働き方改革が推進される中、「社員に働きやすい環境をいかに作るか」に力を入れる企業は増えているでしょう。残業や会議の削減、新たな休暇制度の導入など、各社様々な工夫をしています。

とはいえ、企業は組織であり、自由な働き方を推進するだけでビジネスが成長する訳でも採用できる人員が増えるわけでもありません。

今回は、リゾートワークや朝ごはんの提供、有給休暇を多くするなど、ユニークな社内制度を導入している株式会社ヌーラボの人事 安立沙耶佳氏にインタビュー。

制度を導入した理由やそれが企業に与える影響、さらに内定承諾率94%を実現しているという採用に関してもお伺いしました。

安立 沙耶佳氏プロフィール

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安立 沙耶佳(あだち さやか)
株式会社ヌーラボ HR

1989年新潟県生まれ。通称Angela(アンヂェラ)。大学卒業後は、人材会社でスタートアップ〜メガベンチャーを担当するリクルーティングアドバイザーに従事。その後、ITエンジニア向け新規事業の渉外・ビジネス開発を担当し、2016年11月に株式会社ヌーラボに人事として入社。現在は、東京事務所に籍をおきながら、福岡にも出向き、国内全域の人事業務(評価、制度、採用)を行なっている。趣味はドラム演奏。

リゾートワーク実施の背景

ferret:
ヌーラボさんはユニークな社内制度をたくさん実施していらっしゃいますよね。とくに気になったのは10月に開始している「リゾートワーク」です。

こちらは具体的にどのような制度なのでしょうか?

参考:
ヌーラボ、「リゾートワーク制度」を始動–社員の宮古島におけるリモート就業を支援する社内制度

安立氏:
リゾートワーク制度は、会社が旅費を負担して宮古島で仕事をしてきてもらう制度です。補助は本人だけではなく、同行する家族にも一律同じ金額で手当が出ます。実はこのリゾートワークには現地で仕事をするだけではなく、「宮古島の小中学校で授業をしてくる」という条件も付いているんです。決して、ユニークな制度にしたかった訳ではありません。

ferret:
なるほど。ただ旅行してリラックスしながら仕事をしてきてください、という制度ではないのですね。現地で授業をしてくる取り組みにはどのような狙いがあるのでしょうか。

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安立氏:
ヌーラボのメンバーは98%ぐらいが中途入社です。メンバーそれぞれ仕事のスキルを持った状態で入社してくるので、教育研修などの制度を考えたことはありませんでした。とはいえ社内で共通の社内制度を考えたとしても、学びたいテーマには差があります。だから一律座学で研修を設けるのはできないなと思ったんです。

その方法として、「先生として教える機会を設ける」というのは有効なのではと考えました。先ほども言った通り、入社の時点で担当領域のスキルはあります。でもマネージャーや教育担当になった時に必要なスキルはまた違ってきますよね。それはマネージャーになってみないとわからないこともたくさんあると思うんです。学校で先生をしてみて、自分の仕事を人に伝えてみることで教育研修の代わりにもなります。自分の仕事を客観的に見直す機会にもなるのではないかと思い、実施をしています。

ferret:
実際にリゾートワークを開始してみて、反応はどうですか?

安立氏:
普通に会社で働いていると、人前で何かを発表する機会って意外と少ないと思うんです。でも人前に立ち、人に教えるからこそ思考が整理されるってことはありますよね。慣れない中で色々な新しいことをやっていける、その機会を社員に与えるということはできているのかなと思っています。改めてヌーラボってなんだっけ、自分の仕事ってなんだっけと人に説明する事は、みんなの中で新しい視点になってるような気はしますね。

平等に働きやすい環境を構築するための休暇制度

ferret:
ヌーラボさんの社内制度でもうひとつ気になったのは、「他社よりも有給休暇が多い」という点です。もちろん雇われる側として、同じ報酬をもらえるのであれば休みが大いに越したことはないのですが、もちろんそれは短い時間で成果が出る、つまり生産性が高いことが前提になってきますよね。

安立氏:
ヌーラボのツール自体が、「業務を効率的に、かつ楽しくコラボレーションする」というところをテーマにしています。なので社風として、「ヌーラボのツールを使うから効率的に仕事ができるよね」というストーリーでやっているというのはありますね。

現在のシステムだと、入社日の時点で有給休暇が10日、それから1年後には20日ずつ有給休暇がつきます。

ferret:
一般的な有給休暇のシステムと比べると多いですよね。
有給休暇を多く付与していることに理由はあるのでしょうか?

安立氏:
じつは海外出身のメンバーや子育て中メンバーのライフスタイルを考慮した結果なんです。

例えば、海外出身のメンバーが里帰りをしようとすると、国内メンバーの2倍ぐらい日数がかかるじゃないですか。そういった人たちが普通に里帰りしてまた戻ってきてという生活を送れるような会社でありたいんですよね。子育て中のメンバーに関しても、やむを得ない休みがどうしても増えてしまうこともあると思います。

じゃあそれを特別扱いしているよりも、それをベーシックにして合わせていった方がいいよねという判断なんです。

ferret:
様々な人がいるからこそ、それぞれ平等に働きやすい環境を構築するための休暇制度ということですね。ヌーラボさんの場合、休暇もしっかりとって、さらに残業も前提としない働き方をしているということですから本当にすごいですよね。

