世の中には、多数の会社が存在しており、多くのビジネスモデルプロダクトが存在しています。しかし、ビジネスモデルとプロダクトの秀逸性だけでは、Product-market-fit(人が欲しがるものを作ること)を達成し、ビジネスをブレークスルー(現状ある障壁を壊して大きく前進すること)することはできません。

ブレークスルーを達成するには、起業家は秘伝のレシピを発見し、ビジネスに組み込んでいく必要があります。

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ブレークスルー = ビジネスモデル+プロダクト+ 秘伝のレシピ

  
本連載では、様々な起業家が持つ秘伝レシピ(Secret Recipe)に焦点を当て解読していきます。

記念すべき第1回目は、株式会社エボラブルアジア(以下、エボラブルアジア)の代表取締役社長 吉村 英毅 氏にお話をうかがいました。

読者の皆さんが、自分のビジネスをブレークスルーするためヒントを見つけていただければ幸喜です。今の業務で壁にぶつかっていると感じている方、もう一歩さらなる成長を遂げたいと考えている方に、ぜひともオススメです。
  

目次

1. 序文 - エボラブルアジアのビジネスモデル -
2. 秘伝レシピ1:大手ができないことをやる
3. 秘伝レシピ2:外部環境をしっかり見て市場を選択する
4. 秘伝レシピ3:フロー型ではなくストック型のビジネスに集中する
5. 秘伝レシピ4:補完的な経営チーム
6. 秘伝レシピ5:創業当時からIPOを意識した成長とスピードを重視した経営
7. まとめ

  
皆さんは、エボラブルアジアという企業をご存知でしょうか。
2016年4月にマザーズ上場を果たし、2017年3月には東証一部に上場した急成長中の企業です。国内最大級の航空券予約サイトを運営するかたわら、他社に対して旅行サイトを提供するというユニークなビジネスを提供し、近年はベトナムでITオフショアを展開しています。

アジアは1つとなり世界をリードする、"One Asia"というミッションを掲げ突き進んでいるエボラブルアジア。そこを率いるのが創業者でもあり、代表取締役である吉村英毅氏です。学生時代に起業し、30代前半で上場企業に育て上げた吉村氏に、突き抜けるビジネスを作り上げるための方程式を語っていただきました。

吉村 英毅 氏
株式会社エボラブルアジア 代表取締役社長
1982年、大阪府生まれ。東京大学経済学部経営学科で経営管理と金融工学を専攻。大学在学中の2003年に株式会社Valcom(2009年に株式会社旅キャピタルに吸収合併)を創業。2007年に株式会社旅キャピタルを創業し、代表取締役社長に就任。2013年に株式会社エボラブルアジアへ社名変更。2016年3月、東証マザーズに上場。2017年3月、東証一部に上場。

オフショア開発とは、システム開発などの業務を海外企業、または海外の現地法人などに委託することである。
オフショア開発の主な目的は、発注側と受注側の経済的格差によって生じるコストメリットである。受注先としては、人件費が安く労働力が豊富なインドや中国、ベトナムなどが主になっている。

引用元:weblio辞書|IT用語辞典バイナリ(オフショア開発)

  
田所(インタビュアー):
本日はありがとうございます。まず最初にエボラブルアジアのビジネスモデルを教えていただけますでしょうか。

吉村氏(エボラブルアジア 代表取締役社長):
今大きく4つのモデルでやらせていただいています。メインビジネスがオンライン旅行業です。オンライン旅行業の中でも特に国内航空券が一番強くて、国内航空券のWeb販売がメインビジネスになります。今、弊社のBtoCが約55%ぐらい、そのうち約45%がOEMで、企業との出張手配ビジネスであったりというところです。

田所:
創業は2007年ということですが、その頃も同じビジネスモデルだったのでしょうか。

吉村氏:
当初は自分たちの小さなサイトで販売を行ってました。そこから大きく成長できた要因としては、BtoCが半分以上になってきている現状があります。というのも、旅行サイトを"OEM型で提供"したところ、この事業がすごく伸びたこともあって、創業当時からしばらくの間はBtoBのほうが売上の大部分を占めている状態でした。
  

参考:
OEM(おーいーえむ)|ferretマーケティング用語辞典
  
  

