カスタマージャーニーとは、マーケティング施策において見込み顧客のアクションや態度変容をシナリオ化・フレームワーク化し、各ファネルでのアプローチを最適化するために作成するものです。

BtoC領域に携わるマーケターは、このカスタマージャーニーを作成した経験を持つ人も多いのではないでしょうか。

昨今、カスタマージャーニーは、BtoB領域でも重要視されるようになってきています。しかしその一方で、カスタマージャーニーを作成しても、ターゲット客がその通りにアクションするとは限らない、という側面も持ち合わせています。

ではなぜ、カスタマージャーニーを作ることがどんどん重要視されるようになってきているのでしょうか?この記事ではその理由や、BtoB領域におけるカスタマージャーニーの作成・活用事例を紹介します。

カスタマージャーニーの作り方

BtoB領域でカスタマージャーニーを作成する企業が増えている背景

カスタマージャーニーとは、ターゲット(見込み顧客)が商品やサービスを知り、最終的に購買するまでの「行動」「思考」「感情」などのプロセスをフレームワーク化したもの。

例えば、ターゲット客が「バナーを踏んでくれた」「商品を買ってくれた」などの目に見えるアクションを取った前後や背後にも、さまざまな思考や感情、課題が隠れているものです。

そういった、ターゲット客の「思考」「感情」「行動」など、態度変容までのプロセスをフレームワーク化し、どのタイミングで、どのような情報を顧客に提供するべきなのかなどを把握するうえで、カスタマージャーニーの考え方が役に立つのです。

では、BtoC領域だけではなく、BtoB領域においてもこのカスタマージャーニーの作成が重要視されるようになった背景は何故なのでしょうか?

特に昨今のコロナ禍以降、従来のような対面営業や展示会・セミナーなどによるアプローチだけではなく、オンラインを通じた非対面によるアプローチの重要性が高まりました。

つまり、BtoB領域においてもオンライン・オフラインの垣根を超えて、ターゲット企業の行動を細かく理解した上で、ベストタイミングで見込み顧客にアプローチをかける必要性が高まっているのです。

このような背景もあり、カスタマージャーニーを作成するBtoB企業も増えてきている、というわけです。

BtoBでカスタマージャーニーを作る際のポイント

BtoCBtoBでの購買行動の違いを押さえよう

まずは、BtoCBtoBでの「購買行動の違い」を押さえることが重要です。

toCでは、商品・サービスを認知し、態度変容を起こし、購入するかどうかの判断に至るのは一貫して「一個人」です。

一方、toBでは、製品・サービスを知って、導入に至るまでに、部門や役職を横断して複数の人々が関わることが大前提です。

そして、toCの場合、多くの商品・サービスは消費者の感情や主観に基づいて、比較的スピーディーに購買への意思決定に至ります。

一方、toBの場合には、予算や納期、実績など様々な判断基準に基づき、合理的・客観的な意思決定が行われます。

「大きなお金が動く話なので、もっと時間をかけてさまざまな角度から検討すべき」「優先的に予算を投下すべき施策が他にあるのではないか」といったネガティブな指摘が社内から出る場面も想定され、toCと比較した際に購買に至るまでの道のりが長期化しがちです。

意思決定・決裁に至るまでのプロセスでは、上長への稟議・説得が重要なキーポイントとなり、企業規模が大きくなるほどその関係者は増えていきます。

●ターゲットとする企業の「会社ペルソナ」を作ろう

toBの場合、「会社ペルソナ」を設定しましょう。
商談には、ターゲット企業内の文化・風土が与える影響が大きいためです。また、会社によって、決裁フローや各部門の力関係も異なるものです。これらをクリアに把握する目的で、会社ペルソナを作成します。

会社ペルソナは可能な限り具体的な企業像を描いたものに落とし込むことが望ましいです。「業種」「従業員数」「売上高」といった基本的な情報に留まらず、「経営者の人柄」「社員の服装」「社員の口癖」などの企業文化・風土を反映する情報まで盛り込みます。
そうすることで、より具体的なターゲット企業像を明確にイメージすることができます。

●複数の購買関係者に対応したカスタマージャーニーを作成しよう

前述したように、toBでは複数の部門・役職の人々が購買プロセスに関わるものです。そのため、複数の購買関係者に対応したカスタマージャーニーマップの作成が必要です。

部門や役職によって、日頃接しているメディアや必要とする情報、重要視するポイントなどは異なるものです。それらを複数のマップにプロットできるよう、フレームワークの項目を検討しましょう。

●自社内関係者と共通認識を握っておこう

カスタマージャーニーの作成段階から、自社内関係部署のメンバーを巻き込み、他部署メンバーとも「共通認識」そして「協力関係」を築いておきましょう。

前述したとおり、toBにおいては購買に至るまでのプロセスが長期化、複雑化しがちです。そうした状況下において、マーケティング施策を実行に移すためには、社内各部署の関係者に施策を理解・協力してもらうことも施策成功のための大きなアシストとなります。

[参考]カスタマージャーニーとは?意味とマップの作り方を徹底解説|innova
https://innova-jp.com/customer-journey/#:~:text=%E3%82%AB%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E9%A1%A7%E5%AE%A2,%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%83%E3%83%97%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

BtoBにおけるカスタマージャーニーマップ作成のポイント|MEDIX
https://btob.medix-inc.co.jp/blog/cjm-btob-point

