「終わりよければすべてよし」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。
それまで低評価を受けていたとしても最終的に高評価を得たことで、全体としてみると好印象を与えていた、ということです。

これは「ピークエンドの法則」で説明されるもので、人の記憶は経験を細かいエピソードではなく、ピーク(絶頂期)とエンド(最終局面)でどのような印象を持ったかで、よい経験だったか、あるいは悪い経験だったかを判断していることが原因です。

今回は、ピークエンドの法則の概要と、ビジネスにおいて活用できる3つの場面を紹介します。

ピークエンドの法則とは

ピークエンドの法則とは、行動経済学者のダニエル・カーネマン氏が1999年に発表した論文の中で提唱した人々の評価基準に関する法則です。人はほとんどの経験をピーク(最も感情が高ぶった瞬間)とエンド(最後の印象)の度合いで判断するということを意味しています。

この法則は、被験者に以下の2パターンを体験してもらった後に、AとBのどちらであれば再度行ってもよいかヒアリングする、という実験から導かれています。

A:痛いほど冷たい水に60秒のあいだ手を浸している。
    
B:痛いほど冷たい水に合計で90秒のあいだ手を浸している。はじめの60秒間はAの時と同じ冷たさで、つぎの30秒間は温度が少し上がり、痛いほど冷たいのは同じでも、いくらかは和らげられる。

この実験では、Aの方が冷水に手を浸すという「苦痛」の時間が短いにもかかわらず、Bを選択した被験者が80%以上、という結果になりました。
これは、Bのほうがエンド(少し温度の上がった30秒間)の印象がよかったことが原因です。
つまり、体験の「時間」よりも、最終的に「心によい印象が残ったかどうか」で、全体の印象が判断されているということです。

参考:
マッテオ・モッテルリーニ著・泉 典子訳(2008).「経済は感情で動く : はじめての行動経済学」紀伊國屋書店

ピークエンドの法則の活用例

1.購買行動の促進

ユーザーが商品やサービスを購入するかどうかは初見の印象が大きく影響します。
これは「確証バイアス」という心理学効果で説明される事象で、一度先入観を持つとその後新しい情報が入ってきても、無意識に先入観に合わせた情報を拾いやすくなるからです。

ユーザーになるべく好印象(購買動機)を与えた上で、最後のひと押しで購買を促進するためには、自社が展開しているビジネスをストーリーとして捉えることがポイントです。

例えば、あるWebツールの導入についてストーリーでは、ユーザーの目線から見ると大まかに以下のストーリーが考えられます。

営業を受ける、ツール説明→導入の社内検討→導入サポートを受ける→実際に使用する→使用中のトラブル等のサポートを受ける

このストーリーの中で、例えば「ツール説明」をピークに、「使用中のトラブル等のサポートを受ける」をエンドとして設定します。

ピーク:ツール説明時にはツール導入後にどれほどユーザーが便利に感じられるかを引き込み力のあるプレゼンテーションを行って説明し、あわせて実際にデモを触ってもらって体感してもらう
エンド:販売までだけではなく、導入後にツール使用中のトラブルにも丁寧かつ迅速に対応する

これで、ユーザーはツールを導入して業務を効率よく行えるようになるという期待(ピーク)と、その後の手厚いサポートへの感謝(エンド)から企業全体に対する印象がよくなります。その結果として、Webツールを長期的に導入してくれたり、同社のほかの製品やサービスの購入を検討してくれたりなどの効果が期待できます。

参考:
理由に基づく選択理論とは?たった1つの機能でも商品は選ばれる方法を解説|ferret [フェレット]

2.情報発信やプレゼンテーション

ピークエンドの法則の活用は、メディアでの情報発信やプレゼンテーションでも大きな効果が期待できます。
商品やサービス開発とは異なり、情報発信やプレゼンテーションでは「ストーリー」を企業側がユーザーに直接提示できるため、ピークとエンドを設定しやすいからです。

結果、企業とユーザーの間に「ピーク(またはエンド)」の認識の乖離が生まれにくくなります。

ピークエンドの法則を活用するためには、ピークとエンドのポイントをどこに置くかが重要です。基本的には、最も伝えたいポイントにピークを、最後のひと押しにエンドを置く構成を心がけましょう。
なお、全体をどのような文章構成にするかによってピークの置き方は少し異なるので注意してください。

以下、構成別のピーク、エンドの置き方を解説します。

三段構成の場合

三段構成とは、序論、本論、結論から成り立つ文章構成です。
構成がシンプルで、様々な場面で使用しやすいことが特徴です。
三段構成においては、序論で提起された内容に説得力が増していく「本論」にピークを、「結論」にエンドを合わせることがおすすめです。

四段構成の場合

四段構成とは、起承転結で成り立つ文章構成です。
物語の一般的なストーリー構成であり、プレゼンテーションなどで活躍します。
四段構成においては、ストーリーが盛り上がる「承」にピークを、「結」にエンドを合わせます。

四段構成では、エンドが最も盛り上がります。場合によってはピークとエンドがほとんど同じになることもありますが、エンドを強調することを意識しましょう。

三段構成、四段構成については、以下の記事で紹介していますので参考にしてください。

参考:
読みやすい文章構成にするなら知ってて当たり前!文章の4つの型を解説|ferret [フェレット]

穴埋め文章作成法の場合

穴埋め文章作成とは、オープニング、テーマ、ベネフィット、プレミス、バックグラウンド、プルーフ、コンクルージョン、ベネフィット、ベイビーステップの項目を埋める形で文章を作成する方法です。ユーザーに何かしらの行動を促す際に効果のある文章構成となります。

穴埋め文章作成では、「プレミス」をピークに、「コンバージョン」をエンドに置きます。
記事を読んだ後に読了感をもたせたり、プレゼンテーションに対して好印象を与えたりなどの効果が期待できます。ユーザーに寄り添うスタンスを取りたい場合におすすめです。

穴埋め文章作成法についての詳しい説明は、以下の記事で紹介していますので参考にしてください。

参考:
読者に態度変容を促すならこの構成がオススメ!「穴埋め文章作成法」とは|ferret [フェレット]

3.営業や訪問、アポなど

「去り際が肝心」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。
去り際は、その人の人間性が垣間見えやすいものです。
つまり、去り際(エンド)の印象をよくするよう心がけることで、相手からの評価をより高めることができます。

ビジネスに置いても、クライアントとの打ち合わせやお客様の訪問時、去り際まで気を抜かずよい印象を残せるようにしましょう。

まとめ:ピーク・エンドの印象を大切に

ピークエンドの法則は、ポジティブな方向だけでなくネガティブな方向にも働きます。

例えば企業の謝罪会見などで、どんなに真摯に説明を行ったとしても、その後たった一言だけ失言してしまったことでその会見の印象が悪くなることがあります。これは失言が「ピーク」として記憶に残ってしまうことが原因です。

一般的に人々はよい体験よりも悪い体験をよく記憶し、共有したくなるものです。ピーク・エンドに悪い印象が残らないように注意しましょう。