昨今「若者の●●離れ」という言葉をよく耳にする機会があり、若者たちは消費に消極的だという意見が目立ちます。本当にそうなのでしょうか? 実態を探るべく、若者、特にaround20(15〜24歳)について調査している、株式会社SHIBUYA109エンタテイメントが運営する若者マーケティングの研究機関『SHIBUYA109 lab.』の所長、長田麻衣氏にお話を伺いました。around20の男女たちは今、どのようなコトに興味を示し消費活動を行うのでしょうか。

プロフィール

SHIBUYA109 lab. 所長 長田麻衣氏

総合マーケティング会社にて、主に化粧品・食品・玩具メーカーの商品開発・ブランディング・ターゲット設定のための調査やPRサポートを経て、SHIBUYA109のマーケティング担当となる。現在は毎月200人のaround20(15歳〜24歳の男女)と接する毎日を過ごしている。

『SHIBUYA109 lab.』ってどんなトコ?

ferret:『SHIBUYA109 lab.』はどういう目的で設立されたのでしょうか?

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長田氏:SHIBUYA109がターゲットとしているaround20(15〜24歳)の男女が、どういうことに興味・関心を持っているかということや消費行動について詳しく知るために2018年に設立されました。

ferret:女の子だけでなく男の子についても調査されているんですね。

長田氏:MAGNET by SHIBUYA109というユニセックス向けの店舗も運営していますから、男の子についても調査しています。また、SHIBUYA109は、1999年のコギャルブームから現在に至るまで、流行を生み出していると言われています。20年近く若者の集まる場として、若者に対しさまざまなアプローチができるということも開設した理由です。

ferret:調査方法はどのようにして行っているんですか?

長田氏:SHIBUYA109の館内で、毎月100人に声をかけてアンケートに答えてもらいます。そこで連絡先を交換させてもらい、around20たちと関係を築いています。定量調査やアンケートの結果からでは見えない実態がaround20たちにはあると思っていて、生の声をヒアリングすることを重視しているんですよ。その他には、5〜6人のグループインタビューを週に2回ほど行います。月に200人くらいの子たちと話をしています。例えば、「InstagramとTwitterどう使い分けているの?」とか「InstagramとTwitterどっちを見ている時間が多い?」など、聞いてみないと分からないことが多いんですよ。

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▲長田氏が週に2回は実施しているというグループインタビュー

ferret:実際にSNSはどのように使い分けているんですか?

長田氏:ビジュアルで確認したいファッションや行きたい場所に関してはInstagramでチェックして、コスメの情報や「ヲタ活」と呼ばれるファンであるものやお金や時間を費やしている活動についてはTwitterを活用していますね。メイクの仕方などハウツー系はYouTubeで見ているなど結構使い分けています。

あと、コミュニケーションの中心はInstagramですね。ストーリーに「今こんなことしているよ」というのをアップしてそれに対してDMでコミュニケーションする感じなので、SNSの主力はInstagramですね。

好きなブランドは「特になし」。若者と接して意外だったこと

ferret:長田さんがaround20の人たちと話して驚いたことは何ですか?

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長田氏「好きなブランドは何か?」という質問をしたとき、「特にない」と答える人が多いことにびっくりしました。以前だったら、「このブランドを着ている私」のようにファッションが自己表現でした。だけど今はファッションに関しては、その日の気分でテイストを使い分けていることが多いんです。「今日はクールな気分だからクールな格好で」、「明日は●●ちゃんに会うからそれに合わせた格好をしよう」などブランドに囚われず色んなテイストを楽しみたいという気持ちが強いのがaround20の特徴の一つです。ファッションが自己表現から、気分の表現やコミュニケーション手段に変化していますね。ファストファッションのお店でトレンドの服が手に入りやすくなったことも大きな要因の一つです。

ferret:リアル店舗と通販の利用についてはどうですか?

