市場での競合優位性に重点を置いていた

まずは、それぞれの起業時およびブランド立ち上げ時にどのようなことに重きを置き、実行してきたかについての質問からスタート。

杉岡氏はまず事業として成立させるために、自分たちの事業の競合優位性をとても意識していたとのこと。

「我々はどの一手がどの一歩が誰にとって競合優位になり得るのかというのをとても考えていた気がします。そのひとつが、幅広い人脈を持ちアジア最速のアスリートと呼ばれる為末大さんのような“食”のイメージと結びつきやすい人を支援者として迎え入れたり、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の元経営者をエンジェルにしたりといった、自分たちが何億円もかけなければ作れない資産を最短で作ることで競合優位性を作り上げることを重要視していました」(杉岡 氏)

また、事業の市場性における競合優位性についても考えていたとのこと。680兆円と言われている食という大きな市場のなかでも、ベビーフードは400億円弱と小さな規模の市場。それゆえ、大手がなかなか参入してこないと予想。そして、食品をゼロから作ることはスタートアップ企業ではハードルが高いということも意識していました。

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一方で、D2Cにおいて重要なストーリーや世界観の構築についてはあまり重要視していなかったそうです。杉岡氏はブランドは積み重ねのなかで生まれてくるものという意識がありました。つまりストーリーの中身よりはストーリーの構造の構築を大事にしていたそうです。

誰よりも早く始める「先駆者メリット」を意識

坂梨氏は、自身の不妊治療の経験から事業を立ち上げたということから、非常に刺さるメッセージングをしているという印象があります。立ち上げ時にはどういうことを意識していたのでしょうか。

「私は20代前半から後半の世代に、妊孕力(にんようりょく:女性の妊娠する力のこと)の知識を得てほしいという想いがありました。そのため最初にアプローチしたかったのは潜在層だったんです。しかし、いきなり潜在層とコミュニケーションを取るというのは難しいと思いました。私は妊娠したいけれどなかなかできなかったという明確層だったので、まずはそちらに向けたコミュニケーションを重視するスタンスでした」(坂梨 氏)

また、前職のWebメディア制作のときに、誰よりも早く始める先駆者メリットを感じていたために、なるべく早くブランドを立ち上げることも重視していたとのこと。その考え方は間違っていませんでした。

「FemTech領域は今年になってから注目されてきた分野で、そこでD2Cのプロダクトを出しているということで、多くのメディアに取材などをしていただいています。広告費をかけずに認知してもらうという意味では、そこをひとつの指標にしていました」(坂梨 氏)

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コンプレックス商材を身近なものにしていく

クリニックのプロデュースというオフラインの事業と、D2Cでメディカルブランドでホームケア製品を開発・販売するというオンラインの事業を手がけている氷熊氏はどうだったのでしょうか。

「我々のブランドは、個人の身体の悩みにアプローチする、いわばコンプレックス商材のようなものなんです。我々はそういう商材を身近にしていくことを重要視しています。当初は、コンプレックス商材に見えないデザインだけど、説明を読むと信頼のおける医師と一緒に開発している商品であることがわかるから安心といった世界観やニーズはあるはずだという仮説がありました」(氷熊 氏)

その仮説を証明するために、氷熊氏はクラウドファンディングを利用してテストマーケティングを実施。そこでストーリーを打ち出して、どれくらいの支援者が集まるのかを見ることができるというだけではなく、その他の面でも参考になることがありました。

「クラウドファンディングでは、支援していただいた方にアンケートやインタビューが行えます。その仕組みを活用して、我々の仮説があっているのかチェックするということを意識してやっていました」(氷熊 氏)

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どうやら3社とも、ブランド立ち上げ時はストーリーや世界観を作ることよりも、いかにストーリーの構造を作るかということに注力していたようです。