安立氏:
ヌーラボの代表も話しているのですが、「残業して成果が高い」というのはただ勤務時間に比例しているだけなので当たり前といえば当たり前ですよね。本当に優秀なのは、早く帰って成果が出せる人な訳で。「最後までいた人が頑張っている」ではなくて、そういった考えに捕らわれることなく成果を出している人を評価できる環境にあるのはいいことだなと思っています。

特にヌーラボの場合だと、「これをやったら売上が変わる」みたいなことがあまりないんですよね。もう一軒アポに行けば売上が上がる可能性が高いってこともないですし。例えば全員残業時間を30%アップすれば売上も30%上がるかというとそういう仕事ではないので、むしろ全員が今月休んで売上が出てくれた方が利益率って上がるわけじゃないですか。

ferret:
自社サービスに合った働き方を実践しているというわけですね。

安立氏:
そうですね。効率よく働き、それを評価する文化があるからこそ、というところですね。

発信が大事とは言うけれど…何をどう発信するべき?

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ferret:
人事の大切な役割のひとつ「採用」についてお伺いいたします。

最近は人材業界の売り手市場が続いていて、なかでもIT人材の確保にはどこも苦戦をしている状態ですよね。内定承諾率94%を実現しているヌーラボさんではどのような工夫をしていらっしゃるんでしょうか?

安立氏:
採用について、「2名採用したい時は2名から応募が来ればいい」と思っています。だからなるべくたくさんの方に応募して欲しいというようには考えてないんですね。その方がお互い効率が良いですから。

ferret:
そうですね。たくさん応募がきたらそれだけ人にも会う必要が出てきますもんね。

安立氏:
そうなんです。なので数をさばくことを考えるのではなく、しっかりとヌーラボと向きあってくれそうな人に会えるようにしていくことが重要だと思っています。そのためのアンテナとして、情報を開示していく必要があるんです。候補者の方が応募する前に、「ヌーラボってこういう会社なんだ」「他の会社とはここが違うな」というのを、なんとなくでもいいので感じてもらえるような設計にはしています。

ferret:
なるほど。おそらく採用のための施策として、「企業からの情報発信」というのを重要視している企業は増えているなと感じる一方で、「じゃあどんな情報でもとりあえず発信すればいいのか」という問題もありますよね。

「開示する情報の選択」については、どのように考えているのでしょうか?

安立氏:
「私たちにしか書けないものか」というのはすごく考えています。例えばですけど、イベントレポートなど、ヌーラボでなくても書けるものですよね。なので最近はあまり書いていません。あとよくWantedlyなどに掲載される社員インタビュー。サクセスストーリーは他社との差別化が難しいために、そんなに力を入れていません。

力を入れて発信するようにしているのはヌーラボの考え方、特に書くのが難しいニュアンスの部分なんていうのは、あえて力を入れて書き出すようにしていますね。

ferret:
とにかくたくさんの情報を発信すれば良い、という考えとは違うのですね。

安立氏:
はい。実際にWantedlyをたくさん更新しているということもありません。「Wantedlyで記事を更新したらこんなに応募が集まりました」「一番上の部分に掲載されてました」っていうのは本質的ではないと思っていて。それってどれだけ採用の工数がかかっているの?って話にもなりますよね。それで500人から応募がきたとして、500人と面接するのか?落とさなければいけない人数が増えたら、会社にファンだって付きにくくなってしまいます。

ferret:
確かに不採用者が増えるのはプラスに思えませんね。当たり前ですが、見落としがちなことかもしれません。最近は採用が難しくなっている関係でとにかく応募を集めようという流れがあるように思えますが、安立さんの話を聞いていると必要な人材のみに的確にアプローチできれば十分ということですね。

安立氏:
もちろん応募数に関してはこのくらいあったらいいなという目安はあります。ですが、応募数を追うということはしていません。応募数を上げるために動くよりも、一発で決まった方がいいと思っていますので。また採用に関しては待つだけでなく、こちらから積極的に声がけも実施しています。私たちのことを100%知ってもらえていると思っていないので、そのつもりで採用には携わっていますね。

「採用」だけではない。全体を設計する「人事担当」

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安立氏:
私は前職で採用エージェントをしていた時期があったのですが、エージェントって何万社の求人を扱っているので推薦を出せる企業はごくわずかです。認知度がある会社でも、それだけではなかなか推薦を出せないということもよくあり、「どうして認知度があるのに募集が来ないのか」なんてこともよく言われていました。

いざ私がヌーラボに入社して採用する側になって思ったことが「エージェントに対して推薦出してくださいって絶対に言わないぞ」ってことなんです。エージェントに推薦を出してくれってお願いするのではなく、エージェントから推薦が出るような企業にする方が先かなって思ったんです。

いい会社を作って、いい会社であることを発信して、人を採用する。そこで採用した人にまたいい会社だと思ってもらうことでさらに発信をしていく、人事はこのサイクルを回していく必要があります。だから本来は「いい会社を作って発信する」ことに注力すべきであって、「推薦を出してもらって募集がたくさん来て欲しい」っていうのは最後かなと思うんです。

「採用担当」という言い方をすると採用の部分だけしか注目しなくなってしまいますが、ヌーラボの場合は私が人事一人目。全体を設計できる人事担当として入っているので、そこに注力していきたいですね。

ferret:
応募数よりも先にやるべきことがあるだろうと?

安立氏:
商品をどうやって見せるかってことよりも、そもそも見せる商品が微妙だったらダメだよねってことですね。商品自体をよくしていく活動にどれだけ自分が時間を割けるか。そういうことが大事なのではないかなと思います。