モノが売れない
そんな言葉が良く見られるようになりました。

今、多くの業界でビジネスモデルの大きな変化が起こっています。
モノを売るのではなく、サービスを売る時代へと変わってきているのです。

そうした流れの中で、製造や販売を行う企業やクリエイターは、果たしてどのような未来へ進んでいけば良いのでしょうか。

今回は、「モノ」から「サービス」へと変わり始めている背景と、これからの時代を戦うための考え方についてお伝えします。

良い物が溢れている時代

時代の流れによって、消費者と物の関わり方は大きく変化しました。
現代は、「品質が良く、コストも安い」物で溢れています。

そんな時代において、商品の品質やコストで差別化を図る戦略は限界を迎えていると言えるでしょう。商品を売る側は、改めて求められている物を見直す必要に迫られているのです。

モノを所有する時代から、サービスを利用する時代へ

今、「モノを所有する」時代から、「サービスを利用する」時代へと変化しつつあります。

今までは、購入して物を所有するところがゴールとして存在していました。
ですが、様々な要因によって、消費者のニーズが変化してきたのです。

例えば、2000年代後半に発生した経済不況が1つの要因と言えます。
先行き不透明な経済状況に直面した消費者は、購入に関する初期投資の大きい「所有」から、「サービス利用」へと意識が変化していきました。

また、スマートフォンの普及も、サービス利用への転換を促進しました。生活の中でインターネットの占める割合が非常に大きくなり、人々のつながりがより広範囲なものへと変化します。必要なときだけ、必要なものが供給されるようになったのです。

このような流れは、シェアリングサービスの登場などに見ることが出来ます。消費者の求める価値の重きは、体験へとシフトしました。「必要なときだけ使う」という考えが一般的になりつつあります。

以下に、こうした変化を象徴する事例を紹介します。

シェアリングサービスによるモノの共有

所有から利用への時代性の変化を表すものの1つが、シェアリングサービスです。
近年、新しい経済活動の形として注目されているシェアリングエコノミー型のサービスを意味します。

シェアリングエコノミーとは、個人が持っている資産(無形、有形問わず)を他の人と共有することによって成り立つ経済の形です。

今、このようなシェアリングエコノミー型のサービスが受け入れられ始めているのです。

その例として、ドライバーと乗客のマッチングサービス「Uber」が挙げられます。
このサービスは、スマートフォンのアプリを用いて、移動したい人と、時間の空いているドライバーをマッチングします。

日本では、規制などの要因から普及が遅れている状況がありますが、世界的に注目を集めているサービスです。

こうした流れは、誰もが自動車を所有した時代からの転換を意味します。移動手段は、必要な時だけ利用できれば良いのです。

マイカー保有率が極めて高かったアメリカにおいても、今後は、自動運転車によるライドシェアという形が一般的になり、マイカーの所有者が80%減少するとの研究予測も出ています。

こうしたシェアの流れは、自動車のみならず、様々な分野で注目され始めています。

参考:
「アメリカのマイカー所有者は2030年までに80%減少する」 —— アナリスト報告 | BUSINESS INSIDER JAPAN
登録してドライバーになりますか、タップしてご乗車になりますか | Uber

利用期間にお金を払う、サブスクリプションサービス

所有から利用への志向の変化を見ることができる例として、もう一つご紹介できるのが、サブスクリプション型のサービスです。

サブスクリプションサービスとは、消費者が物の数ではなく、利用する期間に対してお金を払うサービスの総称です。

事例としては、SpotifyやApple Musicなどの音楽配信サービスが挙げられます。
月に決まった金額を支払うことによって、配信に対応している音楽を好きなだけ聴くことができます。

今までは、CDを販売して購入してもらうモデルが一般的でしたが、いつでも、どこでもデータのやり取りが可能になった現代においては、自ら所有するよりも、好きな音楽に好きなタイミングでアクセス出来る手軽さと便利さが支持されてきています。

その熱は高まり続けており、2017年、Spotifyの月間アクティブユーザー数は1億4000万人を突破。年々増加を続けています。

もちろんCDをコレクションしたいという層も存在するでしょう。ですが、大多数の人にとって所有は重要ではなく、「聴く」という体験にこそ意味があるのです。

サブスクリプション型のサービスもまた、業界の垣根を越えて、出現してきています。

参考:
[Spotify For Brands] (https://spotifyforbrands.com/en-US/news/140-million-strong/)

作り手が進むべき道とは?

