今、誰もが当たり前のようにインターネットやスマートフォンなどのデジタルデバイスを活用する、デジタル社会が到来しています。

マーケティングにおいても、これまで主流だったテレビや新聞などのマスマーケティングから、チャットボットやメールなどを活用したOne to One マーケティングが注目され始めています。

テクノロジーを駆使し、顔も知らない一人ひとりに寄り添う手法が生まれてきているものの、対面しているようなレベルまでは至っていないと感じている方も少なくないでしょう。

テクノロジーを介したコミュニケーションは、どうしてもテクノロジーに介入されている感覚が拭えません。

しかし少し先の未来では、“テクノロジー“の感覚が私たちの生活に浸透し、テクノロジーと自然の区別がつかなくなるほど自然に近づいていくと落合 陽一 氏は述べています。

今回は、LINE株式会社主催の「LINE Biz-Solutions Day 2018 Spring」から、筑波大学准教授であり、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社の代表取締役社長の落合 陽一 氏によるプログラムポスト・スマホを見据えてのデジタルデバイスの論点〜進化するメディアとコミュニケーション〜」の内容をお届けします。

デジタルデバイスやメディアが進化するに伴い、人と技術のコミュニケーションはどのように変わっていくのでしょうか。

登壇者プロフィール

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落合陽一 Yoichi Ochiai

1987年生まれ、2015年東京大学大学院学際情報学府博士課程早期修了、博士 (学際情報学)。その後、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社創業、フェーズドアレイ技術やデジタルファブリケーション技術の開発に関わる。2015年より筑波大学図書館情報メディア系助教 デジタルネイチャー研究室主宰。2017年よりピクシーダストテクノロジーズ株式会社と筑波大学の特別共同研究事業「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」基盤長/准教授。機械知能と人間知能の連携について波動工学やデジタルファブリケーション技術を用いて探求。2015年より、一般社団法人未踏 理事、一般社団法人バーチャルリアリティコンソーシアム理事。2017年より筑波大学 学長補佐、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授。受賞歴として、IPA認定スーパークリエータ・天才プログラマー (2010年)、ワールドテクノロジーアワード (2015年)、プリアルスエレクトロニカHonorary Mention (2016年)、グッドデザイン賞 (2014年、2015年)、経済産業省Innovative Technologies賞 (2014年、2015年、2016年)、ザンガレンシンポジウム 明日のリーダー200人、ベストナレッジプール40人に選出(2017年)、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品:アート部門/エンターテイメント部門(2017年) など。

進化するメディア

絵や映像、動画などのメディアは、年々進化を遂げています。

元々、人間は壁や地面、紙に絵を描いていました。2次元上に絵を描くという行為自体は、スマートフォンが普及した今でも変わってはいません。

ただ、20世紀に入った頃から、「メディアは絵などの静止画にとどまらず、時間方向に拡張された」と落合 氏は言います。静止している絵のメディアに加えて、時系列に沿って動き出す動画のメディアが生まれたのです。

1895年、フランスの映画発明者であるリュミエール兄弟は、映像をスクリーンに投影する「シネマトグラフ」を発表しました。そしてそのわずか7年後、1902年には、同じくフランスのジョルジュ・メリエス 氏が『月世界旅行』を公開します。

現実世界の映像がスクリーンに映し出されるようになってから、舞台のセットやスタジオを作り、ストーリーでつなぎ合わせることで映画を作るということが、ごく当たり前になったのです。

「メディアが時間方向に進化して、それで終わりかといえばそんなはずはない。皆さんもスマートスピーカーのような音と光に関する技術が、単純に液晶の板ではなく違うアプローチで出てくることに抵抗感はなくなってきているでしょう。今日はそんな話をしていこうと思います。」(落合 氏)

2次元が3次元に広がると、ものの見方や情報量が増える

2016年に開かれた特別展「カナヘイのゆるっとタウン ~小動物のいる街に みんなを魔法でご招待~」で、落合 氏はイラストレーターのカナヘイ 氏とコラボした作品「三次元物質アニメから二次元映像を作る装置・ゾートログラフ」を披露しました。

参考:
大人気イラストレーター・漫画家「カナヘイ」初の特別展「カナヘイのゆるっとタウン」オープニングセレモニー開催・メディアアーティスト「落合陽一」氏とのコラボ作品も!|PRTIMES

「ゾートログラフ」とは、回転させた円筒の内側に描かれた絵を見ると、まるで動いているかのように見える「ゾートロープ(回転覗き絵)」と、「キネマトグラフ(映画)」を組み合わせた作品です。

