“値上げ”しても変わらぬ支持。価格と期間、「2つの実験」の成果
サービスを提供する側として、一度出した価格を「値上げ」するには勇気がいる。当然のことながら客離れや同業他者に対する競争力の低下など、さまざまな要因があるからだ。だが、それをいくつかの“実験”を経て実現した会社がある。AIヘッドハンティングサービス「LAPRAS SCOUT(ラプラススカウト)」を運営するLAPRASだ。
LAPRASは実験によってお客さまが求める「価格」と「期間」にプランを変更し、現在の最適解を見出した。その実験の中心人物の1人であるプロダクトマーケティングマネージャー・染谷健太郎氏に実験内容の詳細を伺った。
“値上げ”は結果論、事業課題の解決が目的
染谷健太郎:東京大学文学部を卒業し、2009年に株式会社リクルートジョブズに入社。主に新規事業開発を担当。飲食店向けシフト管理サービスや適性検査サービスなどのSaaSサービス、採用応募者対応のBPOサービスなど複数のサービスに、プロジェクトリーダーやマーケティングリーダーなど様々な役割で関わる。2018年2月より株式会社scouty(現LAPRAS株式会社)のプロダクトマーケティングマネージャーとしてジョイン。
ferret:サービス価格を変更した背景を教えていただけますか?
染谷氏:特定のトリガーを求めてるわけじゃないんですけど、事業を推進していくにあたって課題が出てきたんですね。その課題に対する打ち手として「価格の変更が効くのでは?」って仮説が出てきたら、そのタイミングでやってるって感じです。
ferret:ただ価格を変更したいのではなくて、事業課題に対する解決策として価格を変更したんですね。
染谷氏:まさにそうです。事業課題の解決に価格が一つのHOWとして紐づいてくるって感じです。ただ、事業にとってもお客さまにとってもメリットのある価格にしないといけないと思います。
ferret:このときの課題はなんだったのでしょうか。
染谷氏:この起点はサービスの仕様変更です。元々は「月額10万+成果報酬(採用決定者の年収の10%)」だったんですけど、お客さまにオープンに使ってもらいたいので成果報酬を無くしたんです。
ferret:成果報酬をなくしたら売上が減ってしまいますよね。
染谷氏:そうですね。成果報酬をなくして月額10万円で提供するって話もあったんです。それだと純粋に売上が下がってしまいます。そうなると、ゆくゆくお客さまに提供できる価値も下がってしまいますので、現在の価格と同じような価格で、お客さまに選ばれる価値を提供して、価格を月額にアドオンできる形でできないかって模索しました。そこで月額15万のプラン(スタンダードプラン)を作ったんです。
ferret:例えば「実質割引」のような手法はよく聞きますが、御社はそういう提供の仕方ではないんですよね。
染谷氏:はい。成果報酬があったときは、成約時に年収の10%なんで、仮に600万の人が決まったら60万です。採用が決まれば決まった分だけ成約報酬が追加されていきます。
この「オープンβプラン」と比較して、「スタンダードプラン」の方が1人以上決まると安くなりますよっていう話と、実際にサービスの過去の実績から、これくらいやれば採用できるっていうデータが出せていたので、それをお見せして選んでいただきました。
お客さま理解への近道は、お客さまに直接聞くこと
ferret:ということは、サービスを使って採用し続けられれば、以前のプランよりメリットが大きいってことですね。
染谷氏:はい。あとは大事だと思ったこととして、出し手(営業)の方は結構気にするんですよ、価格を。だから出し手が不安になって「これ純粋に値上げじゃないの?」とか気にすると思うんですけど、受け手(お客さま)からするとたいして変わらないことが多くあるなと思っています。
これはダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』に書かれているのですが、人間は数字を数字としてちゃんと理解できないんです。10万と20万があった時に、20万って10万の2倍だよねってことを、その大きさでちゃんと理解してなくて、雰囲気で数字を理解してるんです。
実際の値上げ幅をそのまま理解するっていうより、主観的に理解する生き物らしいので、変に気にしすぎず「まずはお客さまに出してみて実験すればいいのでは」って考えたってところはありますね。だから最初の実験では月額20万のプランを作って出したんですよ。
ferret:感覚的にですが、2倍は高いなって思っちゃいます。
染谷氏:そうですね。20万だと全然選ばれなくて。「高すぎでしょ」って結構言われました(笑) プランを並べたときに即断で「月額10万円の成果報酬10%で」って言われてしまったんです。
ferret:他のお客さまに提案しても選ばれなかったのでしょうか。
染谷氏:20万で15社に提案して15敗だったんですね。15戦15敗。全然ダメで(笑)さすがに20万は無理でしょうって話になり、そこから15万に落としたんです。
次は月額15万にして55社にアプローチし、反応してくれたのは30社でした。そして、月額15万を選んだのが23社、月額10万+成果報酬10%を選んだのが7社。約80%が月額15万を選んでくれました。
この実験で分かったのは「値上げって思われるよね」っていうのは、あくまで出し手の懸念であって、お客さまからしたら月額10万+成果報酬10%よりも安く感じてくれるのが分かったって感じですね。
ferret:プランの設計はもちろんですが、営業担当のコミュニケーションの差も影響しているのではないでしょうか。
染谷氏:営業は当時3人しかいなかったんで全員行ってるのですが、誰が新プランの決定率が高いという傾向もなかったです。15万で普通に決まったから、精緻な実験結果を出す前に、月額15万ならいけるっていう感覚はありました。特に20万が全敗だったので、その差は大きかったですね。
ferret:新規顧客と既存顧客、どちらからアプローチしたのでしょうか?
