音楽、映像、洋服や車のレンタル、使い放題・食べ放題サービスなど、様々な事業でサブスクリプションを展開する企業が増えています。

Webや情報番組で注目されている定額制テイクアウトランチサービス「POTLUCK」を展開する株式会社RYM&CO. 代表取締役 谷合竜馬氏に、ランチタイムの食事に着目してサブスクリプションモデルを取り入れた理由や「ランチタイムが待ち遠しくなる」「ランチタイムの時間の使い方を変える」という、これからの戦略について、詳しく伺いました。

谷合 竜馬氏プロフィール

POTLUCK_谷合 竜馬氏

1988年東京出身。中央大学卒業後、カラオケ会社に入り店長を務める、その後、雑誌出版社にて販売プロモーション、NPO法人ETIC.のSUSANOOプロジェクト企画設計及び運営、フリーランス、クラウドファンディングサービスCAMPFIREを経て、2017年11月(株)RYM&CO.(リムアンドカンパニー)を設立し、月額定額制テイクアウトサービス「POTLUCK(ポットラック)」を主宰。

テイクアウトランチのサブスクリプションを始めたきっかけは?

POTLUCK_ランチの写真

ferret:
谷合さんが始めた「POTLUCK」はテイクアウトランチのサブスクリプションです。テイクアウトランチ×サブスクリプションというのは新たな試みだなと感じたのですが、事業を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

谷合氏:
フリーランスをやっていた頃、飲食業界の方と知り合うことや食のイベントに参加することが多かったんです。飲食業界にいらっしゃる方々って、経営や集客、つまりどうやってお客さんを呼ぶかというマーケティング的な視点よりも、とにかく「おいしい料理を作ること」に集中しています。それはすごく職人的というか、アーティスト的な感覚なのではと思ったりもして、ひたむきに食と向き合っている人たちと一緒に何かできることはないかと考えるようになりました。

その頃外にランチを食べにいくと、目につく店は混んでいたり、あるいは新しいところに行こうとしてもなんとなく入りづらかったりして同じ店にばかりいっていることに気がつきました。休憩時間中に散々歩いた結果、結局どこの店にも入らずにコンビニでランチを買う…なんてことも多かったんです。

日常の中の小さなことなのですが、ランチタイムになってからお店を探したり、迷ったり、行列で待ったりするのは、意外と大きなストレスなのかもしれないと思うようになりました。だからここをどうにかできないかと思ったんです。

ferret:
確かに、私もランチタイムは大体同じ店に入ってます。新しいところに行きたくても、ランチだとそこまで調べないので結局行かないですね。

谷合氏:
そうですよね。一方飲食店側の視点で見てみると、ランチはディナーより気軽にお店の味を知ってもらうきっかけになる時間なのに、お店の方はピークタイムの1~2時間に多くのお客様の対応をしなければならず、本来目指したいと思っている丁寧なサービスが行き届かない場合があります。これは、もしかするとお客さんも飲食店の方も、両方消耗しているのではないかと思いました。

そこに違和感、と言いますか、課題意識を持ったのがきっかけですね。テイクアウトであれば席数も関係ないですし、あらかじめWebで受け取り予約をしておけばお店側も渡すだけ。決済もWebで済んでいるので、会計までの時間はかかりません。

ferret:
混雑緩和のためだけであれば、テイクアウトサービスだけでも十分なような気がしますが、そこをサブスクリプションのサービスにしたのはなぜでしょうか?

谷合氏:
ランチって日常的に食べにいくものなので、「今日は買う、買わない」って選ぶよりはまとめ買いしてしまってそれを使うシーンを作る方がいいのではないかと思ったんです。それでPOTLUCKは定額制のテイクアウトランチサービスになりました。

ferret:
なるほど。実は勢いで始めたのかな?と思っていたのですが、背景には飲食業界に対する思いがあったのですね。お客さんのメリットだけではなく、飲食店側のストレスやメリットについてもよく考えてらっしゃって。

POTLUCK_谷合

谷合氏:
(笑)。もちろんランチの混雑を回避するって要素が大きいのですが、お互いが消耗せず無理のないかたちを作りたかった、というのが一番です。

別業界とのタイアップでターゲット層にリーチ

ferret:
POTLUCKのサービス内容は新しいものですので、まずはサービス内容を知ってもらうことが大切だと思います。認知拡大のために、どのような施策をされているのでしょうか?

