2019年5月11日、伯方塩業株式会社は自社CMのフレーズを歌う「2代目声優」をオーディション形式で募集すると発表しました。その後Twitter上で多くの募集が殺到し、一時は伯方塩業のホームページにアクセスできなくなるなど、大きな話題を呼びました。

今回のこのオーディションはどうしてここまで注目されたのでしょうか。今回はこのキャンペーンの仕掛け人であり、『人がうごくコンテンツのつくり方』の著者でもある高瀬敦也氏に、今回のバズの要因についてお聞きします。

高瀬敦也氏プロフィール

株式会社ジェネレートワン 代表取締役CEO
フジテレビ入社後、営業局にてスポットセールスプランニングに従事。現在でも使われているスポットセールスシステム構築を監修。
その後、編成部にてバラエティーやアニメの企画・プロデュースを行い、ヒットコンテンツを創り続ける。自ら企画立案しプロデュースしていくことを信条とし、「逃走中」「ヌメロン」など企画性の高いオリジナルな番組を多数企画。

フジテレビを退社後、より幅広く企画・プロデュース業を行うため「ジェネレートワン」を創業。御用聞きとしてのんびり仕事をしてくつもりだったものの、生来の貧乏性が発揮され馬車馬のように動きはじめる。

自社での事業の他、音声と写真のコンテンツプラットフォームアプリ「hearr」を立案、ローンチ。スマホ向け動画事業の立ち上げに多数参画、チーフクリエイティブオフィサー(CCO)として活動、ライブコマース事業にも関わるなど、IT分野にも精力的に注力。
また、ブライダル、製菓、ほか多業種で、新事業企画、新商品企画、広告プロモーション戦略など幅広くコンサルティングを行っている。

最初からバズ狙い

ferret:
そもそも今回のキャンペーンに携わることになった経緯はどのようなものだったのでしょう?

高瀬氏:
今回はmode株式会社という、主に地方企業のコンサルティングをしている企業からご紹介を受けて、関わらせていただいた形になります。

伯方塩業さんが、若い人にむけて自社の製品を訴求させたいという内容で、依頼を受けました

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ferret:
では、最初からバズらせるつもりはなかったんですか?

高瀬氏:
いえ、最初からバズらせるつもりでしたよ(笑)
伯方塩業さんは大きな会社ですが、今回のキャンペーンでは限られた予算の中でどうすれば多くの人に認知してもらい、話題となるかがミッションでしたし、そもそもご紹介頂いたmodeさんが「ネットとリアルの融合」を旗印にコンサルティングされていることもあり、いろいろ考えた結果、SNSでバズらせるしかないなと。

個人ではなく、人と一緒にアイデア出し

ferret:
実際にバズを狙うと決めてから、どのようにアイデアを出していったのでしょう?

高瀬氏:
弊社のチームの放送作家さん等と一緒に、喫茶店なんかで「こんなのはどうだろう?」みたいなアイデアをひたすら出しましたね。

塩むすびの胸キュンエピソードを募集してドラマ化する案や、「伯方の塩」をもじって、「裸の塩」というバスソルトをつくるという案なども出ていました(笑)

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ferret:
一人ではなく、人と話しながら企画を立てるのですね。

高瀬氏:
そうですね。これは僕の書いた本にも書いたことなのですが、僕は*「0から1は生まれない」*と思っているんです。一部の天才と呼ばれるような人以外は、常日頃からアイデアが次々に降ってくる、なんてことはないじゃないですか。なので僕はなるべく人と会って、コミュニケーションを取りながら刺激を受けることで、アイデアを出していきますね。

抜群の認知度のCMフレーズ

ferret:
今回の「伯方の塩 2代目声優オーディション」はどのような狙いから生まれた企画だったのでしょうか?

