2020年4月、不動産情報の「アットホーム」では「家族と離れるまで、のこり365日」という高校3年生に向けたメッセージ広告を新聞やSNSで展開し、人々の深い共感を集めました。
「アットホーム」がこの広告に込めた想いや、企業ブランディングにおけるコミュニケーション戦略とはどのようなものだったのでしょうか。
この記事では、「アットホーム」のコンシューマコミュニケーショングループ グループ長の城殿氏にお話を伺った様子をお届けします。

サービスだけでユーザーに選ばれる時代ではない。広告展開に至った経緯

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ferret:
今回の「家族と離れるまで、のこり365日」の広告施策展開に至った経緯を教えてください。
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出典:アットホーム「家族と離れるまで、のこり365日」

アットホーム城殿氏:
通常はTVCMやWeb広告などいろいろ取り組んでいるんですが、それらはアットホームのサービスや、探し方の機能の訴求です。「アットホームってこういう機能で、とても探しやすいですよ、見つかりやすいですよ」ということを普段は伝えているんですが、それだけでは差別化が難しいのではないかと感じていました。

ユーザーがサービスだけで物を選ぶ時代ではなくなってきています。ユーザーの意識が変化してきている、という状況の捉え方をしていて。ブランドを選ぶときにユーザーがどうやって選ぶんだろう、と考えたときに「その企業に対して好感が持てるかどうか」という部分を重視している消費者・生活者が増えてきたんじゃないかと思っています。

よって、我々の企業姿勢について「こういうことを考えている」と生活者へ伝えるために「家族と離れるまで、のこり365日」の広告を展開した、というのが経緯です。

高校3年生だけでなく、親御さん世代からも共感が得られた

ferret:
反響はいかがでしたか?

アットホーム城殿氏:
SNS上に、深い共感を得られたコメントを多数いただきました。

我々が伝えようとしていた「家族と離れるまで、のこり365日」で、「家族のことを振り返って大切に時間を過ごしてください」「家族と過ごす残された時間を大切に過ごしてください」というメッセージに対して、深い共感を得られたコメントが多数ありました。

「泣けた」とか、「すごくよくわかる」とか、「(家族と過ごした時間のことを)振り返ると、そうだったよね」といったコメントが非常に多くて。人の深い感情にまで届いたコメントが多く見られた、というのがSNSの反響でした。

高校3年生に向けたメッセージではあったんですが、親御さん世代からの反応もとても多かったです。

例えば、お母さんが新聞広告を見られて、それをトイレのドアに貼り付けていたそうなんです。そこへ娘さんが入られて、扉を閉めて座ったら、ちょうど見える位置にあったそうで。それ読んで泣いてしまい、トイレから出られないじゃない。といったことをSNSでつぶやかれていたんです。お母さんもウィットに富んだ方だと思いますけど、お子さんはお子さんで共感いただけたのだと思います。

広告の届き方、メッセージのあり方としては、お母さんにもお子さんも届いたという良い現象が起きました。

SNS上にあがってくる定性的な言葉としては、共感いただけたものが多く、こちら側のメッセージがきちんと伝わったなと感じています。

数多くの「日常」を切り出し、共感を集める

ferret:
反響を見ると、深く好感を持った方が多かったんですね。この企画自体は、城殿さんがお一人で考えられたんですか?

アットホーム城殿氏:
元々は先程お話しした通り、「サービス訴求だけでは限界がある、コミュニケーションとしてどのように打ち出していくか」ということを普段広告制作をしていただいている、広告代理店の方と議論を続けていたんです。

サービスではなく、「共感」の部分だったり、「社会的に価値があること」を伝えていかなければいけない。ということに一緒に取り組み、かれこれ半年ぐらいディスカッションを展開していましたね。

そういったディスカッションを重ね、社会的意義のあるメッセージを打ち出したいということを一緒に考えていって、辿り着いたのがこのメッセージです。

ferret:
エリアで、媒体によってデザインなどを変えたというのは、何か意図があったんですか?

アットホーム城殿氏:
たくさんの「日常」を出したかったんです。
たくさんの日常を切り取った写真を出すことに意味があると思っていて、新聞のエリアの切り替えで写真を出し分けたんです。
メッセージの主旨は「残された365日の普段の暮らしをもっと大切にしましょう」というものですが、日常は人それぞれ、さまざまな種類があるし、1億人いたら1億通りあるわけじゃないですか。

その「日常のシーン」をなるべく数多く切り出したかった。それが、見え方としてはエリアで写真を切り分けた、という結果になっています。

結果としてエリアで切り分けただけで、WEBページなどにはすごくたくさんの写真が載っています。

いろいろな日常を切り出して、「日常にはこんな場面があるよね」ということを伝えたく、多くの人に共感してもらいたい。という意図で、良い日常の写真をたくさん出しました。

「住まい探しに関わる人たちを幸せにしたい。」というメッセージ

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ferret:
この広告を見たときに、見る人にどう受け止めてほしかったですか? 例えば、「アットホームという会社の社会的意義を伝えたかった」というようなことはありますか?