3Dプリンターで作られたキャラクターが映写装置に入って2Dのアニメーションになり、再び3Dのキャラクターとなって戻っていきます。

「我々がこれまで2次元で見ていたのは、すごく小さくて限られた世界だった。それが3次元に広がると、ものの見方や方向性が大きく変わって、情報量も増える。すると、これまでは画面の中で動いているだけだったキャラクターたちも『生活の中にいてもいいよね』って、そんな世界観がつくられていくんだと思っています。」(落合 氏)

“フレーム”で切り取られた自然を、“フレーム”の外へ

これまで、画面やフレームの中だけに存在していたものを、どう現実世界に引き出すかという観点で、落合 氏は2017年に開催された「Media Ambition Tokyo」で、「Levitrope(レヴィトロープ)」という作品も発表しています。

「Levitrope」は、「Levitation(浮遊)」と「Trope(回転)」をかけ合わせた造語です。

銀色の球体には、周りの映像が張り付いたように映し出されています。球体が地面に接してしまうと接地面が映ってしまうので、空中に浮遊させ、全ての映像を美しく映し出しています。

参考:
Levitrope|Digital Nature Group

我々が“待ち構えていないもの”をコンテンツに

2016年の「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」では、廃校を活用し、「コロイドディスプレイ」と「幽体の囁き」という作品を披露しました。

参考:
コロイドディスプレイほか|KENPOKU ART 茨城県北芸術祭

コロイドディスプレイ」は、半透明の膜に超音波を当てて細かく振動させ、光を乱反射させてディスプレイにする技術です。廃校の窓から差し込む日光に反射して、青いモルフォ蝶が羽ばたくように点滅します。

幽体の囁き」は、特定の範囲にいる人だけに音が聞こえる超指向性スピーカーで、教室の環境音を再生成した作品です。校庭に並べた机と椅子の中にたたずむと、教室内のざわめきが聞こえてきます。

「椅子と机は倉庫から出して並べたんですけど、近くで見るとなんか、情念がすごいんですよ。夕方に設営したときはちょっと怖かったですね(笑)」(落合 氏)

これまで私たちは、映画やお化け屋敷のように「待ち構えているもの」をコンテンツと捉えていました。

しかし近年では、今回の作品のように「待ち構えていないもの」、その場のその瞬間に生成されるものがコンテンツとして世の中に出てきていると、落合 氏は語ります。

高解像度の“映像”を、人は“物質”だと捉える

2015年、筑波大学でのプロジェクト「Fairy Lights in Femtoseconds」では、落合 氏にとって興味深い出来事があったそうです。

「Fairy Lights in Femtoseconds」は、「フェムトレーザー」という強力なレーザーによって、プラズマの絵を空中に描き出すプロジェクトです。フェムトレーザーは、非熱加工のためのレーザーで、半導体の基盤の切断、レーシック手術などに使われています。

「このプロジェクトの取材に来たアナウンサーが、作品を見て『浮いてる!』って言ったんですよ。例えばこれが映像だったら、『なにか光ってる』なんて表現をすると思うんです。彼女はこの絵を、『物質』として認識している。解像度が高いものが目の前に現れると、人は物質的に捉えるんだと気付きました。」(落合 氏)

デジタルは生活の中に自然と取り込まれていく

これまで、スピーカーや液晶は一様に音や光を出していました。しかし、ホログラム技術を活用することで、ある特定の空間だけで音や光を出すということができるようになりました。

ホログラム技術は、今は主にアートとして受け入れられているものの、これからは生活の中に自然と取り入れられていくと落合 氏は言います。

どこまでが“デジタル”で、どこからが“アナログ”なのか?

ホログラム技術のように、様々な技術が生活の中に取り入れられるようになると、人々は「どこまでがデジタルで、どこからがアナログなのか」区別がつかなくなってくるかもしれません。

これから生まれてくる世代は、そもそもそんなことを気にすることもないでしょう。

「生まれて10ヶ月になる僕の子どもが、iPadの画面に映ったドラムの上で手を握ったり開いたりすると、音が鳴ります。だから本物のピアノの上でも同じことをするんですけど、ピアノは鳴らない。今度は木琴をバチで叩いていたかと思えば、iPadをバチで叩き出す。でも、鳴らない。

