世の中には多数の会社が存在しており、多くのビジネスモデルプロダクトが存在しています。

しかし、ビジネスモデルとプロダクトの秀逸性だけでは、Product-market-fit(人が欲しがるものを作ること)を達成し、ビジネスをブレークスルー(現状ある障壁を壊して大きく前進すること)することはできません。

ブレークスルーを達成する上で、起業家の方々は秘伝のレシピを発見し、ビジネスに組み込んでいく必要があります。
  
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*ブレークスルー = ビジネスモデル+プロダクト+* **秘伝のレシピ**

本連載では、様々な起業家が持つ秘伝レシピ(Secret Recipe)に焦点を当て解読していきます。

第14回目は、株式会社リブセンス(以下、リブセンス)代表取締役社長の村上 太一 氏に話をうかがいました。

読者の皆さんが、自分のビジネスをブレークスルーするためヒントを見付けていただければ幸喜です。今の業務で壁にぶつかっていると感じている方、もう一歩さらなる成長を遂げたいと考えている方に、ぜひともオススメです。
  

目次

  1. 序文
  2. 秘伝レシピ1:感じた課題を解決するためのアイデアを考えよ
  3. 秘伝レシピ2:自然にフィードバックが得られるよう仕組化せよ
  4. 秘伝レシピ3:メタ認知で経営を改善せよ
  5. 秘伝レシピ4:「事例の数×解像度」で仮説力を向上せよ
  6. 秘伝レシピ5:自分がやりたいことを深掘りして言語化せよ
  7. まとめ

  

プロフィール

・村上 太一 氏プロフィール
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株式会社リブセンス 代表取締役社長
早稲田大学1年生時の2006年に株式会社リブセンスを設立し、アルバイト求人サイト「マッハバイト(旧ジョブセンス)」のサービス提供を開始。創業2年目には黒字化し、2011年12月に東証マザーズ、2012年10月に東証一部へ史上最年少の25歳で上場。

  
・田所 雅之 プロフィール(インタビュアー)
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日本とシリコンバレーで合わせて、5社の起業実績のあるシリアルアントレプレナー。スタートアップを経営しながら、シリコンバレー本社のFenox Venture Capitalのベンチャーパートナーとして、日本及び東南アジア地域の投資を担当。現在は、数社のスタートアップのアドバイザーとボードメンバーも兼任している。起業家の教育にも熱心で"startup science”というスライドの著者でもある。2017年11月に初の書籍、起業家が必ず直面する課題と対策を、時系列に整理した "起業の教科書"「起業の科学 - スタートアップサイエンス -」を出版。

  

田所(インタビュアー):
本日は宜しくお願いします。まずは、リブセンスを起業したきっかけを教えていただけますか。

村上 太一 氏(株式会社リブセンス 代表取締役社長):
私が大学1年生の時に会社(株式会社リブセンス)を立ち上げたのですが、その前から起業したいという思いがありました。

では、何故起業したいという想いがあったのかというと小学生高学年の頃にさかのぼります。

小学校高学年の頃、ふと「人って何で生きているんだろう」と考えていたことがありました。その時、「誰もが幸せに向かって生きているんじゃないか」と漠然と考えていました。何故か、その時のことは今でも鮮明に覚えています。

その答えに、"誰かに喜んでもらう" とか、"誰かの幸せを創り出した時"に1番の幸せを感じたんです。それが経営理念である "幸せから生まれる幸せ" につながっています。
今でも「何が1番幸せと感じるか」ということをいつも考えています。

田所:
例えていうとすれば、どういう状況だったのでしょうか。

村上 氏
小さい頃によく釣りに行った話ですね。釣った魚を捌いて両親に食べてもらった時に、美味しいと言ってもらえると自分ごとのように嬉しかったです。「人って何で生きているんだろう」という疑問が、「誰もが幸せに向かって生きているんだな」「人は幸せになるための決断をして生きているんだな」という答えに結び付いた瞬間でした。