長田氏:リアル店舗に行くのが面倒なので、通販ばかり利用していると思っていたのですが、実際に調査をしてみると、7割はリアル店舗で購入しているという結果でした。

ferret:デジタルネイティブだからECに偏っているかと思っていましたが、実際は違うんですね。

長田氏:購入する物に対して失敗したくないという気持ちが強いので、リアル店舗で試着して一旦考えて通販も見てみて……と、行ったり来たりしているのが実状です。

ferret:他に意外だったと思うことは何ですか?

長田氏:あとは、「ヲタ活」への熱量ですね。「ヲタ活」というのは、K-POPとか、男性・女性アイドル、音楽バンド、アニメや漫画などにお金をかけていくことです。巷で「若者の●●離れ」など、若者がお金を使わない、と言われているじゃないですか。でも実際には自分が価値を感じたモノやコトに関しては、消費を惜しまないんです。先日around20のヲタ活の実態について調査したところ、「ヲタ活」に年間15万以上という子が最も多い結果となりました。

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出典元:ヲタ活調査第二弾 若者のヲタ活リアル実態を徹底調査! | SHIBUYA109 lab.

ferret:「ヲタ活」が細分化されていて、ある人にとってはファッションだったりメイクだったりするんですか?

長田氏:そうですね、「ヲタ活」は細分化されています。今の若い人たちは何かしらのオタクなんですよ。「ヲタ活」にはお金をかけて、あまりお金をかけたくないと思っているところには節約意識が働いて、いかに安くできるかということを考えていますね。オタクってネガティブなイメージがあるかもしれないんですが、今の若い人たちにとっては恥ずかしいことではないんです。どちらかというと、「あなたは何ヲタなの?」っていうコミュニケーションをとるような風潮も生まれています。

ferret:男の子も同じように「ヲタ活」しているんですか?

長田氏:はい。男の子のグループインタビューも実施するんですが、ハマっていることを聞くと全然恥ずかしがらずにAKB48や欅坂46のことを話してくれます。

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出典元:SHIBUYA109 lab.「全国女子」と「SHIBUYA109ガールズ」比較! 「ヲタ活(ファン活動)」に関する調査|株式会社SHIBUYA109エンタテイメント

ferret:ちょっと気になったのがSHIBUYA109に来る人ってクラスの中でもイケてるグループに所属している人たちなんじゃないかと思ったんですが、実際はどうなのでしょう。

長田氏:基本は流行に敏感な人たちですね。普通の子が多いですよ。コミュニティによるとは思うんですが、以前のようにヒエラルキーみたいなのはなくなっていて、「みんな違っていいよね」って多様性を認めているので上下関係はあまりありません。

これからの企業に大切なのは「ヲタ心」を掴むこと

ferret:結局、若者たちの消費は滞ってないんですね。

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長田氏:滞っていません。今後も消費は減っていくことはないかと思っています。「ヲタ活」に表れているように、自分が価値を感じたモノやコトに対してだけに投資をしていくことを続けていくでしょう。彼ら・彼女たちが大人になって働き始めてお金を稼ぎ出したら、「ヲタ活」はコミュニティ化していき、今でいうオンラインサロンのような形になってそこから新しい商品が生まれたりするかもしれないなと予想しています。

なのでこれから企業が彼ら・彼女たちの消費を促したいのであれば、「ヲタ心」を理解して掴んでいくことが重要になると思います。例えば、日本橋に自分の名前入りラベルのドリンクを注文できる「TOUCH-AND-GO COFFEE」というお店があります。今の若い人たちはそこに自分の名前ではなく、今推している人の名前を入れたり推しの色を入れたりしてInstagramにアップするんです。結構話題にもなっています。企業は「ヲタ活」をメインに何かしようと考えるだけでなく、このお店のように「ヲタ活」の消費行動を二次活用して使えるサービスなどをつくっていくのが問われる時代になっていると思います。

ferret:ありがとうございました。