谷合氏:
まだ始めたばかりのサービスですので、一気に顧客を獲得するよりも満足度を高めることが必要なフェーズだと思っています。フィードバックをいただきながらそこをブラッシュアップしているような段階です。そういう意味では、プロモーション施策をたくさん仕掛けている訳ではありません。

ただその中でもやっていることとしては、「食」とは直接関わっていない企業さんとタイアップさせてもらい、衣食住の文脈を通してライフスタイルを充実させていくご提案をしながら、ターゲット層のユーザーさんを獲得していくということには挑戦しています。

ferret:
具体的にどのようなタイアップを実施されたのでしょうか?

谷合氏:
サービスを始めたばかりの時に、アパレルファッションブランドの「FABIA(ファビア)」さんとタイアップをしました。タイアップ商品としてオリジナルのランチョンマットを作ったり、FABIAとPOTLUCKのコラボクーポン券を作ったりしました。

POTLUCK_FABIA
提供:株式会社RYM&CO.

あとは男性向け化粧品ブランド「BULK HOMME(バルクオム)」さんともタイアップをしました。クリスマス時期に「大切なあの人に秘密のプレゼントを」ということで、TwitterキャンペーンをやったりPOTLUCKの提携店舗で試供品を配ったりしましたね。ただのキャンペーンではなく、大人になって忙しい日常の中で、改めて「想い」を届けられる仕掛けを作りたいと思い、メッセージカードを添えた贈り物をサプライズで届けられる仕組みを考えたりもしました。

POTLUCK_-BULK HOMME
提供:株式会社RYM&CO.

POTLUCKのターゲット層は、20代後半から30代ぐらいの女性です。普段はコンビニ食でランチを済ませながら週1回ぐらいは外食をしているけれども、コンビニだと飽きるし健康面も気になっている、というような方々。「食」とは繋がりが薄くても、ターゲット層が重なっている企業さんとコラボして良いものを届けていくことで、ユーザーさんに相乗効果を伴って響いていくではないかと考えています。

混雑回避だけではない、楽しめるランチタイムを実現したい

ferret:
そもそもの話になるのですが、POTLUCKさんのメインターゲットはどうして女性なのでしょうか?ランチに困っているのは女性だけではありませんし、ビジネスパーソンの母数で言えば男性の方が多いのでは…?

谷合氏:
ランチのサービスを考えた時に、「価格が安い」「混雑回避できますよ」というだけではなく、「ランチタイム自体が待ち遠しくなって楽しめるようなサービス」という考えを第一に置いたものを作りたいと思ったんです。一般的に男性は、1人で外食することに抵抗がないことが多いです。一方女性は、1人での外食に抵抗を感じていることが多いのではと。そのイメージがあったので、女性も使いたくなるようなものに少し寄せる方がマッチすると思いました。

とはいえ僕らも、絶対に女性がメインターゲット、と捉えている訳ではありません。こういったサービスを始めれば、賛同してくれる男性もいるのではないかと考えています。だから一応メインターゲットは女性だと思っていますが、「女性向けのサービスです」とは謳っていません。見せ方は女性に喜んでもらえるような形で作りつつも、男女どちらも使ってもらえたらと思っています。

POTLUCKは飲食店のメリットを最大に考える

POTLUCK_-1/10(5).jpg

ferret:
POTLUCKのサービス内容だと、サービスを利用するユーザーさんの他に、テイクアウトランチを提供する飲食店も増やす必要がありますよね。

谷合氏:
そうですね。実際にサービス当初は登録されている店舗が少なくて13店舗ほどしかありませんでした。今ではだいたい60店舗ぐらいですね。月間で20店舗ずつぐらいは登録店舗を伸ばせています。

ferret:
ハイペースで伸びていますね。飲食店にはどのような働きかけを?