高瀬氏:
まず、伯方塩業さんの強みや財産は何だろうと考えると、あの「は・か・た・の・しお」のCMのフレーズが出てきたんですね。CMでずっと流れていて、きっと伯方塩業さんの商品を買ったことがない人でも、あのフレーズは知っているじゃないですか。この誰もが知っていることって、とても価値あることなんですよね

例えば、地上波の音楽番組などに出演しているアイドルグループでも、顔と名前が一致する人って全体の数%に過ぎないと思うんです。それくらい、誰もが知っていることって貴重なんですよね。

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ferret:
その認知度を活かしたキャンペーンを考えたということですね。

高瀬氏:
そうですね。やはり人の興味を惹きつけるのに、認知があるという条件は非常に重要です。人は自分の知らないものにはなかなか興味を持ちませんから。

加えて今回のケースで言えば、伯方塩業さんのイメージも企画段階で考えましたね。

ferret:
伯方塩業さんのイメージというと、やはり老舗だったり、ちょっとカタいようなイメージですかね。

高瀬氏:
おっしゃる通りですね。伯方塩業さんってCMのフレーズも相まって、「今風というよりは老舗」「ふざけているというよりは真面目」というイメージがあると思います。このようなイメージのある企業が、ちょっとふざけてみたり、いじられたりするのってTwitterなどのインターネットユーザーは好きそうだなと思っていたんです。そういったパロディなんかもバズったりしますし。

そこで、この認知度抜群のフレーズと、ちょっと砕けたパロディをかけ合わせて、今回の企画を考えつきました。

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ferret:
バズを狙う場としてはやっぱりTwitterがよかったのでしょうか?

高瀬氏:
そうですね。やはりTwitterは拡散力が強いですから、他のSNSだとここまでのバズは起きなかったかもしれません。

また、今回のキャンペーンはターゲットとして声優や、声優に憧れている人を狙っていたんです。そういった方たちはTwitterをよく利用しているイメージもあったので、Twitterを拡散の場として選びました。

二次創作の余白

ferret:
実際にキャンペーンを出してみてからわかった、今回のバズの要因はどのような点でしょうか?

高瀬氏:
まず、伯方の塩のフレーズのシンプルさが良かったですね。フレーズがシンプルなだけに、誰でも応募できる反面、好きなようにもいじれるんです。

人って、*好きなようにしていいよって言われるとみんな難しくて何をしていいか分からなくなるんですけど、ある程度のフォーマットがあれば、そこから自由に派生して何かを生み出していけます。しかし、フォーマットが細かく決まっていると、自由にしろと言われても何もできませんよね。*このフォーマットの型と余白が良かったんだと思います。

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ferret:
確かにフレーズだけなら誰でも参加できますし、一方でフレーズの域を超えて、曲にしてしまう応募者もいましたね。

高瀬氏:
そうなんです。「バズ」って大喜利みたいになれば勝ちだと思っていたので、そうやって自由なコンテンツが次々に生まれたのはすごく嬉しかったですね。

視覚情報の重要さ

ferret:
その他にもバズの要因として何か考えられますか?

高瀬氏:
視覚情報は重要だなと思いましたね。情報を伝える手段として、テキストはとても最適化されたフォーマットだとも思うのですが、SNSのタイムライン上で、短時間で興味を惹くように訴えかけるのってすごく難しいと思うんです。最近だと「3行以上の文字を読みたくない」って人もいますし、そういった意味で動画という形式にしたのはよかったですね。

ferret:
確かに今回のキャンペーンでは、動画自体に工夫をしていた応募者もいましたね。

高瀬氏:
すごくバリエーション豊かでしたね。子供が歌っていたり、怖そうなおじさんが歌っていたり、動画という形式だとそれだけで興味を惹けると思います。

100%の法則は無いけど、最低限の条件はある

ferret:
バズを狙えるなら狙いたい、と考えている企業の方も多くいると思うのですが、バズらせるための法則や型などはありますか?

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高瀬氏:
正直*「これをやれば必ずバズる!」みたいな法則はないと思っています。*今回のバズも、初代の声優は誰なんだという部分でも話題を呼び、ワイドショーでも取り上げられたりと、意図していなかった形でも話題となりました。

ただ、バズるための最低条件として、先ほど述べたような*「みんな知っているもの」「興味を惹きやすい形式」などはあると思いますし、「二次創作の余白」*は意識すると良いのではないでしょうか。

何より大事なのは、まずは少ない予算で、失敗や恥をかくことを恐れずに数を重ねてみることですね。当たらなかったコンテンツや企画って誰も覚えていませんから(笑)

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今回は、コンテンツをバズらせるために必要なポイント10選をまとめました。コンテンツがバズることは、ライター冥利に尽きることです。ポイントを押さえて、バズる記事を継続的に書くことができるようになりましょう。