かつては2万店舗以上あった日本の書店数も“本離れ”やインターネット通販などの普及により減少しています。2019年のデータではありますが、日本の書店数は約1万1,000店舗。減少傾向に歯止めがかからず、20年前と比べるとほぼ半減しています。

参考:「日本の書店、店舗数は1万174店 売場面積は126万872坪」|株式会社文化通信社

一方で従来型の書店とは一線を画し、斬新な取り組みにより新たな客層を取り込み、話題となる書店も出てきています。こうした書店に共通しているキーワードは「場づくり」。今回は、本屋の生き残り戦略をかけて挑戦する書店を例に、未来の本屋の在り方を考えていきましょう。

一般的な本屋さんといえば、売り場に本が陳列され、本以外の売り物といえばちょっとした文房具程度。じっくりと本を選べるように、ベンチなどが置かれている本屋さんは「気が利いている」なんて表現されることもありました。

しかしながら、最近注目されている書店や苦境に立たされる書店とは一線を画した人気店となっている本屋さんもあるのが事実。こうした本屋には一体どんな共通点があるのでしょうか?

注目したい新たな本屋の取り組み

まずは全国各地にある本屋から、今注目すべき本屋の取り組みを具体的な事例とともに見てみましょう。大規模店でなくてもできる工夫は、店舗設計や取り扱う本の種類以外にも、たくさんあります。

本を読みながらビールが飲める本屋『B&B』

例えば下北沢にオープンして以来、ビールも飲める書店として大きな話題を集めているのが、本屋B&Bです。下北沢の裏路地にオープンした店舗は人気を博し、2020年春には路面店として移転オープンしています。

本屋B&Bのコンセプトは「本を読みながらビールが飲める」というユニークなもの。生ビールやノンアルコールビールだけでなく、こだわりのクラフトビールやオーガニックワイン、ビールが飲めない人のためのソフトドリンクメニューも充実しています。

ほとんどのドリンクが1杯500円で購入でき、会計前の本を片手にビールを飲み、客は気に入った本を購入するというのが本屋B&Bのスタイルです。

また、ビールが飲める以外の取り組みもユニークです。
名作文学をじっくりと読み進める文学教室や、編集塾、本屋で学ぶ英会話スクールなど本屋の枠を超えたイベントやセミナーを開催し、インターネットで本を買うだけでは体験できない価値を提供しています。

参考:本屋B&B公式サイト

本にまつわるセレクトショップを目指す『恵文社一乗寺店』

京都・一乗寺に本店を構える恵文社も体験価値を提供している本屋のひとつです。
「本にまつわるあれこれのセレクトショップ」をコンセプトに、店内にはスタッフがていねいにセレクトした本が並ぶほか、隣接するギャラリーではアーティストの企画展を定期的に開催。

また、本にまつわる生活雑貨や文房具、読んだ本の気に入った一節を書きためて置きたくなるようなノートなどを販売しています。
売り物を本に限らず「本にまつわるあれこれ」と広げることで、本との出会いだけでなく、新しい価値観やカルチャーとの出会いを演出しています。

参考:恵文社公式サイト

泊まれる本屋『庭文庫』

岐阜県恵那市の山奥にひっそりとたたずむのが、築100年の古民家を改修してオープンした古本屋、庭文庫です。2020年にはクラウドファンディングサイト「READYFOR」にて、泊まれる古本屋と出版社を始めるためのプロジェクトをスタート。総支援額400万円以上を集める今注目の本屋だ。

庭文庫では、ただ本を売るだけでなく、古民家を活用した宿をオープンし、地元住民以外の人たちが集う場作りを通じて、本屋としての新たな価値を提案しています。

参考:庭文庫公式サイト

場の引力がキーワードに

こうした本屋に共通しているのが、本を売るという価値を超えた場としての魅力です。例えば、本屋B&Bは単にビールが飲めるというキャッチーな魅力だけでなく、読書好きにとっても「また足を運びたくなる」イベントやセミナーを開催し、人と人との出会いすら期待できる場の引力を持っています。

具体的な形になるのは、まだまだ先のことかもしれませんが、岐阜県の庭文庫も、宿泊サービスを提供することで、都会の人と地方の人をつなぐ一つの場として、地域活性化のハブとしての引力も持ちうる可能性を秘めています。

このように、場の引力を持つ本屋を作るためには、一体どんな点を大切にしていけばいいのでしょうか。

体験を提供する本屋という場

場としての引力を高めるためには「本を買う」以外の体験を提供することがひとつの方法と言えるでしょう。例えばセミナーを開催するのもその一つ。本の著者を呼ぶもよし、ある本をテーマにそれに関連するイベントを開催しても良いでしょう。

例えばレシピ本なら、料理教室。コーヒーにまつわる本を切り口に、コーヒーのドリップ教室を開催してみるのもいいかもしれません。

本屋で体験をした後に、さらにその世界を深めたくなった人は本を購入してくれるのではないでしょうか。

出会いを提供する本屋としての場

本屋が場の引力を持つための方法として「体験」に次いで考えてみたいのが「出会い」というキーワードです。
もともと本は新たな知識や世界との出会いをもたらしてくれる存在です。本屋に足を運ぶ人たちにとって、本だけでなく価値観、モノ、ヒトとの出会いは喜ばしいものとして捉えてもらえることでしょう。

そもそも本は多様な魅力に満ちたコンテンツです。書店員の方の中には「お客様にこんな本との出会いをしてほしい」という想いを込めて、本の並びを考えたり、POPを作ったりしていた方もいるでしょう。

出会いを本屋として提供するという取り組みは、こうした従来やってきた仕事の幅をほんの少し広げてみるだけでもいいのです。
出会いの提供の仕方は一つではありません。読書会の開催で人との出会いを提供してみるのもいいですし、小説のイメージに合わせた美味しいコーヒー豆との出会いを提供してみてもいいかもしれません。

「この本屋さんに来れば、何かおもしろいコト/ヒト/価値に出会える」という期待感を顧客に感じさせ、出会いを提供できる本屋は、出版不況と言われるこの時代でも生き残っていけることでしょう。

体験や出会いが共通してあること

今、注目されている書店の取り組みを事例に、これからの書店の生き残り戦略を考えてみた今回。「ビールが飲める」「おしゃれな雑貨と出会える」「面白い人に会える」などその切り口はさまざまですが、共通していたのは体験や出会いの提供を通じて、「場としての魅力・引力」を高める工夫ができている書店が、今勢いがあるという点ではないでしょうか。

出版不況やインターネット販売の普及など時代が変わったとしても「新しい出会い」を人々が求める点は変わりません。
これからの新しい書店の在り方“本屋2.0”のヒントは、新たな出会いと場の魅力を提供する引力のある本屋づくりにあるのです。