谷合氏:
いわゆる普通の訪問営業もしますし、飲食関係の方からの紹介もあります。訪問営業の場合はまず話を聞いていただくのが大変というのはありますが、一度話を聞いてPOTLUCKのことを理解してくださったお店は、かなりの確率で参加してくださっている印象です。

POTLUCKのサービスがほとんど飲食店にマイナス面がないように作っているので、リスクを感じることなく参加しやすいというのが大きいのではないかと思います。実は、POTLUCKに登録してくださっている店舗の7割くらいは、元々テイクアウトをやっていないお店です。POTLUCKが、飲食店の方にとっての新しいチャレンジや新たな可能性の開拓にも繋がるきっかけになれば嬉しいなと思っています。

その他としては、来年の増税で、テイクアウトも軽減税率の対象になるということもあり、興味を持っていただける飲食店さんが多いということもいえるかもしれません。

ferret:
なるほど。いま谷合さんにお話を伺っているカフェ、「BOOK LAB TOKYO - 書店とコーヒースタンド 渋谷店」ではPOTLUCK限定でフードの持ち込みができるようになっているんですよね。このようにPOTLUCKの商品を持ち込める飲食店は他にもあるのでしょうか?

POTLUCK_-1/10(6).jpg

谷合氏:
ランチをやっていないけどPOTLUCK限定でフードの持ち込みができるのはここだけですが、ランチも提供しているうえにPOTLUCK限定でフード持ち込みが可能な店舗はいくつかあります。

ferret:
それは飲食店側にどのようなメリットが?

谷合氏:
ランチがメインではないカフェだと、午前中や午後3時以降は混んでいるのにランチタイムはお店が空いていることがあります。空席のままでいるよりは、POTLUCKの商品を持ち込めるようにすることで、ランチタイムにお店に来てもらえる方が飲食店としては嬉しいですよね。コーヒーを頼んでもらって、お店のことも知ってもらって、お客様としてはランチの場所を確保することができて、誰も損をしない仕組みになっています。

ライバルはUber Eats!? 競合との差別化は?

ferret:
POTLUCKと同じようなサービスは出てきていないと思うのですが、ライバルはどこになるのでしょうか?

谷合氏:
確かにまだ、同じようなサービスは出てきていません。ただ広い意味で捉えるとあらゆるサービスがライバルになるのではと考えています。Uber Eatsのようなデリバリーや近くのコンビニ、社内の社食系のサービス、宅配弁当なんかはわかりやすい例ですね。

ただ、僕たちは、ランチタイム時間の使い方を変える、という部分に重きを置いています。例えば企業でデリバリーを頼む場合、「休憩、12時になりました」の後に頼むものを決めて配達されるまで待って……ってなると結構ロスしてしまう時間が多いじゃないですか。待ってる間に他のことをしようと思っても、食事が来るまでは気になって集中できないことの方が多い気がしていて。

これが受け取るものが決まっているテイクアウトランチであれば、10分で取りに行ってあとの50分を有意義に使えるんです。POTLUCKはその時間的価値が意義だと思っています。その意味では、企業で契約している宅配弁当などがもっとも競合になってくるかもしれませんね。

エリア拡大よりも利用店舗の密度が大切

POTLUCK_谷合

ferret:
POTLUCKさんのサービス提供エリアはまだまだ限られていますよね。今後のエリア拡大についてはどのように考えていますか?

谷合氏:
直近は、まだまだ渋谷を中心にやって行こうと思っています。POTLUCKは、自分で歩いて商品の持ち帰りができる範囲にどれだけお店があるかがユーザーにとって大切です。なので範囲を広げて店舗数を増やすよりは、ユーザー数に対するお店数の密度が重要になります。渋谷から恵比寿と少しは広げつつも、中心地の密度をどれだけ上げていけるかに注力していきたいと思っています。

他エリアで考えていることが、ビル内に飲食テナントが入っているようなオフィスビルでの展開です。お昼になると全従業員が降りてきて、飲食店が大行列になってるようなところがありますよね。そういった、ユーザーがたくさんいて、オフィスビル側も混雑に困っているような場所にtoB向けのランチサービスとしてアプローチできたらいいなと…。

ferret:
ビルごとまるっと全て契約してしまうような?

谷合氏:
はい。そういった話も出ているので、今年あたりから動き始められればなと。例えばこれがお弁当を運んでくるようなサービスだったら、既に入っている飲食店の競合にもなってしまいますが、僕らなら飲食テナントの利益にもなる形で入れますから。

ferret:
お互いメリットしかないですね。
そんなサービスが入ったオフィスビルで私も働きたいです(笑)。