「チームワークが良い」と聞くと、皆さんはどのような状態をイメージしますか?

「メンバーの仲が良い」
「コミュニケーションが取れている」
「連携がスムーズ」

などといった答えが一般的だと思います。

つまり、個々を上手にブレンドし、組織力や連携面が整った状態と考える方も多くいるのではないでしょうか。確かにその通りだと思います。

しかし私は、それだけだと答えとしては50点だと考えています。なぜなら、現状の戦力でどうやりくりするか、だけに関心が向いてしまう恐れがあるからです。

言い換えれば、個々の弱点を連携や組織力で補ってごまかすようなチームができあがってしまうかもしれないということです。

「個人の成長」と「組織」の関係性

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本当に良いチームは、メンバー1人ひとりが成長するための努力をし、その上で連携や組織力を高めようと考えていると思います。チームワークを語る上で「個人の成長」「個人の努力」は欠かせません。厳しい言い方になりますが、努力をしないことはチームワーク違反だとさえ考えています。

そこで改めて、色々な解釈があるチームワークという言葉を整理してみます。ここではチームワークを「チームの要求レベルに達するために自己責任で努力を続けた上で、技術的・精神的・身体的な協力体制が整備された状態」と定義したいと思います。

この共通認識がないまま「チームワーク」という言葉を多用すると、連携面ばかりがフォーカスされてしまい、最も重要な「個人の成長」が軽視されるチームになってしまうかもしれません。

4×100mリレー日本人選手たちのチームワーク

個々の努力の積み上げとチームとしての連携、その両輪で結実したチームワークの事例があります。陸上の4×100mリレーです。以前もこの記事でリレーについては触れたことがありますが、今回は個々の努力がチームワークを下支えしている、という視点で見ていきましょう。

リオデジャネイロオリンピックの4×100mリレーで、日本は見事に銀メダルを獲得し、世界を驚かせたことは記憶に新しいと思います。

100m個人では決勝のレースに残ることも難しい、また(当時は)誰1人として10秒の壁を破れなかった、そんな日本人がチームになると銀メダルを獲ることができる、その連携面を世界が賞賛したのだと思います。

確かに、様々な記事や報道をみても、バトンパスの研究には余念がなかったことが伺えます。自分たちの生命線は唯一「バトンパスである」という考えが全員一致していたことは明らかでしょう。

参考:
"北京で銅"と"リオで銀" なぜメダルを獲得できたのか?「陸上競技4×100mリレー」から見るチームビルディングのヒント【スポーツ×ビジネス】|ferret [フェレット]

1人ひとりの努力がチーム成長の前提となる

しかし、連携面ばかりがクローズアップされる一方で、個人が努力を続けてきたことも事実でした。それを証明したのが、2017年9月9日の桐生祥秀選手の記録です。高校時代に10秒01という日本歴代2位の記録を叩き出した桐生選手は、その後何度も10秒の壁に跳ね返されながらも努力を続けてきた結果、9秒98という記録を出すことができました。

今もなお、桐生選手に続いて9秒台を狙える選手が何人かいるのも事実です。私は、個人の成長、個人の努力が、4×100mリレーの銀メダル獲得を下支えしていたのだと確信しています。

9秒台を出したのは結果的にリオデジャネイロオリンピック後になりましたが、その継続的な努力がメダル獲得に繋がっているのです。メンバー1人ひとりが成長し続けることを大前提としながら連携面を追求していく、それがリオでの銀メダルを生んだことは間違いありません。

桐生選手に学ぶ「個人の成長」が持つ力

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では、個人として、桐生選手はいったいどのくらい努力を積み上げたのでしょうか。あくまで記事や報道をベースに読み解いてみたいと思います。

100mを約10秒で走るということは、0.1秒は1mに、0.01秒は10㎝に相当します。桐生選手の自己ベスト(当時)が10秒01を9秒98に塗り替えたということは、0.03秒短縮したことになります。距離にして30㎝、それを約47~48歩というストライドで割ると、1歩当たり約6㎜ずつストライドを伸ばしたわけです。

素人の単純計算が正しいかはわかりませんが、自己ベストが更新できない4年間の中で、様々なトライアンドエラーを繰り返し、1歩6㎜という血の滲むような努力があったのだと思います。そしてそれは桐生選手に限らず、他のリレーメンバーも同様の努力をし、いつ9秒台を出してもおかしくないと言われるレベルに差し掛かっているわけです。

桐生選手は短距離種目(100m)の選手であるため、決してリレーのためだけに個人練習をしているわけではないでしょう。しかし、この事例は「チームワークのベースは個人の成長にあり」ということを示してくれています。

個々人の努力がメンバー同士に刺激を与え合う

1マイル4分の壁という興味深い話があります。為末大氏の著書『限界の正体』などで紹介されていますのでご存知の方もいるかもしれません。1マイル1,604mを4分未満で走ることは数十年に渡って「人間には不可能」とされ、当時はエヴェレスト登頂や南極点到達よりも困難だと言われていたそうです。

そんな中、1954年、医学生だったロジャー・バニスター選手が、トレーニングに科学的な手法を導入し、3分59秒4の記録を打ち立て、不可能と言われていた4分の壁を打ち破りました。数十年に渡って不可能と言われてきた4分の壁ですが、不思議なことにバニスター選手が4分を切ってから1年の間に、なんと23人もの選手が4分を切ることに成功したというから驚きです。

桐生選手が、長年の日本人の夢だった9秒台を樹立した今、ここ数年の間で何人かが9秒台を出す可能性は高いのではないかと思います。そして、これもチームワークの産物だと言えるのではないでしょうか。チームのメンバー1人1人が成長しようと努力をし続けた結果、そのうちの1人が大きな壁を乗り越えることに成功した。

その偉大な記録に刺激を受け、勇気づけられたチームメイトが次々と記録を打ち立てる。日本の陸上短距離界にそんな正のスパイラルが生まれたとしたら、2020年東京オリンピックでリレーチームがまた大活躍する可能性が高まります。

まとめ:互いの強みを最大化するチームワークへ

チームといえども、それを構成しているのは個人です。メンバー1人ひとりの成長がいかに大切かお分かりいただけたと思います。チームワークは、お互いの弱みを補完する関係と言うことができますが、お互いの強みを引き出し相乗効果(シナジー)を生みだすものだと言うこともできるわけです。単に弱みを補うだけのチームワークから、強みを最大化するチームワークへ、そのベースは個人の成長にあります。

昨今のビジネスシーンでは、チームの概念も多様化してきていると思います。長期間ずっと時間を共にする部署単位のチームだけでなく、専門性の高いメンバーが集まりプロジェクトの終了とともに解散するような短期的なチームもあります。それぞれに適した取り組みが必要です。

例えば、前者の場合は、長期的なチームなので人間関係もぬるま湯になりやすく、できるメンバーに頼ってしまい個人の成長が疎かになりがちです。一方で後者の場合、能力の高い人が集まっているわけですから、より大切にすべきは連携面や組織力だと考えられます。チームワークの定義を理解した上で、チームの特徴に合わせたアプローチが求められます。