染谷氏:まず新規顧客で実験しました。月額15万は月額10万+成果報酬10%よりも得って感じてくれる事が分かり、その後、既存顧客の切り替えをしていったって感じですね。
ferret:新規顧客からアプローチをしたということは既存顧客の切り替えの方がリスキーなのでしょうか?
染谷氏:そうですね。価格の実験をするときは新規顧客でまず試して、新規顧客でハマるようだったら既存顧客にも提案していくって流れでやってます。
新規顧客ってフラットな状態なので、判断もフラットになるんです。だからこそ「このサービスはこの価格なんだな」って理解してくれますし、気になる部分は指摘してくれるんですよね。
そこでの経験を元に、今度はよりハードルの高い既存顧客の切り替えの対応にうつります。「こう聞かれたらこう答える」みたいな型ができているはずなので、この順番でやると上手くいきやすいかなって思ってます。
真のニーズは要望の背景にあり
ferret:価格以外にも実験をされたのでしょうか。
染谷氏:お客さまから「3ヶ月プランが欲しい」という要望をいただいたので、1年プランと2年プランを作りました。
ferret:3ヶ月プランは作らなかったってことでしょうか。
染谷氏:3ヶ月プランは作ってないですね。その理由として一番大きいのは、我々のサービスは成果が出るまである程度時間のかかるサービスなんです。
候補者に対してスカウトメールを出して採用するんですけど、結局3ヶ月だと短すぎるんですね。お客さまがツールに慣れるまでに1ヶ月、面接が入るまで1ヶ月。大体の人の転職活動って2〜3ヶ月かかるんで、そうするとせっかくいい人が採用されそうなんだけど契約期間が終わっちゃうということが起こるので、少なくとも半年は使っていただきたいなと思ってます。
ferret:では、お客さまが「3ヶ月プランが欲しい」と言った本当の理由として、どんな仮説を立てたのでしょうか?
染谷氏:たぶん社内稟議の中で「もっと安いプランはないのか」とか「もっとライトに試せないのか」って言われているんじゃないかなって推察しました。
なので今まで1つしかなかったプランを3つ用意しました。元々あった半年プランを一番安いプランにして、1年プランと2年プランを新しく作り、費用にグラデーションをつけることにしたんです。
なせこうしたかというと、担当者が社内に「一番安いプランがこれなんです」って比較して言えればいい問題かなって思ったので。「お試し用のプランが半年プランなんです」って。価格が複数あることによって比較して言えれば、要望として収まって、受注できるんじゃないかと思ったんです。
ferret:担当者が稟議を上げ、通りやすい状態を作ったということでしょうか?
染谷氏:そうです。稟議あげるときって、言ってる事が正しいかというよりは、質問に対して打ち返せるかだと思うので。「もっと安くできないのか」って言われたときに「これが一番安いプランなんです」って言い返す事ができればいいのかなって考えてます。
ferret:今はどのプランが選ばれていますか?
染谷氏:半年プランが大体7割かな。1年が3割、2年は売れてないですね。
ferret:今の仮説を伺ってると、お客さまは半年プランに落ち着くと感じたのですが、1年プランがここまで反響あったんですね。
染谷氏:こんなに反響があるって全然思ってなかったですね。
ferret:1年プランを選ぶ人たちってどういうニーズがあったと考えていますか?
染谷氏:やっぱり採用はずっと続けていかなきゃいけないっていうところがあります。加えてLAPRAS SCOUTを通じてしかアプローチできない人が結構いるっていうことに関して理解していただけると、1年プランを選んでいただける可能性はあるなと思います。
実験で大切なのは実験のリスクコントロール
ferret:この実験も価格と同じように、まず新規顧客からアプローチしたのでしょうか?
