本田事務所の戦略

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ferret:
「フレキシブル・チーミング」にはどのような方が多いのでしょうか。

本田氏:
副業として従事されている方もいれば、完全にフリーランスで広報をされている人もいます。結構女性が多いですね。優秀なフリーランス・PRパーソンがいっぱいいます。

ここ2、3年、クライアントから「PRができる人はいないですか」と相談を受けてきました。求人を出しても全然来ないし、仮に採用できてもミスマッチということもあるようです。みなさん自社に合ったPRパーソンを、どこで見つけたらいいか分からないという課題を抱えていたのです。

一方、フリーランスの人も個人で取れる仕事、ネットワークは限られます。しかも食べていくために、能力があるにも関わらず安いフィーで頑張っている若い子たちもいます。そのような状況を改善するために、私が間に入って上手くつなげることで、みなさんに喜んでもらえたらと思っています。

ferret:
なるほど。では「Powered By PR」という言葉を冠している理由を教えてください。

本田氏:
今回、本田事務所開設にあたって、ずっと考えて決めた言葉です。PRでパワーアップできることは、たくさんあります。
企業の広報活動から地方創生や国の問題まで、PR不足や広報力のなさで上手くいっていない事案はまだまだ見受けられます。そこをPRの力で貢献していきたい、という想いを込めています。

本田哲也氏とPRの今後について

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ferret:
本田さん自身が今後、PRを手がけたい業種などはありますか。

本田氏:
ブルーカレント・ジャパンでは、なかなかできなかった中小企業や、スタートアップの支援も手がけていきたいです。

「スタートアップ・中小企業」と、「大企業」の2つの領域で展開していきます。両方を手がけることで見えてくることがあります。大企業ばかりやっていると見えないこととか、スタートアップばかりやっていると見えない、大きな流れもあります。両方を行き来することで、私を仲介役にして大企業とスタートアップのマッチングも叶えることができるかもしれません。

事業コンサルティングに近くなってきますが、PR広報発想で事業アドバイスもできるぐらいが本当だと思うので、双方を見られることはメリットといえます。
早速4月から何社かやらせていただいてますが、このニーズはまだ青天井であると思っています。

ferret:
どんどん人員を増やしていく方針ですか?

本田氏:
正社員は増やしませんが、フレキシブル・チームの規模は最終的に100人を超えるぐらいになるかもしれませんね。

ferret:
広報担当の人数も足りていないという話ですし、需要がありそうですね。

本田氏:
企業の中には、うまく広報戦略を立てられていないのに、そのまま広報活動をスタートしてしまうケースなどが、多く見られます。

同じく1000万や2000万のお金を使うならば、その一部を「戦略作り」に使うべきです。それでプランナーやストラテジストが雇えるわけですから。その後に広報担当者かサポートするフリーランサーが1人ついても良いでしょう。

ferret:
では5年後、10年後の本田事務所の展望ついて教えてください。

本田氏:
5年後は予測できない時代になっていると思っているので難しいですけど、PR業界はまだまだ伸びると感じています。株式会社本田事務所としては、売上を上げていくことも大事ですが、業界が良い意味で流動化していき、スタートアップも含めたPR広報の成功例が年々伸びていけたら嬉しいです。
「大きな会社」という存在になるよりも、「質が良くて影響力のある存在」を目指しています。「これだけの少ない人数で、こんなことまでやっているのですか!」というのが理想です。映画にたとえると『オーシャンズ11』のようなチームを連想してください(笑)。

これからはレバレッジの時代なので、たくさんの人が関わってやるというよりも、どれだけ効率良く少ない人数で大きなことを成し遂げるかが評価をされると思うのです。

当たり前ですけど、費用対効果が良くなる。時代に合った存在でありたいですね。

ferret:
日本のPR業界は、今後どう変わっていくと思いますか?

本田氏:
メディア・リレーション依存型はどんどん衰退していき、メディア・リレーションしかできない広報、PRパーソンでは厳しくなっていくでしょう。もちろんメディア・リレーションは必要なのですが、同じぐらいインフルエンサー・リレーションと呼ばれる個人のインフルエンサーの人とのやり取りなども重要になってきます。

PRでやらなければいけないことの定義がだんだん変わってくるので、スキルセットの要求も変化します。そのため生き延びる人と生き残れない人が出てくるでしょう。

ferret:
やることが増えるというのは「細分化される」という意味でしょうか。

本田氏:
細分化でしょうね。あとステークホルダーが増えた点も注目です。昔はインフルエンサーがいませんでしたが、今は見逃せない存在となっています。

パブリック・リレーションズが従業員を含むすべての関係(株主や地域社会など)にプラスして、インフルエンサーとの関係も良好にするとなると、それだけでも大変です。「全部できます」という会社よりは、ここが得意ですという会社が残っていくでしょう。

ferret:
インフルエンサーのおすすめ品が売れるという現実はありますね。

本田氏:
インフルエンサーの話はPRと切っても切れません。インフルエンサー・マーケティングの市場も広がっています。

結局、人なんですよね。こうやって取材を受けるのも、メディア・リレーションをするのも、人の部分が大きい。そうするとインフルエンサーも同じことなので、PRパーソン自体がいろいろなことを魅力的に話せるか、しっかりと教養があり、メディアをよく理解しているか。そのような「人間力」が問われます。