彼の中では今壮大な自己矛盾が起こっているはずですけど、恐らくもう少しすれば解消されて、それが自然になっていくでしょう。元々コンピューターグラフィクスっていうのは、『どうやってフィジカルな世界を真似するか』がキーワードなんです。」(落合 氏)

デジタル技術によって、世界のあらゆる物は交換可能になる

上の動画は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究のひとつです。ハイスピードカメラで撮影した植物の葉のわずかな振動を計測し、その空間に流れていた音を復元しています。

光は音に影響し、音は光に影響しているという「交換性」は、この研究のように、コンピューターによって記述できるようになることが分かります。

ただ、その交換性の境界は、未だに明確にはなっていないようです。

「例えば、僕はタイムチケットで時間を売れます。僕の時間と物が交換可能かと聞かれれば、一度お金にすれば交換できる。逆に言えば、ホログラムで存在している僕と現実の僕がどう違うかというと、多分光の面では同じかもしれないけど、ひょっとしたら赤外線では見えないかもしれない。

そんな風に、どこまでは交換可能でどこまでが交換不能で、どこまでは物理的に存在していて、どこまでが物理的に存在していないかというのは、しっかり考えられてはいない。」(落合 氏)

落合 氏は、デジタル技術によって世界のあらゆる物の交換性を高めることで、人間がイルカのような存在に近づくことを目指しているのかもしれない、と言います。

「イルカは音で周囲を認識して、音で他のイルカに情報を伝えられる。だけど、我々は光で情報を認識しても、声でしか伝えられない。

僕が目で見たものを、一発で他人の目の奥にあてられたらいいのに、その機能を僕らは持っていないんですよ。ただ、映像を相手に直接出力できたり、音声のコミュニケーションを相手の耳に直接与えることができたりすれば、それは実現できるかもしれない。」(落合 氏)

テクノロジーによって、“人為的な社会”から“自然的な社会”に近づいていく

テクノロジーの進化によって、デジタル技術はより私たちにとって自然なものへと変わりつつあります。

壁に絵を描いていた時代は、その図面やフレームの中でどのようにコミュニケーションをとるかを考えていました。映像をスクリーンに投影していた時代は、どのようにデザインし、コンテンツにして消費するかを考えていました。

そして今は、テクノロジーの進化により、一人ひとりが違う音や光を感じることができたり、違うコミュニケーションをとれたりするようになっています。

「僕らが今すごく燃えているのは、この“フレームがなくなった世界で、どのように物質の構造や生物の性質といった情報を交換するか”という課題。それが解決するにしたがって、我々の社会は“人為的な社会”から“自然的な社会”に近づいていくんじゃないかと思っています。」(落合 氏)

「再魔術化時代」の到来

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落合 氏は、現代を「再魔術化時代」の到来だと考えています。

近代以前の時代は、実体のないものを魔術だと捉える「魔術化の時代」でした。例えば、食物に火を通すと長持ちすることを、「火は“浄化”するもの」だと考えていたのです。

しかし、科学が進歩すると「火は細菌を殺すもの」であると、根拠を明確に説明できるようになりました。正体の知れない“魔術”は少しずつ潰えていき、「脱魔術化」します。

そして現代では、誰もが複雑なテクノロジーを、その仕組みを知ることなく使いこなしています。普段仕事で使っているパソコンの仕組みを詳しく説明できる方は少ないでしょう。

テクノロジーの仕組みや原理は理解できないけれど、生活には根付いていて、多くの人が当たり前のように利用している。その時代を、落合 氏は「再魔術化時代」と呼びます。

「この魔術を超えた先、多分僕らはより自然に近づいていくんじゃないかなと思っています。ここでいう自然とは、“ロハス”とか“野に帰る”とかではなくて、今ある自然な状態と、人工的な自然の区別がつかなくなるということ。

コミュニケーションツールも、そんな風に画面や既存のもののフレームを飛び出して、デジタルと自然が融合したものに変わっていくんじゃないかと思います。」(落合 氏)

まとめ

スマートフォンに代表されるように、デジタル技術が進化・普及するにつれて、人々は当たり前のようにその技術やデバイスを日常生活の中で使いこなしています。

そのテクノロジーが生活に浸透すればするほど、私たちはその“テクノロジー”と、これまでの生活において当たり前だった“自然”の境界を曖昧なものにしていくでしょう。

顧客とコミュニケーションをとるとき、自社のサービスがいかに“フレーム”を飛び越え、顧客の日常生活に浸透しうるか、当たり前の存在になるかが、今後は大きな課題となってくるのではないでしょうか。