これこそが、私がリブセンスを設立した源になっている気がしています。

田所:
なるほど、そうした原体験があったのですね。リブセンスの設立=幸せが連鎖する起点を作ったわけですね。

村上 氏:
「自分自身の幸せってなんだろう」と考えた時に、周囲の人を幸せにすることが自分にとっての最高の幸せなんだと思いました。

それから、「じゃあ周りの人を幸せにできることとは何だろう」と考えた時に、両祖父が経営者だった事もあり、自然と"経営者になればより多くの人を幸せにできるんじゃないか"と思うようになりました。事業を通じて多くの方を幸せにして、サービスを提供する私たち従業員も幸せになっていける、そんな連鎖が作れればいいなと思ったのがきっかけでした。
  

秘伝のレシピ1. 感じた課題を解決するためのアイデアを考えよ

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田所:
リブセンスが事業化したのは大学1年の時でしたよね。その時の事業モデルについて教えてください。

村上 氏:
私自身が高校生の頃にアルバイト先で体験したことをもとに事業モデルを構想しました。

当時、業界最大手の求人サイトですら最寄り駅近くのアルバイトを探しても2~3件しか見付からず、とても困りました。店頭にはたくさんの求人情報が貼ってあるのに……。

そこで、当時アルバイト市場で主流だった「掲載課金型」のビジネスモデルに対し、後発となる私たちは採用が決まって初めて報酬をいただく「成功報酬型」ビジネスモデルと「お祝い金」という仕組みを当たり前にしました。

田所:
まさにそこがベンチャー企業におけるマジックモーメントだと。新たなビジネスモデルを確立した背景をお聞きしても宜しいでしょうか。

村上 氏:
事業をやりながら常に考えていたのは「お客様が1番求めているのは何だろう」ということです。やはり「掲載課金モデル」はお客様の負担が増えてしまう……何か解決策はないかと考えていました。

一方で求職者にとっての問題意識としてあったのは「十分な求人情報がネット上にない」ということでした。そこで考え付いたのが今のビジネスモデルだったのです。

求人情報を掲載するお客様=企業側の負担を減らして、求人が大量に集まるようになったら、結果として "より良いマッチングができるようになる" と感じていました。

田所:
それは村上さんの中にあった原体験からですよね?すると、以前から「マッチングの問題を解消したい」と思っていたということですよね。

村上 氏:
そうなりますね。高校生の私は、隣駅まで自転車で貼り紙を探しに行き、アルバイト先を見付けていました。

田所:
ちなみに、「成功報酬型」というのは、その当時あまり馴染みの無いモデルでしたよね。その型がない中でどうやってビジネスを大きくして行ったのでしょうか。

村上 氏:
とりあえずトライしてみることですね。私は過度にポジティブな思い込み力があるので、何でも上手く行くだろうと想定するタイプです。

ただ創業当初は全く売上が伸びませんでした。なぜなら、「成功報酬型モデル」は、お客様が弊社のサービス経由で採用されたか否かが判断できず、売上につなげることができなかったのです。

そこで、求職者に「お祝い金」としてインセンティブを差し上げることで、採用者からお祝い金を申請いただくことで採用状況を把握できる仕組みとしました。また、求職者にとってはインセンティブがもらえる付加価値が他社と差別化できる魅力となり、その仕組みがきっかけで一気に売上が伸びていきました。
  

秘伝のレシピ2. 自然にフィードバックが得られるよう仕組化せよ

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田所:
初期の頃は自身でSEOなどを独学で学び、人任せではなく現場主義でやっていたということですが、こだわりというのはあったのでしょうか。

村上 氏:
当時は、基本的に全業務を私が行っていたので、財務なども担当していました。最後は会計士の方にお願いしていましたが、簿記2級を持っていたこともあり、会社の利益が1億5,000万円ぐらいの頃まで私が決算や仕訳なども行っていました。

田所:
その当時の従業員規模はどのくらいだったのでしょうか。

村上 氏:
実は、当時の従業員は創業メンバーの「3」人で、全員学生と両立しながら事業を行っていました。

田所:
私自身、経営者として思うのですが、それまで自分自身がオーナーとしてやってきたことを人に任せたりするのは恐くないですか。

村上 氏:
それは怖いですよね。でもそう言ってられなくなりました(笑)もうタスクが溢れてしまっていたので。

ただ私は、細かいところまで気になりますし責任を持ちたかったので、プロダクトを作るところも、サイトをどうやって作るかというところもしっかり確認していました。

田所:
ちなみに「経営者」としてのスキルはどのようにして学ばれたのでしょうか。

村上 氏:
起業してしばらくは試行錯誤でした。今は経験豊富な社員や社外役員にもフィードバックやアドバイスをもらいながらやっています。

田所:
リブセンスのホームページ内にある「役員紹介ページ」の顔ぶれをみると強者揃いという印象です。村上さんと比較してもひと回り上の世代の方々で構成されていますよね。

