新しく話題を集めた商品やサービスが、初期市場ではヒットしたものの一般市場にまで普及せず、そのまま衰退してしまうことがよくあります。顧客の購買心理を捉え、初期市場と一般市場の違いにより生まれる「キャズム」を踏まえたうえでマーケティングを推進しなければ、どんなに革新的なサービスも社会に浸透しないまま消えていってしまうものです。

新しいサービスや商品に好意的なイノベーターやメディアは影響力があるので、初期段階で爆発的な勢いが生まれることは珍しくありません。大切なのは、その後の成長を阻む「キャズム」を乗り越えることです。

今回はキャズムを乗り越えビジネスをヒットさせる「キャズム理論」について解説します。

キャズムとは?

キャズムとは、氷山などにできた大きな亀裂、深い裂け目といった意味です。少数の前衛的な人々が生み出した初期市場と、一般的な利用者がいる主な市場との間には大きな溝(キャズム)があります。

例えばインターネット上で多くのインフルエンサーが活用していてIT業界では認知度が高い新興サービスも、テレビなどのマスメディアを主な情報源としている一般消費者からの認知度は低い……といったケースは珍しくありません。サービスの導入期で話題を集めて成功した製品が、それ以降の成長期でさまざまな課題にぶつかって伸び悩み、そのまま衰退していくのはよくある話です。

その溝(キャズム)にはまらずに停滞期を乗り越えて成長するためのマーケティングアプローチが「キャズム理論」と呼ばれています。キャズム理論を活用して一般市場に浸透すれば、ビジネスは軌道に乗りやすくなります。新規ビジネスを担当するマーケターはキャズム理論を理解し、初期市場とは違ったアプローチを取り入れてサービスを普及させましょう。

キャズム理論の前提となるイノベーター理論とは?

キャズム理論の前提となるのが新しいサービスの普及過程を明らかにした「イノベーター理論」です。新しい概念やモノを「イノベーション」と定義し、それが一般市場にどのように浸透していくかを分析したものです。

イノベーションを採用する人の種類

イノベーター理論では、新しいサービス「イノベーション」を採用する人、つまり決定者を5つのカテゴリーに分けています。

イノベーター:革新的採用者
アーリーアダプター:初期採用者
アーリーマジョリティ:初期多数派
レイトマジョリティ:後期多数派
ラガード:遅滞採用者

下に行くほど採用するタイミングが遅くなり、時間的なズレが生まれます。

イノベーションを受け入れるまでの5ステップ

さらに、人々がイノベーションを受け入れる際の5ステップ「知識→説得→決定→導入→確認」を提唱しました。

知識:イノベーションの存在を知って理解する
説得:イノベーションが自分にとって良いものか判断する
決定:イノベーションを採用するか決める
導入:イノベーションを導入する
確認:イノベーションが期待どおりだったか確認する

上記の5ステップを踏むことで、イノベーションは社会に受け入れられます。

キャズムが生まれる原因

そもそもなぜキャズム(溝)が生まれるかというと、さきほどイノベーター理論で紹介した「イノベーションを採用する人」の種類によって購買心理が異なるからです。

イノベーター(革新的採用者)に適したマーケティング手法は、ラガード(遅滞採用者)には適していません。サービス・商品の導入期にうまくいったアプローチも、一般市場への普及には適していないのです。最初は「新サービスの登場」とメディアに取り上げられ話題を集めることに成功しても、一般市場にいる初期多数派の支持を集められなければ思うような反響は得られず停滞し、やがて衰退していきます。

特にキャズムが深まるのが、初期市場(革新的採用者・初期採用者)から一般市場(初期多数派)への移行期です。イノベーティブな革新的採用者・初期採用者とマジョリティである初期多数派の購買心理は大きく異なるため、従来のマーケティング手法のままでは普及しません。ビジネスを成長させるにはキャズムが生まれた原因を把握し、キャズムを埋めるマーケティングを推進するのが理想的です。