秘伝レシピ1:大手ができないことをやる

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画像引用元:[株式会社エボラブルアジア コーポレートサイト(事業内容|オンライン旅行事業)](http://www.evolableasia.com/service/online_travel/)
   田所: OEMは、結構渋いビジネスモデルのように思えます。直感的に、普通の起業家の方でしたら"BtoCのほうがユーザーの顔が見えているので売りやすい"と考えるのではないでしょうか。なぜ、吉村様はそこで"BtoBtoCのほうがイケる"と判断したのでしょうか。

吉村氏:
当時から、かなりの数のオンライン旅行会社が存在しました。自分たちの主戦場である国内航空券ということだけで言っても100個くらいはありました。それに誰でもわかることですが、ブランドも資金力もないという中で全てのお客様に僕たちのところに来てもらうということは困難でした。それであれば既に集客されているようなサイトに対して、自分たちのコンテンツを逆に持っていくことにシフトチェンジしました。先方企業のブランドにプライベートブランド化して売る、という手法です。
  
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画像引用元:[株式会社エボラブルアジア コーポレートサイト(事業内容|オンライン旅行事業)](http://www.evolableasia.com/service/online_travel/)
   ちなみに、なぜそのような舵取りをしたのかというと、大きな会社というのは自分たちのブランドを出して、そこに集客するというのが考え方の中心だったからです。例えば、同業種で国内トップクラスのJTBとか楽天トラベルとかが彼らのブランドを抜いて、アスクルに対してアスクルブランドで出張サポート作りませんかとかというのは根本的に手間がかかります。そういうビジネスはやらないはずです。    ![evolable_020.jpg](https://ferret.akamaized.net/images/59228e4c781b87167a000614/original.jpg?1495436875)    実際のところ、大きな会社、中堅規模の会社であっても、OEMモデルは結局やっていませんでした。結果、このモデルをやっているのはほとんど僕たちだけでした。この競合環境のゆるさが大きく成長できた要素の1つだったと考えてます。   

秘伝レシピ2:外部環境をしっかり見て市場を選択する

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田所:
ビジネスを設計する際、ほかにどのようなポイントに注力されていますか。

吉村氏:
最近改めて意識しているのが、新たな分野への "新規参入" ということです。外的環境という観点で言うと、非常に競合環境を重視しています。一番理想的なのは、現状ニッチな市場かもしれませんが、外的環境の変化によってこれがすごく成長していく潜在性や将来性を秘めているのかどうかです。

田所:
競合環境が、いわゆる厳しい、厳しくないの判断基準はどこでしょうか。例えば、リクルート、Yahoo、Amazonなどの大手企業が参入していないというところが基準になりますでしょうか。

吉村氏:
一番競合したくないのはネット系の大手です。楽天とか。ソフトバンクグループとか、旅行業で言うとエクスペディアとか、リクルートグループとかになります。

田所:
それは2012年に始められたITオフショア事業も同じでしょうか。

吉村氏:
オフショア開発に関しても同様です。そもそも日本では"オフショア開発"そのもの自体がニッチなんです。世界では10兆円くらいのマーケットですが、日本からのオフショアは1000億円の市場規模くらいです。そのうちは、700億も中国に出ていってます。残り200億くらいしか市場規模はないので非常にニッチな市場です。当社はここに割って入って行き、約2年で最大手になれました。そこから、市場自体もどんどん広がっている状況です。
  
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秘伝レシピ3:フロー型ではなくストック型のビジネスに集中する

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田所:
オフショアのビジネスも順調に伸びています。なぜ御社のカスタマーは御社のサービスを使い続けているのでしょうか。

吉村氏:
私たちの場合、1回チームで入るとクライアント離脱率が低いです。また、長く続けば続けるほど業務効率性が上がっていきます。

田所:
ビジネスの型を"フロー型"と"ストック型"で二分するとしたら、エボラブルアジアはストック型に該当する印象です。ビジネスをストック化にする仕組みについてお聞かせください。

吉村氏:
もちろんストック型は意識しています。私たちは、基本的に各クライアントごとに専属チームを設置しています。ベトナム人のチームにしても、エボラブル社の社員であると同時に、僕たちは例えばDeNAのグローバルチームとかYahooのチームメンバーみたいなイメージを持っています。
  
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●ストック型とフロー型とは

「フロー(flow)」は「流れ」という意味で、フロービジネスはその都度の取引で収入をあげているスタイルのビジネスです。フロービジネスは各顧客との取引が一度になるため、その顧客からの継続的な利益は得られません。