これまで述べて来たように、時代は確実に「利用」や「体験」を重視する流れへと向かっています。
では、このような時代において、作り手はどのような道へ進むべきなのでしょうか。

サービスを売る存在へと生まれ変わる

まず1つ考えられるのが、物を売る存在から、サービスを売る存在へと生まれ変わることでしょう。
こうした転換を行い、成功を収めた例として「Adobe」があります。

それまでパッケージとしてソフトウェアを販売していたAdobeですが、2012年4月にサブスクリプション型のサービス提供を開始。
そして、2015年には、課金収入による割合が全体の74%に達し、売上も増加します。見事、サブスクリプションモデルへの転換を果たしたのでした。

この背景には、都度ソフトを買い換える必要がない便利さ、高額な初期投資をせずに利用できる手軽さに対するユーザーの支持があったと言えるでしょう。

時代に合った形で、ユーザーが重視する「体験」をより良いものにしていく。これからの時代において、何を提供するのが大切なのかを教えてくれる事例です。

参考:
[Adobeの売上は記録破り―大企業でもビジネスモデルの根本的転換は可能だ | TechCrunch Japan] (http://jp.techcrunch.com/2015/12/15/20151212adobes-record-revenue-proves-successful-business-transformation-is-possible/)

適切に、丁寧にストーリーを伝える

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https://idontknow.tokyo/

では、作り手には「サービスを売る」という選択しか残されていないのでしょうか?
そうした疑問に対し、別の方向性を示してくれる事例もあります。それが、「idontknow.tokyo」というブランドの事例です。

このブランドの第1弾として発表された商品「HINGE」。ひらめいた瞬間を逃さず書き留めることが出来るツール、として紹介されるこのクリップボードの例から、商品作りのヒントを得ることが出来ます。

この商品は、販売側の予想を大きく超える大ヒットとなりました。そのポイントは、*「ストーリー性」*にあります。

idontknow.tokyoのWEBサイトには、このHINGEの制作秘話が掲載されています。そこでは、どのようにしてこの製品が作られたのか、商品にかける思いが綴られています。

この制作秘話が、ヒットの鍵になりました。
ツイッターにて商品を気に入ったユーザーが、制作秘話を添えてツイートしたのです。
この結果、ツイートは瞬く間に広がっていき、予想できないほどの注文が殺到します。

このブランド自体はSNSのアカウントを所持しておらず、拡散を積極的に促したわけでもありませんでした。丁寧に制作秘話を書き残したことによって、多くの人達の共感を呼び、自然発生的な拡散へとつながったのです。

この事例は、自身が本当に「欲しい」と思えるようなひたすら作り込み、その思いやストーリーを伝えることの重要性を示しています。

消費者の誰もが、広告の役割を担い得る現代。丁寧に商品を作り込み、その過程を適切に伝え、シェアしてもらえる仕組みを作ることによって、「モノが売れる状態」を作り出すことに成功した好例と言えるのではないでしょうか。

参考:
idontknow
1ツイートで商品完売! 秘密は「共感よぶ制作秘話」 - 日経トレンディネット

まとめ

「モノからサービスへ」。この変化は一部の業界に限った話ではなく、幅広い業界に伝わり始めています。

モノづくり、そして販売に携わる企業や人が生き残るためには、この流れを今一度実感した上で、進むべき道を探さなければなりません。

サービス販売型の事業へと転換するか、モノに新たな価値を付与するか、などなど。いずれにせよ、今までの価値観に縛られず、商品開発と向き合っていく必要があるでしょう。