クラウドファンディングを活用して潜在層を探り当てる

D2Cにおいて、クラウドファンディングの活用は重要なポイント。特にブランド立ち上げ時は、想定外の結果が出ることで商品やサービスの意外な側面に気付くことも。女性向けのサプリメントを手がける坂梨氏は、当初のターゲット以外からも反響があったことに驚いたとのこと。

「意外と男性がアクションを起こしてくださったことに驚きました。当初は、すでにパートナーがいる女性、つまり明確層をターゲットにしていたのですが、独身女性にも共感していただけました」(坂梨 氏)

男性にも支持されたということは、今後男性から女性へのギフト需要なども見込めるかもしれません。このような「潜在的なマーケット」が明確になるという点で、クラウドファンディングの活用は重要なのです。

“原価ありき”ではなく“誰の何を解決するか”からすべてが始まる

今回はZoomを使ったウェビナーということで、参加者からの質問を随時受け付ける形式。その質問の中に「原価設定をした上で消費者調査を行ったのですか?」というものがありました。しかし、これについて、杉岡氏は「NO」という答え。もちろん、原価から売価を決めるという構造があるため、売価を安くしたい場合は原価を下げる必要が生じます。しかし杉岡氏はそのような考え方ではありません。

「どんなサービスやプロダクトも“誰の何を解決するのか”というところからすべてが始まるので、原価を確定した上で始めるというよりは、初動からものすごいスピードで改善を重ねて、それがいつしか多くの人にニーズに当てはまるプロダクトになっていくというのが、D2Cの特徴であり強みだと思います」(杉岡 氏)

従来のメーカーと、D2C企業の大きく違うところはこの辺りの考え方であり、PDCAの回転スピードなのです。

既存メーカーとの対峙

D2C企業の多くは、そのマーケットへ新規参入をします。そのときにどうしても既存のメーカーがライバルになることは避けられません。そのようなとき、どうやって対峙しているのでしょうか。

「僕たちはものを作って売ってるんですけど、ものだけではなくそれ以外のサービスをできるだけインタラクティブかつシームレスに届けていくことは、いわゆる製造小売のメーカーさんがお持ちの価値提供とは全然違うところにあると思っています」(杉岡 氏)

従来のメーカーは、自分たちの技術と経験を活かした製品をマーケットに出していくというスタイルですが、D2Cの場合はマーケットにいるユーザーのニーズや課題をくみ取り、そこから製品を作るということがほとんど。なので、組織作りや原価構造もまったく違うため、純粋なライバルにはならないというのが杉岡氏の主張です。

オンラインとオフラインの両軸でビジネスを展開している氷熊氏は、「一元化」がポイントだと語ります。通常ならば、皮膚の悩みなら皮膚科へ、頭皮の悩みなら美容院でスカルプシャンプーを買ったり、症状が進んだら普段行っているクリニックではなくAGA専門のクリニックへ行くというように、症状ごとに情報が分断されているのが現状です。しかし、氷熊氏は、どんなヘルスケアの悩みもある程度一元化されたデータ管理の下でサービスや製品を提供するということを目指しています。

「既存のヘルスケアメーカーとの違いは、あらゆるタッチポイントでユーザーさんとコミュニケーションが取れたり、タッチポイントごとでのニーズを把握できるというところだと思います」(氷熊 氏)

また、氷熊氏はD2Cといえどもオンラインだけで勝負するのはきついのではと思っているそうです。

オンラインでの展開はレッドオーシャンになりやすい上、そこだけのタッチポイントで広告を出したりPRをするというのはなかなか難しい戦いだと思います。オフラインの部分を活用しながらオンラインに波及させたり、オンラインで得たものをオフラインに活用するなど、タッチポイントを増やすことで新規ユーザーが入ってくるきっかけが増えると思います」(氷熊 氏)

一方杉岡氏は、D2Cはオンラインとオフラインの二極化構造で語るものではないと主張します。

「そもそもビジネスをするのであれば、マーケットごとに販路があるはずです。それぞれの販路の特徴に合わせて既存のプレーヤーと戦えるのかを考える必要があるので、その戦い方が分かれているというだけで、オンラインかオフラインかというのはあまり関係ないのではと思います」(杉岡 氏)

坂梨氏は、多くのオフラインイベントを企画していたそうですが、コロナ禍によりストップ。年内にはスクールビジネスに着手する予定とのこと。「体験を通じてファンになってもらう」ためにコミュニティを活用していきたいとのことでした。