カスタマージャーニーを元に施策を展開する方法

では、toBでカスタマージャーニーを作成した後、それを基にどのような施策を展開できるかを見ていきましょう。

①的を射た改善施策づくり

マーケティング施策のPDCAを回していく際には、アナリティクスをはじめ、さまざまな分析ツールを用います。
しかしそれだけでは、「バナーを踏んだ」「LPを見た」など各タッチポイントでの部分的な課題を可視化するのみに留まり、ターゲット客による一連の体験の流れを俯瞰して施策を検討する、というところまではできません。

カスタマージャーニーとは、ターゲット客の一連の行動・心理を時系列に並べて整理・把握するものです。
そのため、自社製品・サービスがいつ・どこで認知され、どんな理由から購入・利用に至るのかを精度高く把握することに寄与します。

よって、どんなタイミングでどんな施策が有効か、的を射た改善施策を投入しやすくなる、というメリットがあります。

②自社内での共通認識を強固にする

カスタマージャーニーは、自社内で組織を横断して、共通認識を強固にしたい場面でも大いに寄与します。

マーケティング施策を展開する際には、組織を横断したチーム編成で進めるケースも多々あります。しかし各部署ごとに注視している課題が異なるため、施策への理解がバラバラ、という事態にも陥りがちです。

そういった場面でカスタマージャーニーマップを共通認識として理解しておけば、プロジェクトチームとしての意思決定・施策実行スピードがアップしやすくなります。

③ターゲット視点を基に、自社の強み・弱みを把握する

マーケティング活動では、自社本位の視点に陥ってしまうことも多々あり得ます。しかし、ターゲット客による評価とは、競合他社と比較検討した上で成り立っています。

つまり、ターゲット客の目線を客観的に捉え、競合他社と自社とを比較する観点を取り入れることで、自社の強み・弱みを正確に把握することにも役立ちます。

④MAツールを効果的に活用する

特にtoB領域においては、MAツールを活用してターゲット客とのコミュニケーションを効率化している企業が増えています。

MAツールを効果的に運用するためには、ターゲット客とのコミュニケーションシナリオが必要です。このシナリオを作る際にも、カスタマージャーニーが役立ち、より有効にMAツールを活用できるようになります。

[参考]カスタマージャーニーとは|マップの作り方から事例まで【B2C・B2B】|CX survey
https://jp.creativesurvey.com/blog/posts/2020-01-17/

BtoB領域でのカスタマージャーニー作成・活用事例

リコーのダイレクトマーケティング

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[出典]BtoB版「刺さるコミュニケーション開発」のPDCA|リコーのマーケティング支援
https://drm.ricoh.jp/lab/learning/l00003.html

[図1]は、マーケティング立案から広告制作まで請け負う「リコー」のダイレクトマーケティングにおけるBtoBのカスタマージャーニーマップです。

まずこのマップで注目すべきは、「導入検討」のファネルで「意思決定権者」をターゲットとしている点です。

「担当者→意思決定権者」ではなく「意思決定権者→担当者」という流れを作ることで、意思決定のスピードを加速させ、リコーの存在感を最初の検討段階からアピールする作戦を取っています。

こうすることで、担当者による「意思決定権者への説得」という最も骨の折れる仕事が無くなります。

また、意思決定権者の心を初めに掴んでおけば、導入後に、より規模の大きいサービスを提案する際にも、担当者を超えた調整力をが発揮してくれるという期待が持てます。

よってBtoB領域でのカスタマージャーニーマップとしては、非常に発展性のあるコミュニケーションシナリオだと言えます。

[参考]
BtoB版「刺さるコミュニケーション開発」のPDCA|リコーのマーケティング支援
https://drm.ricoh.jp/lab/learning/l00003.html

リスクル リスティング広告の運用改善を検討する担当者のカスタマージャーニーマップ

[図2]
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[出典]5分でわかるカスタマージャーニーとは?取り入れ方や分析のコツを事例とともに解説|LISKUL
https://liskul.com/customer-journey-1697#i-6

[図2]は「リスクル」社による、リスティング広告の運用改善を検討する担当者のカスタマージャーニーマップです。

こちらは中小・ベンチャー企業を対象にリスティング広告を中心としたWebマーケティングによる販促支援をしている「リスクル」社が作成したもの。

このカスタマージャーニーマップを作成し、ターゲット客視点を基に自社の強み・弱みを明確にする施策に活かしました。

リスティング広告を検討する際に、ターゲット顧客とは「日頃から有益な情報を継続的に発信している会社に頼みたい」「信頼できる人から紹介された会社に頼みたい」という思考を抱えていることが明らかになりました。

その後、「自社ブログによる継続的な情報発信を続けていく」という施策を実施し、見込み顧客獲得に繋げています。

[参考]5分でわかるカスタマージャーニーとは?取り入れ方や分析のコツを事例とともに解説|LISKUL
https://liskul.com/customer-journey-1697#i-6

BtoB領域においてもカスタマージャーニーマップを戦略的に作成し、発展的な取引に繋げよう

BtoB領域においても、カスタマージャーニーマップを戦略的に作成することで、ターゲット客の意思決定のスピードを速めたり、その後の発展的な取引にまで寄与する、といった位置づけが事例からお分かりいただけたかのではないでしょうか。
「自社ではまだ作成していない」という企業の方は、まずはターゲットとする企業の「会社ペルソナ」を具体的に描くところから始めてみてください。