たった今うかがった話からすると、村上さんは意図的にフィードバックループ(フィードバックをもらう仕組み)を作り出しているのかなと感じました。

村上 氏:
そうですね。指摘してくれる人がいることはありがたいです。ただ、それは私だけではなく、会社全体でフィードバックをもらうことが大事だと思っています。

リブセンスの社内制度に「359度フィードバック」というものがあり、上司以外の方からフィードバックをもらう仕組みです。上司は普段からフィードバックする評価者なので、それ以外の部署、チームの方から半年に1回フィードバックをもらう機会を作っています。

田所:
ちなみに、そのルールは企業規模がある程度大きくなってきてからですよね。

村上 氏:
はい。ただ私は昔から人の話を聞くことが好きなんです。周囲のアドバイスを大事にしていて、積極的に聞いていました。聞き過ぎて軸が不安定になってしまった時期があるぐらいです(笑)

人に質問・相談し教えを受ける際は、「素直に聞く」ことと「自分自身の軸を持つ」ことをしっかりと両立させなければいけないと思います。両方が融合し合うイメージでしょうか。

言われたことを全て受けて入れていたら軸がなくなってしまうので、大事にする部分と変える部分をしっかり見極めながらやっていくことが重要だと認識しています。

田所:
そこを見極めるのは仮説思考だなと思いますし、また新たな事業をやるにしても仮説を立てることは非常に重要です。その辺は何か意識していますか。

村上 氏:
はい。私は「仮説力」を高めることを意識しています。

高い精度で仮説を立てることができるか、また常に予測意識を持てるかということは、事業を運営していくためにとても大事です。そして仮説力を鍛える方法は、予測に対する結果を真摯に受け止めることではないでしょうか。
  

秘伝のレシピ3. メタ認知で経営を改善せよ

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田所:
ほかにも経営者に必要な能力として「自分を客観的に見る力や内省する力が」挙げられています。自分自身を客観的に見て弱いところを発見すると辛いのですが、それが自分の成長につながって行く気がします。村上さんはそのような力が強い印象を受けましたが、その辺は意識して生活しているのでしょうか。

村上 氏:
私はそれを「メタ認知」と言っています。自分自身を客観視して、どんなキャラクターでどんな癖を持っているかを認識し、時に変える努力をすることはすごく大事です。私は昔から自分自身のキャラクターを理解しようとしていました。経営者になってからは、定期的に1人合宿というものを行っていて、1人日常と離れた場所に出かけることで自分と向き合うことはもちろん、今の会社の状況をいろんな観点から考えています。

田所:
それは立ち上げた当初からですか。

村上 氏:
自分を客観視することは昔から変わらないのですが、1人合宿を始めたのは上場後からです。背景としては、小学校の時に「幸せとは何だろう」という象徴的な質問の答えを考えていたことがルーツで、私の思考の肝になっているんだと思います。

「なぜ◯◯なのか」「問題に対してどういった解決策がいいのか」と考えたり、問題の原因を構造的に捉えたりするのは結構昔からなんです。

人間は目の前のことに囚われ過ぎて中長期的な思考力が弱くなることも多いですよね。日々を生きることすら大変だった時代を越え、食べ物や環境が改善され長く生きられるようになった今でも、人間の思考としてはどうしても短期視点が強くなってしまうんですね。

そのような人類が生まれた時からの思考の癖や心理学的な癖を知ることで、メタ認知力を高めています。また、本から学ぶことも多く、最近ではサピエンス全史などの書籍も興味深かったです。
  

秘伝のレシピ4. 「事例の数×解像度」で仮説力を向上せよ

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田所:
先ほども仮説力の話がありましたが、村上さんの中で「仮説力」を因数分解するとしたらどのような感じでしょうか。