昔の広報マンのように、新聞社と飲み歩いていれば良かった時代ではなくなったわけです。インフルエンサーに「奢りますから飲みに行きましょう。その代わり、これを紹介してもらえませんか?」とか言ったら、逆に炎上してしまいます。

ferret:
たしかに、そうですね(笑)。

本田氏:
リレーションの取り方も時代によって進化していくわけです。なかなか教科書にも書いていませんが、「間のとり方」といった人付き合いのコミュニケーション・センスのようなものが、重要になってくるでしょう。それは営業センスとは違うものです。

ferret:
ということは、PRパーソンに大切なものは、コミュニケーション能力でしょうか。

本田氏:
コミュニケーション能力は、必須です。ただコミュニケーション能力とは、上手にぺらぺら喋ることではありません。普段はあまり話さない人でも「この人の言っていることを信用してしまうんだよな」と思わせる人の方が良いのです。

ferret:
確かにただのお喋りな人では、信用できないかもしれませんね。

本田氏:
PRパーソンは中身のあることを時間内でどれだけ言えるか、要するに「コミュニケーション能力より、編集力」が大切です

話す媒体や相手によって編集の仕方を変えて、どう話せば興味を持ってもらえるかを考える。興味や関心を持ってもらえる蛇口をどれだけつくれるかがPRパーソンの腕の見せどころです。PRトークは1つではありません。10人いたら10通りのアイデアがあるはずなのです

ferret:
編集力と一緒に、臨機応変な対応が大事になってきますね。

本田氏:
おっしゃる通りです。臨機応変力や突破力ですね。結局、メディアもインフルエンサーも、コントロールできない世界の住人なので、想像していなかったところから問題に見舞われることがあります。どこまでいってもリスクは0にはならない世界です。だからこそ瞬間的な対応が必要です。問題が起こって、1、2週間放置してしまうと、最悪炎上してしまうわけですから。

ferret:
炎上を含め、SNSの普及によりPRの仕方も変わってきたように思えます。

本田氏:
企業のトップや自治体の長が、今までよりも前に出てSNSを使ってギリギリ際どいところまで、情報を発信していく。実はそれに勝るPRはないんですね。どんなに上手い広報戦略を考えてもそちらの方が目立ってしまう。ただリスクも増えますが、PRの仕事は減らないのです。

ferret:
結局、トップ自らが広報したとしても、広報PRの需要はなくならないわけですね。目立つ人が出てきたら、それはそれでやることがある。引っ込み思案な社長でも、やることはあるということですね。

本田氏:
そうですね。

ferret:
「戦略PR」という概念が普及してきたとおっしゃられていますが、著書を読ませていただいてまだビジネスでは足りない部分もあるかもしれないと本田さんは実感されていると思います。PRにおいて、陥ってしまいがちな失敗ってどのような部分があるのでしょうか?

本田氏:
「PRは大事だからやろう」となるが、つくったものが「PRっぽい広告」でした、というのは散見されますね。

広告が悪いわけではなく、PRだと思ってやっていることが実は広告、という認識のズレが問題なのです。企業がPRをやった気になっているんだけれども、プロから見ると、それはメディア企画というやつで、本質的なPRではないですねということです。

冒頭でだいぶPRの理解は進んだとは言いましたけど、まだ完全ではありません。ここ5年の潮流として、広告をやるか、PRをやるかというよりも両方やるべきという流れはあるのですが、まだPRをやると言いながら、広告を実質やっている企業も多いです。本当はPRで言う、信頼性の獲得や、オーガニック口コミを上手くつくりたかったけれど、広告ではやれないので、PRの手法を使いましょうと判断したのに、広告でやってしまうわけです。

ferret:
本田さんの中で広告と広報の線引は、どのようにしていますか。

本田氏:
広告と広報のPRの違いは、いろいろあるんですよ。それこそ単純なメディアを買う買わないみたいなところから始まって、信頼性の獲得云々という話まで。教科書的にはしっかりと理解した方がいいのですが。

マーケティング業界では、パーセプション・フロー(認識変化:消費者行動にともなう“認識・知覚の変化”を軸としたマーケティング・マネジメント手法)の導入が進んでいます。広告を打ちましょう、PRをやりましょうという戦術論は1回忘れて「お客さんの意識をどう変えていきたいか」に特化して考える作業です。現状のお客さんの状態を認識し、お客さんの意識がどう変わっていけばいいかを整理するんですね。

そうやって広告PR云々関係なく、1回整理すると分かりやすくなります。クライアントさんも、広告が必要かPRが必要か理解してくれるのです。「広告のクリエイティブに、そんなにPRのメッセージを載せなくても大丈夫ですよ」というのも分かってくれます。

大手広告代理店に依頼する場合も、「パーセプション・フローのここだから」という説明の仕方をすると、それに即したクリエイティブが出てきます。お互いに整理し、理解できるわけです。

もちろんパーセプションフローを作成するのは大変な作業です。しかし1回つくると、比較的上手くいきます。