染谷氏:そうですね。ただこれはプランが増えるだけなので、特定のタイミングで営業資料をこれに差し替えたって感じですね。差し替えて売ってみて、受注率が下がらないかだけみて進めてたって感じです。
ferret:受注率っていうのは半年プランのみのときと比較してということでしょうか。
染谷氏:そうですね。全体の商談から受注に至る確率がこれを見せた事によって下がったら、その時は巻き戻そうってやってましたね。ただ、人間の習性として、真ん中を基準に考えるので、基準を出してそれより低いプランが今までのオーソドックスなプランだったら、基本的にはいい影響があるんだうなって感じでした。
ferret:リカバリープランも考えていらっしゃったんですね。
染谷氏:まず、実験で大事なのは実験リスクコントロールなので、失敗してもあまり痛くない範囲で実験するのが大事だと思ってます。毎回、実験前の状態に戻せるようにしています。
ferret:価格の実験で、仮に月額15万円の反響が良くなければ他の手も考えていたってことですね。
染谷氏:月額12万とかで試したと思います。
ferret:実験結果を伺ってると収まるところに収まったという印象です。2つの実験を通して予想外の結果はありましたか?
染谷氏:予想外ばっかりですよ(笑)月額だって15万ってちょっと高いなって思ってたんですよ、実は。12万くらいに落ち着くのかと思ってたんで。だから、実際お客さまの反応を見てみないと分からないというか。すごい不安になると思うんですけど、結局出して試すしかないかなっていうのはあります。
ferret:それも出し手と受け手の価格に対する感覚が違うってことなんですね!
染谷氏:だと思います。2個目の実験は1年プランが選ばれるようになったっていうのは大きいですね。
ferret:これは予想外ですもんね。
染谷氏:何かしらいい影響はあるだろうなとは思ってたんですけど、そこまで選んでもらえるんだっていうのは意外でしたね。やっぱりダイレクトリクルーティングのサービスなんで、ある程度時間を確保しなくちゃいけないものの、1年確約してくれるっていうのは見えないところでした。
ferret:お客さまがサービスを選ぶにあたって、サービス自体の性能は当然として、その次に重要なのは価格とプランかなと思います。その要素を実験して、現状では適切な状態になっていると思うですが、これからも価格やプランに関して実験をしていくのでしょうか?
染谷氏:していきますね。ただ、最適な価格って難しい概念だなと思ってて。採点の仕方がないじゃないですか。今の価格が最適かどうかって証明できないんです。
考え方としては、前の価格よりお客さまから支持される価格など、変更の目的を果たす価格になってればOKって思ってます。最適って考えずに、前よりよくなってるって意味でいくと、ここの〇×が判断しやすい。
特に今でいうとサービスが半年くらいで大きく変わってきてるんですね。今までなかったような要素や要因が出てきて、それを使ったほうが採用が上手くいくとかが分かってきました。今は機能が使い放題のプランですけど、その機能をもっと使ってもらうために数の上限を設けたりすると、逆に使ってもらえるんじゃないかとか考えてたりとかします
ferret:いかに採用担当者がサービスを使いやすいようにするか、ということでしょうか。
染谷氏:そうですね。今価格や期間で解きたい問題はそこって感じですね。基本的に価格は最適な価格って難しかったりするんで、今よりいい価格って基準で積極的に動かしていくのが、今一番いいスタンスかなって思います。
ferret:ありがとうございました!
LAPRAS株式会社:https://corp.lapras.com/
LAPRAS SCOUT:https://scout.lapras.com/
顧客の購買心理を知る
今年の年末年始キャンペーンから紐解く、購買心理のマーケティング応用術
この時期は冬のボーナス支給や年末年始の高揚感からか、購買活動も活発になります。この購買心理にあわせて実施されるのが年末年始のキャンペーンです。 キャンペーン事例にはマーケティングの成功につながるカギが多く隠されています。 この記事では、令和最初となる今年の年末年始キャンペーン事例をいくつか分析しました。 マーケターの方は是非この記事を参考に顧客の購買心理を学び、マーケティング活動に生かしてみてください。
- マーケティング
- マーケティングとは、ビジネスの仕組みや手法を駆使し商品展開や販売戦略などを展開することによって、売上が成立する市場を作ることです。駆使する媒体や技術、仕組みや規則性などと組み合わせて「XXマーケティング」などと使います。たとえば、電話を使った「テレマーケティング」やインターネットを使った「ネットマーケティング」などがあります。また、専門的でマニアックな市場でビジネス展開をしていくことを「ニッチマーケティング」と呼びます。
- SaaS
- SaaSとは、Software as a Serviceの略で、ユーザーにソフトウェアの「機能」をインターネット経由で提供することを言います。
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