インターネットやPC、スマートフォンなどの多様な技術の普及は、私たちの生活を大きく変えましたが、マーケティングの世界においてもそれは例外ではありません。

従来では不可能だった生活者のデータが入手できるようになっているとともに、ビッグデータを駆使した調査手法が次々と生み出されており、「データ・ドリブン・マーケティング」や「高速PDCA」などという言葉に注目が集まっています。

しかし、これほどデータの測定が容易になったにもかかわらず、企業のマーケティング活動は順調とは言えません。その理由は、データに基づいた意思決定が困難な場合が多いからです。

今回はマーケティングデータ(数字)との付き合い方について、株式会社インテージの長崎貴裕が解説します。

◆Profile
長崎 貴裕(ながさき・たかひろ)

株式会社インテージ 執行役員 開発本部長
株式会社インテージホールディングス R&Dセンター長
株式会社IXT(イクスト) 代表取締役社長 

データ(数字)活用の大前提は変わらず

数字は入口であり、ひとつの基準です。

マーケティングリサーチは、商品開発やブランドを市場に定着させるために欠かせないものですが、現実的に使いこなすためには、恣意的な要素が入り込む隙を与えず客観的な根拠として機能させていくことが肝心です。

例えば、「好感度が何ポイント以上でなければ、次のステップ(商品化)には進まない」といった明確なルール作りが求められます。加えて、数字を読み解くためには、“経験の蓄積”が不可欠です。これがなければ、何を調査しても得られるものはだだの数字に過ぎません。

企業のマーケティングを取り巻く環境は大きく変化していますが、大前提としてのデータとの付き合い方は変わっていないのです。

数字に基づいた意思決定・・・具体的な手順は?

仮に、発売予定の「ブランドB」についてアンケート調査を実施したところ、「買いたい」という回答が3.8ポイントあったとします。
"この3.8という数字は何を意味するのか?"これを読み解くために、蓄積した経験が大きな意味を持ちます。

例えば、過去に立ち上げた類似ブランドのケースとして、「3.5の時は失敗したが、3.7ある時はうまくいった」という数字の蓄積があれば、「今回は3.8だから大丈夫」という決断に結び付けることができます。

ただなんとなく、「3.8もあるんだからちょっといい感じじゃない?」という評価では、客観的な判断とは言えません。

当然ながらマーケティングリサーチにも限界はあります。どんなに大規模な調査を実施して、「買いたい」と回答するモニターの声をたくさん集めたとしても、確実に全員が購入するわけではありません。

だからこそ、

「過去にアンケート調査を実施した際、商品Aには“やや買いたい”と“買いたい”が合計で●%あった。そこで新しい商品コンセプトを投入したら×××という結果になった。」

「●%のモニターが“また買いたい”と答えていたが、実際には他社の新製品が出るとすぐに乗り換えられた。」

こうした経験の蓄積は重要な意味を持ってきます。
一回だけの調査で良し悪しを判断するのは無理です。「調査などあてにならない」という人ほどそういうことを意識していないのではないでしょうか。

また調査は、常に同じ基準で実施することが肝心です。
例えば、ある商品を調査するにあたり、「前回はお金があったから3,000サンプルで実施したが、今回は予算を削られたため1,000サンプルで」……と、これでは比較ができないので意味がありません。