペーン
・初回限定特典
・期間限定発売

営業例
・今年中に申し込みした方限定の価格や特典をアピールする

  

3. 好意

好意は、その言葉のまま、自分が好意をもっている人やものに大きな影響を受けることです。

近年流行しているインフルエンサーマーケティングも、この原理に基いている部分があります。憧れの有名人や仲の良い友人に勧められると、これまで興味がなかったものでも購入意欲を刺激されます。

あるものを評価する時、一部の目立つ印象に引っ張られ、ほかの印象まで歪められてしまう心理現象「ハロー効果」が影響しています。

● 事例

キャンペーン
・ターゲット層に人気のある芸能人を起用したCM
・商品をインフルエンサーに拡散してもらう

営業例
・先行導入している有名企業の事例を紹介する
・業界の著名人を「監修」などと銘打つ

参考:
ハロー効果とは〜あらゆる行動に影響のある心理効果を理解しよう|ferret
  

4. 権威性

権威性とは、専門家など権威のある人に意見に影響を受ける傾向のことです。

健康食品や美容商品の成分を解説する際、大学教授や大手企業の研究者がコメントすることがあります。その分野で権威のある人が勧めることで商品への信頼度が高まり、好印象を与えたり購買意欲を刺激したりすることができます。

● 事例

キャンペーン
・商品の成分や効果を証明するため、その分野の専門家のコメントを添える。

営業例
・専門家の推薦文を紹介する。

  

5. 類似性

類似性とは、自分と共通点がある人やものに対して親近感を覚え、印象が良くなる傾向のことです。

初対面の人と出身地が同じだと、親近感を覚えて急に距離が近くなることがあります。顧客に「私もそうだ、わかる」と思わせるようなアプローチが有効です。

● 事例

キャンペーン
・ターゲットと同じ悩みを持つ人を起用したプロモーション

営業例
・顧客との会話の中で共通点を見付け出し、心理的な距離を縮める

  

6. 関連付け

関連付けとは、ある物事への強い印象をほかの物事にも反映させて捉える傾向のことです。

例えば、ある人と映画を観に行った時、その映画が面白ければその人への印象も上がり、つまらなければその人への印象も下がってしまうことがあります。逆に、好意を持つ人の勧めた商品のイメージが上がり、そうでない人の勧めた商品のイメージは下がるという、先述した「ハロー効果」も関係しています。

● 事例

キャンペーン
・商品を提供する店舗のデザインや雰囲気の工夫
・顧客が楽しく商品を経験できる機会を提供する

営業例
・身だしなみや話し方など営業担当自身の印象を上げることで、提案する商品へのイメージを上げる

  

7. 社会的証明

社会的証明とは、周囲の人の行動を判断基準にしてしまう傾向のことです。

「一番人気」「流行中」といった売り言葉を聞くと、あまり興味がないものでも目を引き、欲しくなることがあります。多くの人に人気があるとアピールすることで、さらに相乗効果を生み出せます。

● 事例

キャンペーン
・「一番人気!」「話題沸騰中」など目を引くプロモーション

営業例
・「近くの〇〇さんも使っています」など、顧客の身近な人や企業の例を出す