桐生選手に学ぶ「個人の成長」が持つ力

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では、個人として、桐生選手はいったいどのくらい努力を積み上げたのでしょうか。あくまで記事や報道をベースに読み解いてみたいと思います。

100mを約10秒で走るということは、0.1秒は1mに、0.01秒は10㎝に相当します。桐生選手の自己ベスト(当時)が10秒01を9秒98に塗り替えたということは、0.03秒短縮したことになります。距離にして30㎝、それを約47~48歩というストライドで割ると、1歩当たり約6㎜ずつストライドを伸ばしたわけです。

素人の単純計算が正しいかはわかりませんが、自己ベストが更新できない4年間の中で、様々なトライアンドエラーを繰り返し、1歩6㎜という血の滲むような努力があったのだと思います。そしてそれは桐生選手に限らず、他のリレーメンバーも同様の努力をし、いつ9秒台を出してもおかしくないと言われるレベルに差し掛かっているわけです。

桐生選手は短距離種目(100m)の選手であるため、決してリレーのためだけに個人練習をしているわけではないでしょう。しかし、この事例は「チームワークのベースは個人の成長にあり」ということを示してくれています。

個々人の努力がメンバー同士に刺激を与え合う

1マイル4分の壁という興味深い話があります。為末大氏の著書『限界の正体』などで紹介されていますのでご存知の方もいるかもしれません。1マイル1,604mを4分未満で走ることは数十年に渡って「人間には不可能」とされ、当時はエヴェレスト登頂や南極点到達よりも困難だと言われていたそうです。

そんな中、1954年、医学生だったロジャー・バニスター選手が、トレーニングに科学的な手法を導入し、3分59秒4の記録を打ち立て、不可能と言われていた4分の壁を打ち破りました。数十年に渡って不可能と言われてきた4分の壁ですが、不思議なことにバニスター選手が4分を切ってから1年の間に、なんと23人もの選手が4分を切ることに成功したというから驚きです。

桐生選手が、長年の日本人の夢だった9秒台を樹立した今、ここ数年の間で何人かが9秒台を出す可能性は高いのではないかと思います。そして、これもチームワークの産物だと言えるのではないでしょうか。チームのメンバー1人1人が成長しようと努力をし続けた結果、そのうちの1人が大きな壁を乗り越えることに成功した。

その偉大な記録に刺激を受け、勇気づけられたチームメイトが次々と記録を打ち立てる。日本の陸上短距離界にそんな正のスパイラルが生まれたとしたら、2020年東京オリンピックでリレーチームがまた大活躍する可能性が高まります。

まとめ:互いの強みを最大化するチームワークへ

チームといえども、それを構成しているのは個人です。メンバー1人ひとりの成長がいかに大切かお分かりいただけたと思います。チームワークは、お互いの弱みを補完する関係と言うことができますが、お互いの強みを引き出し相乗効果(シナジー)を生みだすものだと言うこともできるわけです。単に弱みを補うだけのチームワークから、強みを最大化するチームワークへ、そのベースは個人の成長にあります。

昨今のビジネスシーンでは、チームの概念も多様化してきていると思います。長期間ずっと時間を共にする部署単位のチームだけでなく、専門性の高いメンバーが集まりプロジェクトの終了とともに解散するような短期的なチームもあります。それぞれに適した取り組みが必要です。

例えば、前者の場合は、長期的なチームなので人間関係もぬるま湯になりやすく、できるメンバーに頼ってしまい個人の成長が疎かになりがちです。一方で後者の場合、能力の高い人が集まっているわけですから、より大切にすべきは連携面や組織力だと考えられます。チームワークの定義を理解した上で、チームの特徴に合わせたアプローチが求められます。