村上 氏:
まず仮説力というのは「結果を予測する精度」です。結果を予測する精度において大事なのは「事例の数×事例の解像度」になります。

事例の解像度で、仮に上手く行かなかった事業があったとしましょう。その事例の見方として、「経営者がダメだったとか」あるいは「市場がダメだったとか」「事業が悪かった」「あるいは値付けが悪かったなど」、そうした見方も含めて事例を知る必要があります。そして要素を分解して、問題の本質をちゃんと考え抜くことが求められます。

もちろん、それをひたすらやることで予測精度が徐々に上がって行きます。

田所:
社内とかでも新規事業が上手く行かなかった場合、Why分析じゃないですけど、真因の分析を膝を突き合わせながらやりますよね。そんな感じですよね。

村上 氏:
そのとおりです。日常的に「この会社は上手くいくか」など、経営者として(この目の前にしている案件が)伸びるかどうかを予測する必要があります。

また、私はベンチャーキャピタルを通じて出資もしていて、それで事例の結果がわかるので "上手くいくかどうかをひたすら予測" しておき、上手くいかなかった場合は原因を深掘りしています。

このように日常的に起きている事象をどう捉えるか、どう分析するか、どう予測するかということが重要だと思います。
  

秘伝のレシピ5. 自分がやりたいことを深掘りして言語化せよ

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田所:
では最後に、ferret(当記事)をご覧いただいているユーザーの方にメッセージをお願いします。

村上 氏:
私が考える起業で最も重要なことは、「自分がなぜ起業したいのか」について言語化しておくことですね。

田所:
先ほど話にもありましたが、自己理解など、意味が深いですよね。

村上 氏:
しっかり言語化しておかないと感情に振り回されてしまうこともあります。生き方であり、やりたいことであり、ちゃんと言葉にしておくことが重要です。

田所:
それって起業以外でも人生において大切なことですよね。そのタイミングって早ければ、早い方がいいんですか。

村上 氏:
早い方がいいと思います。色々なことをチャンスに変えられるので、「これがやりたいことなんだ!」と言語化することで潜在意識が高まりますし、やりたいことが見えていると獲得した機会(チャンス)を是が非でも掴み取りたいという気持ちが強くなります。

田所:
つまり、自分が本当にやりたいのかというところがポイントということですね。

村上 氏:
そういうことです。あとは「日々学び続ける」「努力し続ける」という、人間として当前の事を当たり前にやり続ける事ですね。

起業って日々努力ですし、あらゆることを常に勉強し続ける覚悟がないと。

田所:
今日のインタビューを総括すると、どれだけ早い段階で、どれだけ深く自分のことを知ることができるのかがポイントになってくるということですね。本日はありがとうございました。
  

まとめ

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"自分は人の話を聞くのが好きなんですよ"とインタビューの冒頭でおっしゃっていた村上さん。自分の話をするよりも、インタビュワーの私の話に注意を払われているのがとても印象的でした。

以前、サッカー日本代表の本田圭佑さんがインタビューの中で、"日本代表に長く選ばれ続けている選手というのは傾聴力が高い"と口にしていました。つまり、周囲からのフィードバックを真摯に受け止めて、自分のパフォーマンスを高めていくことを意識する力が高いということです。

今回のインタビューでは村上さんと本田圭佑さんが重なる場面がありました。村上さんは史上最年少で東証一部上場を果たした今でも、相手の話を真摯に聞くことや周りの先輩方からのフィードバックを受け止め、その全てを自らの成長の糧にしているということでした。

外部環境の変化が激しい人材業界の中でも異色の輝きを放ち進化続けるリブセンスとそれを牽引する村上さん、今後も間違いなく注目です。

  

企業プロフィール

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http://www.livesense.co.jp/

2006年2月に設立。リブセンスは経営理念に掲げている「幸せから生まれる幸せ」というメッセージにもあるとおり、人々の「生きる意味」=「幸せになること」という考えをベースに様々なサービスを展開。現在は、アルバイト求人サイト「マッハバイト」や正社員転職サイト「転職ナビ」、不動産賃貸情報サイト「DOOR賃貸」や不動産情報サービス「IESHIL(イエシル)」、医療情報サイト「治療ノート」やビジネス比較・発注サイト「imitsu(アイミツ)」など、計11のサービスを提供している。