ストック(stock)は「蓄える」という意味で、顧客と契約を結んだり、会員を確保することで継続的な利益を得るスタイルをストックビジネスと呼びます。ストックビジネスは契約・会員を一定数獲得できれば収益が安定する点が大きなメリットです。開業してから収益が安定するほどの契約・会員を獲得するまでに時間がかかります。収益を安定されるまでの運転資金の確保が課題となります。

  

秘伝レシピ4:補完的な経営チーム

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田所:
創業当時から大石(崇徳)様(エボラブルアジア 取締役会長)とお二人で共同経営されているんですね。

吉村氏:
はい。役割分担をしています。旅行に関して言えば、販売は自分のほうが中心にみていて、仕入れは大石さんを中心にみています。一番強いエンジンが2つあるというのが大きな強みになっています。単純に法人営業するにしても、創業者が一番効果的ですね。創業者が2人居るというのはすごく強みです。

田所:
現在の経営陣の方々の顔ぶれを見てもすごく魅力的ですよね。

吉村氏:
2014年くらいから一旦考え方を変えて、思い切ってハイエンドの人に入って来てもらう方針転換をしました。ストックオプションも結構厚めに出して、報酬も結構厚めにしました。前の会社でエースになるような方々に来ていただきました。
  
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秘伝レシピ5:創業当時からIPOを意識した成長とスピードを重視した経営

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田所:  
昨年マザーズに上場され、今年の3月に東証一部に上場されました。IPOはいつ頃から意識されたんですか?

IPOとは、Initial Public Offeringの略語で、日本語に直すと「新規公開株」とか、「新規上場株式」となります。具体的には、株を投資家に売り出して、証券取引所に上場し、誰でも株取引ができるようにすることをIPOといいます。
引用元:やさしいIPO株のはじめ方

吉村氏:
エボラブルアジアという会社を2007年に共同創業して、2008年からもう上場準備を始めました。結局マザーズに選ばれたのが2016年、東証一部には昨年(1年で)上がれました。つまり、上場までには準備期間も含めて約8年間という時間を要しました。

田所:
読者の中には、上場を目指している起業家もいると思います。その方々に何かアドバイスはありますでしょうか?

吉村氏:
損益分岐点を如何に早く達成するかが一番重要だと思っています。そう考える場合と、BtoCから入るよりもBtoB的な視点から入ったほうが損益分岐点に達成しやすい傾向があります。とにかく、まずは損益分岐点に早く達成して、早く成長することが重要です。

田所:
ありがとうございました。
  

まとめ

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今回、インタビューさせていただいて強く印象に残ったのが、吉村さんの時流を読む感度の高さです。インタビューでは何度も"外部環境が将来的にどのよう変化していくか読むこと"の重要性を言及されていました。観光業自体が動きの遅く、一見ニッチに見えて、参入するのに躊躇する市場です。しかし、外部環境が変われば成長ポテンシャルが高い市場の隙間が生まれてくるとおっしゃっていました。 

「イノベーションのジレンマ」の著者であるクリスティンセンは、"ノンコンサンプション(=まだ消費者・需要がいないところ)をターゲットにせよ"と言っています。現時点では需要がないものの、市場が変化した2〜3後のスパンで、確実に需要が生まれる将来性の高いマーケットを狙えという意味になります。 

”どの局地戦を選択して戦っていくか?” という問いがビジネスにとって非常に重要である。このことインタビューを通じて大きな気付きになりました。

激動の成長を遂げるアジアを1つにする壮大なミッション、"One Asia"を掲げたエボラブルアジア。その代表である吉村英毅氏、次の一手としてどのような事業を展開していくのか、ますます注目です。

  

企業プロフィール

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http://www.evolableasia.com/
  
株式会社エボラブルアジア
オンラインによる旅行事業を行う事業(OTA: Online Travel Agent)として2007年に創業される。 2011年に法人向け出張サービス(BTM)販売開始、2012年には「EVOLABLE ASIA CO., LTD.」(現連結子会社)をベトナム ホーチミン市に設立し、ITオフショア開発事業を開始する。 現在はオンライン旅行事業、訪日旅行事業及びITオフショア開発事業に加え、投資事業の4つの事業を柱にビジネスを展開している。