【インタビュー連載】ferret×本田哲也 PRのいまを聞くーマーケターが持つべきPR視点とPRパーソンが持つべきマーケティング視点とは?
PRパーソンはブランドマーケを勉強すべき
ferret:反対にモノやサービスを世に発信するPRパーソンにとっても、マーケティング視点は重要だと思います。PRパーソンに必要なマーケティング視点はどういうものでしょうか?
本田氏:PRパーソンは、社会や世論の動きを捉えることには敏感で得意です。しかし、マーケティングの勉強をしていない人も多いのでマーケティングの基本を分かっていない人が多い。私がずっと言ってきたことなんですが、PRパーソンはコンシューマーのインサイトを洞察することに弱いんです。経営していたブルーカレント・ジャパンでも、社員には「ブランドマーケティングについて勉強しなさい」と言っていました。
ブランドマネジメントやブランドマーケティングはグローバルな大企業から生まれて、世の中のマーケティングは基本的にその構造で動いています。時代的に少し刷新されたりしていますけども。例えば、あるブランドについて「エクイティ」と呼ばれる規定を定義します。そうすると、そのブランドエクイティに基づいて伝えるべきことや発信すべきことが決まっていって、広告はつくられていきます。
広告代理店のブランドチームは世の中で誰よりもブランドを徹底的に理解します。日本で言う「広告代理店」が海外では「ブランドエージェンシー」と呼ばれているのは、ブランドの代理であるということです。このブランドがどういうものか、ブランドとして世の中に発信すべきことやすべきでないことを徹底するわけです。すばらしい広告の裏には、一般の人には判断が難しいこだわりもあるんです。そういう細部まで含めてこだわってつくることが重要で、これは全部ブランドマネジメントという仕組みの中で動いています。
PR発想でマーケティングを行なっていくときにPRパーソンに必要なのは、ブランドマーケティングの考え方です。世の中の動きだけを追っ掛けているだけではダメですね。大事なのは世の中の潮流を把握して、そしてもう一度ブランドや商品を見なきゃいけない。「私たちはこういうブランドだよね、だから今のトレンドに対してこういう風に言ってもいいんじゃないの」と。
世の中に発信すべきメッセージを判断をしなきゃいけないとなると、PRパーソンも「ブランド」というものを理解していないといけないんです。でも今まで「関係ない」と思ってきている人も多いので、まだそこが弱いんですよ。ブランドのことは広告の人の仕事で、私たちの仕事じゃないと思っちゃうわけです。
ブランド成功の要因は、世の中視点×ブランドマーケティング
ferret:「世の中視点」を身に付けるメリットはどんな点にあるのでしょうか?
本田氏:広告をどうつくるのかということもちろん大事ですが、今一番世界的に新しいやり方は、世の中の動きを把握して、ブランドがどう立ち振る舞うべきかをうまく体現しているところが成功しています*。それは、広告かPRかという狭苦しい話ではなくて、ブランドとして世の中にうまくメッセージを発信したり、そこに商品を絡めたりするのが大事です。それは僕が著書の『戦略PR』で提唱したことです。
2019年8月号の『広報会議』でも紹介したのですが、2019年5月にPRの世界的な賞「PRWeek Global Awards 2019」で入賞したもので、すごくいいなと思った事例があります。『Always』というP&Gの生理用品ブランドが、「period poverty(生理の貧困)」という言葉を流行らせました。今、格差の問題が発展途上国に限らず、先進国でもありますが、先進国のカナダやアメリカ、イギリスで、生理を迎えた女子中高生の中で貧しくて、まともに生理用品が買えない女の子がいるというのを調査し発表したんです。もっと調べていくと、まともに生理用品を買えないことで、体育の授業に出なくなったり、何となく学校に行くのが億劫になったりとかで、不登校につながることが分かりました。思春期の大事な時期に女の子が体育の授業を受けないとなると、体の発達がうまく形成されないだけでなく、メンタル的に自信を失ってしまう。それで自己肯定力が下がっていくんです。
『Always』は、「女性の自信」ということを発信し続けていることから、ブランドの社会的意義として、なるべく女の子たちに自信をつけさせてあげることをやろうとか、あるいは自信を失うようなことを全部回避させようということをやってきました。そこで、実際に生理用品を学校に寄付したりしたんですね。すごいのはイギリスの政府まで動かし、10億円以上の寄付を集めてニュースにもなりました。
この事例は、世の中の動きという発想がないと絶対できないんですよね。貧困と生理の問題に目をつけること。あと、ブランドマーケティングが分かってないと絶対できないことです。ジャーナリストだったら問題提起して終わっちゃいます。でもブランドの話になると、『Always』はずっと女性の自信や、女の子の自己肯定感を伸ばすということを謳ってきたから、どういうトーンで問題に立ち向かえばいいのかっていうのが分かるわけですよ。ブランドマーケティングのプロと、PRのプロががっちり組んだ成功例で、両方の視点があるいい事例です。
個人的には、「マーケターが持つべきPR視点とPRパーソンが持つべきマーケティング視点」という観点でいうと、マーケターがPR視点を持つ方が今は重要だと思うんですよね。なぜならPRの活動は非常に広いので、ブランドマーケティングの話だけではないんですよね。ブランドとは全く接点のない、政府の仕事をしているPRパーソンもいますから。だから全てのPRパーソンにブランドマーケティングを学びなさいとは言いません。
- マーケティング
- マーケティングとは、ビジネスの仕組みや手法を駆使し商品展開や販売戦略などを展開することによって、売上が成立する市場を作ることです。駆使する媒体や技術、仕組みや規則性などと組み合わせて「XXマーケティング」などと使います。たとえば、電話を使った「テレマーケティング」やインターネットを使った「ネットマーケティング」などがあります。また、専門的でマニアックな市場でビジネス展開をしていくことを「ニッチマーケティング」と呼びます。
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- 広告
- 広告とは販売のための告知活動を指します。ただし、広告を掲載するための媒体、メッセージがあること、広告を出している広告主が明示されているなどの3要素を含む場合を指すことが多いようです。
- 広告
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- マーケティング
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