アットホーム城殿氏:
アットホームが提供するサービスの社会的意義を伝えたい、というよりは、「住まい探しに関わる人たちを幸せにしたい。」ということをお伝えしたかったです。

「住まい探し体験が、より良いものになる」ということが、アットホームが物件情報を提供していることの意義なのかな、という風に思っているんです。

どこか新しい町へ引っ越す、新しい物件に引っ越す、今より広い家に引っ越す、新しい人たちに出会える、というのはすごくワクワクするし、良いことなんですが、一方でそこには光と影のコントラストがあります。

つまり、離れていってしまう人がいるわけです。新しく出会う人がいれば、別れてしまう人もいる。そんな「さみしい気持ち」にも寄り添う。というのが今回の広告の一番の主旨なんです。

旅立つ子供を見送る場面で、親御さんもなかなか本音を口には出せないんですよね。「おめでとう」「行ってらっしゃい」「頑張ってね」っていうことは言えるけど、「本当は寂しい」って言葉では言わないじゃないですか。

でも、そんな感情もあるんだよっていうことに皆さんに気が付いて欲しい。その感情を大切にするっていうことを、想いとして持ってほしい。

それによって、引越しをする本人もそうですし、そこにいる周りの人たちも、さみしい気持ちが少し良い感情になって、全体の感情が良くなる。

そういう感情に想いを馳せ、理解して行動してほしいということが、この広告を見る人に受け止めてほしかったことです。

今後の展望、引き続き伝えていきたいこと

ferret:
今後の展望で言うと、どんな取り組みを展開していきたいですか?

アットホーム城殿氏:
新しい住まい探しの「ワクワク感」は引き続き伝えていきます。
今、弊社が展開している、藤田ニコルさんを起用した広告コンセプトは、「住まいを探すワクワク感」というコミュニケーションフレームの中で展開しています。

その一方で、今お話ししていることの延長線上になるんですが、「共感」にスポットライトを当てるコミュニケーションにも取り組んでいきたいなと思っています。

住まい探しに関わる本人と、その周辺に関わる人たちがみんな、住まい探し・引越しを通じてとても幸せな気持ちになれる。住まい探し体験自体が、とても良いものになる、という風なコミュニケーションをどんどん伝えていきたいですね。

それには広告だけでなく、いろんな方法があると思っているんです。加盟店さまと一緒に何か取り組みを展開するとか。

例えばですけど、お父さんお母さんに向けた手紙を出す仕組みを作ってあげるとか。
旅立ちの瞬間に、隣でお母さんが泣いていても、実際に「お母さんありがとう」と伝えるのってちょっと恥ずかしいし、ハードルがあるじゃないですか。

そういった場面でちょっとお手伝いしてあげる仕組みなどがあれば、住まい探しに関わる人たちがちょっと良い雰囲気になるんじゃないかと思っています。

あと、引越し後に隣の人に挨拶に行くのが億劫だったりすると思うんですけど、ちゃんと隣の人に挨拶しに行って自分ってこういう人なんだよ、「実は楽器を弾くんだよ」「小さな子供がいて、夜に泣くこともあるよ」といったことを知ってもらえるツールみたいなものがあると良いんじゃないかと。

今住んでいる住環境というのが、スペックは変わらないし家賃も変わらないんだけど、隣人の素顔が分かっていればちょっと安心して住みやすくなるものです。

そんなお手伝いを、プロモーションを通じて展開していけると、住まい探しをする人がアットホームを選んでくれるようになるんじゃないかと考えています。

今のところ、コンシューマーに向けた取り組みの中心には「物件情報の提供」があるんですが、その周辺に留まらず「住み替える人」「離れる人」つまり住まい探しに関わる方々皆様の気持ちに寄り添って幸せにできるようなアプローチというのが、今後やりたいことですね。

「アットホーム加盟店のみなさまを通じて最高の住環境を提供する」というのが、我々のミッションです。

それは単に、物件情報を提供するだけでは実現できなくて、加盟店さまの協力も必要ですし、プロモーション活動だけでも実現できない。

よって、「住み替えの周辺に関わるサービス」というのを、どんどんやっていきたいんです。

住まい探し体験を、いかに良い体験にしていくか、がポイントです。

物件のスペックをお伝えして終わりではなく、問い合わせをして内見の予約をするところから始まり、加盟店さまに来ていただいて、内見していって、契約から入居、それから、その次の更新までも含めて、住まい探し・居住体験を最高のものにしていくところが我々の仕事だと捉えています。

そこに寄り添うプロモーションだったりサービスの提供をやっていきたいですね。

ferret:
ありがとうございました。