ファンベースの弱点

飯髙:
ファンベースの弱点についても聞いていいでしょうか。共感や愛着を醸成していくには時間がかかるように思うのですが……。

佐藤 氏:
そうですね。短期で成果を出したいと思うなら、やはりキャンペーンが早い。最初に言ったように、キャンペーンとファンベースは補完しあい相乗効果を上げ合うと考えるのがいいと思います。

あとは、小さく安定してしまう場合があることも弱点のひとつ。パイを一気に大きくしたい、スケールしたいときはファンベースだけでは追いつきません。ファンベースは口コミ的にじわじわと広がる方法なので、安定感はありますがスピードは求められない。

また、*ファンベースは、規模にもよりますが、新商品や無名の商品には向かないことも多いです。*時間がかかるので、スタートダッシュをかけたいときのための施策ではないんですね。僕も、新商品だったらキャンペーンをやるようにします。

飯髙:
コンプレックス商材など、口コミを生みにくい商品も、ファンベースには向かないように思いますが、どうでしょうか。

佐藤 氏:
確かに。たとえば、カツラなんかはそうですよね。使用している本人はなかなか人に勧めない。でも、そういう場合でも、奥さんや家族にアプローチするという方法はあります。本人が信頼する人たちをファンにしていくと、しっかりその本人に伝わっていきます。

飯髙:
ファンベースの考え方はBtoBの商品でも同じように機能しますか?

佐藤 氏:
同じですね。むしろパレートの法則BtoBこそ当てはまります。BtoB企業はたいてい20%の顧客が80%の売上を作っていますよ。そして、そのサービスやシステムを導入しようと決めるのはやっぱり人間であり、しかもキーパーソン同士みんな横でつながって情報交換している。

なので、キーパーソンの共感・愛着・信頼を作ることは、その人が離れることを防ぐとともに、他の顧客を増やすことにもつながるのです。

「競合に良い商品を勧めるわけはないから、口コミが発生しない。ファンベースは向かないのではないか」と思うかもしれませんが、そんなことは全然ありません。同業同士、みんな情報交換して勧め合っているのが現状ですから。

ファンベースの効果測定は現状ではNPSが一番

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飯髙:
ファンベースを進めてく際の難しさのひとつに、効果の見えにくさがあると感じます。何の施策がよかったから売り上げにつながったのかを検証するのが難しいように思うのですが……。

佐藤 氏:
効果検証はしにくいですね。というか、本当はしないほうがいいんです。だって、人が人を好きになる過程だって、嫌いになったり好きになったりを繰り返して少しずつ愛に育っていくわけです。初対面のとき大嫌いだったなんて例はたくさんありますよね? そういうものです。

とはいえ、そうも言ってられないので、効果検証をするなら、定期的なNPS(顧客ロイヤリティ測定)をオススメしています。自社サイトでの行動やコミュニティ内での行動が計測できるのであれば、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)的な紐付けをして、それらを元にファンのペルソナとかを作って行けたりすると、より深い効果検証が出来るかもしれません。

とはいえ、普通は、どの施策が心に響いて共感され、ファン度がどれくらい上がったかは、データの取りようはなかなか難しいですね。ファンを定期的に追っていくのが一番かと思います。

飯髙:
効果検証がしにくいことと、中長期の施策であることを考え合わせると、ファンベースの重要性を社内で認識してもらい、継続していくことは、なかなかハードルが高いようにも感じます。

佐藤 氏:
そういう声もよく聞きますね。ファンベース施策は半年や一年で目に見えて変化が起こるものではありません。1年で改選される役員にしてみれば、取り組んだところで次に異動してくる人の手柄になってしまう。面倒だから自分の代では取り組まないと言われたというケースも聞きます。

ファンベースに取り組みたい担当者から、「上司を説得したいので、会社に講演に来てください」と言われることもよくあります。

ちょっと広告っぽくなりますが、2月5日に発売した書籍、『ファンベース』(ちくま新書)は、上司を説得するための本として使ってもらえたら、と思って書きました。

その中にはいろいろな説得ポイントを書いているんですが、直接的に上司を説得するなら、ポイントは2つありますね。

1. ファンミーティングやファンイベントなど、熱量を持ったファンが集まるイベントに、上司や役員などのキーパーソンを参加させること。

2. ファンの売り上げが、自分たちの商品の売り上げの何パーセントになっているかを調べること。

例えば、消費者パネルなどで自社商品を買ってくれている人にアンケートして、好意度を聞いていくことで、ファンが自社製品の売り上げの何パーセントくらいを占めているかがわかります。そのパーセンテージがパレートの法則に近い結果になったのであれば、2割のファンを大切にして売り上げの安定を図っていくことの重要性が認識できると思います。

「ファンベース」というと、きれいごとと思われることも多いのですが、今後顧客自体がどんどん減少していく人口急減時代に、企業の収益を安定させるために率先して取り組むべき施策なんですよね。ですから、上記の2つをやると、説得も継続も比較的うまくいきます。