2020年3月20日。多くの人がTwitterに注目していました。それは、Twitterで話題の連載4コママンガ『100日後に死ぬワニ』の100日目だったからです。一般の人はもちろん、マスコミや芸能人もこのマンガの読者は多く、連載中にはテレビでも取り上げられていました。Twitterのみで公開されていたこの4コママンガが、なぜここまで人気を集めたのでしょうか。

『100日後に死ぬワニ』とは?

『100日後に死ぬワニ』は、漫画家・イラストレーターのきくちゆうき氏(@yuukikikuchi)が、Twitter上で公開していた4コママンガ。主人公のワニの日常をメインとしたほのぼのとしたストーリーが展開されていきます。

このマンガの特徴は、タイトルにもある通り「100日後に死ぬ」ことがわかっていること。あらかじめ結末がわかっている物語は普通は面白くないはずなのですが、このマンガの場合はそうではありませんでした。

あまりにも淡々と進むワニの日常から、100日後の死が想像できないため、「どうやって死ぬのだろう」と読者が興味をもち、その予想をツイートする人が続出。100日目が近づくにつれて「死なないで!」といったツイートも見られました。

また、最終回が発表された後は、作者への感謝の言葉のほか、さまざまな考察もツイートされています。それだけ多くの人に注目され、愛されていた証拠でしょう。

なぜここまで人気だったのか?

Twitterとの相性の良さ

まず、Twitterとの相性が良かった点が挙げられます。「100日後に死ぬ」ということを前提として描かれているストーリーのため、読者は毎日更新されるワニの何気ない日常に、意味を探しながら読んでしまうのです。タレントの伊集院光さんはご自身のラジオで、これを「発明」と表現していたとのこと。

参照:「100ワニ」と「鬼滅の刃」超ヒット漫画の共通点 「100日後に死ぬワニ」が超大ヒットした理由

通常、マンガは雑紙やWebなどで連載されますが、基本的に終わりがいつなのかはわかりません。数ヶ月で打ち切られてしまうこともありますし、10年20年と連載が続く長寿マンガもあります。

しかし「100話で終わり」であること、「ワニが死ぬ」ことが確定していること。この2つの前提があるだけで、読者の興味は常に最終回に向けられます。つまり、読者のモチベーションを維持しやすいフォーマットなのです。

また、Twitterは読者の反響がリアルタイムでわかるメディア。毎日毎日、『100日後に死ぬワニ』がアップされ、それについて多数の人がツイートをすることで、Twitter内での認知度が高まっていきます。しかも、最終回に近づくにつれ、その傾向は強くなり、100日目にはもっとも注目を集めて最終回を迎えられたのです。

4コママンガではなく「5コママンガ」

『100日後に死ぬワニ』は、4コママンガです。しかし、ほとんどの話はいわゆるオチがありません。その代わり、毎回欄外に「死ぬまであと○日」と記載されています。ここがポイント。

読者は毎回、何気ないワニの日常の4コマを読んだ後に、欄外の「死ぬまであと○日」を目にすることで、日常から急に「死」を意識させられます。つまり『100日後に死ぬワニ』は実質5コママンガなのです。

参照:『100日後に死ぬワニ』が教えてくれたこと(テーマ考察)

読者に、毎回「終わり」を意識させることで、最終回までの興味を惹きつける。高度なテクニックのように感じます。

「生」と「死」のコントラスト

『100日後に死ぬワニ』は、基本的にはほのぼのとした日常が描かれたマンガです。しかし、そこには常に「死」があります。ワニたちの日常が生き生きと描かれれば描かれるほど、いつもの日常であればあるほど、100日後に訪れる「死」が鮮明になってくるのです。

いわば、「生」と「死」のコントラストが強い作品とも言えるでしょう。

いろいろな作品で「死」というテーマが扱われています。そしてそのほとんどが、「死」をドラマチックに演出したり、美談にしたり、衝撃的なものにしてしまう傾向が少なくないです。

一方『100日後に死ぬワニ』は、ほとんど「死」を感じさせるエピソードは登場しません。最終回ですら、ワニの死ぬシーンは明確に描かれていないのです。

絵柄もストーリーも「死」とは真逆であるからこそ、逆に「死」が印象的になっている。そこがまた、『100日後に死ぬワニ』の魅力なのではないでしょうか。

最終回直後の顛末

『100日後に死ぬワニ』は、最終回を迎えたとき、ストーリーとは別の面で話題になりました。それは、本作の単行本化や映画化、バンド「いきものがかり」とのコラボ、キャラクターグッズ発売やポップアップショップのオープンなど、最終回直後に立て続けに発表されたからです。

これにより、その世界観を楽しんでいた読者が嫌悪感を示します。その理由のほとんどが、「最初からメディアミックスを前提に描かれたものだったのではないか」ということ。

人気マンガがさまざまなメディアミックスをすること自体は、別に悪いことではありません。しかし、『100日後に死ぬワニ』に関してはちょっと違うようです。

読者は、作者のきくちゆうき氏が個人的に描いていたマンガであるということを前提として楽しんでいました。しかし、いざ最終回を迎えると一気にビジネスの話が目白押し。感動的な最終回の余韻をかき消されてしまったことに対して、不満の声が上がったのです。

きくちゆうき氏によれば、「連載途中からいろいろ声がかかり、それらを自分で判断した結果」だということですが、読者からしたら「裏切られた」という感じがしたのでしょう。

参照:「100日後に死ぬワニ」最終回が猛批判された訳 今後「SNSによる作家活動」難しくなる危険も

良質な作品が収益化されること自体は、とても良いことだと思います。しかし今回の件は、タイミングが悪かったのではないでしょうか。最終回が終わった直後ではなく、少し間を置いてから徐々に発表というほうが、ファンの共感を得やすかったのかもしれません。

ただ、話題の移り変わりが早いこの時代。その最適なタイミングを見定めるのはかなり難しいことも事実。この辺りは綿密なマーケティング戦略が必要なのではないでしょうか。

「○日後」ブームが到来

『100日後に死ぬワニ』が話題になったことを受け、最終回後にはTwitter上にさまざまな「○日後に○○する○○」というコンテンツが見受けられるようになりました。いわゆる二番煎じではありますが、そういったブームを作ったということは、賞賛に値すること。先述の伊集院光さんの言葉を借りれば、「○日後に○○する○○」というフォーマットを「発明」したわけですから。

ただし、最終回後の顛末を見ていると、決して有終の美を飾れたとは言えないのも事実です。実際のところ、最終回後に急速に熱が冷め、あまり話題になっていないようにも感じます。

いくらコンテンツが良質でも、少しのタイミングのずれが致命的な失敗にも繋がってしまうという、マーケティングの見本になったのではないでしょうか。

参考:きくちゆうき(@yuukikikuchi)

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